103 地方巡業3
朝だ
巡業に出て4日目
今はニルギスの王宮に居る
式典に出てユーメリアに帰る予定だが
「おおサテン、今日のドレスが一番だな」
「ユングリットさんが着ていたドレスに似てますね」
太陽の光を浴びて輝くドレス
カッコいいんだよな
式典会場へ行く
国民がたくさん集まっている
5万くらい居そうだな
壇上に王と女王が座っている
あ、関係者席にジャミロ発見
はあ、なんか嫌だわ
サテンのスピーチ
5万人の前でも堂々としたもんだ
本当に逞しくなって・・・
女王様から何かを貰ってる
公務は女王がするのか?
良く解らんシステムだな
盛り上がる会場
ちょっとした興奮状態だ
熱くなりやすい国民性なのかな
あらら、後ろの方でトラブルがあったみたい
殴り合いのけんかをしてるなぁ
それが次第に大きくなっていく
会場がおかしな雰囲気だ
王族がいつの間にか避難している
サテンが取り残されている
戻って来い
「なんでしょうか?変わった国ですね」
「フーリガニズムでもある国なんだろ、避難するぞ」
衛兵が慌ただしく走って行く
段々と喧騒が大きくなる
俺達は巻き込まれないよう王宮の庭に避難した
「なんだよこの国、サテンがほったらかしだったぞ」
「王族の避難を優先したのでしょうが・・・」
「サテンって国賓じゃないの?」
ミラベルさんに少し喰ってかかってしまった
「嫌な物を見せてしまったねぇ」
「ジャミロ、こんな変な国にスカウトされても困る」
「一面だけを見て判断しないでくれ」
「危険な国民性と言うだけで十分だ」
「低所得者の不満はどの国も同じだろう?」
「それを暴力で発散とか最悪だぞ?これが普通だと思うのはずっとニルギスに居てそれに慣れてしまっているからだ」
「・・・・・・」
無表情になるジャミロ
何を考えているのか
察知能力は働いていないが・・・
「とにかくさっさと帰ろうぜ、用事も終わったんだし」
「・・・待て、このまま帰す訳にはいかない」
「なんだよ?どうすると言うんだ?」
「ジャミロさん、サテンさんはユーメリアの国賓でもあります、おかしな事を考えないでください」
「ニルギスを選ばないなら他国が力をつける事になる」
!!!!!
土の壁で囲まれてしまった
天井まで隙間が無い
このままでは窒息してしまう
「これはいったい!」
「ミラベルさん落ち着いて、サテンも居るか?」
「はいタカネ、何とかしてください」
せーの
バコオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
土の壁をパンチで砕いてやった
「な!魔法で作った壁を・・・そんな馬鹿な!」
「なかなか硬かったぜ、さてどうしたもんかな」
「これはどういう事ですか!ユーメリアの代表として説明を求めます!」
ニルギス側も人が集まって来た
ややこしい事になっちゃったな
しかし察知能力を今も感じていない
消せるのか?
「何故私達を拘束しようとしたんですか?!」
「正確には殺そうとしたんだ、空気の入る隙間を無くしてな」
「!!!・・・これは国際問題ですよ」
ミラベルさんが怒りに燃える
事情の分からないニルギス関係者が説明を求める
ジャミロは何も言わない
「ジャミロ、どういう事だ?また例の悪い癖か?」
偉そうな人が来た
この国の大臣だろうか
「またって事は以前にも同じ事してるんだね」
「・・・ニルギスを守るためだ」
「ああ、お客人、事情は大体わかった、許して貰いたい」
「殺されそうになったんですよ!キチンと説明してください!」
「・・・ここではなんだ、場所を変えよう」
「狭い場所に行くのは嫌です、逃げ場がなくなる」
「取りあえずジャミロは向こうへ行くんだ、すこし落ち着け」
「ここで逃がしてしまったら・・・」
「ジャミロ、お前は独りよがりが過ぎると何度も言ってるだろう?」
「! 私が居なければニルギスがどうなっているか!魔法水晶の製造にどれほど貢献したか!」
「それは今関係無いだろう」
どういう事なんだよ
俺達は無事帰れるのか?
