110 大音量
「タカネちゃん、赤コウモリを持って来たわよぉん」
「ありがとピーちゃん」
次の日もピーちゃんが来た
10匹か、王子の号令の元、ユーメリアのハンターが頑張ってくれたようだ
さっそくジルに渡そう
「まあこんなに・・・たくさん用意して貰ってますが研究で無駄にすることも多くて・・・」
「研究に失敗はつきものだよ、気にしなくていいからな」
「・・・こんな物が出来上がったんですが」
「なにこれ?」
「拡声器です」
【【あーテストテスト】】
「う、すごい」
ガチャ「な、何事なの?」
【【エリーゼ、喉が渇いた】】
「そ、そんな大きな声で言わなくても持って来るの」
この前ポケベルみたいなの作ってたのに
「遠くなってないか?」
「・・・はい」
「うーん、まあ気にせず頑張ってよ」
「はい」
やれやれ、まだまだ必要そうだな
「タカネちゃん、大きな声出してどうしたのぉん?」
【【これだ】】
「キャ!ビックリするやろワレぇ!!」
まあまあ、一応努力の形は見せとかないとな
「へえ、その携帯電話はまだだけど、失敗してこれができたのねぇん」
「群衆を鼓舞できるぞ、もしくはデモ行進にもってこいだ」
「王族がデモ行進する訳無いでしょおん?」
「される側だよな、ユーメリア物価高いし」
「うぅ、耳が痛いわぁん」
税率が高いらしいよね
その分教育福祉が充実してるらしいけど
「そうだ、これなんだけど」
通信鏡を見せた
「ジャミロって魔法使いが亡くなったのは知ってるか?」
「ええ、演算のジャミロですものぉ、有名じゃないのぉ」
「そいつの遺産だ、ニルギスのアリアナって魔法使いが送って来た」
「へぇ、これで遠くの人間と会話が出来るのねぇ」
魔法使いでないと使えないけどね
「これは時間よね?」
「ああ、時計付きだぞ」
「す、すごいわぁ、さすがジャミロねぇ」
時計の方に食いついちゃった
「そういえばぁジャミロに殺されそうになったのよねぇん」
「そうだぞ!裁判やら何やらでピーちゃんに文句言うの忘れてたわ」
「タカネちゃんならそんな簡単に死なないでしょおん?」
「まあそうだけどさ、来年は巡業の事見直してよ」
「ええ、ミラベルも反省してたわぁん」
ミラベル
大陸美人コンテストの実行委員長の名前だな
「首になってないよね?」
「ええ、準備期間が短い中で頑張ってたものぉん」
「今回の失敗を糧に頑張って欲しいよ」
まあ色々お土産貰えたのは良かったよな
悪い事ばかりでも無かったか
「巡業は眼を瞑っても良いけど王宮に泊まるのだけはかんべんな」
「タカネちゃんが優勝した訳でも無いのに注文が多いのねぇん」
「ピーちゃんは出場すら許されなかったじゃん」
「てめえタカネ!!表出ろやッ!!」
ピーちゃんをぶっ飛ばした
来年は出れると良いね
無理だろうけど
「いたた、もぉう、相変わらず乱暴なんだからぁん」
「ピーちゃんも存外丈夫だよな」
「レディに失礼ねぇん・・・私も能力アップアイテム使って鍛えてみようかしらぁん」
「あんま無理しちゃ駄目だよ、カオリ達はいざとなったら再生の杖があるから無理が出来るけどさ」
「そぉよねぇん、私の半月板まで再生するなんてすごい杖だと思うわぁん」
【【せやろ】】
「キャ!!び、ビックリするからやめて!!」
拡声器もすごい発明のような気がして来た
これで遠くまで声が届けば電話要らずだ!
