133 憂惧
さて、色々心配はあるが考えても仕方がないのが心配と言う物だ
結局はなるようにしかならない
俺もそろそろ動き出さねば
「ゾイドさん、俺とコニーって城に居ても良いんですか?」
「構わん、一応監視しやすいと言う名目もあるしな」
「上層部でまだ俺の事を疑っている人は多いんですか?」
「ああ、少なくは無い、徐々に警戒は薄れてきてはいるが魔王と言う肩書きがある以上、全面的に信頼しろと言うのが無理な話だ」
ふーん、まあ仕方ないか
じゃあ信頼を得る為に地道に草の根運動でもするかな
「復興を手伝いましょうか?私は結構力持ちですよ」
「有り難いがもうだいぶ進んでるぞ?短期間で戦争が終わったので被害が少ない」
むう
あ、再生の杖をまだ持ってたっけ
これって俺が預かったままでいいのかな
まあいいや
「怪我や病気の人は居ないですか?結構幅広く治せますよ」
「タカネ殿、その内解かる事だから話しておくが、国民達はポスカが魔王と共存していくという発表に動揺してる者も多い、国王の意向が上手く伝わってない地域もある、今しばらくは民と接触しない方が良いだろう」
「・・・そっか、そうですよね」
「余程の重病人でも出たら頼む事もあるかもしれんが・・・」
「はい、その時は遠慮なく言ってください」
はあ、そりゃそうだよな
当たり前の事に気付かなかった
「ヒマをしているようね、コニーちゃんの魔法練習に付き合わせてあげるわ!」
「ん?・・・おお、いいぞ」
「元気ないわね、そんな事で世界を征服できるのかしら?」
「しないよそんな事」
「ふーん、だったらこれからどうするの?」
・・・平和に暮らしたい
贅沢は言わないから平穏無事に暮らしたい
「無理よ、魔王なんだから」
「そ、そうなんだよね」
「トラブルが向こうから舞い込んでくると思うわ?」
そうなんだよね
すでにドラゴン騎士団と良く解らない双子が接触して来た
「さあさあ!立って、中庭に行くわよ!」
コニーが俺の手を引っ張り無理矢理起こす
へいへい、解ったから引っ張るなよ
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中庭
「まあそうね、コニーちゃんは世界征服したいわ?」
「はあ?」
「私に任せなさいって事よ、私の活躍でタカネの名前なんてみんな忘れ去るわ!」
「?・・・お前が、肩代わりしてくれるって事?」
「別にタカネの為じゃないわ?単純に私が愚民共を支配したいのよ!」
「・・・・・・」
どこまで本気なのやら
どうせ好かれないなら嫌われ者を極めようとか思ってんのかな
「取りあえず火の魔法を使えるようになりたいわ?」
「馬鹿に火を使わせるのは」
「誰が馬鹿よ!」
ダメダメ、危ないから
コニーは水と土の魔法しか使えないんだっけ?
取りあえず光の魔法とかにしない?
