レアエンカウント!
病み上がりなのか、まだ頭がフラフラします。
熱は下がりましたけど。
「そろそろ四階層に行く」
「いつも言ってるけど、まだ早いんじゃね?」
「レンなら大丈夫」
「何だ、そりゃ?」
「少しずつだが、強くなっている。
何も問題無い」
「そうかな?」
「行ってみれば分かる」
「はいはい、わかりましたよ〜。
ついてきゃいいんだろ」
ナコルはマイペースで先に進んでいく。
俺も遅れないようにその後を追う。
四階層への階段が見えてきた。
この階段を降りると四階層だ。
ダンジョンの薄暗さは、初めての頃は見辛かったが、今はそれ程気にならない。
どうやら目が慣れてきたようだ。
「四階層にはどんなモンスターが出てくるんだ?」
「リザードマン、オーク、コボルド、ロック、メタルスフィアだ。
リザードマンは身体が硬いからダメージが通りにくい。
オークは力があるから槍での攻撃に注意。
コボルドは素早い動きで翻弄してくる。
ロックは転がってくるから避ける。
後レアなモンスターのメタルスフィアは逃げ足が速いので、逃げられないように気をつける」
「あぁ、そろそろ俺の命日かな?」
少し自信がついた俺だが、強敵過ぎるだろ?
「大丈夫、冷静に対処すれば問題ない」
「他人事だと思って適当に言ってないか?」
「そんな事はない。
ほら来たぞ、ロックだ」
「ちぃ、見た目ただの岩だな。
ようし、見てろ、棍棒の餌食にしてやる!」
ゴロゴロと転がってくるロック。
どうでもいい事だか、あんなにゴロゴロしてあいつは目が回らないのか?
「ロックは一箇所だけ穴がある。
そこが急所」
「OKって、こんなにゴロゴロしてるのにどうやって見つけるんだ?」
「止めるしかない」
「んじゃま壁に誘き寄せるか」
俺は壁際に移動し、ロックが勢い良く突っ込んでくる。
「ほっ、うおっ、よっ、とわっ、せいやっ」
壁際で変なダンスを踊る俺。
決してふざけてる訳ではない。
必死にロックの攻撃を避けているのだ。
バットから素早さアップ、トードから跳躍アップ、ラットからみかわしアップを奪ってからは、避けるのだけは上手くなったのだ。
弱い俺にはありがたい特殊アビリティである。
ロックが壁に突っ込んだころで、後ろから、
「喰らえ、ラッシュ!」
ボアから奪ったスキルを使う。
俺は肩からロックに突進し、ロックを壁に押し込む。
「まだまだぁ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!!」
連続で突進し、目を回している所に右手で触れる。
「強制強奪!!」
ロックから俺に新たな力が流れ込んでくる。
特殊アビリティ、身の守りアップ(小)をゲットだぜ!
「ピカチュー、トドメの電撃だ!」
いかん、昔のアニメのセリフが出てしまった。
俺はロックを抑え込んだまま、急所の穴とやらを探す。
下の方にやや凹んだ部分を見つけた。
これがロックの急所か、じっくり見ないと見つけにくいな。
俺はロックの急所目掛けて、
「おらぁ、行くぜ、喰らえ、棍棒!
ついでに必殺のゴブリンパ〜ンチ!!」
ピキッという音がして、ロックの表面にヒビが入り、脆くも崩れていく。
「よっしゃあ!」
「一人で倒すとは」
ナコルがボソッと呟いたが聞き取れなかった。
「見た、見た?
俺もなかなかやるようになってんじゃね?」
「先に進む」
「ツンデレかよ」
しばらく進むと今度はオークが現れた。
人型のイノシシ戦士だ。
槍を持ってるので、リーチは向こうが有利だ。
「まずは槍をどうにかする」
「分かってますって!」
俺はオークと対峙して棍棒を構えた。
最近活躍の場が少ないが、数少ない俺の武器だ。
無いよりはマシ程度のな。
だって初期装備だろ、これ?