・・・近所迷惑か
「ねぇん、昨日のサテンちゃんの指輪、モンスターにも有効なのかしらぁん」
「・・・どうなんだろうね」
魅惑の指輪
サテンらしい追加効果だ
「味方にも効果が発動するだろうからパーティじゃ使えないな」
「ホントねぇ、ソロじゃないと使えないなら装備できないじゃないのぉ」
「ピーちゃんパーティ組んでるの?メイファンが出て来たら一緒にパーティ組むって聞いてるけど」
「私は3人パーティよぉん、一人はヒーラーでこれが良い男なのよぉん」
ほう、希少なヒーラーか
当然攻撃魔法も使えるだろう
「もう一人は?」
「寡黙な男剣士よぉん、しゃべったの2回しか聞いた事ないわぁん」
「そ、そうか、個性的だな」
「しかもそんなに強くないのよぉん、強そうな雰囲気出してるのにぃん」
一応最上級らしいがしょっちゅう怪我してるんだって
なんでそんな人とパーティ組んでるんだろ
「クルセイドに行ったりピエトロに来たりでハンター業を休み過ぎのような気がするけど」
「2人は他の仕事もしてるのよぉん、ハンター業は副業ねぇん」
「そうなんだ」
「私はもっと依頼を受けたいんだけどねぇん、王宮で稽古ばっかりよぉん」
「ふーん、ソロでは依頼受けないの?」
「ヒーラーが居ない時は受けさせてもらえないのよぉん、これでもユーメリアの姫だからねぇん」
「意外と大事にされてんだね」
「意外とってどういう意味じゃコラ」
「しかしヒマだなー、ピーちゃん行きたいとこ無いの?」
「うーん・・・ないわねぇん」
なんで1週間滞在しようと思ったんだろ
こう毎日来られても話す事も無くなってくるよ
「タカネちゃんはやりたい事無いのぉん?」
「ああ、取りあえず赤コウモリ集めたいくらいかな」
「リンフォードのダンジョンに行けばたくさん居るんでしたっけぇん」
「そうらしいよ、行った事無いけど」
「行ってみるぅん?」
「場所が解らん、それにダンジョン潜るなら日帰りじゃキツイよ」
リンフォードの首都までたしかムスタングで3時間半だった
ダンジョンの場所知らないけど潜る時間を考えれば日帰りでは厳しい
それに泊まるとなると街を利用しなければならない
マゾだらけのあの国には出来れば行きたくないんだよな
「リンフォードに行くんですか?」
「クリスティ、居たのか」
「あれからタカネ様はクリスティのプレゼントを全然着てくれませんね・・・」
「うっ」
「なあに?プレゼントって」
クリスティがリンフォードで買って来たSMの女王様みたいなエロコスだ
あんなもん二度と着るか
「まあ素敵!着てみてくれないかしらぁん!」
「嫌だよ、お尻丸出しなんだぞ」
「うう、タカネ様」
「クリスティ、人にプレゼントする時は自分の好みでは無く相手の好みで考えるんだ」
「私にも似合うかしらぁん?」
似合うかもな
ああいう趣味の人ってマッチョが多いし
特にMに多い
体を鍛えるのって自分をイジめるって事だからやっぱMの人が多くなっちゃうのかなぁ・・・
カオリは頑張ってるけどMではないよな
俺は怠け者だけどS?M?どっちだろう
どっちでもいいか
「ちょっとリンフォードまで行って来ようかしらぁん」
「一人で?変な国だぞ?」
「変では無いですよ、クリスティは生まれる国を間違えたと思ってますが」
「クリスティ、俺に逆らうのか?」
「きゅーん」
「一人じゃ行かないわぁん、ホテルに従者を連れて来てるわよぉん」
ああそうだったのか
ペガサスの馬車でお連れの人達も来てたらしい
そりゃそうか、王子だもんな
「と言うかクリスティちゃん一緒に行かない?」
「私ですか?詳しいので案内できますが」
そんな訳で2人は出掛けて行った
あんな国に好き好んで行くとはね
今から行けばギリギリ日帰りで帰って来れるかな
買い物時間少ないとは思うけど
夜
「おうクリスティ、お帰り」
「ピオリム姫が怒ってしまいました」
「え?なんで?」
リンフォードの国へ行ったピオリム王子
人々の反応は冷ややかな物だった
王子という事で最低限の礼節を受けはしたのだが、基本は関わりたくないと言う態度だったらしい
「・・・ああ、あの国は『ただしイケメンに限る』だからな」
「ピオリム姫も美しいと思いますが」
マッチョで顎割れててオカマだ
顔は・・・男前の方かもしれないけど
化粧と服装のせいで男前とは捉えられないだろう
「クリスティはチヤホヤされてしまって」
クリスティは美形だからな
本当は罵られる方が良いんだろうけど
「で、買い物は?」
「呼んでも店員が来なくて」
「ええ?ひどいな」
「気づかないフリをされました」
そしてピーちゃんが店を出ると露骨に店じまいを始めたそうだ
そりゃひどいな
怒って当然だそんなの
「大丈夫なのかな?国際問題にならない物なの?」
「これくらいの事でそこまでにはならないと思いますが」
やれやれ、困ったもんだな
この世界って変な国ばっかじゃないか