「光?良いわね、コニーちゃんは神々しいものね」
「そ、そうだね」
取りあえずイメージしてみろ
光の玉を出すイメージ
明るい光だ
バチッ
「うわ!まぶしっ!」
「お?一瞬だったけど強い光が出たな」
「でもすぐ消えちゃったわ?」
「イメージが大きすぎたんじゃないかな、もっと淡い光で小さい物から始めたら?」
「なるほど」
コニーが精神集中
ぼんやり淡い光の玉が浮かんでくる
「・・・出来てるのかしら?」
「昼間だと明るさが解りにくいな」
「うーん、効果が解りにくいと成長も解りにくくて嫌ね」
そう言いながら練習を繰り返すコニー
意外と真剣だな
「すぐに成果を求めるなよ」
「私だって一応魔法を使えるんだから、最初から完璧に出来無い事くらい解ってるわ?」
「そうだったな」
同じ魔法を繰り返すコニー
効果は全然変わってない
「コツコツと・・・」
「地道な努力が世界征服の第一歩だ」
「適当な事言ってるでしょ?」
バレたか
怒るかと思ったけど練習を続けるコニー
「間違いでは無いもの、千里の道も一歩からよね?」
「おお、意外と努力家なんだな」
「・・・友達が居なかったせいかしら?時間を潰す為に魔法の練習に没頭したのよね」
そ、そうか
真面目なのはちょっと悲しい理由だった
「憎しみを力に・・・」
呪いの言葉を吐きながら練習を続けるコニー
屈折しちゃってるなあ
でも解らなくもない
魔王を名乗る事になってしまった俺だって屈折してしまったのだろう
「ねえタカネの話を聞かせなさいよ、魔王を名乗る事になった経緯を知りたいわね」
「んん?・・・そうだな、俺は生まれつき絶世の美女だった」
「なによ、自慢話をしろなんて言ってないのだけれど」
事実だもの
俺はこの世界に生まれた落ちた時から誰もが羨む美貌とスタイルを兼ね備えていた
「しかし、この目立ちすぎる姿は俺を不幸にしたんだ」
「嫉妬が多そうね」
「それだけじゃない、誰も俺を放っておいてくれない」
「そうでしょうね、美貌や強い力、誰もが羨むものを兼ね備え過ぎよ」
「だがそれって俺のせいか?生まれつきの物を隠して生きて行けと言うのか?」
「私に当たらないでよ、私だって同じ思いをしたんだから」
そうだったな
モンスターと話せるお前は親に捨てられた
「どう考えても凄い力なのに、どうしてそれを利用しようとせず、排除しようとするのかしら?」
「うーん、怖いんだろうな、結局はお前のご機嫌を伺って生きて行かなくてはならない訳で」
「あいつらに私を扱う器量は無かったでしょうね」
あいつらとは500年前のコニーの村の人達だろう
お前が誰であれ、素直に言う事を聞くとも思えないが
「そんな事無いわよ!素敵なダーリンだったらコニーちゃんはメロメロになって何でも言う事聞いちゃうと思うわ?」
「ああ、お前って夢見る少女なのか、都会で一番騙されやすいタイプだな」
「う、五月蠅いわね!・・・や、やっぱり、都会って、何も知らないうら若き乙女を食い物にする奴ばかりなのかしら?」
うん、この世界では多いと思う
でもポスカって都会ではないぞ
500年前から来たお前には、発達して見えるだろうけど
「よ、用心しなきゃ」
「・・・結構体力あるな、まだまだ魔法を出せそう?」
「ええ、全然余裕よ?」
さっきから絶えず魔法を出し続けてる
すぐに息切れすると思ってたけど、MPが多いのかな
「どう、明るくなった?」
「うーん、変わらないように見えるわ」
まだまだか
千里の道も一歩から
コニーはその後1時間練習を続けた
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お、エストだ
「エスト、俺に出来る事って何か無いかな?・・・何ニヤニヤしてんの?」
「え?・・・あ、す、すみません、私にも部下が出来たんですよ!」
おお、そうなのか
お前は上等兵になったんだよな
「まだ2人だけですけどね」
「14歳のお前より若い子なのか?」
2人共13歳で結構可愛い女の子達らしい
「そっか、紹介してよ」
