022 ゴーレムとキメラ
今日も今日とてハンター組合に行く
毎日同じルーティーンだ
これも最上級になるまでの我慢
最上級になってしまえば最上級の依頼しか受けないつもり
上級以下は他のハンターに任せよう
サテンをテスタさんに預け、カオリは昨日の中級パーティへ
俺は上級依頼を探す
お、2個もある!
しかもキメラとゴーレム
2つとも行った事の無い依頼だ
2つとも受けよう
・・・2個とも依頼主が一緒だ
場所もほぼ一緒
「魔法使いの研究所でゴーレムが暴走し、キメラを逃がしてしまったそうです」
ゴーレムってのは魔法使いが土から作るガードマンみたいなもんらしい
俺も作れるのかな
主人が死んだりして、野生化してしまうゴーレムは珍しくないんだとか
しかし、キメラを逃がしたって・・・
キメラってのも魔法使いが実験で作った合成生物らしい
想像してしまう
感情の無いゴーレムに感情が生まれ、実験で作られたキメラを可哀そうに思い逃がしたとか
どうみても魔法使いが悪者だ
俺に退治できるだろうか
取りあえず魔法使いの研究所とやらへ行く
全速力で10分、人里離れた深い森の奥に研究所はあった
・・・ゴーレムが暴れた後だろうか
研究所の壁に穴が空いてる
すごい力なんだろな、壊れ方でなんとなくわかる
「こんにちは、だれか居ますか?」
中から色っぽい女の魔法使いが現れる
「どちら様?」
「ハンター組合で依頼受けて来ました」
「・・・一人?強そうに見えないけど」
魔法使いの名はラビオリ
胸と足のスリットが大きく切れ込んだ紺のドレスを着ている
紫の色のショートカット、年齢は20代半ばだろうか
「ドラゴン一撃で倒せますよ」
「ウソでしょ?」
「魔法見ます?」
空に向け、最大出力で火の魔法を撃った
直径10mくらいの火の玉が飛んでいく
ちょっと大きすぎて自分でもビビった
「す、すごいわね」
「ドラゴンは氷の魔法でやっつけましたが、こっちの方が解りやすいかと思って」
「・・・その子はグリフォン?」
「ええ、退治した時卵があって」
「・・・あ、あのー」
ん?どうした?
モジモジしはじめた
「・・・お金が無くて黙ってたんですが、ゴーレムはただのゴーレムじゃなくて、アイアンゴーレムでして」
「どういう事?」
ゴーレムには種類があるらしい
土から作るただのゴーレム
石から作るストーンゴーレム
鉄から作るアイアンゴーレム
依頼はただのゴーレムで20万の報酬だった
だがアイアンゴーレムなら普通は報酬が45万くらいになるらしい
・・・金で作られたゴーレムとかも居るのかな
物理的に作る事は出来るらしいが、金は柔らかいので金持ちの道楽ぐらいでしか作らないらしい
「どのみち、制御出来ない物を作っちゃ駄目ですよ」
「すみません、ずっと言う事を聞いてくれてたんですが」
「キメラはどうして作ったんですか?」
「どうしてって・・・実験ですよ実験、もっとすごい物を作る為の練習」
・・・倫理観がこの世界では違うと言ってしまえばそれまでだが
「キメラが人を襲ったらどうするんですか?」
「まさか、ゴーレムが暴れ出して檻が壊れるとは」
キメラも作っては見た物の、手に負えないのでゴーレムに世話をさせていたらしい
ある日檻の隙間からエサを入れようとしたゴーレムの腕をキメラが噛んだ
強引に腕を抜こうとしたゴーレム
だが衝撃で檻が壊れてしまった
逃げ出すキメラ
命令を達成できなかったゴーレムはおかしくなってしまったんだって
「キメラは屋根を飛び越えどこに行ったか解りません、ゴーレムは北の山のほうに行きましたが」
中庭で檻に閉じ込めて居たらしい
それで逃げ出したキメラはどこへ行ったか解らない
動きのにぶいゴーレムの方が先に見つかるだろうと言う事
困ったな、キメラがどこへ行ったのか解らないんじゃ時間かかるかも
ひどい依頼引き受けちゃったな
「取りあえず北へ向かいます」
「お願いします」
北の山へ向かう
ゴーレムの足跡があるな
これをたどって行けば見つかりそうだ
山の入口に着いた
ゴーレムは山の中に入って行ったんだな
・・・時々キメラの物っぽい足跡も見かけるんだが
これはひょっとして
大きな険しい山だな
岩場も多い、足跡を見失いそうだ
渓谷に入って行ったのか?
