041 橋
「う、うーーん」
ムスタングが扉をカリカリする音で眼が覚めた
2人共まだ寝ているな
起こさないようにベットを抜け出しベランダの扉を開けてやる
朝の空気が入って来る
ムスタングが飛び立ち、庭の隅っこでフンをした
終わったら飛んで戻って来る
後でフンを掃除しておかなきゃ
寝床でまた丸くなるムスタング
お前も長旅の疲れが抜けきってないのだろう
もう少し寝かせてやろう
俺もベットに戻り二度寝
「・・・タカネ、朝ですよ」
「・・・うん?」
ああ、何時間くらい経ったのかな
日が高くなってる
9時くらいだろうか
2人共起きて着替えていた
「朝ごはんを食べたら、家具をすべて設置してしまいましょう」
「・・・解った」
寝ぼけ眼で朝ごはんを食べる
・・・美味しい
「カオリは?」
「もう朝御飯を食べ終わってカーテンをつけてくれてますよ」
「そっか」
ううむ、眼が覚めないな
顔を洗ってスッキリした
よーし、家具を運んでしまおう
その前に長旅でリュックに入れっぱなしだった衣服を日陰干しにした
風の魔法で水分抜いても良いんだけどね
エントランスに置いてあった家具をそれぞれの部屋に運ぶ
応接間にソファとテーブル、キャビネット
団欒室にもソファとテーブル
書斎には机と椅子
使用人の部屋にも小さいベットと机とテーブルを運んだ
2階に各自の部屋に鏡やらドレッサー、キャビネット
2階は3部屋空いてるんだよな
一応一部屋はお客さんが来ても良いようにベットとキャビネットを置いておく
あと2部屋は保留
しばらくは空けておこう
「ふう、片付いたか」
「ゆっくりしようよ」
「団欒室に居てください、お茶を持っていきます」
団欒室には大きめのソファが4つ
寝っ転がれるぜ
そろそろ昼だろうか
サテンが軽食とお茶を持って来てくれた
だらだらしてると誰か来た
「どうも、王宮から来ました、国勢調査です」
「国勢調査?」
「ランバートでは不法移民撲滅の為、街民の管理を徹底してます、世帯の家族構成等、いくつか書類を書いてください」
不動産屋で家を買うと王宮に連絡が行くらしい
怪しげな人間が入り込まないか調査してるんだろう
高い物件を即金で買ったから怪しくないでしょ?
いや、逆に怪しいか?
ここは善良な街民になるべく快く協力した
王宮の職員を応接間に通す
「・・・ご家族では無いんですね」
「はい、友達3人で家を買いました」
「お二人が最上級ハンターでお一人が上級ですか、大したもんだ」
「ホメロスに住んでいたのですが、いろいろありまして・・・」
「いろいろとは?」
ざっくり話す
「それは災難でしたね」
「それで女性が治める国で治安の良い場所を選びました」
「グリフォンが居るとか」
不動産屋から聞いていたらしい
「ハンターが間違って狩ってしまっては困るので、首輪か何か目印になる物をつけてください」
「解りました」
「あと、くれぐれもお腹を空かさぬよう注意してください」
「解ってます」
王宮の職員は帰って行った
さあ、残りの時間どうしよう
「ハンター組合でも行ってみる?」
「そうだな、2人はパーティ探したいでしょ?」
「そうですね、素敵なパーティに入れると良いんですが」
「魔法使いなら引く手数多でしょ」
「どうせカオリは魔法が使えませんよ」
「最上級も引く手数多だよ」
ハンター組合に行く
ナンパも多いが皆紳士だ
あの人昨日もナンパしてきた人だな
すぐに引き下がるが日を改め何度でも挑戦してくるみたい
気が変わるのを期待してるのかな
まあ、その内ドラゴンでも引きずってこればナンパも減るだろう
組合に着き、受付カウンターへ
「まあ、タカネさんはホメロスの闘技大会1位の実績があるんですか」
「はい、大陸大会は辞退しましたが」
「それは勿体ない、今年はピエトロから大陸20傑の12位が出たんですよ」
「おお、それはすごいですね」
どれくらいすごいのかは良く解ってないが
国と地域の代表112人+20傑の132人で争われるんだからそこそこすごいと思う
ホメロスの代表はワッツさんが代わりに出てくれたようだ
だが、残念ながら予選リーグで敗退したらしい
「12位のクリスティは一人でドラゴンを狩った事もある強者ですよ」
「女性なんですか?」
「はい、とっても勇敢な女性です」
国の代表に鼻高々だな
一人でドラゴンか
俺も2度ほど狩った事あるけど
どれくらい強いのかな、クリスティさん
・・・スイッチ持ちなのかな
サテンとカオリはパーティ募集の張り紙を見ている
俺は依頼の張り紙でも見るか
・・・上級にキメラとグリフォンがあるな
グリフォンは当然パスだ
キメラも別にいいや
「サテン、カオリ、良いパーティあった?」
「・・・実際会ってみないと決められないですね」
「うん、カオリもピンと来ない」
そうだよな
嫌な人達だと困るよね
慎重に決めて欲しい
時間が余ったのでシャネルの鞍を作りに行く
ついでにムスタングの首輪を作ってもらう
革のベルトの様な形の物をすぐに作ってくれた
鞍は5日かかるらしい
「服も買いに行こうよ、高原だからこれから寒くなるかも」
気候的には今は10月くらいだろうか
この辺は雪も降るだろうな
暖炉にも活躍してもらうことになるだろう
煙突掃除もしておかなきゃ
洋服屋へ行く
この街はお洒落な女性が多いんだよな
それも女王の影響だろうか
女性洋品店がいっぱいある
取り敢えず秋っぽいものを数点買った
冬物はまだ良いだろう
夕食を買って帰る
男が近づいてきた
またナンパか?