「タカネさんの毒牙から守るのも上司の務めです」
「ど、どういう意味だよ」
今はそんな気分じゃないよ
苦労かけてるのにハメを外してたら流石に心が痛む
「冗談ですよ、まだ一等兵になったばかりの子達なんでイジめないであげてくださいね」
はいはい、訓練過程が終わって正規の兵士になったばかりの子達か
つかなんで俺がイジめるんだよ
エストに連れられ兵舎へ
女専用の兵舎なのか、なんとなくドキドキする
沢山ある小部屋の一室へ
「メイベルとイリヤです」
部屋に入ると2人が立ち上がり敬礼
なるほど、可愛いな
メイベルは真面目そう
姿勢も正しく口元がキリリとしている
イリヤはちょっとかったるそうだな
結構派手な子だ
「えーと・・・どうも、魔王です」
「は、ハッ!ご苦労様です!」「あはは!知ってるしぃー」
む、むう、来てみたものの何話すか考えてなかった
イリヤは何故か大ウケだ
あれ?化粧してないかお前
「俺が言う事じゃないけどいいのかそれ」
「だってぇー、いつ何時出会いがあるか解らないしぃー」
13歳なのに色気づいてるんだな
兵士としてはどうなのだろうか
いや、別に良いけどね
「魔王様くらいになればモテモテなんでしょー?」
「ああモテる、でも男に興味は無い」
「ええ?チョー可愛いのにぃー」
軽く言われたな
魔王に対しての緊張が全然無い子だ
別に良いけどね
「ねえねえ、魔王様はディラン少尉とアンソニー軍曹、どっちがカッコイイと思うー?」
「誰だよそれw知らないよ、つか気安すぎだろw」
「えー?男の話しようよぉー」
「良く解んないけど少尉の方が偉いんでしょ?そっちを狙えば?」
「やっぱりぃ?魔王様協力してよー、友達でしょ?」
「いつからだよwww」
いつ友達になったんだよ
というか、こういう事言うヤツの友情なんて宛にはならない
男が絡むとすぐに裏切るタイプだ
「メイベルも協力して?」
「2人で迷ってる時点で本当の愛では無いのでは?」
「えぇ~?そんな事言われてもぉー」
「偉い人が良いならゾイド将軍を狙ったら?独身らしいよ」
「おっさんじゃ~ん、真面目に考えてよぉ」
・・・そんな事真面目に考えてもな
恋愛を第一に考える女は少なくない
戦争が終わったばかりなのに呑気なもんだよな
「もぉ、エストさんはどっちが良いと思う?」
「私はロイ少佐が素敵だと思うけど」
「えぇ?あの人すごく厳しいんだよぉ?」
「それが良いんだよ」
「わかんなぁい」
・・・・・・
ガールズトークになってしまった
入っていけない
おっと、エストまで乗っかるもんだからメイベルが怪訝な顔してるぞ
「エスト、お前も上官になったんだから少しは自覚を持つんだ」
ハッ「そ、そうですよね、こんな浮ついてちゃ駄目ですね」
気を引き締め背筋を伸ばすエスト
「2人共、訓練に行くから付いて来て!」
「はい!」「ぇー、はぁぃ」
・・・・・・
置いてけぼりか
自分の部屋に戻るか
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ブルルルルル
ん?電話がかかって来た
カオリからだ
「もしもし?」
『タカネ、ピエトロに着いたよ』
無事着いたか
安堵と共に湧き上がる緊張
そっちの様子はどうだ?
『一応、王宮まで行って女王様に説明して来た、でもやっぱり納得はしてくれなくてね』
「・・・当然だよな」
『取りあえず魔王とは縁を切ろってさ』
「・・・・・・」
当然か
いや、むしろそれくらいで済むのなら優しいと言ってもいいくらいだ
『でも、サテンが断固断ってね』
「ど、どうなったの?」
『平行線だよ、どっちも折れる事無く本日の話し合いは終了』
女王もサテンも興奮して話しあいにならなくなったから打ち切ったそうだ
サテンの剣幕が物凄い物で続けたらマズいレベルだったらしい
女王に対してあんまり無茶をしないで欲しいが
『で、家に帰って来た』
「帰して貰えたのか?」
『うん、見張り付きだけどね』
女王直属の騎士団に見張られているらしい
初めてピエトロに来た時に出会った女だけの騎士団だ
