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全部神様が悪い  作者: 無二エル
ピエトロ王国編
118/134

118 頼み事

西北西へ飛ぶ

目指すはポスカ、戦争中の国


「ムスタング!疲れたら無理せず休めよ!」

「キュピィィィ――ン!」


風を切り裂きグリフォンが滑空と飛躍を繰り返す

下界の景色がどんどん変わっていく


風切り音がすごいな

今はトランシーバーを使っても何も聞こえないだろう


ポスカに行ってどうするか・・・

まずは戦場見つけて指輪で気絶させて

ゲルマニー、ソビキト兵を捕虜に出来るのが最善なんだけど・・・

乱戦だったらどうしよう?

戦争って言うからには何千、何万の兵だよな

気絶させて回る余裕なんてあるのだろうか?


「・・・考えても仕方ない、行ってみないと解らない」


今はただ西北西へ

野を越え山を越え

ただひたすらに空を飛び続けた



-----------------------------------



暗くなって来た

今はどの辺だろうか?

一日で着くことは無いはずだが、方向がズレてないか心配だな・・・

今日はこの辺で野宿しようか

野生のウサギでも狩って俺とムスタングの夕食に・・・


お、微かな明かりが見える

ランプの光だな

小さな村を発見

うーん、安全な村かな?

こっちはグリフォンも居るし・・・

いや、いざとなったらサテンの指輪で気絶させて立ち去ろう


村の広場に降り立つ

近くに居た村人がどよめく


「この子は大丈夫ですよ、それよりここはどこですか?」

「こ、ここは、バチェラの村だが」


ランドルフって国のバチェラって村らしい

聞いた事無いな


「宿ってありますかね」

「無いな、酒場ならあるけど」


うーん、そうか

まあ宿屋があったとして、ムスタングも泊めてもらえるかは解らない

どっか水辺さがして野宿するかな

でも取りあえず食事をとりたい

ムスタングも腹ペコだ


取りあえず教えてもらった酒場に向かう

何か食事もあれば良いんだけど

狭い村だな、すぐに着いた


「おいおい、グリフォンだぜ!うははは!!」


わー、酔っ払いだ

顔が真っ赤な陽気そうなおじさん

ぐっでんぐでんじゃないか


「姉ちゃん美人だな!」

「お、おいおい、エリック、グ、グリフォンだぞ?」

「あ、大人しい子なんで大丈夫ですよ」


他の村人たちが怯える中、エリックだけは楽しそうにフラフラしてる

おっとっと、大丈夫か?

足元がおぼつかないけど


「マスター!このグリフォンに酒をやってくれ!俺の奢りだあ!」

「え?ちょ、食事を・・・」

「遠慮すんな!グリフォンといやあ酒だろうが!」


ああ、好物だとは聞いてるけど

でも成長途中だし飲ませた事無いんだよな

マスターが恐る恐る酒を持って来た

遠慮したかったのに


床に置かれた皿に入った酒

ムスタングが軽く匂いを嗅ぐ

ペロッと舌を出し、飲み始める

どうだ?美味しいか?


ムスタングが座り込む

あ、あらあら、眠そうだ

弱いのかな?やっぱりまだ早かったんじゃ

体を丸め、寝てしまった


「こ、困ったな、ムスタング、こんなとこで寝ちゃ駄目だよ」

「うはは!グリフォンのクセにだらしねえな!」


もう、お前のせいでしょ?