明日ピーちゃん来るかな
めんどいな、居留守使おうかな
次の日
「タカネちゃん!聞いてよ!酷いのよぉん!うわああああん」
ピーちゃんが来た
いきなり号泣だ
「だから変な国だって言ったじゃん」
「変すぎよお!あんなに冷たい目で見られたのは初めてだったわ!」
「よしよし、いい子だから」
「うう、悔しいの!悲しいのよお!」
普段から変な目で見られている事には慣れているピーちゃん
しかしリンフォードの目はピーちゃんでも耐えきれない物だったらしい
「解ってるのよ変だって事は」
「ああ、そうだな」
「それでもいつかはみんな解ってくれると思ってたわ」
「うーむ、慣れは必要だと思う」
「で、でも、そんなわずかな希望も許さない、リンフォードの人達の数々の冷たい目、奇異の目、心が折れちゃったわ・・・」
そこまでだったのか
ちょっと可愛そうなくらい悲しみに暮れている
うーん、困ったな
「うう、明日からどうやって生きていけば良いの?完全に自信を失っちゃった」
「まあまあ、いつもは俺も色々言ってるけどピーちゃんの個性が無くなるのは寂しいよ」
「で、でも、小さい声で『気持ち悪い』『なんで生きてんの?』って」
「ひどいな、生きてても良いじゃないか」
「『ケツアゴ』『顔面凶器』って」
「そんな酷い事言われたのか」
「『人外』『キメラ』とまで言われたわ」
「ゆ、許せねえな」
いくら何でもひどすぎるな
人権どころか人間としても認めないなんて
ふだんはマゾな人達がそこまでサディスティックに変わるとは
SとMは表裏一体とは聞いた事があるけれど・・・
「おしピーちゃん、リンフォードに行くぞ」
「え?・・・い、いやよ、これ以上傷つけられたら生きていけないわ」
「俺が謝らせてやる」
「い、いいわよ、そんな事を望んでないわ、王族だからあ、あまり大事にもしたくないし」
「王族とか関係無いだろ?誰であろうと人としての尊厳を傷つけて良い事にはならない」
「た、タカネちゃん・・・」
「行くぞ!!」
3時間半後、リンフォード
「おお、この前の天使様だ!」
「なんて神々しいの!」
すぅぅぅぅぅ
【【聞けええええ!!!愚民共おおおおお!!!!!!!】】
あたりが静まり返る
皆、何事かと振り返る
ピーちゃん、こっち来い
【【昨日俺の友達をイジめてくれたらしいな!!!絶対に許さんぞ!!!】】
慌てて土下座する人々
天使様がお怒りやぞ
【【すぐ土下座するお前らの方が気持ち悪いんだよ!!!】】
「て、天使様、もっと罵ってください」
「もっと!」
「もっとお願いします!」
【【這いつくばって虫みたいだな!!!気持ち悪い!!!】】
「ああ・・・」
「心に響くお言葉・・・」
「虫です!私は生きてても仕方のない虫なんです!!」
【【・・・そんな事は無い、お前達みたいなもんでも死ななきゃいけないほどじゃないよ】】
「え?!」
「ど、どうしたんですか天使様!」
「も、もっと罵って!」
【【死ななきゃいけないのは俺の方だな、こんな汚い言葉で罵って】】
「そ、そんな!」
「天使様は何も悪くない!」
「し、死ぬなんて・・・考え直してください!」
【【俺は、絶世の美女なのを良い事に、お前達を見下してしまったんだよ】】
「当たり前の事では?」
「それの、何が悪いんですか!」
【【絶世の美女なのに心が醜いんだ、絶世の美女なのに】】
「み、醜いなど!」
「ああ自分を責めないでください!私達が悪いんです!」
【【そうだな、お前達も普通とは違うと言うだけで俺の友達をイジめたな】】
「も、申し訳ありませんでした」
「ああ私達はなんてことを!!」
【【見た目は変わってるかもしれないが、花を愛する良いヤツなんだよ】】
「こ、心が綺麗なんですね」
「ああ、それに比べ私達と来たら・・・」
【【罪人にも手を差し伸べる優しい奴なんだぞ】】
「おお、私達はそんな事も見抜けずに・・・」
「な、何も考えずに、見た目だけで」
「さすが天使様、無知で愚かな私達では気付けない」
【【そうだ、だから人を見た目で判断するな!この豚野郎共がッ!!!】】
「す、すみませんでした!」
「バカでした!どうかお許しを!!」
見渡す限りの土下座の数
拡声器持って来て良かったな
これで心を入れ替え反省してくれることだろう
「た、タカネちゃん、これ似合う?」
「ん?・・・似合ってるけど着るのかそれ」
昔流行ったハードゲイをネタにした芸人のような服を選ぶピーちゃん
女王様スタイルならハッキリ否定したんだけどな
「・・・股間がくっきり浮かび上がってるんだけど」
「やだ!タカネちゃん!どこ見てるのよぉん!」
でっかいな
オカマにしとくの勿体ない
「ありがとうタカネちゃん、みんな優しく接してくれるわぁん」
「良かったね・・・それ着て帰るんだ」
「当たり前よぉん、気にいっちゃったわぁん」
・・・う、うーん
【【やっぱり気持ち悪いよー】】




