108 懸念
1週間後
「お、ムスタング、また大きくなったな」
「ケーン」
測ってみたら260cm
あと1カ月くらいで2人乗れるはず
鞍も準備してやらないと
「タカネさん、ちょっと欲しい素材があるんですが」
「はいはい」
ジルが通信鏡の研究をしている
あれやこれやを組み合わせては試しているみたい
「携帯電話出来上がりそうなの?」
「まだ解らないけどジルは頑張ってるよ」
カオリは一番楽しみにしてるみたいだな
便利だもんな
現代日本でなら携帯無しでは生きていけない
「でも電波塔も無いのに外国から電話が繋がるなんてすごいね」
その辺は考えちゃいけないやつだ
魔法の力は偉大
それで済む話だから
「うーん・・・赤コウモリの羽かなぁ」
「必要なの?買って来ようか?」
「希少種なので素材屋にあるかどうか」
以前聞いた事があるな
1000匹に一匹とかって話だっけ
一応素材屋に行ってみる
あったけど小さいな
これで足りるのだろうか
「これでいい?」
「はい、合成してみます」
複雑な魔法陣の上に材料を置いて行く
ジルが魔力を注ぎ込む
魔法陣が光りだす
魔法合成ってこうやってやるのか
魔法陣の中央に置いた材料がまばゆい光に包まれて見えなくなった
ジルが魔力を送りこむのをやめた
光はまだ収まらないが段々と小さくなっていく
ん?何かが出来上がってるな
ジルが出来上がった物体を拾い上げる
「・・・これは」
「・・・何?何かの装置みたいに見えるけど」
龍の鱗に包まれた防犯ブザーみたいな物体
水晶のディスプレイみたいな部分も見て取れる
「これは、ポケベルに近い物だと思います」
「ええ?じゃあ数字送れるの?」
「送信する物が無いので・・・」
なんだ無理なのか
だとしたら失敗か
「ですが、かなり近づいたと思います、ジャミロさんが作った物とは全然違う魔法式になりそうですが」
「ふーん、まあテレビ電話である必要は無いよ、声さえ送れれば」
「送受信可能にして個々の識別が出来る方法を考えて・・・」
ジルがブツブツ言いながら本を探り出した
邪魔しちゃ悪いか、後は任せよう
「あ、タカネさん、赤コウモリの羽を出来ればもっと欲しいんですが」
「ん?解った、準備するよ」
そう言ったものの首都の素材屋にはもう無かった
ヤーインに行ってみたけど無い
ホソカワムラに少しだけあったが全然足りないだろう
「赤コウモリは希少種だが、リンフォードのダンジョンには結構いるらしいぞ」
ホソカワムラの素材屋のおっさんがそう言う
あんまりレベルが高くないと言う話のリンフォードのダンジョン
足りなくなったら行ってみるか
家に戻るとカオリが帰ってた
「ねえねえ、まだ携帯電話出来上がらないの?」
「まだ1週間だぞ、そんな簡単に出来上がる訳無いだろ」
あ、そうだ
「なあカオリ、ハンター組合に依頼を出したいんだけど」
「ん?」
赤コウモリの素材を集める依頼を出して貰おう
たしか初級のハンターでも出来る依頼だったはずだ
希少種なら人海戦術の方が手っ取り早いだろう
「メアリーは一回だけ赤コウモリ見た事あるら」
「へえ、昔の話か?」
「ううん、ビックフットに会いに行った帰り道に見たら」
次見かけたらしとめてよ
魔法使えるんだから何とでも出来るだろう
「山の生物をむやみにしとめるとビックフットが怒るら」
「そっか、ビックフットは良い顔しないのか」
「ビックフットにはビックフットのルールがあるら」
「それなら尊重してあげないとな」
ビックフットは普段何食べてるんだろう
強靭な肉体なんだから肉とか貪り食ってる印象だけど
「果実が主ら、昆虫も食べるみたいら」
「昆虫もか、たんぱく質補給かな」
日本だって山の方では昆虫食べる地域あったはず
イナゴやら蜂の子やらザザムシやら・・・
まあビックフットの生態は別に良いか
「その携帯電話ってそんなに便利ら?」
「ああ、離れた場所から話をできるんだぞ?」
「ビックフットともお話が出来るら?」