水の中に入られると足跡がもう・・・
取りあえず奥まで行ってみるか
・・・すぐに居た!
2匹ともだ
キメラは体長3mくらい
ライオンの背中にヤギの頭がくっついてる
尻尾は蛇、毒があるらしい
ゴーレムは体長4m
マッチョな人型
確かに全身鉄だな
ゴーレムはキメラを捕まえようとしている
だが動きが遅すぎる
絶対捕まらないだろう
ゴーレムは狂っていた訳では無かった
自分が逃がしてしまったキメラを捕まえようとしているのだろう
キメラが渓谷の奥の方に逃げ出す
その目の前に土の壁を出してやる
思いっきり顔からぶつかるキメラ
もだえ苦しむ
ゴーレムが近づきキメラを羽交い絞めにする
キメラも尻尾のヘビがゴーレムに噛みつくが全く効いていない
キメラが火を噴いた
火を噴くのかよ、聞いてないぞ
ゴーレムは大丈夫か?
・・・大丈夫みたい
でもこのままじゃ動けないな
小さい雷を落としてキメラを麻痺させるか?
・・・いや、金属の方に落ちる気がする
どのみち一緒に痺れるかも知れない
くそう、難しいな
高速で近づき、へび、ヤギ、ライオンの頭をエストックで殴り気絶させる
ゴーレムがキメラをしっかり押さえ、歩き始めた
・・・研究所に戻ろうとしているな
俺どうしよう
依頼は討伐だったけどさ
これで倒しちゃったら後味が悪い
すぐに研究所に戻り事情を説明する
「え?!キメラを捕まえて戻ってくるって?」
「ええ、今こっちに向かっています」
「でも檻も壊れちゃったし、どうしよう・・・」
顎と腰に手を当て考え込むラビオリ
セクシーだな
「私には殺せないよ、どっちも人間の都合で作られた可哀そうな生物でしょ?」
「うっ、そういう言い方されると罪悪感が」
「特にゴーレムは狂っていた訳じゃ無かったんだから殺せない」
「ど、どうすれば」
「責任もって面倒みなさいよ」
「・・・はい」
ラビオリがしょんぼりした
可愛らしい
すぐに気を取りなおし、研究所の中に入って行った
・・・出て来た
重そうに何かを引きずって来た
「これを、キメラの首にくっ付けてください」
「首輪?」
「中庭に大きな木があるのでつないでおこうかと思います」
太い鎖で出来た丈夫そうな首輪
リードもごっつい鎖だ
大丈夫かなあ
中庭をみたら大きな木があった
あれならびくともしないだろうが
「火を吐くから木を燃やさないかな?」
「・・・そうですね、ああ!どうしよう!」
「どこか広い場所あります?」
研究所から少し離れた所に100m四方くらいの開けた場所があった
小さい川も流れてるな
あれを取り込んで水飲み場を作るか
「何をするつもりなんですか?」
「キメラって何mくらい飛び上がります?」
「たぶん、20mくらいは・・・」
土の壁を出す
高さ30mくらいでいいか
横幅もそれくらい
厚さは1mくらいでいいだろうか
50cmくらい隙間を開けまた壁を出す
丁度隙間に川が来るように配慮し、90m四方の土の囲いを作った
「す、すごい、こんな大きな壁始めて見ました」
「どれくらい持つか解りませんが、今湖を凍らせているのでその魔法が解けたら様子を見に来ます」
「この広さならストレスも少ないかも・・・」
「3mの体だからもうちょっと広い方が良いかもしれませんが」
檻には変わりない
外の景色は隙間から楽しんでくれ
隙間が50cmだから人間は通れるんだよな
誰かが迷い込まなければいいが
キメラが猫科なら通りぬけちゃうかな?
「檻の隙間もそれくらいだったので大丈夫だと思います」
「そうですか」
「わ、私が生み出した子、なんとか馴れさせてみます」
「・・・心配だなぁ」
「その子も刷り込みで馴ついているはずです、あの子も私を親とは解ってると思うんですが、毒が怖くて遠ざけてしまったので」
ムスタングを見ながらラビオリがそういった
詳しい事は知らないけどキメラにも刷り込みってあるのかな?
