061 ジュリエット
次の日、カオリは宝石店に頼んであった魔法石を取りに行く
その後ハンターの仕事に行くらしい
「サテンはあと1回上級をこなせば最上級なんですが、なかなか依頼が無くて」
「そっか、焦って無理しちゃ駄目だよ」
「解ってますよ」
サテン、メアリー、クーリエもハンター組合に行った
クリスティはメアリーとクーリエの付き添い
「そういう訳で俺は今日も働かないんだよエリーゼ」
「タカネ様は大金持ちなんだからゆっくりしてていいの」
いやはや、お恥ずかしい
ここ2日で500万くらい使っちゃったからまた稼ぎたいんだけどな
「6億の魔法水晶を寄付するからなの、そこは貰っといていいと思うの」
「うーん、そうは言うけどさ」
「でもそんな太っ腹なタカネ様をかっこいいとも思うの、エリーゼには真似出来ない事なの」
エリーゼはお金大好きだもんな
俺だってまだ20億持ってるからポンと寄付したけど
無ければ迷ったと思う
「タカネ様、お客様ですわ」
「ん?誰?」
「ルビーと言えば解ると言ってらっしゃいますわ」
「!」
誰だ?
ワッツさんかミヤビさんか?
玄関に出てみると知らない女が立っていた
鋭い目で俺を睨んでいる
・・・若干敵意を感じるな
「貴方は?」
「私はジュリエット、聞きたい事があって来ました」
「なんですか?」
「・・・ここではちょっと、人を払って貰えませんか?」
シオンとエリーゼが心配そうに見ている
一体なんだろう
でもルビーのスイッチ持ち
聞かれたくない話なのかもしれない
「応接間にどうぞ、シオン、エリーゼ、心配しなくていいからな」
ジュリエットを応接間に通す
美しい女性だ
20歳くらいだろうか
肩より少し長い強めのウェーブの茶色がかった金髪
キリっとした眉毛
正義感の強そうな眼
引き締まった口元
スタイルもいいな
魔法使いのローブのような物を着ているが、胸が大きいのが解る
ルビーだから当たり前か
カオリも胸が3カップ増えたもんな
ジュリエットが話を切り出した
「ピエトロで魔法水晶が開発されたと聞いて来ました、私の調査ではピエトロに開発出来るような物では無いはずなので驚きまして、それで気になってしまったんです」
「は、はあ」
「それで、いざピエトロに来て街の噂で聞いたのですが、タカネさんが一人で開発したと言う噂があると」
「それは間違いです、以前から開発していた物に少しだけ協力しただけです」
「・・・本当ですか?」
「私は大陸20傑ですし、容姿も目立つので悪目立ちすると言うか・・・大袈裟に伝わってしまったのだと思います」
魔法水晶の事だったか
まだ作ってから3日しか経ってないのに
家まで調べて来たのか
すごい行動力だな
「私はルビーと名乗りましたが意味は解りますか?」
やばい、どう答えるのが正解なんだ?
しらばっくれるか?
すごい行動力だからバレてるかもしれないが
「・・・困ってますね、意味が解らないと言う感じでは無い」
バレたか
「あまり口外したくないんです、嫉妬や妬みを痛感して来たので」
「それは理解出来ます、ですが貴方は大陸20傑で魔法使いでもある、という事はひょっとしてダイヤなのでは?」
うーん、難しい推理じゃないからな
やっぱりバレちゃうか・・・
今までの行動が悔やまれる
こうなると解ってればもっと慎重に行動したのに
「・・・そうです、出来れば他言無用でお願いしたいのですが」
「ダイヤがどうこうというのは私にとっては重要ではありません、私が気になっているのはこれです」
ジュリエットが懐に手を入れた
取り出したのは・・・魔法水晶だ
「これを本当にタカネさんが一人で作ったのならこの魔法水晶の脅威を教えておきたいんです」
「ちなみにそれは?」
「私が一人で作りました・・・200日で」
ジュリエットは言いよどんだな
1人で200日で作ったと言うのは驚異的な事だ
奇異の目で見られるような事だ
普通ならば、だが
「脅威なら何故作ったんですか?」
「・・・最初は気づかなかったんです、単純に暮らしが便利になるならと・・・」
「作り終えてから気づいたんですか?完成してますよね?」
「は、はい、でも気づいてしまったんです、この魔法水晶の恐ろしさを」
「・・・・・・」
「今この魔法水晶を使って軍事研究をしている国があるのをご存知ですか?」
