002 ノッティカウン
村に着いた
あっと言う間だ
3分かからなかった
全速力で来たのに息も切れてない
少し胸の揺れが気になった
「本当に早いわね、ここはさっき言ったノッティカウンよ」
・・・小さな村だな
文明レベルは確かに低そう
窓にガラスは入ってるが歪んでいる
「アンタ、女一人で来たのかい?よく山賊に会わなかったな」
衛兵だろうか
入口に居た槍を持った男に話しかけられた
「アンタ、、、すごい美人だな」
衛兵が眼を丸くしている
俺はまだ自分の顔を見れていないんだ
「どこか、休める場所は無いですか?」
「あ、ああ、村に一軒だけ宿屋兼食事酒場があるが・・・アンタみたいな美人が泊まるような宿じゃあ無いよ」
「危険なんですか?」
「・・・いや、危なくは無いが、、、汚いんだ」
「構いません」
宿の場所を教えてもらう
宿に向かう途中、村中の眼がこちらに向く
よそ者が珍しいのだろうか
あれか?看板が出ている
「すみませーん」
「おやおや、いらっしゃい、何の用だい?」
「ここが宿屋さんですか?」
「おやおや、珍しいねえ、1泊450アランだよ、食事は別料金だよ」
アランと言うのはお金の単位だろうか
村に入ってからエミールが話して来なくなったなぁ
隠れてるから独り言言ってるように見えるのが難点だ
俺はさっき拾った袋からお金を取り出す
「これで足りますか?」
「ああ、これとこれで足りるよ」
お金の払い方が可笑しかったが、おばあちゃんだったから寛容だった
鍵とお盆に乗った水差しとコップみたいな物を渡される
「2階の突き当りの部屋だよ、トイレは1階のそこの扉だよ、ごゆっくり」
1階は食事酒場か
そんなに広くは無いな
時間のせいなのか流行って無いからなのか解らないが客は一人も居ない
俺は階段を上り突き当りへ
鍵を入れ、ドアノブを回す
・・・・・狭い部屋だ、確かに汚い
小さいベットと小さいテーブル、傾いた椅子があるだけ
水差しをテーブルに置く
これ大丈夫かな?
水差しもコップも木だ
水差しの蓋を開け匂いを嗅いでみる
・・・変な匂いはしないけど
コップに注いでみる
・・・解らん、透明に見えるけど
恐る恐る口を付けて見た
・・・解らん、お腹壊したりしないよな?
おっかなびっくりだが、喉も乾いていたのでコップ一杯飲みほした
さて、次は窓を開ける
硬い
力を入れようとした時、さっきの事を思い出す
危ない、力加減を間違えると、どうなるのだろう
こんな脆そうな窓などふっ飛ばしてしまうのではないか
慎重に窓を開ける
・・・大丈夫なようだ、でも気をつけなきゃな
窓を開けた瞬間、埃が舞い立つ
掃除してそうも無いなあ
ベットは大丈夫かな
シーツも・・・綺麗とは言い難い
仕方ない、今日は我慢だ
「ふう、もう出て大丈夫かな?」
「ああ、なんで黙ってたの?」
「私の存在はあまり見せたくないの、珍しい存在なのよ」
「捕まえられちゃうとか?」
「そうね、街の方だと高く売れると思うわ、でも神様の罰が当たるわよ、変な事は考えないでね」
「売らないよ、俺、善人って事になってんでしょ?自分じゃ解らないけど」
「力が手に入ると、人は変わるのよ」
・・・そうかもな
過度の力を手に入れると、そんなものかも知れない
「さっき、ダイヤは始めてって言ってたっけ?」
「ええ、0.00000001%の確立なのよ」
「・・・ダイヤの下はなんだっけ」
「ルビーね、ルビーは0.01%、エメラルドは約5%、残り95%くらいはプラチナになるわ」
ひでえガチャ率だな
「妖精のサポートがつくのがエメラルド以上なのよ、山ほど転移されてくるから追いつかない状態なのよね」
「プラチナ以下はサポートつかないんだ?」
「ええ、元の世界の記憶も無くすわ、いきなりこの世界に放りだされるのよ」
「記憶無くす?それじゃあ文明を活性化しようにも・・・」
「全員が記憶を覚えてたら、それこそすごいスピードで進化していくと思うわ、でもそれだとこの世界が耐えられないわよ」
・・・階段は一歩ずつ上った方が良い
飛ばして上ると踏み外す、、、か
解らんでもないが
「だったら悪人とかはなんで転移させる必要があるの?大した能力も与えられず、記憶も失ってしまうのなら意味無いような」
「やり直すチャンスを与えるのよ、ユンフィス様は神なのよ?慈悲深いわ」
慈悲か、そう言われるとそれまでだ
だが公平では無いような
まあ人間は生まれながらにして公平では無いか
それに、、、そうか、悪人は記憶失ってくれた方がいいか
悪い事した記憶を繰り返さない為に
「しかし、こんな特別な能力持った人間がポンポン現れたんじゃ・・・」
「安心して、プラチナまでは優秀な人間レベルよ、エメラルドから上は人間離れしてしまうけど」
この辺を掘り下げて聞いて見た
まず、善人ガチャに当てはまるのが全体の2割くらいらしい
悪人ガチャもそれくらい、残りの6割は一般人ガチャ
そこから更に絞り込まれる訳だ
2割の更に5%、エメラルド以上は・・・1%って事か?
