042 規約違反
朝、王宮から内政官が来た
名前はバルディさん
「橋を見せて貰った、見事だな」
「はあ、どうも」
「あれはどれくらい持つんだ?」
「解りません、3カ月以上は持つと思いますが」
「そんなにか!実は他にも橋を作って貰いたいのだが」
俺が作った橋が便利なので他にも作って欲しい場所があるらしい
橋があるなら向こう岸に太いロープを伸ばし、消える前に違う吊り橋を作ってしまう計画が持ち上がったそうだ
また公共工事か、別にいいけどさ
「欄干は作れないのか?」
「手すりですか?どうでしょう」
やった事無いから解らない
細かくイメージすれば出来るかも知れないけど
幅10mもあるんだから真ん中通れば危なくないし
欄干作ればそれだけ重くなる、どうなんだろう
「どれくらい丈夫なのか私にも解りません、長い橋を大きな荷物を積んだ馬車が通ったりするのは責任持てませんが」
「その辺の調査は我々でしよう、取りあえずヤーインとの崖を橋で繋げて欲しい」
ヤーイン
ホソカワムラとは反対側にある結構大きな街らしい
ここの距離が近くなれば物流が変わり、とても便利になる
サテンとカオリはハンター組合へ
俺はムスタングを連れバルディさんと工事現場へ向かう
「・・・300mくらいありますね、大丈夫かな」
ここも深い谷だな
谷を下りるんじゃ重い荷物は運べないだろう
橋が出来れば激変するのは解るが・・・
魔法の射程自体は伸びてる
だがこんな長い橋は作った事無いから不安だ
橋自体が自分の重さに耐えられるのだろうか
まあいいや、取りあえずやってみよ
イメージイメージ
幅は10m、厚さは1m、アーチ状に、欄干もつけて・・・
地面からニョキニョキと橋が形を作り対岸へ伸びていく
「・・・素晴らしいな」
バルディさんが何か言ってるが集中させてくれ
100m、200m、250m、もうちょっと
対岸に無事着地、橋げたもないアーチ形の橋
一見ものすごく脆そうに見えるが
「いや、魔法で作ったのならそんなに脆い訳が無い、対岸から石ソリを引きずり、テストしてみよう」
太く長いロープを繋げたソリに石を積んで対岸から大勢で引っ張ってテストするんだって
それは俺の得意分野です
「10tくらいなら引っ張れますよ」
「な!なんと!」
ロープが持つのかな
以前はソリの持ち手を直接持って引きずってた
丈夫なロープを準備して貰おう
午後にまた来る事になった
「なあ、王宮に仕えないか?月50万くらい出すが」
「ハンターの仕事の方が実入りが良いので」
「うーむ、そうか・・・グリフォンを王宮に預ける気は無いか?」
「広い家が手に入ったので当分は・・・」
「うーむ、残念」
高く評価してくれてるみたいだが、あんな事があったからな
今は王室とあまり関わりたくない
帰りに遠回りしてついでにホソカワムラの橋を欄干付きの橋に架け替えた
「じゃあまた午後にな」
・・・報酬貰えるのかな
その辺の話しなかったけど
まあいい、午後まで時間潰すか
街をブラブラする
ナンパをかわしながら
ムスタング、馬車だぞ気を付けろ
坂の途中の暗い路地裏が目に入る
やせ細った老人がしゃがみ込んでるのが見えた
治安が良いと言う話だったが、ここには入りたくないな
どんな街にも闇はある
お、花屋さんだ
花瓶買って家に花でも飾ろうかな
その辺は俺よりサテンの方がセンス良さそうだが
ムスタングが花の匂いを嗅いでいる
商品だぞ、クチバシぶつけすぎだ
ここは絵を売ってるな
壁が寂しいから絵画でも飾ろうか
・・・要らないよな
価値が解んないし
でかい建物が見えて来た
あれはたぶん王宮だな
あまり近づきたくはない
女王ってどんな人なんだろ
税金でどんな物食べてんだろ
王宮から離れるように角を曲がったら、ハンターの4人組に会った
ムスタングを見て一瞬警戒するが、すぐに人に馴れていると気づいたようだ
男3人、女1人のパーティ
男の一人が話しかけて来る
「これはお美しい、よければ今夜、一緒に食事でもどうですか?」
「ごめんなさい、お断りします」
「なんと連れない、美しいのに氷のようだ」
男は大袈裟にリアクション
フラれた事を他の2人の男にからかわれている
うわっ!女にすごい睨まれてる
なんだ?この男が好きなのか?