レンは棍棒を装備した。
攻撃力が5上がった的な。
槍相手に丸腰で退治しようとは思わん。
自殺行為だろ。
俺は自殺志願者ではない。
「来いよ、ブタ野郎!」
俺の挑発が効いたのか、オークはブギーっていう雄叫びを上げて、槍を突き出してくる。
槍の動きが見える。
左に身体をスウェーして初撃をかわした。
俺がかわした事に腹を立てたのか、矢継ぎ早に槍を繰り出してくるオーク。
だがこの程度の早さなら、目をつぶっていてもかわせるぜ。
いや、嘘、ごめん、ちょっと掠った。
調子こいてやろうとしてしまう俺。
そして槍を喰らう。
自業自得。
ナコルが額を押さえてアホって言ってるよ。
俺が油断したと思ったのか、オークが会心の突きを放つ。
それを待ってたぜ。
俺はオークの突きを紙一重で脇に挟み込み、へし折ってやった。
これでお前は丸腰。
袋叩きにしてやる。
ラッシュでオークの体勢を崩して、ゴブリンパンチと棍棒で殴りまくる。
お、ヘロヘロになってるな。
今のうちにスキルを奪うか。
「強制強奪!!」
オークから流れ込んでくる力の奔流。
新たな力は、五月雨突き。
しかし槍を装備していない俺には死にスキルだな。
よしトドメをさしてやる。
さらばオークよ。
俺はオークの顔面にゴブリンパンチを打ち込み、オークの涎まみれになった。
何という仕打ち。
臭い、臭すぎるぜ。
「私にそれ以上近寄るな」
そう言って歩き出すナコル。
オワタ。
女の子に嫌われた。
俺はショックに打ちひしがれる。
今更だがこのダンジョンは、ひと階層がそれ程広くはない。
多少の分岐はあるものの、ナコルがスイスイ進むので、迷わずに進めている。
俺一人だと一階層を突破するのにも倍以上時間がかかるだろう。
ナコルは道を覚えているのか、その歩みに迷いはない。
俺は彼女の後を追うだけでいいので楽なのだ。
ナコルの可愛いらしいプリケツを見ながら前に進むと、
「珍しい、メタルスフィアだ!」
ナコルの声から興奮が伝わる。
「メタルスフィアってのはそんなに珍しいのか?」
「うん、メタルスフィアの遭遇確率は100分の1と言われてる」
「へぇ〜、そっか。
んじゃあ逃げられる前に倒さないとな」
「私が回り込んで、逃げ道を塞ぐ。
レンは正面からひたすら攻撃」
「了解!」
スッとナコルは壁際を走り抜けて、メタルスフィアの背後に回る。
メタルスフィアは、俺が弱そうだと判断したのか、向かってくる。
見た目金属のサイコロみたいなモンスターだな。
奴の動きはなかなかに早い。
だが奴は間違いを犯した。
奴は事もあろうに、俺にタックルしてきやがったのだ。
これは捕まえるチャンス!
俺は奴のタックルを正面から受け止める。
「捕まえたっと!」
ドッヂボールで培ったキャッチングを見よ!
伊達に小学生の頃、ドッヂボール大会で優勝してないぜ。
俺はしっかりとメタルスフィアを捕まえ、
「先に貰えるモン貰っとくぜ、強制強奪!!」
メタルスフィアから新たな力の奔流が俺に流れ込んでくる。
おおっ、何と二つも新たな力が!
一つは、取得経験値アップ(中)。
これは凄いぞ。
しかも効果が(中)なんて。
さすがレアなモンスターだ。
もう一つは、運アップ(中)。
こちらも効果が(中)だ。
これで俺にも運が回ってきたぜ!
「よしっ、喰らえ、ゴブリンパンチ、ゴブリンパンチ、ゴブリンパンチ、ゴブリンパンチ!」
四発ゴブリンパンチを喰らわせてやったらメタルスフィアは息絶えた。
最後の一発は会心っぽかった。
今回はレアモンスターという事だったが、意外と楽な戦いだったな。
俺の身体に力が漲ってくる。
これはグロースか。
どうやらレベルが5を飛び越えて、10位になった気がする。
スゲー、さすがレアモンスターにレアスキルだ。
経験値アップの恩恵は素晴らしい!
「ナコル、終わったぞ!」
「逃げられるずに済んで良かった。
これがレアドロップ、メタルな素材。
結構なお金になる!」
「おおっ、やったな、ナコル!
これで情報料と飯代が!」
「全然足りない。
後宿代も追加されてる」
「嘘ぉ〜!?
いつの間に?」
これは毟り取られるパターンか?
俺が無知だと知っての狼藉か?
やるな、ナコル。
嵌められた。
ただで泊めてくれた訳じゃねぇのか。
ちゃんと宿代まで請求するとは、恐るべし。
「この調子でドンドン進む」
「はいよ〜」
そして俺とナコルのダンジョンデートはまだまだ続くのであった。
レンとナコルのダンジョン探索は、まだまだ終わらないようです。
ちゃっかりしてるナコルと舐められっぱなしのレン。
二人の関係は、どうなっていくのかな?