117 戦争
昼だな
たっぷり寝すぎてしまった
リンフォードから戻って来て久しぶりのベット
気持ち良すぎて起きたくない
コンコン「タカネ様、お食事をお持ちしましょうか?」
「クーリエか、いやいいよ、食堂で食べるから」
嫌だけど降りるか
良い天気だな・・・
「おはよう」
「タカネ、おはようございます、サテンも寝すぎてしまいました」
サテンも久々のベットだ
キャンプ生活で疲れが溜まっていたのだろう
「みんなは?」
「出掛けたみたいですよ」
カオリは仲間に会って来るって言ってたっけ
メアリーはムスタング連れてビックフットのところへ
クリスティは一度家に戻るって
「シオン、ジルは?」
「お部屋で食事を取ってますわ、研究も佳境だとか」
携帯電話の研究中だ
トランシーバーを作るところまでは成功している
もう時間の問題なんじゃないだろうか
「さて、ご飯も食べたし寝るか」
「タカネったら・・・」
「タカネ様、最近街に色んなお店が増えてるの、魔法水晶が稼働したから移住して来る人が多いの」
「そうなのか?エリーゼ」
「女性専用のエステとか言うのが出来たらしいの、評判なの」
ふーん、興味ないな
どうせ俺は体型変わんないし
「なんですか?エステとは」
「美容のお店だよ、痩せたい人や脱毛とか美肌とか」
「まあ、すこし興味がありますね」
サテンは自分で完璧な体に仕上げたじゃないか
ムダ毛も無いし、肌も綺麗だぞ
「・・・脇は薄いですがすごく気を使ってます、これを何とか出来るなら・・・」
わき毛処理か
レーザーなんて技術はこの世界には無いよな
なにか処置する方法があるのだろうか
「脇毛を処理する塗り薬なら魔法使いの調合剤であるの」
「なんだ、エステに行かなくてもあるらしいぞ」
「豊胸剤は否定派なんですが、毛の処理の薬はどうなのでしょう?」
「知らないよそんなの、そんな事言いだしたらエステだって反則だと思う」
「エリーゼもタカネ様の生理を止める薬はいかがわしいと思うの」
「サテンもそう思います、タカネ、子供が出来ないようにして浮気してませんよね?」
「してないよ、なんか話がズレていってるぞ」
男との浮気を疑われていたとは
絶対無いわ
「ピオリム王子と仲がいいじゃないですか」
「あれはオカマじゃん、なあ、話がどんどんややこしく・・・」
「エリーゼもニキビを治す薬は使ってるの」
「年頃だな、乙女の悩みだ」
「ニキビとビキニって似てますよね」
「サテン、ややこしいから・・・」
うーん、どうでもいい話だ
今はつまんない事考えたくない
何も考えずに寝ていたい
「美容室や化粧品店も増えてるの」
「女が行く店ばかりじゃないか」
「ピエトロは女が元気な国なの、需要にあっているの」
そうかも知れんけど
元男の俺には興味の無い店ばかりだ
ふう、いっそどっかに一人旅でもしたい
「絶対許しません」
「だよなあ」
今は心配されているので単独行動自体難しそう
あーあ、世捨て人みたいになって諸国を放浪したい気分なのに
お、シオンが来た
ちょっと様子が変だな
「タカネ様、街の人に聞いたのですが、どこかで戦争が始まったみたいですわ」
「・・・近くなの?」
「いえ、遠い国ですが、先日ゲルマニーがポスカに攻め込んだそうです」
「ぽ、ポスカって、あの優しい王様達が居る国ですよ」
美人大会の後の巡業で回った国だ
王妃が絵を描いてくれた
そしてゲルマニーは・・・
「美人大陸5位、カミラちゃんの国ですね」
「国の代表は独裁者なんだよな」
「・・・ポスカの人々は大丈夫でしょうか?」
サテンが心配そう
俺だって心配だ、ポスカの王族もカミラちゃんも・・・
13歳でピアニストを目指していたカミラちゃん
戦争なんかが起きてしまっては、夢どころでは無くなるのではないだろうか
「・・・ちょっと行って来ていい?」
「!・・・いけませんタカネ、戦争に関わるつもりですか?」
「それは流石に・・・死んじゃうかもしれないからやめて欲しいの」
「危険ですわタカネ様、おやめになってください」
でもよう、心配じゃないか
「タカネ、貴方はいろいろな事を諦めてるのにそんな事をしたら」
「む、矛盾してるのは解ってるんだよ、背負うのをやめて目立たないようにしてるのにおかしな話だよな」
クーリエが来た
「ポスカにソビキトが攻め込んだそうです」
「え?ゲルマニーじゃなかったの?」
「反対側からです、ポスカは東西両方から攻め込まれてしまったそうです」
「!!」
ソビキトは魔法水晶も作る強大な国だ
ポスカは2国から攻め込まれて大丈夫なのか?
