130 躊躇
ノルウィー国のドラゴン騎士団
飛龍を飼いならし、騎乗して戦う精鋭部隊
今回の戦争には関係の無い国だが、魔王の話を聞いて討伐しに来た
「魔王の情報提供を要求してきました」
俺がこの城に居るとは思っていないらしい
共闘関係だと言う事も知らないようだ
ポスカ側としてはどう対処するんだろ?
「今軍師が対応しています、国王の命もあり、ポスカはタカネさんを庇うつもりですが・・・」
「誤魔化しきれるもんなの?あまり庇うと国際社会で孤立しない?」
「取りあえずタカネさんは隠れてください、見つかると面倒なので」
そんな邪魔者みたいに、クスン
エストも慌ててたせいか対応が雑だった
自室に戻るとサテンだけが居た
各々部屋を与えられたみたいだけど俺と一緒に寝るつもりらしい
「ノルウィーのドラゴン騎士団?」
「俺も良く知らないんだけど、強力な精鋭部隊らしい」
ドラゴンを操る騎士団
ドラゴンだけでも強力だ
そこに人間が騎乗すると、どれだけの力を発揮するのだろうか
あれ?電話がかかって来た
「もしもーし」
『カオリちゃんだよ、今あなたの後ろに居るの』
「静かにしてなきゃいけないから切るぞ」
『待ってよ、今ピーちゃんとドラゴン騎士団を見に来てるんだよ』
城門の前に居るらしい
遠目から見物客がたくさん来てるとか
『騎士団は12人、全員女みたい』
「女なのか、見てみたいな」
「タカネ、大陸1位のサテンでは不満ですか?」
「そういう意味じゃないよ」
『ドラゴンも小型だね、ああいうドラゴンも居るんだね』
全長5m、翼を広げると10m程の武装した翼竜
騎士達はドラゴンの鱗で作られたレオタード状のセクシーな鎧を着ているらしい
お尻の食い込みがたまらないとか
「それで、強そうなのか?」
『うーん、飛ばれたら手も足も出ないね・・・え?そうなの?ピーちゃんが言うには硬いから弓も効かないし魔法にも多少は耐性があるんだって』
弓が効かないのか
じゃあ飛んだらほぼ無敵だな
魔法にも耐性があると
でもそれは弱い魔法の話だ
俺の魔法を防ぐことはできないだろう
『ドラゴンは炎を吐くし、急降下による騎士の攻撃は音速を越えるとか』
音速っすか
そういうのは得てして大袈裟なんだよな
俺も光速のミスリル乙女とか言われてたし
1秒で地球7周半するなんて無理だもの
おっと戦う事を考えちゃってるわ
他国の騎士団に手を出したらまた戦争だ
今のポスカにそんな迷惑はかけられない
俺はコソコソと隠れていよう
『あれ?なんか軍師さんと騎士団の隊長が戦う事になったみたい』
「はぁ?」
『手合わせするんだって、タカネも見に来たら?遠目からならバレないよ』
はぁ?
何でそんな事になるの?
俺の為?状況が解らない
ガチャ「ジル、着替えているとこスマン、変装用のベール持ってるか?」
「きゃああ!」
前かがみでパンツを脱いでる最中のジルを後ろから見ちゃった
良いケツしてるなあ
ほら、大人しくベールを出しなさい
辱めを受けた上に物品を巻き上げられるジル、可哀そう
よし、これを被ってと
城壁の辺りに行ってみるかな、上から見物しよう
・・・一応再生の杖持って行くか
ゾイドさんが怪我をしたら治してあげなくちゃ
城壁の上も人が一杯だ
見物の兵で賑わってる
お、あそこが空いてるな
「おい、一般人がこんなとこ来ちゃ駄目だ」
「魔王だよ、見つかりたくないから変装中」
「お、おっと!・・・しかし逆に目立つような」
誰か知らないけど兵士に声かけられた
目立つかもしれないけど顔が見えないんだからいいじゃん
ジルはこれでずっとバレなかったぞ?
さてさて、眼下にはゾイドさんとドラゴンに乗った騎士
向かい合って微動だにしない
たしかに小ぶりなドラゴンだ、小回りが利きそうなだな
顔も普通のドラゴンほど禍々しくない、ちょっと知性的だ
お、騎乗している女はカオリが言うようにセクシーな鎧を着ていた
兜も被ってるな、目から上を覆う物だが
あれは多分ゴーグルの役割もしてるんだと思う
涼し気な口元しか見えないけどセクシーだ
あれが隊長か、絶対美人だと思う
その周りを他のドラゴン騎士団の皆様とポスカ兵が取り囲んでる
簡易闘技場みたいだけどドラゴンは飛ぶんだよね?
意味ないんじゃないだろうか
「相手はドラゴンに乗ったまま戦うんだよね?」
「ああ、騎兵対歩兵と言う事になるな」
「・・・あれ?模擬刀じゃないんだね」
「より実践に近い形という事で今回はそうなった」
そもそもなんでこんな事になったの?
え?ドラゴン騎士団を諦めさせる為?