俺は酒いらないよ


「もう・・・運び出すか」

「なんだよもう行っちゃうのか?」

「あんた酔い過ぎだよ、今日はもう移動できないじゃないか」

「なんだそんな事、ここに泊まってきゃいいじゃねーか!」


何言ってんだよ

マスターが目を反らしてるじゃないか

しかしどうしようかな、泊まるとこも無いんじゃ・・・


「エリックの家の馬小屋に泊めて貰えばどうだ?」

「うはは!いいぞ!」

「このおじさんの?・・・不安なんだけど」

「普段は真面目な良いヤツだよ、馬を大事にし馬小屋もいつも綺麗にしてるぞ」

「待て待て、グリフォンと馬は天敵だ」

「ああ、ムスタングは馬を襲う事は無いんだけど」

「このお姉さんはどうするんだ?こんなべっぴんさんを馬小屋って訳にも」

「私はどこでも・・・なんなら魔法で屋根作れるから野宿でも」

「おお?あんた魔法使いなのか」

「立派なエストックも持っとるが」


ざわざわしだしたな


「あんたどこに行くんじゃ?」

「ポスカです」

「えらい遠くまで行くんだなー」

「ポスカってどこ?」

「西の方だ、3つくらい国境を越える」


・・・戦争の事はまだ知らないみたいだな

田舎だから情報が来て無いんだろう


「ううむ、グリフォンが居るなら頼みたい事があるんだが」

「すみません、ちょっと急いでて」

「むうそうか、困ったな」

「・・・どんな用件ですか?」

「山の上に風神様の祠があるんだが、古いからボロボロでなあ、建てなおしたいと思ってるんだよ」

「へえ、風神様?」

「昔どうやって建てたのか知らんが、険しい道のりでとてもじゃないが資材を運ぶことが出来ないんだ」


人間の脚では辿り着くのが精いっぱいらしい

だから空から資材を運んでくれって事か


「・・・今は無理ですけど帰りになら」

「必要な資材もすぐには揃わん、その方がこっちとしても助かる」

「木材の加工をしておくか、運んで貰ってすぐ建てられるように」

「報酬どうする?高いんじゃないか?」

「今日の夜と明日の朝の食事さえもらえれば、ムスタングの分も」

「それぐらいならお安い御用だが」

「うはは!マスター飯だ!豚の丸焼き持って来い!」


そんなに食えるか

ん?荷物の中から声が聞こえる

あ、トランシーバーだな

繋ぎっぱなしなんだけど誰か喋ってる

・・・ここで出して話すと変な目で見られそうだな


「すみません、トイレ借りて良いですか?」


トイレ


「もしもし」

『あーー!やっと出たぁ!タカネ何勝手に戦争なんかに行ってるのよ!』

「カオリか?すまんな言うヒマもなくて」

『タカネ様!クリスティが今馳せ参じます!』

「くんなよ!来たら絶対に許さんからな!」

『ずきゅーん』


テストして無かったけど、ちゃんと魔法使いじゃなくても話せるんだな

通信鏡は魔法使いでないと話せなかったけど

ジルの改良は上手くいってるようだ


『タカネ、無事ですか?』

「サテンか?今日はランドルフって国のバチェラって村に泊まるよ」

『おみやげ頼むら、ビックフットたんの分も』

「まだ行く途中だぞ」

『タカネさん、順調にポスカに向かってます、そのまま真っすぐですよ』

「ありがとうジル、今のとこ問題は無いからな、今トイレで喋ってるから話終わらせて良いか?長いと疑われる」

『ウン・・・』


最後にメアリーが何か言おうとしたけどトランシーバーをしまう

荷物の奥底に封印


「おう!長かったな!ウンコか!がはは!!」

「・・・・・・」

「エリック、女のトイレは長いもんだ」


酒場で食事を貰い、エリックの馬小屋へ

ムスタングが起きないからそっと運んでやる

大きいから大変だ、前が見えない


「鶏肉3羽持って来てやったぞ!!」


ムスタングが夕飯食べてないから貰って来た

夜中に起きてお腹空いてると可愛そうだし

お腹が減ったあまりに普段は襲わない馬を襲ったら怖いし


「ここだ!本当にお前も馬小屋で良いのか?」

「ああ、ムスタングに寄りかかって寝るよ」


結構広い馬小屋だった

馬が4頭も居る

馬車用なのかな

空いている場所にエリックが藁を敷いてくれた

ムスタングを静かに下ろす

鞍を外して楽にしてやろう

馬が興味深げにムスタングを見ている

大丈夫だからね、一晩お邪魔します


「朝飯もさっきの酒場だからな!」


エリックがそう言いながら鼻歌交じりに出て行く

隣が家らしい

ドアの閉まる音が微かに聞こえた


お、ムスタングの目が半開きだ

起きたのか?まだ眠そうだな

ご飯食べる?今日は鶏肉だよ

もそもそと半分寝ながら肉をついばむムスタング

もういいの?1羽食べて満足してまた寝ちゃった


「さて、じゃあ俺も寝るか」


ムスタングに寄りかかり、目を閉じる

重くないか?

ゆっくりとムスタングのお腹が上下する

穏やかな眠り

暖かい

目を閉じると睡魔がやって来る

いつも昼寝ばかりしてるからな

今日は長時間飛んで疲れていたようだ

zzzzzzz



----------------------------



「お、おはようございます」

「・・・ん?」


朝だ

小鳥の鳴き声が聞こえる


「・・・ああ、エリックさん、昨日の事覚えてます?」

「・・・うっすらですが」


昨日とは別人だ

すっかり人のよさそうな村人に変わったな

お、ムスタング、いつの間に鶏肉食ったんだ?