「ああ、端末を持ってれば出来るぞ」
「すごいらな・・・おはようとおやすみが言えるら」
「そうだな、会うのが一番だけどそれが出来無い時でも話す事が出来るのが電話の良い所だ」
「離れていても繋がる事が出来るんらな」
繋がるか
電話は繋がるって言い方するよね
なんか深い意味に思えて来た
「ビックフット、もう寝てるらかな」
「どうだろな」
外はもう夜だ
夜の山でどんな生活をしてるのかな
独りぼっちで今何を考えてるのかな
「はやく、携帯電話が出来上がると良いら」
「そうだな・・・メアリーも眠そうだな」
「うん、部屋に行って寝るら」
おやすみメアリー
良い夢を見ろよ
次の日、誰か来た
「やあタカネ殿、サテン殿は居るかな?」
「居ますよ、門の前があんな状態なので外に出れなくて困ってます」
女騎士だった
ピエトロに来る道中であった人
美人コンテストにも出てた
「困ったものだな、いつもこうなのか?」
「はい、少しは減って来たんですが」
門の前には大陸一の美人をみようと今日も人が集まってる
帰って来てから2週間、さすがに人は減って来たけどね
それでもまだ30人くらいはいるかな
「サテンに何か用ですか?」
「2週間後にピエトロでは花の祭典が執り行なわれる、その行事に出席して貰おうと思ってな」
へえ、花の祭典
大陸一の美人に声がかかるのは当然とも言えるようなイベントだ
俺は正直興味ないけど
「当日は国外からも来賓が招かれる、サテン殿にはピエトロの文化大使として出席して貰いたい」
「おーいサテン!ちょっと来て―」
「私一人で出席ですか?」
「誰か付いて来ても良いが」チラッ
「お、私は女王が苦手でして」
「サテンだって好きでは無いですよ」
「んんんっ!私の前でおかしな事は言わないで欲しい」
当然女王とも接触する事になるだろう
絶対に行きたくない
「断る事は出来ますか?」
「うーん、国としてはどうしても協力して欲しいのだ、美人コンテストの1位がピエトロに居るのだから各国の来賓は会ってみたいと思うだろう」
「サテンは高嶺の花ですから、そんな簡単には会えないんですよ」
「そうです、サテンはタカネの物です」
「意味違うんだけどな」
「ややこしい事言ってないでなんとかお願いできないだろうか?」
正直すごい嫌な予感がする
こっちが悪くないのに後味の悪いトラブルが起こる気がする
王室が絡むといつもそうだ
「一人は絶対に嫌です、タカネが嫌ならせめてカオリに付いて来て貰えれば」
「王宮としてはそれで構わないが」
「うーん、行かなければ行かないで心配なんだよな」
「・・・女王様もタカネ殿には会いたくないようだ」
「お互い嫌い合ってたか、だったら俺が魔法水晶を作ってるとか言うあらぬ疑いをかけるのもやめて欲しいんですけど」
「ううむ、その辺の複雑な事情は私ではなんとも」
そうだよな
一騎士に言うことじゃなかった
あれ?
「バルディさんは?こういう話はいつも内政官バルディさんが持ってくるのに」
「・・・・・・花の祭典はピエトロの歴史ある行事だ、女王様は女のお祭りだと思っている」
「・・・それで?」
「祭典開催中の取り仕切りはすべて女に任されている、男は不要とばかりに他の雑務をやらされているよ」
「・・・やれやれ」
そういうとこが嫌いなんだっての
ああ、やっぱ俺はサテンにくっついて行けないわ
「花を愛するユーメリアの王子に聞かせてやりたいぜ」
「ピオリム王子は心は女なのでは?」
「じゃあこの現状を怒らないかな?」
「さあ、差別とか嫌いそうではありますが」
「あいつは良いヤツだから花を愛するのに男も女も無いって言いそうだよな」
「その、ピオリム王子なら毎年来てるぞ?」
「ああ、来賓なんだ?」
「いや、一般の客に交じっていつも見学されている」
「ええ?マズいんじゃないの?」
「来賓も女性しか呼ばないんだよ」
「・・・・・・」
女の方が花に興味があるだろうけど
この国大丈夫か?
