104 裁判
朝、良く寝たなぁ
「裁判何時からなんだろ」
「タカネ様、午後かららしいですよ、ピオリム王子が言ってました」
「そうか、午前中どうしよ」
20傑が昨日戻って来て今日、本国に帰るはずだな
少し会って来るか?
巡業の話を聞きたい
宿舎に行けば居るのかな
ムスタングを連れて行ってみるか
宿舎前
衛兵に聞いてみた
「巡業が終わってそのまま本国に帰った者も居ます、ユーメリアに戻って来たのは6人だけだったはず」
「ええ?そうなの?」
「ここでは無く王宮に泊まってますよ」
「へえ、グレードアップしたのか」
「剣技大会の20傑も王宮に泊まるんですよ、宿舎は各国各地域の代表だけです」
「そうだったんだ」
サテンはホテルに泊まったけどそんな話聞いてないよな
まあどのみちジルが居るからホテルの方が良いんだけどさ
ピーちゃんが空気読んでくれたのかしら
もともと10日分予約してあるって言ってたしなー
王宮
カミラちゃんが居た
「聞いてください!ひどい旅だったんですよ!」
「ああ、そっちもか」
「クルセイドに行った子なんてさらわれそうになったらしいですよ?本当は巡業が終わったらそのまま本国に帰る予定だったのに、抗議の為にユーメリアに戻って来たとか」
「そりゃひどい」
話を聞くと求婚などは序の口で、沿道で髪を引っ張られ倒された者
刃物で斬りかかられそうになった者
王宮で宿泊中、王族が夜這いに来た者
握手したら手がねっちょりしてた等々
トラブル満載の旅だったらしい
「怖かったよムスタングー」
「ケーン」
ムスタングに抱きつくカミラちゃん
慰めてやってくれムスタング
あ、ミラベルさんだ
なんか顔色悪い
「あ、ああ、タカネさん、どうも問題山積みだったみたいで」
「運営委員長でしょ?首は大丈夫なの?」
「ぅぅぅ、マズいかもしれません」
なんか昨日よりやつれたな
でも責任者なんだから仕方ない
「大丈夫なの?大会が無くなったりとか」
「た、大会自体は盛り上がったので是非続けたいんですが、巡業は無くなるかもしれません」
「その方が良いよ、民度が低い国に行く20傑が可愛そうだ」
「うう、是非生の20傑を見て欲しかったんですが」
その気持ちは解らんでもないけどさ
写真もテレビも無いこの世界ではだれだれが優勝したとだけ伝わっても関心が薄いと思う
その為の広報活動だったんだろうけど・・・
「時期尚早ってヤツだよ、各国の受け入れ体勢も未熟だったし」
「私だけのせいじゃないですよね?ね?」
「え?う、うん」
ミラベルさんは現実逃避したいみたい
まあ責任者だから一番悪い事には違いないと思う
「あと、審査員も人選考えた方が良いと思うよ」
「はい、来年は有名なデザイナーや踊りの先生などに声をかけようかと」
「その人達って中立で審査できるのかな?」
「誰が何点入れたか発表します、おかしな採点をする審査員は貴族の観客の中で信用を失うのではないかと」
「仕事も減る可能性があるんだね、だったら大丈夫かな」
お、ピーちゃんだ
「あらぁん、タカネちゃん稽古しましょうよぉん」
「ヒマなの?午後の裁判は傍聴しに行くの?」
「結果だけ聞くわぁん」
「メイファンは会えるの?」
「今日は無理よぉん、もう裁判所に運ばれちゃってるわぁん」
「そりゃそうか」
じゃあもう用事無いな
稽古?なんかめんどくさい
ムスタング帰るぞ
え?カミラちゃん乗ってみたいの?