皿が空になってるじゃないか


俺が起き上がるとムスタングが駆け足で外へ

ごめん、トイレ我慢してたんだな

・・・悲鳴が聞こえたな、大丈夫だから安心して

ふう、大きく伸びをする

ムスタングには悪いけどやっぱベットじゃないと体が硬くなるな


「こ、こんな美しい方をこんな馬小屋に」

「綺麗なので助かりましたよ?」


ああ、涎垂れてないかな

寝起きの顔をおっさんに見られたくは無かったなー


「近くに川はありませんか?顔を洗いたい」

「す、すぐに準備します!」


あらら、すごい気を使われてるな

一晩泊めてくれた立場なのに

こういう時、こっちも申し訳なくなる

美人だからって過剰に気を使わなくていいのに


綺麗な井戸水で顔を洗い、スッキリした

お、ムスタングの回りを遠巻きに村の子供たちが

興味と怖さが入り混じった表情

遊ばせてあげたいが、今はそんなヒマは無いか

ムスタングに鞍を付け、酒場へ向かう


「おはよう、馬小屋で眠れたかい?」

「ええ、綺麗だったので助かりました」

「朝食準備出来てるよ」


マスターが準備してくれていた

本当は朝は店を開けてないみたいだけど俺の為に開けてくれたんだな

ありがたく戴きます

ムスタングも食べて、今日もたくさん飛ばないと


「昨日の話ですけど、用事が何日かかるか解らないんですよ」

「そうか、そういやどこから来たんだ?」

「ピエトロです」

「ああ、女王が治めてる国だな、ポスカまで行くんなら丁度ここは中間地点じゃないだろうか」


そうなの?

昨日6時間くらい飛んだんだよな

じゃあ今日にはポスカに着くって事だ

ちなみにランドルフはユーメリアの隣らしい

北東がユーメリアだって


「何しに行くのか知らんが気を付けてな」

「はい、帰りに必ず立ち寄りますんで」

「村人がつまらない頼み事して申し訳ない」


そんな事は無いよ

風神様を大切に祀ってるんだろ?

ユンフェスなんかを祀るより全然正しい

・・・風神か

ちょっと引っかかるけど今は他の事考えてる余裕も無い

帰りに絶対寄ろう


急いで朝ごはんを食べ終わる

ムスタングもお腹いっぱいになったか?

じゃあそろそろ出かける?

外に出ると村人たちが待ってた


「もう行くのか?」

「準備して待ってるからな」

「本当に戻って来てくれるの?」

「私はピエトロのタカネ、必ず戻って来るので安心してください」

「お、おい!今そこで旅人に聞いたがゲルマニーとソビキトがポスカに攻め込んだらしいぞ!」


シーンとした

タイミング悪いなぁ


「本当なのか?」

「タカネさんは知ってて行くのか?」

「ポスカに守りたい人が居るので」

「か、かっこいい・・・」

「しかし女一人でどうなるものでも」

「ゲルマニーとソビキトに攻められたんじゃあ・・・」


皆一様に暗い顔

俺が戻って来ないと思ってる


「大丈夫ですから準備しておいてください、一宿二飯の恩義を忘れるような育て方はされていません」

「いや嘘をつくとは思ってないが、無事に戻って来れるとは・・・」

「魔法も使えるし大陸20傑の3位に勝った事もあります」

「なんと大陸3位に?」

「しかしそうは言っても」

「戦争はまた別物じゃろう」


うーん、どうしよう

メテオでも見せようかなぁ

いやそこまでするのもおかしいし

不用意に余計な力を見せるのは辞めた方が無難だろう


「私が戻って来ないようならユーメリアの第一王子に手紙でも送ってください、私の名前を出せば良くしてくれるはずです」

「王子に?そんな恐れ多い」

「信用して貰う他ないけど・・・ペガサスなら資材も運べると思うんで」


ピーちゃんに丸投げ

他に良い方法あるかもしれないけど考えてるヒマもないし


「・・・解った、だが気を付けてな」

「美人なんじゃから自分を大切にするんじゃぞ」


じゃあそろそろ行くね

ムスタングに跨り飛び上がる

村人達があっという間に豆粒に


「ムスタング、最初はちょっとゆっくり飛んでよ」

「キュピィィーン」


荷物の中からトランシーバーを取り出す


「もしもし?誰か聞いてる?」

『クリスティが寝ずに待機してました!』

「お、おう、今からバチェラを経つ、今日中にポスカに着けそうだ」

『・・・タカネ様、くれぐれも無理はなさらず』


クリスティの声が悲痛だ

・・・心配かけてごめんな


「大丈夫だから、けして無理はしないから」

『約束してください、必ず帰って来てクリスティのプレゼントをまた着てくれると』

「それはヤダ」

『ぐはっ・・・で、では、必ず帰る事だけでも』

「ああ、必ず帰る、何かあったらまた連絡するから」

『はい!片時もトランシーバーから離れず待っています!』


お、おう、無理せず寝ろよ

皆も普通にハンターの仕事をしてくれ

いつ帰れるか解らんからな


「よし!ムスタング行ってくれ!」

「キュピィィ―――ン」


風を切りグリフォンが空を疾走する

目指すは西北西

戦乱のポスカへ

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