記憶を残してるのはこの世界に送り込まれる人間のうち100人に1人
・・・・・多いのか少ないのか解らないな
「ちなみに、自力で生きていけない年齢で亡くなった人は赤ちゃんからの転移になるわ、善も悪も無く、この世界に元から居る人達の赤ちゃんとしてね」
「今まで、どれくらい転移して来たの?」
「解らないわ、それこそ数えきれないくらいよ、そもそも転移して来てるのは貴方が元居た世界からだけじゃ無いのよ」
「他にも異世界があるのかよ」
ああ、ややこしくなって来た
頭痛い
少し水を飲んで落ち着こう
それから色々聞いた
この世界のお金の事
茶色いコインが10アラン、銀色で穴が空いてるのが50アラン、穴が空いてないのが100アラン、更にちょっと大きいのが500アラン
袋には入って無かったが1000アラン小金貨、5000アラン中金貨、1万アラン大金貨、10万アラン白金貨があるらしい
この硬貨は大陸統一硬貨、大陸ならどこへ行っても使える
次に能力の事
今の所、足の早さと馬鹿力、持久力がすごいのは解った
だがまだ他にもあるだろうという事
聞くと容姿の良さもスイッチの種類で変わって来るらしい
だが女だ
なぜそうなった
やり直せるならやり直したい
・・・やり直すのは無理だって
はあ、このままで生きて行かなきゃならないのか
そうだ、山賊と戦った時、やけにゆっくりに見えた
時間がゆっくり進むような
それも能力の一つらしい
動体視力がすごいのかな
剣を叩いた時に粉々に成るほどの強さで叩いたのに、怪我をしなかったのも能力の一つだそうだ
こんなに指は細いのに、丈夫な体なんだな
常人とは違う特殊な体を手に入れたのはいいけど、どうやって文明に貢献したらいいの?
普通に暮らして行けば良いって、不便さを感じる事で人は進化を望むらしい
ただし過酷な環境に放り出される訳だから、すぐ死んでしまわないように神様はボーナスを考えたという事なんだそうだ
次にこの世界の事
このスリーピングと言う世界は他の異世界よりもずっと広い
だからたくさん転移を受け入れてもまだまだ全然余裕があるらしい
食物連鎖のバランスとかもあるだろうに
その辺は俺が心配する事でも無いか
広いんだからその分動物もいっぱい居るんだろう
治安はどうなのだろう?
山賊が居るくらいだ、元の世界より良くないとは思うが
海賊も居れば盗賊も多いらしい
だが文明レベルが低ければそんなもんだろう
日本だって昔はそうだっただろうし
今だにアフリカのどこかでは海賊行為をやってる者も居るんだ
ユンフィスとか言う神が唯一神なら戦争も争いも少ないのかな?
そうでは無いらしい
存在しない神を信仰する人達も居ると言う
その辺はエミールも理解出来ないって
でも、実際ユンフィスも人前には姿を現さないんでしょ?
だったら同じだ、居るかどうかも解りようが無い
そういう物を拠り所にする事で心の平穏を保てる人も居る
だから否定も出来ないよ
信じたければ信じていればいい
言語について
大陸は統一言語
神様は転移者も言葉が通じるよう設定してくれている
大陸の中に居れば言葉が通じない事は無いようだ
読み書きについてはスイッチの種類で変わって来る
この世界の識字率はそれほど高くない
ランクの低いスイッチだと読み書きは出来ない状態で転移される
ダイヤのスイッチは何も気にしなくても大丈夫
元の世界の文字を書こうと考えれば勝手に変換される
ふーん、便利な物だな
「まだ聞きたい事はあるかしら?」
「と、トイレの仕方を」
「え?解らないの?」
「わ、解らないよ、どうすりゃいいの・・・」
「座って普通にしなさいよ」
「エミールはどうやってするの?」
「ちょ、ちょっと変な事聞かないで!」
水飲んだから、もよおして来ちゃった
ど、どうすればいいんだ
トイレは一階だっけ?