そんなことしてたら孤立しそうな気がするけど
「呼んで無くても来てくれてるのならそれなりの対応した方が良いんじゃないの?」
「勿論そうだ、一応声はかけるのだが向こうも女王が男嫌いだと知ってるから遠慮してくれてな」
「そこは男で通すのかよ」
「国外で我を通すような事を一国の王子がする訳が無いだろう」
「そっか」
「タカネ殿も美しい顔を持っているのだから粗暴な話し方はやめた方が良いと思うぞ?」
「すみません」
そういやクルセイドで王子って呼ばれても怒ってなかったよな
いや、内心怒ってたのかもしれないけどそれを見せなかった
まあその後オカマって言われて怒ってたけど
「取りあえず私とカオリで参加しましょう」
「・・・ああ、気を付けてな」
「そんなに心配しなくても・・・王宮を敬遠しすぎではないだろうか」
「騎士さんは母国と言うフィルターがかかってるんだと思う、私達は他所から来てまだ間もないので無条件な愛国心は持てないんです」
「ううむ、最初から国家を信用しろと言うのも乱暴かも知れないが、受け入れたのだから少しは・・・」
「そうですね・・・でも話したと思いますが前の国で嫌な目にあってるので私は国を出てしまいました」
「そうだったな」
「尽くさない国民なら追い出されても仕方がないかも知れません、しかし多大な貢献をしたのに仇で返されてはやってられないんですよ」
「うううむ」
女騎士さん考え込んじゃった
自分で言うのも何だがカントナの問題を解決し、河川工事に尽力し、王妃の為に薬を準備した
それなのにホメロスでは裏切られた
「女王は魔法水晶の話ばかりしている」
「こないだサテンにも探りを入れて来たと聞いています」
「おそらくは機会があればまた聞くだろうな」
「じゃあやっぱまた嫌な思いをする事になりますね」
「ふう、困ったなあ・・・」
嘘をついているのはこっちだ
魔法水晶は俺が一人で作った
こちらに非もある
サテンが呼ばれるのは美人の大陸一位だからだ
俺がコンテストに出ろと言った
自分は剣技20位を放棄したのに
サテンが背負うしがらみを予想できたはずなのに
「タカネ、この前は急な話で口ごもってしまいましたが、今回はきっぱりとタカネは魔法水晶とは無関係だと言いますよ?」
サテンが心配して口を挟んで来た
正確には少しだけ手伝ってる事になってるのだが・・・
「だから安心してください、しつこいようなら帰って来ちゃいます」
「お、おいおいそれは困る」
「いえ、帰らせていただきます、不敬罪で国を追われても私は大陸一位、受け入れてくれる国はたくさんあると思ってください」
さ、サテンが強権発動して来た
女騎士が息を飲んでる
本当に強くなったな
「女王にはその辺を強く言い聞かせておいてください」
「む、むむう、解った」
「こちらが協力する立場だという事も忘れずに」
「あ、ああ」
女騎士は帰って行った
帰り際に門の前に居る住民に解散するよう言ってた
次集まったら検挙も辞さないらしい
サテンに対する気づかいなのかな
それとも脅しと捉えられたのだろうか
・・・ちょっと怖かったもんな
俺もビビっちゃったもん
「タカネ、心配しなくて大丈夫ですからね」
「お、おう」
「タカネの事はサテンが守りますからね」
・・・俺の為にあそこまで言ってくれたのか
ごめんなサテン、無理させて
2週間後、ピエトロ花の祭典が大々的に執り行われる
首都の街の大通りには、高いアーチ状の骨組みが作られ上を見てもどこを見ても一面花だらけ
建物の壁も歩道も通路以外全面花だらけだった
隙間から刺す光が幻想的だが正直花の匂いが強すぎる
トイレの芳香剤みたいだ
「お、ピーちゃん」
「あらぁん、最近よく会うわねぇん、正直飽き飽きだわぁん」
「こっちのセリフだぞこの野郎」
「サテンちゃんが広場に居たわねぇん、花に囲まれたサテンちゃんは流石の私でも見惚れちゃったわぁん」
確かに花の中に佇むサテンは妖精のようだった
女王が居たから俺はすぐ退散して来たけど
あとサテンの隣で花の冠を被ってるカオリがウザかった
「毎年来るらしいね」
「んふふ、私の為の祭典みたいなものだものぉん」
「そ、そうっすか」
「蝶のように舞い、蜂のように刺すわよぉん」
そう言いながら舞い踊るピーちゃん
あ、わき毛処理してるんだ
見たく無いもん見ちゃった
「タカネちゃん、折角来たから1週間くらい滞在するわぁん」
「そうなの?ごゆっくり」
「あらぁん冷たいわねぇん、相手して頂戴よぉん」
「案内する場所も無いんだけどな」
ピエトロってなんかあったっけ?
観光名所とかも全然知らない
「高原でピクニックでも良いわよぉん?」
「俺が嫌だよそんなの」
「あらぁん、タカネちゃんも少しは乙女のたしなみを覚えるべきだと思うわぁん」
「いいよ俺は、誰に見せる訳でも無し」
「せっかく綺麗な顔してるのにぃん、勿体ないわねぇん」
まあヒマになったら家まで来てよ
家の場所を教えて別れる
俺もそろそろ帰ろう
夜
「サテン、問題は無かったか?」
「はい、女王も何も聞いて来ませんでしたよ」
騎士さん上手い事取り計らってくれたみたい
ありがとう
「見てタカネ、メルヘンの国のお姫様だよ??」
カオリが全身花まみれだった
正直バカみたいに見える
「可愛いぞカオリ」
「もっと見て良いんだよ??」
「疑問形辞めろよ、なんか腹立つ」
「どうして??可愛いでしょ??」
不思議ちゃんアピールにハマったらしい
ウゼえ
「しかし一日で終るんだな」
「枯れてしまいますからね」
「カオリちゃんは瑞々しいよ??」
「しかしあんなにたくさんの花どっから集めたんだろ?」
「栽培農家があるらしいですよ」
「カオリちゃんは世界に一つだけの花だよ??」
「うるせえ、雑草が」
「ひどーーい!!」
今日もカオリに胸を揉まれる
今回はトラブル無く終わって良かったな
サテンのお陰だ、ありがとう
久々更新になっちゃった
次は早めに投降したいんだよ??