哺乳類になるのか爬虫類になるのか・・・
しかしじゃれて甘噛みでも毒があるとなると怖いのもうなずける
「一応、血清はあるので・・・」
しかしなあ
あの大きさでは噛まれたらただじゃすまない
「いつ頃作ったんですか?」
「1年くらい前です、小さい内に馴れさせておくべきでした」
幼少期があったのか
「最終的には5mくらいまで育つ筈です」
あれはまだ成長途中だったのか
・・・いつ頃戻って来るかな
キメラが気絶から目覚めて逃がしてないと良いけど
「昨日の夕飯時に逃げたので、まだ半日くらいかかるかと」
「ゴーレムはその間キメラを羽交い絞めにしながら歩いて来なければいけないのか」
「ゴーレムは疲れ知らずです、キメラの方が暴れ疲れてしまうと思いますが」
ラビオリはキメラが逃げた後すぐに馬で街に来て討伐依頼を出したらしい
人に被害が出る事を恐れ、行動は早かった
そこは褒めるべきかも知れないけどゴーレムの種類は虚偽申告だ
まあ今となってはどっちでもいいけど
いったん様子を見に行く
まだ山の途中に居た
キメラは気がついていたがぐったりしていた
ずっと閉じ込められていたんだ、体力も無いんだろう
キメラを抱え、黙々と歩くゴーレム
・・・戻るか
土の壁の囲いに戻り、壁の一部の魔法を解除
入口作っておかないと
ヒマだなー
「お茶でも飲みませんか?」
呑気なもんだと思うが出来る事が無いんだから仕方ない
有り難くお誘いに乗る事にする
「タカネさんはとっても綺麗ですね」
今更か
ゆっくり話すヒマも無かったけどさ
本当に呑気な話題になってしまった
「ラビオリさんも綺麗だと思いますが」
「私も自分の容姿には自信があったんですが、タカネさんには見惚れてしまいます」
「セクシーな服を着てますね」
「誰に見せる訳でも無いこんな森深くで、おかしいでしょうか?」
「いえ、個人の自由ですので」
露出多い方が俺は嬉しい
今は女の姿だから余計な事は言わないけど
「それにしてもあんなにすごい魔法を使えるなんて、どこかで修行したんですか?」
「・・・独学です」
「師匠もいないのに、あれほどの魔法を・・・すごいですね」
自分自身、まだどんな魔法を使えるのか良く解ってない
火、水、土、光、回復・・・他にあるとしたら風と闇かな
風なんか起こしたところで何の役に立つんだろうか
良く解らんな
闇の魔法ってなんだろ、あんまりイメージ良くないけど
魔法のイメージもわかないな
「風の魔法は竜巻起こせば飛んでる敵を落とせるし、かまいたちを起こせばダメージ与える事が出来ますよ」
「なるほど」
「闇の魔法は禁忌です、覚える事をお勧めはしません」
そうなのか
暗殺に使われたりするのかな
まあいい、今使える魔法だけでもオーバースペックだ
覚える必要も無いだろう
「ふふふ、自己流だから知らない事も多いんですね」
ああ、そうなんだよ
実際知らないことだらけだ
違う世界から来たもんで
・・・ヒマだ
お茶も飽きた、どうしよう
まだ昼過ぎだよな?
ゴーレム早く来ないかな・・・
外に出る
さっき聞いた魔法の練習でもしてみるか
大きな木があるな
あれを練習台にしよう
木を中心に竜巻をイメージ
・・・見えないが枝が暴れ出す
大きく踊る大木
風の魔法は見えないんだな
これはすごい有利かも
これ以上強くなってどうするんだ俺は
ついでにカマイタチも練習してみるか
しかしイメージが出来ない
大体カマイタチって何なの?
鎌を持ったイタチはただの言い伝えだと思う
どうすりゃいいんだ?
風をナイフのようにイメージしてみるか
イメージイメージ
おお!枝が斬り裂かれていく!