・・・はあ、同じ心配をしてるな
もう隠すだけ時間の無駄か
ジュリエットも確信して手の内明かしてるもんな
ヘタな駆け引きはやめよう
「解りました、核の心配をしてるんですよね?」
「!・・・そうです」
「私もそうとは気づかず作ってしまいました、もう二度と作る気は無いです」
「そ、それならいいんですが」
「報酬も受け取る気にはなれなかったので寄付しました、今後一切関わらないと言う約束をして」
「・・・出来れば渡さないで欲しかったですが」
「・・・そうですね、実際ピエトロでも軍事開発をしようという話も出たらしいです」
「!・・・本当ですか?!」
「女王がそう言ったらしいです、側近が説得してやめさせましたが」
「・・・・・・」
困惑してるな
心配させるような事言わない方が良かったかな
「・・・何日で作ったんですか?タカネさんが一人で作ったんですよね?」
「それは言いたくありません」
「ど、どうしてですか?」
「聞いてどうするんですか?」
「・・・止めます、タカネさんが今後絶対に魔法水晶を作らないように」
「それは、殺すと言う意味ですか?」
「・・・・・・」
察知能力が少し働いてる
迷いがあるな
どうしようか迷っている
「先走りすぎではないかとも思うんですが」
「はい、私の取り越し苦労かも知れません」
「私は日本の生まれです、核の怖さをジュリエットさんより知っていると思いますよ」
「え?!で、でも、その容姿は・・・」
「容姿も変わってしまったんです、ジュリエットさんもそうじゃなかったですか?」
「は、はい、でもどう見てもアジア人には見えない・・・」
ジュリエットも少しは変わったのだろうが根本から変わった訳ではなさそうだ
俺は性別まで変わったんだよ
「か、顔は変わってません、体はその・・・自分の理想的な体になりましたが」
顔は変わってないのか
元々すごい美人なのか
しかし理想的だと?
俺の体見てまだそう言えんのか?
なんで対抗してんだ俺
「で、でもダイヤなら不思議じゃない・・・」
「何も言いませんよ」
「こ、このままでは気になって安心出来ません!」
「それはそちらの都合です、今後魔法水晶を作る気は無いですが、それを証明する事も無理なので」
「む、うう・・・」
初対面で信用も無いんだ
こっちも余計な事話したくないし、そっちも信用しきれなくて当然だろう
「ジュリエットさんは名前から察するにイギリス?」
「はい、イングランドです」
「核保有国でしょ?私にとっては貴方の方が信用できない」
「な!!も、元の世界の事は今関係無いでしょ?!」
「そうでしょうか?核保有国の考え方は私には理解できませんが」
「に、日本は持てないから嫉妬してるだけなんじゃないの?!」
「でもジュリエットさんだって結局作っちゃってる訳だし、今後気が変わらないとも限らないでしょ?」
「え?そ、それは」
「証明できないでしょ?」
「・・・・・・」
膠着状態だ
結論なんて出る訳無い
「どうします?私を殺して安心したいんですか?」
「・・・・・・」
「終わりませんよ、このままでは」
「・・・・・・」
うーん、困ったな
ジュリエットも乗り込んでは来た物のノープランだったのかな
なんの提案もしてくれないしどうしようもない
「・・・私はこの街に住んであなたを見張ります」
「はあ?・・・まあお好きにどうぞ」
「出来ればここに住まわせてください」
「それは嫌だ、図々しい」
「ぐ、ぐぐ」
なんでそこまで面倒見なならんの
自分の命を狙ってるやつを住まわせるバカがどこに居るんだ
「私の気が住むまでは見張り続けますからね!」
「はいはい、じゃあ出てって」
「で、出てったら見張れないでしょ?!」
「知るか俺んちだぞ!お前の都合を押し付けんな!」
「な、何よ男みたいな話し方して!脅したって無駄だからね!」
「出てけよ!敷地の外で見張りゃいいだろ!」
「ぐ、ぐぐう」
ジュリエットは少し涙目になった
しかし俺は間違った事は言ってない
部外者が何時までもひとんちに居るのが可笑しい
悔しそうに外に出るジュリエット
塀の外に出てこっちを睨んでいる
「タカネ様、なんだったのでしょうか?」
「・・・うーん、なんと言っていいのやら」
どうなんだろうな?