鞍ついてないよ
じゃあホテルまでついて来なよ
「タカネさんはコンテスト出たんですか?地方大会」
「いや、出なかったよ」
「ええ?勿体ないですよー、サテンさんがライバルだから諦めたんですか?」
「元々出る気無かった」
「うーん、そう言う人も多いんですかね?大陸にはまだ見ぬ美女がたくさんいるとか」
「どうなんだろうね?賞金が良いから出たいと思う人は多そうだけど」
「5位でも2000万でしたよ?家が余裕で買えます」
この世界は元の世界とは貨幣価値も物価も違うけど、大体五分の一くらいだと思ってる
この世界の2000万は元の世界の1億円くらい
サテンは優勝賞金5000万だったから2億5千万円くらい手にしたと思って貰って良い
俺の資産は21億くらいだから105億円
魔法水晶は6億だから30億円で売れることになる
剣技大会は優勝が1億だから5億円くらい入る計算だ
すごい賞金だよね
娯楽が少ないからそうなってしまうんだろうな
ホテルに着いた
預けてあった鞍をムスタングにつけてたらサテンに見つかった
「タカネ!!浮気してるんですか!!」
「違うって、最近束縛が強いぞ」
「さ、サテンさん、こんにちは、ムスタングに乗せて欲しいって私が我儘を・・・」
ほっぺをぷっくり膨らませて怒るサテン
子供みたいだ
「私一人で乗るんですか?」
「ああ、まだ2人は無理なんだ」
「タカネと2人乗りなんて許しませんよ」
「サテンさん怖いです」
「ムスタング、あまり揺らさないように飛んであげてくれ」
「ケーン」
カミラちゃんを乗せムスタングが飛び回る
カミラちゃんは大喜びだ
「はー、堪能しました、ペガサスの馬車も凄いと思ったけど直に風を感じて飛ぶのは凄く良い気分ですね」
「髪型が無茶苦茶になるけどな」
「あはは、私今どんな髪型になってますか?」
ファンキーだよ
とにかくおっ立てればいいと思ってるパンクバンドみたい
「タカネ浮気」
「サテン、いい加減にしなさい」
「だ、だってぇ」
「普段はタカネさんがお姉さんみたいなんですね」
「私はタカネが居ないと駄目なんです、絶対に渡しませんからね」
「は、はあ」
別にカミラちゃんは俺なんて要らないだろ
ムスタングの方が欲しいと思う
「でも、大会の時のサテンさんは堂々としてて聡明で美しくて色っぽくて・・・」
「普段はハンターをしてるんだよ」
「え?!!危ないです、すぐにやめてください!!」
「怪我をしてもタカネが治してくれますよ」
「そ、そんな!もし死んじゃったらどうするんですか!」
ハンターの仕事は命がけだ
実際亡くなる人も珍しくない
「サテンの事を心配してくれてるの?」
「だ、だって、大陸1位ですよ?失う事は大陸の損失です!」
サテンが居なくなればライバルが減るのに
カミラちゃん良い子だな
サテンもカミラちゃんを見る目が変わったようだ
「失脚を願うのではなく、超えて見せます、レベルが低い中で優勝しても私は嬉しくありません」
「おお!かっこいいな、カミラちゃん」
「ふふふ、負けませんよ」
「だから出来ればタカネさんにも出て欲しいです、2人を左右に立たせて私が表彰台の中央で笑いたいので」
「あははw言うねえ」
すげえな
さすがは13歳
何でも出来ると信じている
「でもごめんな、俺は出ないんだ、いろいろ事情があってね」
「そんな・・・絶対優勝候補なのに」
「剣技の20位も返上しちゃったんだよ、背負うプレッシャーに耐えられないんだ、心が弱くてね」
「タカネ、卑下しないでください、返上するのだって勇気が必要だったはずです」
「剣技の20位だったんですか?すごいですね・・・」
「タカネの実力は20位程度ではありません、クルセイドで3位にあっけなく勝ってきたんですよ?」
「3位に?こんなに綺麗なのにそんなに強いんですか?」
「更に魔法も使えるし、回復魔法なんて一瞬なんですよ」
「す、すごい」
「サテン、いいからムキになるな」
「ご、ごめんなさい」
「魔法はサテンも使えるでしょ・・・まったくもう」
「・・・お二人とも美しいだけじゃないんですね」
余計な事言っちゃったな
まあカミラちゃんに言ったところで実害無さそうだけど
「わ、私も!綺麗になるだけじゃ無くピアニストの夢を頑張ります!」
「へえ、カミラちゃんピアニストになりたいんだ?」
ピアノはこの世界にあるんだよな
王宮のパーティで見た気がする
「夢は国立交響楽団に入る事です!」
「そういやカミラちゃんはどこの国の代表なの?」
「ゲルマニーですよ、今回の巡業でサテンさん達が行ってるはずですが」
え?どこだっけ
サテン解る?