ゾイドさんが自分に勝てないようなら魔王には到底敵わないだろうと言ったらしい
盾になってくれたんだ、申し訳ない
お、始まるみたい
静かに浮かび上がるドラゴン騎士
飛んだ状態から始めるのか
こうなるとゾイドさんは相手の出方を伺うしかない
相手が攻撃してきたところをカウンターで何とかするしか無いんじゃないだろうか
始まった
旋回するドラゴン
地上のゾイドさんは片時も目を離さず首だけを動かし追い続けてる
ドラゴンが炎を吐く
飛び道具もありなんだ
相手の手が届かない空からの攻撃はなんかズルい気がするけど
そこまで大きな炎じゃないけど当たったら全身火だるまだろう
迫りくる炎の玉をゾイドさんは難なく避けた
隊長が剣を構える
何をしてくるんだ?
お、ドラゴンが急降下
むむ、早いな
勢いを増し、ドラゴンが地上に襲い掛かる
地面にぶつからないよう放物線を描いて
最大スピードの時に相手に接触するよう計算された動き
ゾイドさんの剣と隊長の剣が交差した
止まってるゾイドさんと滑空で勢いを付けた騎士とでは剣の重さが違うだろう
だがゾイドさんは難なく受け止める
一太刀だけの接触でドラゴンはまた大空に浮かび上がった
観衆が沸いている
小型のドラゴンとは言えすごい迫力だ
人竜一体となり、渾身の力を籠め攻撃して来た
そしてそれを受け止めたゾイドさん
どちらも見事だな
ドラゴンが炎を吐く
3発、直接ゾイドさんを狙ったものでは無い
地面にぶつかりゾイドさんの回りに炎柱が上がる
ああ、目くらましか
直後にドラゴンが滑空を始め、火柱を貫通してゾイドさんに襲い掛かる
ゾイドさんは気づいているのか?
気付いてた
炎の中から現れた隊長の剣を薙ぎ払う
回りの炎が大きく揺らぐほどの一撃
隊長は剣で受け止めようとするが弾かれる
放物線を描きながら大空に向かって隊長の剣が飛んでいく
バランスを失い、ドラゴンと騎士が地面に落ちる
隊長は投げ出され、ドラゴンも着地に失敗し、地面にぶつかり転がる
ゾイドさんが勝った
ワアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
拳を上げ、歓声に答えるゾイドさん
なんだ強いじゃん
てっきり駄目な人かと・・・
ゾイドさんが倒れている隊長の元に寄り、助け上げる
わき腹を抑えてるな、怪我をしたかもな
すごい勢いで転がってたからなあ
ドラゴンも暴れているが立ち上がれない
あらら、大丈夫か?
隊長がドラゴンの元に近寄り、深刻な顔をする
隊長を見て大人しくなるドラゴン
よく飼い慣らされているようだ
騎士団の面々が集まって来た
ドラゴンの状況を見て動きが止まる
次の瞬間、大きく首を振る
どういう事だ?
怪我が酷いのか?
ドラゴンの顔が弱弱しくなっていく
眼を閉じ、息を大きくしているのが解る
!
騎士団の仲間が隊長に剣を差し出した
迷いながらそれを受け取る隊長
ま、まさか
柄を捨て、静かにドラゴンの首に剣を当てる隊長
騎士団の面々が自分のドラゴンから降り、右手を胸に当てる
敬意を表しているように見える
去り行く戦友に・・・
右手に持つ再生の杖を見てしまう
治せる
だが状況が・・・
今ドラゴン騎士団の前に飛び出すのは得策では無い
せっかくゾイドさんが庇ってくれたのに無駄にしてしまう
今までも散々失敗して来た
良かれと思ってやった事が裏目に出ていた
でも放っておけるのか?
迷っている間に隊長が剣を振りかぶる
や、やめてくれ
治せるんだから時間を・・・
もうちょっと考える時間をくれ
そうこうしてるうちに隊長の剣が振り下ろされる
『待ってください!!』
俺の後ろから声がした
隊長の剣が寸での所で止める
・・・声の主はサテンだった
「タカネ、再生の杖を貸してください」
返事をするより前に俺の腕から杖を剥ぎ取り、サテンが城壁から飛び降りドラゴンの元に駆けていく
他のドラゴンが突然現れたサテンを威嚇する
躊躇せずに進むサテン
ドラゴンの方がたじろいだ
怪我をしたドラゴンにサテンが再生の杖を掲げる
黄色い光がドラゴンの体を包み込んでいく
・・・時間がかかってる
よっぽど酷い怪我だったのだろうか
俺より魔力が少ないサテンでは時間がかかってしまうのだろうか
不安になって来る
治せなかったらどうなるんだろう?
サテンは場を乱した不審者扱いになってしまう
騎士団の面々はサテンを許してくれるだろうか?
カオリとピーちゃんが出て来た
事情を話しに行ったようだ
良かった、サテンは治療に専念できる
光が納まって来た
ドラゴンは動かない
どうしたんだ?