女性しか居ない家だから一応配慮して貰えたんだな
「メイド達は無事か?」
『メイドちゃん達は無事だよ、ずっと見張られてたみたいだけど今も家に居るよ』
「・・・街の様子は?」
『うーん、少ししか見てないけど・・・』
王宮と家の行きかえりでしか見てないけど、兵達に連れられて歩く姿に街民たちは不安を隠せないようだった
・・・歓迎される訳無いよな
「・・・カオリ達にも肩身の狭い思いをさせてすまない」
『誤解されるのは仕方ないよ、今はまだ魔王の仲間だと思われてるだろうし』
「・・・・・・」
『考えたんだけどね、状況が変わるまで私達は会わない方が良いと思うんだ』
・・・・・・
寂しいけど仕方ないのか
『ジルに感謝だね、会えなくても電話で繋がる事は出来るんだから』
「そ、そうだな、でも正直寂しい」
『元気出してよ、タカネに害が無いと解るまで、私達も頑張ってみるよ』
「ごめんな?なんとお詫びしてよいやら」
『謝らないで、タカネは良い事をしたんだから』
「サテンは近くに居るか?声を聴きたいんだが」
『あとで掛けさせるよ、今はまだちょっと興奮しててね』
家に戻って来てからも落ち着かせるのが大変だったそうだ
あのサテンがそんなにも憤慨したのか
『クリスティです、今のサテン様はタカネ様以上に私の事を罵ってくれます』
「お、おう、お前は結構尻軽だよな?罵ってくれるなら誰でも良いんだろ?」
『・・・』
「何とか言えよ」
『メアリーら、ビックフットたんに会いに行こうとしたら大人しくしてろって言われたら』
「そ、そうか、ごめんな?お前にも不自由な思いをさせて」
『こっそり抜け出すから大丈夫ら』
「俺が言える事じゃないけど、今はあまり王宮を挑発するような事はしないでね」
ふう、やっぱり苦労を掛ける形になってしまったか
重ね重ねになるけど本当に申し訳ない
『エリーゼなの』
「おお、大丈夫か?」
『買物にも見張りが付いて来るの、おちおちサボる事も出来ないの』
「サボってたのかよw」
『冗談なの』
でも見張りが付いてるなら街民から危害を加えられる心配は無いかな
魔王関係者がどんな偏見に晒されるか想像も出来ない
はあ、しつこいようだが今一度申し訳ない気持ちになる
『大丈夫なの、どんな目で見られようとタカネ様の味方なの、私達がタカネ様を信じられなくなったらタカネ様は本当の魔王になってしまうと思ってるの』
・・・・・・
その通りかもしれない
拠り所が無くなった時は自暴自棄になるかもしれない
『そうなったらそれこそ世界の終わりですわ』
「シオンか」
『タカネ様、私達が裏切る事は無いので安心してください』
「クーリエ」
『―ちょっと!私に内緒でタカネと話してるんですか?!―』
「い、今のは?」
『さ、サテン様です』
『タカネ!ピエトロの心配なんてしないでください!こんな国滅ぼすべきです!』
「さ、サテン、王宮で一体何があったんだよ」
『タカネの事を最初から信じてなかったと言ったんですよ!あの我儘女王!』
「お、おいおい、そこに見張りも居るんじゃないのか?」
サテンが荒れている
何やらドタバタぶつかる音も聞こえる
『―さ、サテン、落ち着いて!―』
『―こんな国!魔王が滅ぼさなくても私が滅ぼしてあげます!―』
『―クリスティにあたってください!あふぅん!―』
『タカネ、カオスになったら、取りあえず切るら』
「え?お、おう」
『電話の許可は貰ってるからまた掛けるら』プッ ツーツー
・・・・・・
電話の許可は貰えたのか
女王が許可したとは思えない
バルディさんが内緒で許可してくれたのかな
はあ、心配だ心配だ
どうにも出来ない自分の身の上に腹が立つ
何も出来ないのに考えずにはいられない
苦しい思いだけがただ残る
・・・・・・
やめよう
今日の朝、心配しても仕方ないと考えたばかりだ
・・・任せよう、サテン達だって今は自立した立派な大人だ
今は感情的になってるけど、信じよう
ふう、何もしてないから余計な事ばかり考えてしまうのだろう
自分にできる事を探さなくては