120 撃退
『タカネ、魔王がどうとかって聞こえたんだけど』
「・・・・・・」
今はムスタングで移動中
トランシーバーがあんまり五月蠅いから少しスピードを落として飛行中だ
「カオリ、これには色々と深い訳がありまして」
『どういう訳なの?良く聞こえなかったから詳しく話してよ』
「えーっと、今時間が無いと言うか、あ、電波が・・・」
『ちょっと!魔法で繋がってるんだから途切れる訳無いでしょ!』
「もしもし?もしもーし!」
『タカネ!!!』
トランシーバーに布巻いて荷物の奥底に封印
あ、後で説明するから
うう、怒られる
「い、今はそんな事も言ってられない!行くぞムスタング!」
「キュピィィィ――――ン」
全速力で西へ西へと飛んだ
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夕方だ
広い草原で野営の準備をしているソビキト兵本隊を見つける
大部隊だから間違いないだろう
ここにくるまでにいくつか街を経由した
ソビキト兵の通り道だった街は占領され、それ以外の街は無視されたようだった
取りあえずは首都なのだろう
街々はあとから占領すればいいと思っているのだろう
ゲルマニーが首都近くまで来ているのなら尚更
少しでも利権を大きくしようとするならいち早く首都を目指すべきだ
小さな街には構ってられない
野営地から少し離れ、本隊の進行方向を塞ぐように降り立つ
本隊の西側50mくらいだ
夕焼けをバックに、長い影が出来上がる
何人かの兵士が気付いたな
逆光でよく見えてないのかも知れない
夕焼けに照らされる女とグリフォンの影
にわかにザワザワし始める
お、矢が飛んできた
狙いはズレていたが、手を伸ばしそれを掴み取る
人が集まって来た
だが近づいてこようとはしない
正体不明の存在に警戒するソビキト兵達
また、矢が何本か飛んできた
それをエストックで弾く
ザワザワが大きくなって来た
一人の兵士が前に出て来た
上官だろうか?
ちょっと偉そうな人だな
「お前は何者だ!名を名乗れ!!」
解った、名乗ってやろう
拡声器を取り出す
大きく息を吸って
【【俺は魔王タカネだ!!】】
大音量にたじろぐ兵士達
耳がキーンとしてるみたい
それが収まると、ザワザワし始める
おっとムスタングもビックリしたのか噛み付いて来た
『なんて言ったんだ?』
『魔王がどうとか・・・』
『グリフォンに噛まれてるぞ?』
『よく見りゃすげえ美人じゃないか?』
痛いよムスタング
締まらないから噛むのをやめろ
魔王に対してなんたる狼藉か
【【今からメテオを落とす!ポスカから出て行かないと後悔する事になるぞ】】
シーン
手を出し、イメージする
・・・メテオ
兵士達は訳の分からんといった顔だ
頭のおかしい奴が出て来たと思っているかもしれない
しかし、グリフォンを連れていて、訳の分からない大音量に説明がつかないせいか、近づいては来ない
様子を見ている兵士たちの目の前に隕石が落ちた
ズゴオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!
衝撃で吹っ飛ばされる兵士達
人が紙屑のように舞い上がる
一瞬のうちにパニック状態だ
【【死にたくなければポスカから出て行きなさい】】
何が起こったか把握できない兵士達
あれ?まだまだ集まって来る
騒ぎに何事かとどんどん集まって来るな
1万の群衆って見た事無いけど大体全部が集まったんじゃないだろうか
俺を警戒してる者
ふっ飛ばされた者を介抱してる者
あ、また矢が飛んできた
それを魔法の炎で燃やし尽くす
『魔法使いか!』
『じゃあさっきのも?』
『メテオがどうとか・・・』
そうだぞ、メテオだ
手を出し、イメージする
メテオ メテオ
また兵士たちの前に隕石が2つ飛来する
ボガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!
ゾガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!
2か所に落ちた隕石によりまた人間が吹っ飛ばされる
こうしてみると人間は無力だな
衝撃に成すすべなくされるがままだ
大地が抉れ、砂煙が舞う
兵士達の呻き声が聞こえる
砂煙が晴れて来た
ちょっとは状況が掴めたか?