・・・ああ、あの独裁者の国か
結構凄い国に住んでんのね
「どんな印象でした?私の国」
「うーん、見て回る時間は無かったからなー」
「・・・冷たく感じませんでしたか?私はあの国を明るくしたいんです、今回も5位を取れたので少しは貢献できたかなと」
冷たい印象は受けた
カミラちゃんはそんな事も考えていたのか
13歳でも背負っている物があるんだな・・・
「あ!そろそろ戻りますね!連れが心配してるかも」
「ああ、送って行こうか?」
「すぐなんで大丈夫ですよ!ムスタングに乗せてくれてありがとうございました!」
そう言ってカミラちゃんは走って行った
良い子だったな
「あんな良い子を差し置いて私が優勝して良かったのでしょうか?」
「美人が勝つ大会だからな、我儘でも束縛強くても美人が勝つんだよ」
「もう!タカネったら」
その後昼までホテルで過ごす
さて、裁判所に行くかな
裁判所
「お、ハーネス、ヘンリーは原告席か?」
「ああ、来たのか」
ヘンリーの集落の用心棒ハーネスが居た
原告側にヘンリー他集落の人間数人
被告側にイゴール、ホセ、ゾイゾイ、メイファンが座ってる
それを取り囲むように階段状の席に陪審員だろうか?
怖そうな顔の人達が座ってるな
「裁判初めてなんだけどどういう流れなの?」
「取り調べは終わってるからな、簡単な審問と事実確認と決議で終ると思うんだが・・・詳しい事は私も初めてだから解らん」
そうか、まあなかなか経験する事も少ないよな
お、偉そうな人が出て来た
裁判長だろうか
・・・弁護士みたいな人は見当たらない
このまま始まるのかな
裁判が始まる
裁判長がイゴールに審問するがイゴールの馬鹿な返答に苦い顔
イゴールは自分が悪いという事と仲間は悪くないという事を一生懸命伝えようとしてるんだが・・・
「あいつに喋らせちゃ駄目だな」
「しかし今回の事件の最重要人物だ」
「困ったなー」
必要のない事を言い過ぎるんだよ
それは重要では無いのに
無駄に長くなってしまう
「4人共死刑にして!!!」
うお、びっくりした
ヘンリーの横に座ってた女性が叫んだ
「彼女は旦那を亡くしたんだ、新婚だったそうだ」
・・・集落は30人ほど生き残ったんだよな
憎しみはヘンリーだけの物では無い
集落全体の物なんだな
「俺が悪いんだ!リーダーは俺だ!俺が全責任を負うんだ!」
そうじゃないんだよ
お前が悪いけどリーダーは関係無いんだよ
余計な事言うなマジで
「俺が馬鹿だったんだ!みんな混乱してて俺が冷静な判断で村を犠牲にしようと決めたんだ!」
おい
なんか自分を立ててないか?
「・・・彼を止められなかったのは私達の責任アル、罰は受けるアル」
「違う!自分俺が悪いんだ!俺一人が裁かれればいいんだ!」
良かれと思って言ってるのだろうか
でも裁判てそういうもんじゃない
停滞状態だ
全然進まない
陪審員はウンザリムード
ん?決議か
裁判長と陪審員が一度退席する
「・・・どう転ぶかな」
「イゴールの印象は最悪だと思うが他の3人は悪くないんじゃないか?」
「敵意を1人で持って行ってくれたかな?だとしたら上手くいったと言って良いのか」
裁判長が出て来た
いよいよ判決か
緊張するぜ
「それでは判決を言い渡す、イゴールは死刑、ホセ並びにゾイゾイは強制労働10年、メイファンは・・・」
強制労働10年?