俺が核を作る心配してるんだろうけど・・・
でもそんな不確定要素にどうやって結論出すって言うんだよ
「はあ、クリスティが帰って来たら喧嘩になるかもしれない、気を付けてあげて」
「ど、どうやって止めればいいのでしょうか」
・・・どうしよう
「俺を呼んでくれ、仲裁に入るから」
「わ、解りましたわ」
やれやれ
結局面倒事が増えた
メオラのダンジョンに行くのはいつになることやら
・・・昼寝しよ
夕方
「タカネ様!皆さんが戻られましたわ!」
「はいはい、喧嘩してない?」
外に出てみると喧嘩している様子は無いが、向かい合って話をしていた
カオリが一生懸命説明をしている
「タカネはそんな人じゃないよ!世界征服でも考えてるって言うの?」
「それを出来るくらいの力を持ってるんじゃないですか?」
「だから排除するって言うの?選んでそうなった訳じゃ無いんだよ?」
「それはそうかもしれませんが・・・」
やれやれ
「カオリ、良いから相手にするな」
「で、でも」
「お互い様だって解ってないんだ、自分だって魔法水晶を作れる恐ろしい力を持ってるのに」
「わ、私は軍事利用なんてさせません!」
「だからそんなの証明出来ないだろ?いい加減理解しろ」
「・・・・・・」
また涙目になった
なんなんだよもう
「良いからほっとけって、結論なんて出ないよ」
「タカネ様は私が魔法水晶を作る事を進めたので作っただけなんです」
「クリスティ・・・」
「不名誉な疑いをかけられることになってしまって、私はどう責任をとれば良いのか」
クリスティが悲痛な顔をした
「タカネ様に危害を加えると言うのなら、私を先に殺してください」
「お、おい、クリスティ」
「・・・大陸20傑12位のクリスティさんですね」
「俺も考えが回らなかったんだ、クリスティの責任では無いと言っただろう」
「ですが、タカネ様が責められる結果になってしまって」
「それはこの女の言いがかりだから」
「い、言いがかりだなんて」
「言いがかりだろうが、核を作った訳じゃ無いんだぞ?お前と一緒の物を作ったんだよ」
「・・・・・・」
「どうしろってんだよ、今更無かったことには出来ないんだよ、自分も作ってるのに俺だけを責めるなんてお門違いもいいとこだろうが」
ジュリエットが俯いた
しばしの沈黙の後、静かに話し出す
「・・・私は後悔してるんです」
「魔法水晶を作った事をか?」
「そうです、さっきはウソをついてしまいましたが、本当は製造途中で軍事開発の話を知ってしまったんです」
「・・・それなのに完成させてしまったと」
「作り切りたいと言う欲求を我慢出来ませんでした、ですが、いざ完成すると怖くなってしまって」
「・・・俺より考えが足りないじゃん」
「返す言葉もありません、自分は作ってしまったのに人には作るななどと」
ジュリエットは怖かった
だから他者が魔法水晶を作った事を聞き、本当はホっとした
自分だけが抱えている罪の意識を共有できると思った
そして作るなと責める事で自分の罪を軽くしようとした
自分は危険な事を解っている、お前は何故解らないんだ?という構図が欲しかった
自分が救われるためには俺の犠牲が必要だった
だが、そうはならなかった
「そんなのヒドイよ、自分が救われるためにタカネを犠牲にするなんて」
「・・・ごめんなさい、私は元々弱い人間なんです、それが力を手に入れて調子に乗っていたんだと思います、分不相応な物を作りだしてしまい、自分でも処理しきれなくて持て余す結果になってしまって」
ジュリエットが泣きながら話す
それで俺のせいにして楽になろうとしたんだな
・・・人間は誰かを犠牲にして生きてゆく、か
「自分が住んでいた国からも逃げ出してしまいました、私が魔法水晶を作っているという事を調子に乗って公言してしまった為、引っ込みがつかなくなってしまって」
「今どこに住んでるの?」
「流浪の生活です、たまたまピエトロの近くに居たので藁をもすがる思いで来てしまいました」
それでウチに住もうとしたの?