【【もう一度言う、私は魔王タカネ、ポスカから出ていけ】】
兵士の視線が一点に集約される
1万の視線を一身に受ける俺
手を出し、大きく息を吸う
【【次は当てるぞ】】
その言葉聞いて兵士たちが青ざめる
一人が悲鳴を上げ、ソビキト方面へ走り始める
それを皮切りにし、我先に背を向け逃げ出す者達
あっという間に大軍勢がクモの子を散らしたように移動し始める
・・・何人かは動かないな
腰が抜けちゃったんだろうか
近付いて行くと這って逃げようとする
おいおい、しっかりしろよ
「逃げないと殺すぞ?」
「ひッ!・・・しょ、衝撃で怪我をしてしまって」
「なんだよ、治してやるからさっさと出ていけ」
「へ?」
動けない奴らにヒーリング
あっという間に治るだろ?
俺の魔力の強さを感じ取れよ
「あ、ありがとうございます」
「うるせえ!さっさとポスカから出ていけ!!」
「ひぃっ!!!」
慌てて逃げ出す残された兵士達
なんかツンデレみたいだな
ふう、取りあえずは何とかなったのかな
あーあ、綺麗な草原だったのに
兵士の足跡やらメテオ3発の穴やら
さて、これからどうするかな
今度はゲルマニーを追い出しに行くか?
いや、ソビキト兵がこのまま出て行くだろうか?
国境まで追い立てて壁でも作った方が良いのかな
・・・ソビキト兵が逃げた方向とは逆、西側から誰かが近づいて来る
敵意を少し感じるけど迷っているようだ
正体が解らない者に対する警戒だろう
3人の兵士たちが距離を置いて止まった
「あんたらは?」
「ぽ、ポスカの兵です」
「ああそう、状況はどうなの?ゲルマニー方面は持ち応えてるの?」
偵察兵っぽいな
ソビキト兵の様子をずっと監視していたのだろう
お、一人は女の子だな
まだ若いのに国に尽くしてるんだな
「ま、まず貴方は一体・・・」
「聞いてたでしょ?魔王です」
「ま、魔王・・・」
「ぽ、ポスカに一体何の用で」
「ソビキト軍とゲルマニー軍を追い出しに来たんだよ」
「・・・どうして?」
どうしてか
当然の疑問だよな
「魔王の許可なく軍事侵攻なんて魔王が許すと思います?」
「さ、さあ」
「ど、どういう意味・・・?」
理由なんか何でもいいよ
魔王なんて理不尽なもんでしょ?
「それより今迷ってるんだよ、このままソビキト兵を追い立てるかゲルマニー軍を追い返しに行くか」
「・・・ゲルマニー兵を追い返してくれるんですか?」
「さっきからそう言ってるでしょ、魔王は気が短いからおんなじこと聞いちゃ駄目」
「す、すみません」
プンプン怒ってるぞアピール
魔王は結構楽だな、深く理由を求められない
魔王の行動などおかしくて当たり前って事か
「良いから状況教えてよ、俺はどっちに行けば良いと思う?」
「げ、現在ゲルマニー方面は、首都手前の街で持ち応えていますが時間の問題かと」
「ひょっとしたらもう落とされているかもしれません」
「明日には首都に向かって来るのでは無いでしょうか?」
「じゃあゲルマニー方面に向かうか」
「あ、あのー・・・ポスカをどうする気で?」
「・・・別に、どうもしないけど」
「では、何の為にこんな事を?」
「ソビキトはポスカの後ゲルマニーに攻め込むつもりだ、同盟国も参戦して世界大戦になったら人が一杯死んじゃうでしょ?」
「・・・それを止める為に来たと」
「うーん、そうなのかなー」