「ゲルマニーとソビキトが協力してポスカに攻め込んでるの?」
「・・・解らないの」
「互いを牽制する為、自国領に近づかせたくない為の侵攻じゃないですか?」
「ポスカはそんなに強い国じゃないの、長くは持たないと思うの」
・・・心がザワザワする
他国の話だ、放っておけばいい
普通なら人間一人に何か出来る話じゃない
ポスカの人達に義理立てするほど関わっても無い
ほんの1時間ほど語らっただけだ
だが、その時間は穏やかで、特別な物に思えた
「サテン、謝るから行かせてくれ」
「さ、サテンだって心配ですよ?で、でも・・・」
「俺は戦争には関わらないよ、サテンの指輪をはめて通りかかるだけだ」
「・・・私の?」
サテンが魔力を込めた指輪
その指輪には魅惑の効果が含まれている
俺がはめる事により、相乗効果で見るものを気絶させる
「ソビキトとゲルマニーの兵の前を通り過ぎるだけだ」
「そ、そんな危険な事」
「サテン、危険な事は解ってるよ、矛盾してるのも解ってる、でも見過ごせないんだよ、最悪の想像をしてしまうと心が痛いんだよ」
おかしいのは解ってる
感情で動くのは愚かだと思う
しかし、人間は簡単に割り切れない
俯き、考え込むサテン
頼む、行かせてくれ
「・・・わ、私も」
「駄目だ、一人で行かないと間に合わないかも知れない、2人を乗せるとなるとムスタングの休憩が多くなる」
「む、ムスタングは今メアリーが」
「山まで取りに行ってくるよ」
サテンも迷っている
俺を足止めしようとしてるが材料が弱い
サテンだってポスカの人達を助けてあげたいと思っているはずだ
「・・・準備しておくの、ムスタングちゃんを拾ったら一度戻って来てほしいの」
「エリーゼ?そんな勝手に・・・」
「サテン様ごめんなの、でもタカネ様は言っても聞かないと思うの」
「・・・解りました、トランシーバーは持って行ってくださいね」
解った準備しといてくれ
俺は全速力でヤーイン方面へ
途中で山道に入り、どんどん登っていく
「メアリー!!どこだ!!ムスタング―!!」
大きな声で呼びかけながら登っていく
どこだ?俺はビックフットの住処に行った事が無い
ビックフットもメアリーは招き入れたけど、俺が入るのは嫌がるかもしれない
声が届いたらこっちに来てくれ
「メアリー!!ムスタング!!」
『タカネー、どうしたら?』
上から声がした
声がした方向に目をやる
メアリーとムスタング、ビックフットが降りて来た
「ビックフット、久し振りだな警戒すんな」
「ナニシニキタ」
「メアリー、ムスタングを返してくれ、帰りは悪いけど歩いて帰って来てよ」
「・・・何かあったら?」
説明してるヒマは無い
「急だがちょっと国外まで行くことになった」
「・・・ビックフットたん、悪いけど今日は帰るら」
「え?メアリーは残って良いんだぞ?」
「様子が変ら、放っておけないら」
「・・・連れて行く事は出来ないぞ、危険だから」
ハッキリ言っておく
俺は一人で行く
「・・・それでもら、状況も知らずに後で人から聞かされるのは嫌ら」
「説明してる時間も無いんだが」
「・・・イッテヤレ、土産話ノトチュウダガマタコンドキカセテクレ」
すまないなビックフット、久し振りに会えたのに
俺とメアリーはムスタングに乗り飛び上がる
すぐ家につくだろう
「取りあえず説明するら」
「メアリー、話が聞きたいからって逆向きで乗るなよ」
俺と向かい合ってムスタングに乗り込んだメアリー
後頭部に風が当たって髪が無茶苦茶になってるぞ
「遠くで戦争が起こった、俺は助けたい人が居る」
「!・・・納得するには十分な理由ら!」
「理解が早くて助かる!家まで急ぐぞ!」
「らーーーー!!!」
ムスタングで一っ跳び
家につくとバタバタしてる