「衛兵、ジャミロを連れて行け!」
「わ、私はニルギスの事を思って!」
衛兵に引きずられていくジャミロ
・・・なんなんだよいったい
「・・・痴呆も入って来てるんだ、被害妄想が年々強くなる」
「ああ、そうなんですか」
「申し訳なかった」
「・・・一応言っておきますが、昨日も風呂で難癖付けられたんですよ?」
「そうであったか、いやはや重ね重ねすまない」
大臣だと思っていた人の名前はハワードさん
この国の首相だった
ミラベルさんは外交官の元へ行った
「少し話をさせてもらいたい」
「ここでなら良いですよ」
「ジャミロから色々話は聞いているし実証も終わっている、スイッチの話だ」
「・・・・・・」
やれやれ、余計な事を言ってしまってるのか
「ジャミロとトラブルになったのなら、貴方がそうだと考えて良いのかな?」
「その事について口外するのはあまり賢い事だとは思いません、返答を拒否します」
「・・・それは、肯定と同じだと思うが」
「どのみち昨日ジャミロには話してしまった事です、でもそうでない人にそうだと言うのは賢い選択だとは思わないんです」
「弊害も多いという事か?」
「呪われた力だと言われた事があります、私もその通りだと思いました」
「・・・・・・」
「だから答えたくありません、ヘタに言ってしまえばまたいつジャミロみたいな者が私の前に現れるか解りません」
「なるほど・・・」
「平穏に暮らす為には必要な事です、問題が起これば対処しない訳にはいかないんです、ですから刺激しないで貰いたい」
「解った、だがニルギスに敵対するような事にはなってほしくない」
「どこの味方もする気は無いですよ、でも一方的に敵視される事はあるんです」
「ジャミロがまさにそうだった訳だな、本当に申し訳ない」
「スイッチなんて珍しいものでは無いんですよ、一人一人敵視してたらキリが無いのに」
「ニルギスにも何人かは確認されている、他国からスカウトして来た者も含めて」
スイッチをスカウトか
クルセイドもやってたな
国力を高める為なら普通の事かもしれない
「・・・国としてスイッチを集めるのは当然の事かも知れませんが、災いのタネになるとも思いますよ」
「ううむ、呪われた力か・・・」
自分で言ってて嫌になる
呪われた力
災いを招く力
出る杭は打たれるからな
もしニルギスが核を作ろうものなら、俺だって敵になると思え
ニルギスの外交官に抗議していたミラベルさんがこっちに来た
「タカネさん、言いたい事は山ほどあるんですがそろそろ出発しないと今日中にユーメリアに着きません」
「そういう事らしいから行かせて貰いますよ」
「ううむ、まだまだ聞きたい事も山ほどあるのだが」
「主役のサテンを無視して失礼すぎるでしょ、今回は美人20傑1位の来訪なのに」
「・・・そうだったな、時間を取ってしまい申し訳なかった」
ペガサスの馬車に乗りこむ
・・・敵意を感じるな
ジャミロか?
違う、誰だあいつは
良くない目でこっちを睨んでいる
「彼女はジャミロの一番弟子、高齢のジャミロの後を継ぐものだ」
「って事は魔法使いですか?」
「ああ、名はアリアナ・・・スイッチだ」
赤い髪の美しい少女
15歳くらいかな
ジャミロと一悶着あったせいか敵視されてる
「飛び立った後馬車を攻撃する事は無いでしょうね?」
「ユーメリアの馬車に攻撃か、これ以上こじらせるような愚かな真似はしない」
「だからすべてをもみ消す事を考えるかと思ってね」
「・・・・・・」
事故で帰りませんでしたって事にしたらニルギスにとって良いことづくめじゃないか?
念の為馬車のドアを閉めずに飛んで貰おう
体半分外に出したまま
何かあったら対処しなければ
ペガサスの馬車が飛び立つ
アリアナが少し動いたがそれをハワードが制する
馬車が上昇する
魔法はもう届かないだろうか
念の為1kmくらいは離れてからドアを閉めた
「ふう、ミラベルさん、これってどうなるの?」
「ユーメリアは帰ってから再度抗議の書簡を送ります」
「俺達はどうしよ?殺されそうになったわけだけど」
「国賓として迎えられたのにあのような扱い、国として抗議して良いと思いますよ」
「ううむ、バルディさんに相談してみるか」
ジャミロの暴走とは言え捨てておくことは出来ないだろう
前科もあるみたいだしな
自分達に協力しなければ抹殺とかどんだけ傲慢なんだよ
アリアナの態度も気にいらないし、絶対ニルギスには協力しない
「サテン、結構落ち着いてるな?」
「タカネが何とかしてくれると思ってましたから」
「そんな呑気な」
サテンにコンテストに出るように言った身としては責任を感じてしまう
しかしまさかこんな事になるなんて思わないもの
俺が付いてこなければよかったのかな?