き、厳しいような、どうなんだ?
良く解らん
「メイファンは懲役3年、ただし原告側にすでに120万渡しているので減刑して懲役1年とする」
懲役1年・・・
さすがに無罪と言う訳には行かなかったか
どうなんだろうか?
先程叫んでいた女性が声を上げているがヘンリーは落ち着いた顔だ
ヘンリーはもう心の整理がすんでいるみたい
「・・・どうなのこれ?」
「かなり寛大な処置だと思うぞ、113人死んでるんだから」
「・・・まあそうか」
「強制労働もまじめにやれば5年くらいにまで減刑される可能性もある、被告側にとっては良かったと思うが」
原告側はヘンリー以外は納得して無い顔だ
家族を失った者達の怒りは計り知れない
外側に居てどうこう言うべきではないとも思うが・・・
「控訴とかあるの?」
「コウソ?良く解らないがこれで終わりだよ」
そうか、これで確定か
イゴールの死刑執行は1週間後
ホセとイゴールは明日から鉱山に行かされる
メイファンの懲役は本日から始まる
裁判所から出る
「ヘンリー」
「ん?・・・ああ、タカネか、色々世話になったな」
「・・・これで、良かったか?俺には正解が解らないんだけど」
「一つの決着がついたんだ、結果はどうあれ先に進まなければならない」
「集落の人は納得してないみたいだけど」
「・・・私だって以前は4人共死刑になったとしても許せなかっただろう、だが・・・」
「ん?」
「イゴールに毎日会いに来て気付いたよ、憎しみを糧にして生きていた自分の愚かさをな」
「・・・・・・」
「家族を亡くしてから時間が止まってしまっていた、取り返しも付かない事に縛られていた」
「簡単に踏ん切りつけられることではないと思うよ」
「ああ、勿論時間はかかったんだが、しかし・・・しかしだ、イゴールが残された時間を惜しむ姿を見ると・・・」
「同情しちゃったのか?」
「・・・おかしな物だな、あんなに憎んでいたのに」
家族を死なせた相手
悲しみ、怒り、憎悪
時間の経過
複雑な物が入り混じってる
ヘンリーの心境の変化は俺には理解しきれない
「終わったんだ、俺は前に進むことにするよ」
「・・・そうか」
ヘンリーとハーネスと集落の人達が帰って行く
俺もホテルに戻るか
ホテル
「みんな、明日帰ろう」
「ではクリスティがペガサスの馬車を手配してきます」
「サテン様の凱旋ですね!大歓迎で迎えられると思いますよ!」
「クーリエも気分転換になったか?」
「はい!こんなに贅沢させて貰って良いのでしょうか?」
かまわんでしょ
あ、エリーゼはこのホテルに泊まってないんだよな
まあその分どっかで埋め合わせすりゃいいか
「タカネ、決着はついたのですか?」
「ああ、すっきりとは言い難いが終わったと言って良いだろう」
「お疲れさまでした、タカネさん」
「ジル、止まってた人達が歩き始めたぞ、お前は止まっていていいのか?」
「え?・・・良くはありませんが解決法も解らないです」
「・・・俺もどうしよ、人の事は言えないんだよな」
どう生きるのが正解なのか
サッパリ解らない
そもそも正解なんて無いんだろうな
人生なんて所詮・・・
「タカネはサテンが養うので何もしなくていいんですよ」
「お、おう」
「クリスティも尽くしますので」
「そ、そうか」
「クーリエも一生お仕えさせてください」
「う、ううむ」
ダメ人間一直線だなこりゃ
まあ簡単に生き方が見つかる訳も無いか
もう少し時間を使って見つけよう