それは流石に無茶苦茶だよ
そこまで切羽詰まってるのかな
「魔法水晶を持っているので、常に誰かに狙われている気がして」
「その辺に捨てる訳にもいかんしな、処分に困ってるんだ?」
「は、はい、それでタカネさんを監視すると言う名目で守って貰おうかと・・・すみません」
おそらくダイヤのスイッチ持ちであろう俺のそばなら安心か
はあ、困ったもんだな
「その魔法水晶、どうしたい?」
「え・・・で、出来るなら手元から無くしたい・・・です」
「自分が住んでた国に売るのは嫌だったの?」
「どうせもっと作れと言われるんで・・・もう二度と作りたくありません」
まあそうだろうな
また作れって言われるだろう
一人で作ってるとなると命の危険もある
俺と似たような状況か
「完成した事は誰かに言ったの?」
「・・・言ってません、ですが途中経過をしょっちゅう王宮が見に来たので最終段階まで進んでいたことは知られています」
「そうか」
俺の噂は書き換えられる予定だが、ジュリエットの状況はもっと深刻かもな
200日と言うスパンで作ってたなら、12日で作った俺より噂の広がりは大きいだろう
引っ込みつかなくなって当然か
「無理を承知でお願いします!匿ってもらえませんか?」
「・・・それは無理だよ」
ジュリエットは落胆した
魔法水晶を作れる人間
魔法水晶自体
どちらも狙われる存在だ
俺自身が皆に迷惑をかけているのにこれ以上背負い込む訳には・・・
「恐らくはジュリエットが住んでた国も行方を捜しているんじゃないか?ピエトロに居る事が知れるとこの国にも迷惑がかかるんじゃないだろうか?」
「・・・魔法水晶はどこの国も欲しがるエネルギーです、私がピエトロに居るとなると私が作っていた魔法水晶がこのほどピエトロで発表された魔法水晶だと思われるかもしれません」
「ピエトロが横取りしたと思われると戦争が起こるかもしれないじゃないか」
「ああ・・・その通りですね、また私は考えが回ってなかった」
頭を抱えうずくまるジュリエット
見ていて痛々しい
悪い状況が更に悪い状況を呼び込む
もうジュリエットには処理しきれないだろう
「ジェリエットは誰にも必要とされて無いら?」
「メアリー・・・」
黙って話を聞いていたメアリーが声を出した
・・・泣きながら
「逆だよ、必要とはされているんだ、でもそれは強い力を持っているからで・・・」
「メアリーも魔法を使えたから捨てられたら、やっぱり変わってないら」
メアリーが嗚咽を漏らし始めた
500年前魔法を使えることで畏怖され捨てられたメアリー
今のジュリエットが自分と被って見えるのか
「可愛そうら、行くとこがないら、孤独ら」
「メアリー、そんな簡単な話じゃないんだ」
「解らないら、タカネはメアリーを助けてくれたのに、なんでジュリエットは駄目ら?」
「・・・すべてを救える訳じゃ無いんだ」
「・・・解んないら」
メアリーに分かれと言っても無理だろう
詳しい事は説明してないし、そもそも核の事を知らない
説明しても絵空事としか思えないだろう
「タカネ、ジュリエットを助けてあげて欲しいら、今のメアリーが言える事じゃ無いけど必ずメアリーはタカネに恩返しするら、だからジュリエットを助けてあげて欲しいら」
見ず知らずのジュリエットの為にメアリーが深々と頭を下げる
泣きながら、ポタポタと涙が地面に落ち、土の色を濃くする
ああ・・・やめてくれ
気持ちが揺らぐでは無いか
「さすがに決められないよ、ピエトロにも迷惑がか・・・
「タカネ、サテンはタカネが世界を敵に回してもついて行きますよ」
「さ、サテン」
「クリスティもです、タカネ様がピエトロを捨てろと言うなら捨てます」
「な、何を言って」
「タカネ、助けたいかどうかで良いよ、今この場で頭を抱えてうずくまってる女性をタカネは助けたいの?」
「カオリ・・・」
元はと言えば自業自得だ
調子に乗って作った挙句持て余して困っている
同情出来る事じゃ無い、自分で責任取れと言いたい
だがそれは俺も同じだったではないか
皆の協力で有耶無耶にしようと画策している
メアリーだけじゃない、ジュリエットは俺とも被るんだ
「・・・俺は皆のお陰で噂を消す事ができるかもしれない、でもジュリエットにはその手段が無い」
「そうら、一人で逃げて来たら、孤独ら」
「ジュリエットを匿う事に協力してくれるか?」
「勿論です」「仕方ないなー」「私が守ります」「メアリーの食事を半分上げるら」
「みんなありがとう、ジュリエット、中に入ってくれ」
「あ・・・ありがとうございます・・・ううぅ」
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「タカネ様、クーリエは使用人の身ですので口を挟みませんでしたが」
「ああ、危険な状況だという事は解ったか?」
「はい、危機感が足りませんでした、ジュリエットさんがあそこまで苦しむのを見てようやく気づくことが出来ました」
「勿論無理に俺達に付き合う事は無い、結果的にピエトロを巻き込む事になったらどう謝れば良いのか想像も出来ない」
「・・・この指輪、ハンターの仕事に使ってみて解りました、察知能力の効果はすごいですね」
「ん・・・あ、ああ、それより・・・」
「タカネ様は私達を心配してこれを渡してくれたのですね」
「迷惑をかける事になるかもしれないと思ったからな、逃げるのに少しでも役に立てばと」
「使用人など見捨てる主人も多いのに・・・主人にここまでして頂いて裏切る事など出来ません、ピエトロのメイドを見誤らないでください」
「・・・・・・そうか、ありがとう」
義理を通す
俺は義理が希薄な世界から来た
確かに見誤っていたのかもな
「そうですわタカネ様、シオンに婚約指輪を渡しておいて何を言ってるんですか」
「お前が何を言っているんだ」
左手の薬指にはめるなよ
能天気な奴め
少し心が楽になったわ