階段を下りて、扉を開ける
・・・掃除はしてあるが、古いな、勿論水洗ではない
ぱ、パンツを降ろして、座ってみた
・・・元はあったハズの物が無い
なんだか情けない気分になる
スカートは脱がなくていいよな?
足は広げればいいの?閉じてて大丈夫なのか?
・・・・・・・・・
わわ、そ、そっちに飛ぶのか
ぅぅ、複雑だ
まだこの体を受け入れきれない
俺これからどうすればいいの?
17年男として生きて来たのに、突然女になるなんて
ああ、なんだか惨めだ
何がダイヤのスイッチだよ
罰ゲームを受けてる気分だ
部屋に戻った
ため息が出る
「どう?落ち着いた?」
「いや、何が何やら頭の中で整理が出来ないよ」
「そう?ならもうちょっとだけ居るわ」
「え?どっか行っちゃうの?」
「転移者はどんどん来るのよ、次の人の所へ行ってあげないと」
「・・・・・」
名前どうしよ
元の きりや たかなり では可笑しいよな
タカナリ・キリヤ?
タカナリは変か
タカナ 高菜みたいで嫌だな
な な なにぬね
タカネ 貴音 ・・・
タカネ・キリヤでいいか
「気にしなくても良いと思うわ、なんでも良いわよ」
「そうは言ってもな」
俺はRPGでも名前拘っちゃう方だ
名前決める画面で30分は使ってしまう
そうした方が感情移入出来るし
「話し方は変かな?」
「変ね、とても綺麗な顔をしてるのに、男みたいな話し方だわ」
「いや、だって男だし・・・」
「今はとても美しい女の子よ」
「まだ顔を見れてないんだよな」
変か、そうだよな
普段は敬語で話そうかな
初対面の人とかに変な印象持たれたくない
「・・・風呂ってあるの?」
「お金持ちの家にはあるわよ」
「そっか、庶民はどうしてるの?」
「水浴びしたり、濡らした布で体拭いたり、いろいろね、ああ、街によっては公衆浴場があるわよ」
風呂はあるが金持ちの物か
水浴び?川とかで?
濡らした布で体拭くってのは病院でよくやるヤツだよな
公衆浴場ってのは銭湯みたいなもんだろうか
「なあ、仕事とかはどうしよう、皆どうやって暮らしてるんだ?」
「そんなの山ほどあって説明しきれないわ、貴方ほどの美貌なら王宮や貴族にでも嫁入りしたら?楽に暮らしていけるわよ」
「そんなんでいいの?いや、嫁入りは嫌だよ、男相手にそんな」
「貴方は今女の子なのよ?」
「そんなにイキナリ気持ちを切り替えられないよ」
異世界に来て嫁入りして何もせずに暮らしたんじゃ何も意味が無いような
神様も別にそこまで期待してる訳では無いのか?
急激な進化は求めてない、多少の影響を与えるくらいの役割で良いのだろうか
それすらも出来なきゃそれでも良いと考えているのか
どうせ他にもたくさん転移されてくるのだから
まあ17歳の若造の知識じゃ役に経とうにも・・・
ダイヤのスイッチか
もっと立派な人に当たれば良かったのに
俺はエメラルドとかで良かった
男のままで居られるならそっちの方が良かったよな・・・
「男はどうしたって少なからず働かなければならないわ、だから神様がダイヤの特権として気を使ったんじゃないかしら?」
・・・おそらくはこうだとドヤ顔で言うエミール
い、いらねえ気遣いだそんなの
その辺の感覚は神様には解らないのかもしれない
人間の気持ちなど解らないか、取るに足らないと思ってるのかもしれない
偉い人は足ですら飾りだと思うらしいからな
いや、逆だったか?にわか知識だから思い出せない
「さて、私はそろそろ行くわ、この世界を楽しんでね!」
「え?も、もう?」
不安から呼び止めてしまう
「プラチナ以下はサポートも無しに放り出されるのよ?もうかなりの情報を与えたと思うけど」
「い、いや、でもよう」
「次が詰まってるのよ、神様に怒られちゃうわ、少しは自分で考えなさい!」
「・・・・・」
怒られた
な、なんなんだ、頼んでも居ないのにこんな世界に連れて来て、しかも女の体にされて
・・・・・死んだから
やり直させてやるから感謝しろって事か
・・・・・
「・・・解った、ありがとう」
「そう?じゃあね~、あ、魔法も使えると思うから試してみてね~」
「は?え?ちょっ・・・」
そういうとエミールは消えた
一人残され途方に暮れる俺
なんか大事な事最後に言い放って去っていった
ああ、これからどうやって生きて行こう
また、ため息が出た