ジャミロは魔力を察知できるみたいだった
それで俺が魔法水晶を作った事にまで感づかれるとは・・・
難しく無い推理だとは言え・・・
「サテン、来年はどうする?美人コンテスト」
「はあ、タカネが満足ならもう出なくても・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください、サテンさんは大陸一位でシードですよ?」
「でも、割に合わないので」
「来年は広報活動をやめにするべきですかね?」
「ニルギスは国民自体もおかしかったでしょ?危険だと思うけど」
「確かに・・・他の国でも小さい事故はありましたしね・・・」
「宣伝にはなるんだろうけど、事故があってからじゃ遅いよ?」
「・・・でも、セキュリティ面での見直しをして、なんとか続けたいです」
「運営側としてはそうなんだろうけど」
他の20傑も求婚くらいはされてると思うよ
玉の輿として喜ぶ人も居そうだけど
まあ宿泊は民間の宿ってのは絶対譲れないな
「どのみちニルギスにはもう行きたくないな」
「サテンさんはホメロスにも行きたくないとか」
「正確には俺が行きたくないんです、ホメロス」
「私だって行きたくありませんよ、美人20傑なんて王様が放っておかないでしょう」
「そうだな、今回行った人も側室に入れって口説かれてそう」
「ホメロスは5位のカミラちゃんが回ってるはずです」
「・・・カミラちゃんなら大丈夫かな」
王様がロリコンで無ければ
「ホメロスの代表も19位だったはずだけど」
「19位はどこへ行って貰ったか覚えてません、大都市は上位が回ってるんでそれ以外の都市ですね」
「ふーん、あ、ソビキトにも行きたくないかも」
「ソビキトもですか?確かに雰囲気の良くない国ですが」
ソビキトだってスイッチ集めてるんじゃないかな?
何となくそう思った
「クルセイドも行きたくないな、単純に治安が悪いし」
「もう、タカネさんたら我儘ばっかり」
「そうは言うけどさ、20傑になにかあったら運営はどうするの?」
「責任問題ですよね・・・言い訳ですが今回本当に時間が無かったんですよ」
「それは解るけどさ・・・」
みんな何事も無く戻って来るかな
「そろそろドレスを脱ぎたいです」
「お、おう、狭いけど馬車の中で着替えるか?」
「はい、楽な格好に着替えて少し寝させてください」
「疲れたよな、忙しい4日間だった」
サテンがメイドちゃんに手伝ってもらい、普段着に着替え足を曲げて俺のヒザにゴロン
正確には太腿なのになんでヒザマクラって言うんだろうね
すぐにすやすやと眠りだす
本当にお疲れさま
途中休みながら12時間くらい飛んだだろうか
ユーメリアに着いた
「もう夜遅いじゃん」
「うーん、良く寝ました」
「お二人ともお疲れ様です」
ペガサスもよく頑張ってくれた
なでなでする
明日は裁判か
結局メイファンには会いに行けなかったな
ふう、馬車に乗りっぱなしで体が硬いぜ
取りあえずゆっくり風呂に入りたい
ホテルに行こう
メイドちゃんも4日間ありがとうね
「お二人とも!遅かったですね、なにかあったのかと・・・」
「あったよクリスティ、そっちは何も無かった?」
「はい、ゆっくり観光を楽しみました、ピオリム王子が稽古してくれと五月蠅かったですが・・・」
ジルに付いててもらわないといけなかったからそれは難しいだろう
顔隠して王宮に入るのも駄目だ
ミヤビさんならともかく
「それより何かあったとは?」
「・・・明日話すよ、今日は風呂に入って休みたい」
体は洗って貰わなくても良いや
とにかく湯船に入りたい
サテンと一緒に入る
「つかれたーーー」
「私はずっと寝てたので・・・今から寝れるか心配です」
「足曲げて寝るんじゃ疲れは取れてないでしょ?」
「はい、体が強張ってますね」
「じゃあマッサージしてあげよう」
「は、はい」
風呂から入ってマッサージをしてあげたらサテンもぐっすり寝た
気絶じゃないよな?ぐったりしてるけど
俺も寝よう
ベットに横たわり数秒
あっと言う間に深い眠りについた