「はっきりしませんね」
「魔王の気まぐれ来訪だよ、文句あんのか?」
「い、いえ」
「ど、どうすれば」
「わ、解らん、しかしゲルマニー兵を止めてくれると言うのなら」
「しかし、その後の事が」
「ポスカはどうなるんだ?」
何もしないって言ってんのに
こんなに美人なんだから信用しなさいよ
「どのみち好きにさせてもらうよ、止めたければ止めれば?」
「わ、我々にはそんな力・・・」
「じ、自分の国を守る力も我々には」
涙がにじみ出てくる
・・・悔しいんだろうな
心配すんな、悪いようにはしない
「我々の仕事はソビキト兵の監視だ、このまま任務を実行しよう」
「ま、魔王は放っておくんですか?」
「・・・我々に、何が出来ると言うのだ」
「で、でも・・・」
女の子が食い下がる
このまま俺を放っておけないか
「じゃあお前ついて来なよ、案内係として魔王がご所望だ」
「え?え?わ、私?」
「や、やめてくれ、エストはまだ若いんだから」
「・・・俺が行こうか?」
「男と2人乗りはヤダよ」
ガックリする男兵
おい、不謹慎な事考えてただろ
戦争中でも男ってヤツは
しかも相手は魔王だと言うのに
「わ、私、行きます、こ、このまま貴方を放っておけない!」
「え、エスト」
「・・・良い目だな、これからのポスカを担う優秀な人材になりそうだな」
「あ、貴方の好きにはさせません!」
震えながらも、しっかりと俺の目を見てくる
祖国を大事に思う気持ちか、こんな優秀な若者を死なせるわけにはいかんな
「・・・解った、それではエスト、頼んだぞ」
「はい!」
「我々はソビキト兵を追う、頑張るんだぞ」
「ま、任せてください」
偵察兵2人は東へ向かう
お前等も死ぬなよ
「エストって言ったか?ムスタングだ、よろしくな」
「は、はい」
「キュピィン」
「後ろに乗るか?寝首を掻きやすいぞ」
「・・・余裕なんですね、私ではそれを出来ないと思ってますか?」
「舐めてる訳じゃ無い、でも無理なんだよ」
察知能力があるからな
寝ていても起きるし更にスローモーションになる
「でも今から移動するんですか?」
「ああ、止めるなら早い方が良いんじゃないか?」
「・・・首都手前の街は、恐らく落とされていると思います」
「だったら尚更早くいかないと」
「いえ、もう夜なのでゲルマニー軍は動かないでしょう、首都とは距離があるので進軍するのは明日かと」
そうか、じゃあ明日首都と手前の街の間で待ち伏せるか
広い場所が良いんだよ
さっきの見てたろ?被害が出ても構わないような場所に案内してくれ
「今日は少しだけ移動しよう、水辺がある場所まで案内してくれ」
ムスタングで飛び上がり移動する
エストは何もしてこなかった
俺の事は信用してないけどゲルマニーを止めれるならそれに賭けてみたいと思ってるんだと思う
1時間ほどで湖に着く
もう真っ暗だな
「この辺はモンスター出るの?」
「はい、大丈夫でしょうか?」
土の壁で高い囲いを作る
これでモンスターは入って来れない
薪を集めて燃やす
これで野営の準備はOKかな
「・・・すごい魔力ですね」
「さっきも見たでしょ?食料どうすっかな」
「ウサギでも狩って来ましょうか?」
「俺も行くよ、ムスタングがたくさん食べるからね」
小一時間ほど狩りをしてウサギを10匹狩って来た
ムスタングは生が良いよな?