いや、丁寧に娼館で働かないかと誘われた
勿論お断り
男は残念そうに去っていった
娼館あるんだな
女王が許しているのだろうか
なんとなくこの街に不釣り合いに思えた
「まず、タカネとサテンに目がいって、最後についでみたいな感じでカオリに来るんだよね」
カオリさんがご立腹だ
サテンは頭を撫でてヨシヨシしてあげる
それは逆に煽ることにならないだろうか
カオリはサテンの善意からの行動と解っているので何も言わず受け入れる
家に帰って食事の準備
3人で作って3人で食べる
その後は風呂
俺がお湯を入れ、サテンが外で廃材を燃やす
カオリは見ているだけだ
「カオリ様の為に早くしてちょうだい」
ああ、さっきのまだ怒ってるんだな
はいはい、準備が出来ましたよ
体を洗えと言われたのでサテンと一緒に洗う
カオリはひと足お先に湯船へ
「今日はちょっと熱くない?」
「水足そうか?」
「別にいい」
なんなんだよw
ケチつけたいだけだろ
どうせ寝れば明日には忘れてくれるから良いけどさ
俺とサテンは交互に背中を洗い合い湯船へ
適温だった
この家の風呂は3人が足を伸ばして入れるくらい広い
快適だな
あ、カオリが胸を触りたがってる
もうメンドイなあ
はいはい、今日は特別だぞ
カオリがいやらしい顔で近づいてくる
人の胸で遊びやがって
堪能して機嫌が直ったみたい
今日は別々に寝た
広いベットで大の字だ
すぐに眠りに落ちた
翌日
そろそろお金稼がないと
この国に来てから1アランも稼いでない
働かなくても生きていけるくらいお金持ってるけどね
取り敢えず家の代金と家具代にかかった4060万を稼ぐ事を目指すか
ハンター組合に行く
ん?中級の依頼に配達がある
ホソカワムラという場所に薬を届けて欲しいって
ホソカワムラ?
細川村?
「ああ、80年ほど前にできた村ですよ、ただ崖の向こうにあって遠回りしなければ行けません、今日中に届ける依頼なんですが」
「どう思う?カオリ」
「明らかに日本人の匂いがするね」
「でも80年前に出来た村なら作った人亡くなってるかな」
「うん、でも行ってみたいよ」
行ったところで何をするって訳でも無いのだが
別に元の世界に帰りたい訳じゃ無し
今度死んだら消滅するだけって話だし
まあでも親近感湧くよね
依頼を引き受ける
薬を受け取った、結構量が多い
今回の依頼の報酬は向こうで貰ってくれとの事
伝書隼で依頼されたらしい
達成報酬は5万
それほど高くないがまあいいだろう
サテンはホンダに乗って、カオリはその後ろ
俺は走って、ムスタングは飛んで、ホソカワムラに向かう
崖に来た
ああ、確かにすごい遠回りだ
崖下は川だが谷が深い
崖下に降りて向こう岸を上っても、道を迂回して遠回りしても約半日かかるらしい
しかし向こうの崖までは約150mくらいだ、これならば・・・
土の壁を横向きに出す
気持ちアーチ状にする
橋を作る為だ
アーチ状にするのは橋が自分の重さに耐えられるか解らないから
重心が真ん中に偏らないようにする
どれくらい丈夫なのか俺にも解らないんだよね
幅は10mもあれば十分だろう
厚さは1mくらい
あっと言う間に仮設の土の魔法の橋が出来た
歩いて橋の上を渡る
丈夫でビクともしない
馬と俺達3人
ムスタングはホバリングでついて来る
壊れてもムスタングだけは助かりそう
150mなんて直線距離ならあっと言う間だ
橋を渡りきるとすぐに村があった
依頼元の村医者へ行く
「な、なんと、もう着いたのか?」
「ええ、橋を作りました、便利なので残しておきましょうか?いつ消えるか解りませんが」
「む、むう、助かるが、一応村長の許可を貰ってくれ」
「解りました、村長のお名前は?」
「シゲゾウだ・・・悪い奴では無いのだが、少し不愉快な思いをするかもしれん」
「?」
報酬を受け取り、村長の家へ
村長の家
「こんにちはー」
「何奴!そのような短いスカートで我が家の敷居を跨ぐとは無礼千万!」
「え?」