わわ、ヤバイヤバイ
大木がつんつるてんになってしまった
「わ、わあ、薪がいっぱい」
「すみません、やりすぎちゃって」
「いえいえ、枯れたら薪に使います」
可愛そうな大木
俺の魔法の練習台になってしまった
暇なので薪を集めて運ぶ
研究所の裏に薪置き場があった
こんなとこに一人で住んでるのかな、ラビオリさん
「・・・先ほど闇の魔法の話をしましたが、合成魔法もあまり良くは思われないので」
そうだろうな
闇の魔法に近い気がするもの、なんとなくだけど
それからしばらくの間、家の作業を手伝う
・・・来ないなぁ
もう夕方だ
一回様子見てくるか
・・・近くまで来ていた
キメラは疲れているのかグッタリしている
ラビオリさんに伝える
顔が引き締まり、外に出るラビオリさん
俺もエストックを持ち、後に続く
ムスタングは危ないから中に居て貰う
ゴーレムが見えて来た
ラビオリの前まで来る
ゴーレムを見上げるラビオリ
「エサはもういいわ、あの囲いの中に運んで頂戴」
ゴーレムは黙って従う
「随分弱ってるわ、何も食べてないのかも・・・」
「いきなり狩りが出来るようにはならないでしょうね」
「じゃあもう一日半何も食べてないのかしら」
心配そうな顔をするラビオリ
ゴーレムにずっと抱えられてるせいもあると思う
あの巨体で抱えられるのも負担だろう
ゴーレムの腕に自分の体重が食い込むはずだ
ゴーレムが囲いの中に入る
俺達もその後についていく
川の近くにキメラを降ろすゴーレム
気を付けよう、いきなり飛びかかってくるかもしれない
・・・ぐったりしてるな、全然動かない
呼吸してるから生きてるのは間違いないんだが
「わ、私、エサを持ってきます!」
ラビオリは走って行った
すぐ戻って来る
毛を毟った鶏だろうか
沢山持ってきたな
それをキメラの前に置く
緊張する
キメラがラビオリさんに襲い掛かったらしょうがないからやっつけよう
俺はエストックを構えた
キメラのライオンの眼がゆっくり開かれる
ラビオリさんを見つめ、か細い声を出す
「・・・私は寂しい思いをさせたのかもしれません」
ライオンが顔を上げ、ラビオリさんにすり寄って行く
羊もか細い声を上げた
生み出されてすぐに遠ざけられたキメラ
間違いない、キメラはラビオリさんを親と認識している
「どこか痛めているのかも、回復魔法をかけましょう」
「回復魔法も使えるんですね」
尻尾のへびが警戒してるが、それを右手で制し、左手で回復魔法を全身にかけていく
ライオンと羊の顔が穏やかになっていくな
へびの表情は解らないが
キメラがゆっくり立ち上がる
川に近づき、水を飲もうとする
・・・まだ警戒しているな、ゴーレムを
「あなたは戻っていいわ、壁を直しておいて」
ゴーレムはゆっくりと振り返り、研究所に戻って行った
安心して水を飲みだすキメラ
随分喉が渇いていたみたいだ
ライオンも羊もへびも美味しそうに飲む
・・・3匹で飲むのか
なんか不思議
一息つき、鶏を食べだす
・・・羊も鶏を食べてる
なんか不思議
俺は開けておいた囲いの土の壁を戻す
俺とラビオリさんは隙間から出ればいいだろう
鶏を食べ終え、尻尾のヘびを振るキメラ
全然大丈夫そうだな
「ごめんなさい、今まで寂しい思いをさせて」
キメラに抱きつくラビオリ
頬を寄せ、甘えるキメラ
力加減も心得てるな
勢いあまってラビオリさんを潰すような事も無い
しばしキメラを撫でるラビオリさん
キメラは気持ちよさそうだ
ほどなくして俺達は囲いの外に出た
キメラは寂しそうだったが、これからは毎日可愛がってもらえばいい
「何かいろいろごめんなさい、ご迷惑をおかけしました」
「依頼はどうなるんでしょうか、この場合」
「事情を話して報酬は貰ってください」
・・・達成したことになるのかな
まあいい、組合に戻ったら話してみよう
ラビオリさんに別れを告げ、ムスタングを抱え走り出す
随分遅くなってしまった、辺りは薄暗い
全速力で走り、10分で首都へ
ハンター組合に向かう
「タカネ、遅かったじゃないですか、心配しましたよ?」
「ああ、色々あってね」
受付のお姉さんに事情を話す
サテンとカオリも聞いている
ゴーレムがアイアンゴーレムだった事は黙っておいた
「・・・依頼者が満足してるのなら、達成扱いにしても良いでしょうね」
「良かった」
ゴーレム20万、キメラ35万の報酬を貰う
「遅くなっちゃったから外食して帰ろうか、奢るよ」
「ヤッター」
「ムスタングはお店に入れるでしょうか・・・」
そうだな、その問題があった
高級店は無理だったが大衆店でOKを貰った
大衆店はナンパが邪魔だがムスタングが居るから大丈夫だろう
ムスタングには生肉を出して貰う
お腹空いていたのかいつもよりたくさん食べるムスタング
大きくなるんだぞ
家に帰り風呂に入る
「さすがタカネ、一日に2つも上級をこなすなんて」
「カオリ、そう言いながら胸を触らないで」
「私も今日は中級依頼に行って来たんですよ、オークですが」
「へえ、そうだったのかサテン」
「ですが怖かったです、私はしばらく下級で良いです」
サテンもテスタさんの指導の卒業生の中からパーティを組もうと言う誘いがあるらしい
魔法使いだもんな、引く手あまただろう
でも無理はしないよう伝えた
ふう、今日は疲れたよ
風呂から上がってすぐにベットに横になる
ムスタングも寝床で丸くなる
おやすみなさい