俺は興味が無いから安心してくれ
エメラルドグリーンの肩までのウェーブの髪の女
首にチョーカーをつけている
年齢は20代前半くらいだろうか
結構綺麗な人だけどな
・・・まだ睨んでるよ
「クリスティ、行くぞ」
「は、はい」
クリスティと呼ばれた女は慌てて男達の後に着いていく
俺を睨むのに夢中で置いて行かれそうになってた
なんなんだ
・・・たしか大陸20傑の12位がクリスティって名前だっけ
あいつがそうなんだろうか
しかし、パーティ内での地位はあまり高そうに見えなかったな
女性に敬意を払うこの街で、結構扱いが雑に見えた
あ、そろそろお昼だ
適当に昼飯を済ませ、橋の現場に戻る
バルディさんが来ていた
「まず1tくらいからやってみよう」
大きなソリと石と太いロープが準備されていた
俺はロープを持って対岸に渡り、ひたすら300mロープを引く
1tのソリが橋の上を滑ってこちら側までやって来た
まったく危なげないな
いったんソリを戻す
その後、少しずつ重りを増やし、5tくらいでも渡れることが解った
「もう十分だろう、しかし大したもんだな」
「お役に立てたなら良かったですよ」
「これで冬が来る前に物資を蓄える事が出来る」
「この辺は雪がたくさん降るんですか?」
「ああ、多い時は3mくらい積もるぞ」
結構降るんだな
雪を片付ける道具も買っておかなくちゃ
坂の多い街だから滑って転んだりしないのかな
「何か褒美を取らせたいのだが」
「では、優秀なメイドを3人ほど紹介して貰えないでしょうか」
「メイド?構わんが・・・」
王宮で働いてるメイドを3人紹介して貰えることになった
王宮で教育されてるんだから間違いのない人材だろう
ただ、王宮に仕えるのと一般庶民の自宅へ仕えるのでは、都落ちの感覚が強いので給料は王宮より多く払って欲しいとの事
王宮では月7万支払ってるらしいので、じゃあウチでは月10万って事で
それなら希望者も多いだろうと話してくれた
2,3日のうちに家の方まで寄越すって
楽しみだなー
「また何かあったら頼んでいいか?この辺りは雪崩も多くてな、雪が降る前に壁を作って貰いたい場所がいくつかある」
「いいですよ」
「ありがたい、タカネ殿がこの国に来てくれて本当に良かった」
感謝されるのって良いよな
前の国では仇で返されたけど
いかんいかん、もうホメロスの事は忘れよう
俺はこの国でやり直すんだ
さて、もうすぐ夕方か
出先だし、サテンとカオリも迎えに行って一緒に帰るかな
ハンター組合に行くとカオリとクリスティが腕試ししてた
「あ!た、タカネぇ!助けてよぉ!」
「どうしたの?」
カオリはちょっと涙目だ
ところどころ汚れている
クリスティにやられたんだろうか
「サテンがあいつらのパーティにナンパされて、断ってるのにあの女が怒っちゃって」
サテンも来た
「カオリが私の代わりに腕試しを受けてくれて、すぐにカオリが負けて勝負がついたのに、しつこく何度も・・・」
「なんだと!」
許せん
クリスティを睨む
向こうもこっちを睨んでる
向こうのパーティのやつは何してんだ?
我関せずって顔だ、なんだあいつら!
「私がこの勝負を引きつごう、構わないよな!」
クリスティが頷いた
エストック型の木刀を受け取る
向こうはショートソードと盾か
小回りが得意なのかな
大陸12位
どれほどのもんなのだろうか
構える
受付のお姉さんが出てくる
お前も止めろよ
人だかりが出来ているのに誰も止めなかったのか
「準備は良いですか?では、始めッ!」
俺は一気に前に出た
俺のスピードにクリスティが驚く
慌ててガードしようとするが間に合わせてたまるか
クリスティの右肩を強く突いてやった
吹っ飛ぶクリスティ
クリスティのパーティのところにぶっ飛ばしてやった
カオリをイジめた罰だ、少しは痛い目を見てもらわねば
「しょ、勝負ありッ!」
静まり返る群衆
「ま、まさか、クリスティが一撃?」
「あ、あいつは大陸12位だぞ?」
「何者だあの美女は・・・」
クリスティが起き上がって来た
「ま、まだだ!肩を打たれただけだ!」
「で、ですが」
「急所ではない!勝負を続けさせてくれ!」
「・・・はい」
受付のお姉さんが圧されてしまった
妖艶な笑みを浮かべるクリスティ
なんだよ、不気味だな、もっと強く突いてやればよかった
「で、では、始めッ!」
クリスティが構える
俺は高速で後ろに回り込む
クリスティは気づいたが読みが外れたのだろう
一瞬反応が遅れた
俺は背中の腰のあたりを強めにエストックで突く
「あふぅん!」
吹っ飛びまた群衆に突っ込むクリスティ
あふぅんって何だよ
おかしな声出しやがって
「・・・・・」
受付のお姉さんは何も言わない
急所では無かったからか?