・・・捌くのどうしよう
「え、エスト出来る?俺怖くてよう」
「出来ますけど・・・」
内臓を取り出し皮を剥いでていく
うーんグロい
モンスターの剥ぎ取り見てるからまだ平気だけど
・・・俺って自分で剥ぎ取った事無いんだよな
クリスティに任せっぱなしだもんな
2匹は焼いて残りはムスタングへ
「可愛いウサギちゃんがこんな姿に」
「そんなに寂しい顔しなくても良いじゃないですか」
「エストは極悪非道だな」
「ま、魔王に言われたくないです」
焼けた
可愛そうだけど美味しいな
「・・・ソビキト兵を治療してましたよね」
「ん?ああ、怪我してると逃げれないじゃん」
「それにしたって、攻撃しておいて治療するなんて」
「俺、人を殺した事無いもの」
「ええ?」
エストは信じられないと言う顔をする
なんだよ、人殺しの方が良かったのかよ
そんな奴と一緒に居る方が怖いだろうが
「先ほどから、魔王の荷物から何か・・・」
「ああ、トランシーバーだな、五月蠅いよな」
「何ですか?」
「遠くの人と話せる道具だよ」
・・・このまま騒がれても寝れない
嫌だけど出るか・・・
「も、もしもーし」
『タカネ!!!はっきり聞いたよ!魔王タカネって何?!』
「こ、これには深い訳がありまして」
『サテンがすっごい心配してるんだよ!今まで何してたの!!』
『タカネ、無事なんですか?なにやら凄い音も聞こえましたけど』
「ぶ、無事だよ、ソビキト兵を追っ払ってたんだよ」
それから長々と経緯を説明させられた
『タカネ、貴方は色んな物を背負うのをやめたのに魔王の肩書きなんか背負ってどうするんですか?』
「す、すみません」
ああ、トランシーバーを持ちながらペコペコしちゃった
日本人の悪い癖
『そんなの背負って大丈夫なの?』
「仕方なかったんだよ、他に方法も思いつかなかった」
『割に合わないと思うけど』
「・・・・・・」
返す言葉も無い
本当にバカだと思う
『まあいいです、サテンはどこまでも付いて行きますからね』
『良くないよサテン!魔王だよ!?魔王!悪いヤツだよ!』
『カオリはタカネの敵になるんですか?だとしたらサテンの敵にもなりますが』
『うう、カオリ間違ってないのに』
『タカネ様、魔王として思う存分クリスティを虐げてください』
『タカネ、お土産たのむら』
『皆が呑気すぎてカオリが馬鹿みたいでしょ』
「・・・ごめん、皆にも迷惑かけるかもしれないよな、魔王と一緒に住んでるとなると、あらぬ疑いをかけられるかもしれない」
『タカネ・・・』
『私達の心配などしないでください、タカネは人を救う為に行動しているのですから』
『タカネ様、悪いのはゲルマニーとソビキトなの、エリーゼはそれを解ってるの』
「メイドちゃんにも迷惑かけるかもしれない、縁を切ってくれても構わないんだぞ?退職金をはずむから・・・」
『タカネ様、以前言ったはずです、ピエトロのメイドを見誤らないでください』
「クーリエか?そうは言ってもよう」
『例え魔王であろうと主人ですわ、私達の大切な守るべき主人です』
「シオンまで、そこまで義理立て無くても良いんだぞ?」
『タカネ様が戦ってるのに逃げ出す事なんて出来ないの』
気持ちは嬉しいけどよう
なんだか申し訳ないよ
『もう、取りあえずさっさと終わらせて帰って来てよ!』
「あ、ああ、解った」
『胸を嫌と言う程揉んでやるからね』
「覚悟しとくよ、明日はゲルマニー兵を追い返すから今日はもう・・・」
『タカネ、おやすみなさい、浮気だけは許しませんよ?』
「し、してないよ、おやすみサテン」
エスト、静かに
一緒に居るのはバレてないようだ
布に包んで荷物の奥底にトランシーバーを入れる
ふう、すっごい疲れたぜ
「・・・色々把握しました、成り行きで魔王を名乗るなんて」
「戦争に介入するには弱い理由では駄目だったんだ、誰も納得しない」
「サテンさんというのはひょっとして・・・」
「・・・美人大陸1位だよ、ポスカにも来たから聞いた事くらいあるよな?」
「はい、当日は警備にあたっていたので見てはいないんですが」
「そう言う訳だ、ポスカに害を与える気は無いから信用してくれ」
「むしろ申し訳ない気持ちです、ポスカの為にそこまでしてくださって」
「ゲルマニーの知り合いの為でもある、気にしなくて良いよ」
さて、シャワーでも浴びて今日は寝ようぜ?
一緒に浴びるか?俺は魔法で温水出せるんだぞ
信用したのかすんなり服を脱いだな
これはサテンには内緒だぞ?あいつすぐに怒るんだから
エスト、日に焼けてるけど本当は白いんだな
肌が出ている部分とのコントラストが眩しい
俺は凄い体だ?あたぼうよ
ツルツル?てめえ表出ろ
魔王の怖さを思い知らせてやろうか
そんなこんなでイチャイチャしながら寝た