やっぱり駄目だったのか・・・?
ドラゴンの目が開いた
翼を動かし、器用に立ち上がるドラゴン
羽をバタバタ、交互に足踏み、感触を確かめているようだ
体は大丈夫だが訳も解らず戸惑うドラゴン
こうしてみるとコミカルな動きだ
信じられない物を見る騎士団、観衆達
女神の降臨ににわかにざわつき始める
次第に歓声が上がり始める
サテンの行動を称え、拍手が巻き起こる
騎士団隊長が深々とお辞儀をした後、ドラゴンの首を抱きしめる
苦しまないよう殺そうとしたのだろうが、やはり葛藤があったのだろう
良かったと思うと共に襲い来る罪悪感
俺は動けなかった
サテンが出てくれなければ躊躇しているうちにドラゴンの首は落ちてしまっただろう
力があるのにおいそれと使えない
馬鹿みたいな気分だ
そんな俺のモヤモヤした気持ちをあざ笑うように群衆達の声援が大きくなっていく
それを向けられているのはゾイドさんとサテンだ
これは嫉妬だろうな
どこかでカッコよく登場して事態を収めたいという気持ちが残ってる
それを、放棄したいと口では言いながら
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「あー、無力だわー」
「サテンはタカネが飛び出していくかと思ってハラハラしたんですよ?」
「迷っちゃった、俺は臆病になってる」
「それも仕方がないですよ、色々ありましたから」
「ゾイドさんがドラゴンを怪我させるから」
「む、むう、仕方ないじゃないか!手加減できるような相手では無かったのだぞ?」
今は城の一室
俺とサテンとカオリとピーちゃんとゾイドさんが居る
「でもさ、俺は別に自分の業をサテンに背負わせたい訳じゃ無いんだぞ?」
「再生の杖の事はキチンと説明したから大丈夫よぉん」
「でも、美人大陸一位があの場に居たのも不自然じゃないだろうか」
「ユーメリアの姫も居たんだし大丈夫よぉん」
姫は居なかったと思うけど
顎の割れたオカマなら目撃した
「どのみちポスカに居ただけだ、戦後の慰問とでもしておけばいい、魔王と繋がりがあるとは思われないだろう」
「タカネ、どうせ繋がりがある事もその内バレるよ?」
「む、むう、それに関しては重ね重ね申し訳ない」
これで良かったんだけどさ
無力感から愚痴ってしまう自分の小ささ
「騎士団の方々は?」
「むう、勝負はワシが勝ったが是非魔王討伐を手伝わせてくれとだな、今日は近くで野営するそうだ」
「ポスカにとっても魔王は敵だと思っているのか」
「普通に考えればそうなるんじゃないか?」
「俺可哀そう」
なんとか穏便に帰らせてほしい
これも俺には何も出来ない
当事者だからな
あーあ、世話のかかる魔王だ
自室に戻ってベットに寝ころぶ
サテンも隣に来た
「サテン、俺が言うのもなんだけどあんまり危ない事しないで欲しい」
「解ってますよ、サテンがタカネを心配するように、タカネもサテンの事を心配してくれてるんですよね?」
「ああ、今回は正直助かったけどさ、もしドラゴンの首を落とされてたらと思うと・・・」
良かった事なのにスッキリ出来ない
サテンに負担をかけてしまった
これからも俺は迷惑をかけ続けるのだろうか
魔王と言う肩書きを背負ってしまったが為に
「迷惑だなんて思っていません、タカネの役に立てるならサテンは嬉しいんですよ」
「それでも俺は自分が情けないよ、重すぎる荷物を勝手に背負って仲間に持たせてる気分だ」
「勝手だなんて・・・人を助ける為にそこまでするタカネを私は誇りに思います」
それを一人で背負える器なら良かったのに
出来もしないのに風呂敷広げた自分にまた情けなくなる
「タカネ、一人で何でも出来るなんて思わないでください、出来ないのが普通なんですから」
ダイヤだからな
いざとなったら一人で出来るんだ
だが、それをするには色々捨てなければならない
惜しいんだよ
サテンやカオリを捨てられないんだよ
絶対無理だ
こればっかりはどんなに矛盾しようとも諦めきれない
「タカネがサテンを捨てたとしても、サテンはタカネを捨てませんからね」
それもまたプレッシャー
そこまで尽くされると申し訳無いもの
答えられるかどうかの自信が無くなってしまう
はあ、俺はやっぱ未熟なんだな
10代の元男の覚悟の無さ
信念を貫く強さが備わってない
多分『出来ちゃった』って言われると物凄く動揺すると思う
「はあ、なんだか色々情けなくてため息が出ちゃう」
「今日はもう寝ましょう、寝ればすっきりしますよ」
そう言ってサテンが優しく抱きしめてくれた
こんな細腕で俺の事を守ろうとしてくれて・・・
優しくサテンの腰を包むように抱きしめ返す
腰も細い、折れちゃわないか心配だ
尻を撫でる
「タカネ、元気が無いから慰めようと思ったのに」
「すみません」
怒られた
おやすみなさい