「い、今どうなったんでしょうか」
見えてなかったみたい
「こ、腰だ!ま、まだ、まだだからね!」
クリスティが再び起き上がる
あれ?恍惚の表情だ
なんで?
なんでそんなに嬉しそうなの?
強敵に会えた喜び?
・・・・・ひょっとして
「で、では、もう一度・・・始めッ」
まず左にフェイントをかけた
つられるクリスティ
即座に右へ移りながらクリスティの横を通り過ぎる
クリスティの重心移動が追いつかない
俺は通り過ぎる間際にエストックの腹で強めにクリスティのお尻をブッ叩く
エストックはムチのようにしなりバチーンと大きな音がした
「ひぃぃぃぃぃん!!!」
クリスティは震えながらその場に崩れ落ちる
顔を真っ赤にし、身悶え、涙を流している
だが表情は恍惚としている
・・・間違いない、変態だ
「しょ、勝負ありッ!」
「い、いやだ、もう一回ッ、もう一回!」
「・・・・・」
倒れているクリスティの尻をエストックで叩く
バチン「ひぃんん!!」
バチン「うっはぁあ!!」
バチン「ふぇぇえん!!」
あ、失神した
さて次は
俺はクリスティのパーティメンバーに向き直る
「次はお前達だ、勝負を受けろ」
「ひぃぃぃ、勘弁してくれ!」
「そ、その女が勝手にやったんだ!」
「お、俺達は関係無い!」
「関係無い事ないだろ、パーティメンバーなら」
「め、メンバーって言っても、俺達は見てるだけで・・・」
「は?」
クリスティはドMなのだそうだ
普段はパーティメンバーに可愛がられている
自分を可愛がってくれるご主人様が他の女を見ていると嫉妬する
主人を取られた気分になるらしい
ここからちょっと嫌な話になるのだが、
パーティメンバーはクリスティが従順なのを良い事に依頼ではクリスティ一人に戦わせていたそうだ
実際にはクリスティのパーティメンバーの実力は下級レベルなんだとか
だがクリスティについて行ってるのでレベルはどんどん上がり最上級
依頼の成功報酬は4等分
時にはクリスティは分け前を貰えず男3人で3等分してたとか
それはそれで興奮するらしいが
・・・・・・
「まあそれで成立してるパーティなら、別に何も言わないけど」
「いえ、ハンター資格を取り上げます、規約違反です」
受付のお姉さんがそう言った
そうなの?
「寄生虫行為です、3人はハンター資格を永久剥奪です」
カプ○ンに聞かせてやりたい神対応だな
あのカオスな世界を作ったカ○コンの罪は重い
「でも、クリスティはどうするの?拠り所を失うんじゃないの?」
「・・・タカネさん、しばらく面倒見てあげてくれませんか?」
「はあ?嫌ですよ、こんな変態」
「・・・ぅぅ、もっと罵って」
「気が付いたか」
「ほら、こんなに慕ってるじゃないですか」
「どこがだよ、アンタにはそう見えるのか」
「大陸12位を顎で使えるとかそうそうありませんよ」
「何でも命令してください・・・」
「ほら、こう言ってるし」
「更生させる気ないだろ」
とにかく俺には荷が重いと言う事で断った
クリスティは受付のお姉さんに俺の住所を聞こうとしていた
教えるなよ!個人情報保護法は無いのかこの世界
取りあえずもう一度お尻を叩き、失神させて逃げた
「はあ、はあ、な、何だったのですか、あの人」
「カオリはやられ損じゃない!」
「そうだ、怪我してないか?」
カオリにヒーリングをかけてやる
「あんな変態が居るんだね」
「・・・・・」
カオリも人の事は言えないと思う