「タカネ、指輪を出しておきましたよ」
「戦争にいくんですか?トランシーバーのチャンネルを風に合わせておきました」
「エストックと毛布と・・・」
「タカネ様、テントや食料は・・・」
大荷物じゃなくていいだろ
魔法で土壁出せるし毛布1枚と着替えとお金100万程で良いよ
「カオリとクリスティによろしく言っておいてくれ」
「クリスティさんは後を追いかねないと思いますが」
「足止めよろしく」
「もう行くら?」
「タカネ様、再生の杖はどうします?」
「あ、サテン持ってっていいか?」
「持って行ってください、怪我人を癒してあげてください」
「タカネ様、これはひょっとしたら重要な役割かも知れないの」
「どうしたエリーゼ?」
真剣な顔のエリーゼ
「ポスカはニルギスや周辺国と同盟国なの、他国も戦争に参戦してくるかもしれないの」
「戦火が広がるかもしれないって事か?」
「特にニルギスはソビキトが力をつける事を許さないの、高い確率で参戦してくると思うの」
戦火が広がれば各国色んな思惑が出てくるだろう
騒ぎに応じて自分の気に食わない国をやっつけようとする者、漁夫の利を得ようとする者
「タカネ様は唯一それを止められる存在なの」
「・・・俺は、何かをしたら裏目に出るんだ、今回も疫病神になるだけかもしれないと思ってる」
「タカネ・・・」
「タカネ様の行動を無駄にするならエリーゼはこの世界を許さないの!」
「え、エリーゼ」
「ソビキトもニルギスも許さないの、神様を許さないの」
「・・・・・・」
良かれと思って行動しても裏目に出る
思っても居ない所でダイヤの存在が迷惑をかけていた
正直世界が嫌いになりそうだった
「俺も神様が嫌いだ、こんな力を俺に与えやがって」
「タカネ様は優しい人なの、思うように生きていいと思うの、それを否定するなら世界の方が間違っているの」
「・・・そうですね、悪い事をしてないのにタカネを不幸にするこの世界こそがおかしいのでしょう」
「タカネ、救いたい人が居るなら迷う事は無いら、助けたい気持ちを迷うなんておかしいら」
シンプルで良いとメアリーは言ってくれる
いろいろ弊害を考えて動きが鈍るのは俺だって歯がゆい
どっちが悪いとか俺には解らない
当事者でも無いのに関わるのはおかしいかも知れない
全てを救える訳では無い
「・・・些細な理由で、歴史を変えてしまうかもしれない」
「歴史はそうと決まってる物じゃないの、タカネ様が作ったって良いの」
「俺が?」
「我慢する事なんて無いの、戦争を起こす悪い人が居るのに、タカネ様が我慢するなんておかしいの」
歴史に影響を与えるのはいけない事だと思ってた
他所から来た俺がそんな大それた事
魔王になって世界を闇に落とすようなスイッチにだけはなりたくないと思ってた
「行ってくる・・・ひょっとしたらまた立場が悪くなるかもしれないけど」
「タカネ様の気持ちは解っています、誤解されてもクーリエは味方ですよ」
「私達にならいくらでも迷惑をかけてください、シオンはすべて受け止めますわ」
「サテンはどこまでも付いて行きますよ」
「皆、後押ししてくれてありがとう」
ムスタングが飛び上がる
皆が真剣な顔でそれを見守っている
ジルも部屋の窓から心配そうに見ている
行ってくれムスタング
無理をさせて悪いが全速力で
お前の今出せる力をすべて出して欲しい
『方角は西北西なの!』
「ああ、解った!」
『タカネ!気を付けて!』
「ああ!必ず帰って来る!」
ムスタングがスピードをあげる
おお、全速力だ
俺の気持ちを読んでくれる頼もしい相棒
「キュピィィィ――ン!」
つんざくような鳴き声がこだまする
目指すのはポスカ
間に合うかな、いや考えても仕方ない
今はただひたすらに西北西を目指そう