「女は慎みが大事!売女のような恰好で我が家の敷居を跨ぐな!誤解されるであろうが!」
「え?えと、あのー」
「口答えするな!女は三つ指ついて三歩下がって男の後を着いてこれば良いのだ!」
「・・・・・」
戦前みたいだ
そうか80年前に出来た村だっけ
俺達はスタコラサッサと退散した
「び、ビックリした~」
「私達が何か悪い事したのでしょうか?」
「いや、そうじゃないと思う」
村の人に聞いたら、今の村長は2代目だが、親の教訓を素直に受け継いでいるらしい
先代が考え方が合わなくて首都を出てここに村を作った
女王が治める首都では男のプライドが許さなかったのだろう
そういう考えの時代から飛ばされてきたんだ
仕方のない事なんだろう
・・・橋、どうしよう
「どうしよっか・・・」
「シゲゾウ怖いよぉ」
「もうあの家には行きたくありません」
シゲゾウか
間違いなく日本人の子孫だろう
しかし話が通じない
「おーい」
村人がこっちへ来る
「これ、村長からだ」
手紙だ
橋を作ってくれてかたじけないって書いてあった
お礼に10万アラン
・・・・・
「悪い奴じゃ無いんだよ、村人が事情を話すとすぐにこれを書いた」
「そうみたいですね」
「怒鳴っちまった手前、自分でお礼を持ってくるのも照れくさいみたいでな、悪く思わないでくれ」
「はい、大丈夫ですよ」
シゲゾウ、可愛いとこあるじゃないか
善人ガチャに選ばれた人の子孫なんだろう
良い人なんだと思う
ふう、ちょっと精神的に疲れたがハンター組合に戻ろう
「もう行って来たんですか?」
「橋を魔法で作りました、これ村長の礼状」
「まあ、村長印が押してありますね」
信用して貰えた
今日はどうしよう
まだやるか?
「タカネ、とても良さそうなパーティが見つかりました」
サテンが女性だけのパーティを見つけたようだ
中級2人と上級1人のパーティらしい
サテンが入れば中級2、上級2
うん、見た目はとても良さそうなパーティだ
「わわ、サテンに先越されちゃった」
カオリが慌ててる
パーティはじっくり決めなよ
焦るとロクな事無いぞ
サテンは新しいパーティで中級依頼を一個片付けて来るらしい
じゃあカオリは俺とムスタングと上級でも行って来よう
・・・グリフォンしかない
この辺グリフォン多いのかな
仕方なく中級のマンティコアを討伐
もう全然手ごたえを感じなくなってる
カオリも余裕見たい
組合に帰って報酬を貰い、サテンの帰りを待つ
新しいパーティだから心配だな、連携出来てるのかな
見た目は良さそうなパーティだったけど、実際はどうなのかな
無茶する奴が居ないと良いけど
サテンが帰って来た
依頼は何の問題も無く終わったらしいが帰り道でサテンがナンパされまくって遅くなったらしい
ごめんね、ウチのサテンが
サテンを待っている間にカオリもパーティを見つけたらしい
そうか、しばらくは俺と2人でも良いかなと思ってたんだけど
・・・いや、俺と一緒じゃない方が良いよね
カオリの成長の為には自分と同等のパーティが良いだろう
チラッと見たけど女だけの良さそうなパーティだった
上級を中心に回るパーティらしい
俺もパーティに誘われるけど男ばかりだな
悪いけどパーティ組む気は無い
取り分減るからね
一人で総取りしたいんだ、解ってくれ
どうせ違う理由で誘って来るんだろうけど
夕飯を買物して家に帰る
配達依頼5万+10万、マンティコア2人で10万
俺の取り分は10万だ
取りあえずは稼げて良かった
最上級の依頼が出てくれれば手っ取り早いんだが
夕飯を食べ風呂に入って団欒室へ
ソファに座り、ゆっくりする
「タカネ、ここで寝ちゃ駄目ですよ」
「・・・ああ、ウトウトしてた」
「良いよね、ソファ」
「贅沢だよなあ」
柔らかい感触
この世界のソファのクッションの中身は何が入ってるんだろ
羊毛かな
まあ何でもいいか
気持ち良ければ何でもいい
zzzzz
「もう、タカネったら」
「カオリが部屋まで運んでおくよ」
「変な事しちゃ駄目ですよ」
「う、うん」
おやすみなさい