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EXPlunder 〜エクスプランダー〜  作者: ローネリア・シャングリーゼ
18/20

冒険者育成師の初仕事

翌朝、ギルドへ行き、食堂で朝ご飯を食べる。

その後一階に降りると俺の周りに人が集まってきた。


「あのさゼクト達に話聞いたんだけど、連続グロースの申し子だよな?」


「誰だ、それは?」


「えっ、お前が噂の連続グロースの申し子って聞いたぞ?」


「俺はレン。

こっちはナコルだが…」


肝心の名前が伝わってないぞ、ゼクト。


「そうだったのか、すまん。

で、レンに頼みがあるんだが、一回ダンジョンに潜れば簡単に強くなれるって聞いてさ」


「おっ、早速仕事の依頼か?」


「そうなんだよ、俺らフィシャーマンズツヴァイっていうパーティーなんだが、六人分お願い出来るか?」


「OKOK、ただし一日仕事になるからヨロシク!」


「おう、聞いてる。

確かメタルスフィアを倒しまくるんだろ?」


「そうそう、何たってレアエンカウントだからな。

俺じゃないと連続でエンカウントできないんだよ。

それと一人50万エリスだけど、大丈夫?」


「大丈夫だ、俺はリーダーのマシロだ。

ヨロシク頼むわ。

じゃあ先に六人分の料金、300万エリス渡しとくわ」


「後払いでもいいんだけど」


「いや、俺はお前を信用してるんだ」


えらい信用だな。

昨日ゼクト達は一人30万エリスくれたから、今日は一人50万エリスにしといた。

ゼクトは100万エリスでもいいって言ってたけどな。


「何たって、昨日ゼクト一人にボコボコされたからな、俺達。

あの強さはホンモノだ。

文句のつけようがねぇ。

俺らはどうせ嘘っぱちだろ?って笑っちまったんだよ。

そしたらゼクトの野郎、嘘じゃねぇ!

レンはホンモノだ!!って怒り出しやがってな」


「そんで六人纏めてボコボコにされたと」


「そうそう」


確かにフィシャーマンズツヴァイの面々は、顔にアザを作ってる人が多いとは思ってたんだが、ゼクト、お前の仕業だったのか。


「成る程、分かったよ。

じゃあ今から出発前に一人一人身体検査をするから一列に並んでくれ」


気分は遠足に行く生徒の引率だ。


「おう、皆一列に並べ」


リーダーのマシロを先頭に皆一列に並ぶ。

俺は一人一人の背中に触れ、身体検査と称した付与を行っていく。

付与するのはもちろん取得経験値アップ(中)だ。

俺達の優位性を覆させない為に、他の特殊アビリティは付与しない。

六人分の付与が終わり、


「それじゃあフィシャーマンズツヴァイの皆さん、ダンジョンへ行きましょう」


「「おう!」」


俺の呼び掛けに皆で応え、ダンジョンへ入っていく。

俺が先頭で、フィシャーマンズツヴァイのメンバー、最後尾はナコルだ。

昨日と一緒で他の階には脇目もふらず、四階層を目指す。

急ぎ足で来たので、ヒーヒー言ってるフィシャーマンズツヴァイの皆さん。


「お前らいつもこのペースでダンジョン進んでんのか?」


「そうですね、最近は大体あんな感じです。

もう少し飛ばす時もありますけど」


「レンといいナコルちゃんといい、見た目に反して、スゲー体力だな。

それだけでもいい刺激になるわ」


「お褒めに預かり光栄です」


俺が慇懃無礼に一礼したら、笑いが起こり、


「堅苦しい言葉遣いなんてよせやい。

俺達、冒険者だぜ」


「それもそうっすね」


俺はクンクンと匂いを嗅ぐ。

今日は男衆なので汗臭い匂いがキツい。

ナコルの香りに少し癒されながら、メタルスフィアの匂いを辿る。


「見つけた、こっちだ!」


「皆、レンに続け!」


俺は匂いのする方へ走り出す。

嗅覚アップには本当に助けられている。

便利な力だ。

女の子の匂いを楽しんだり、時にはレーダーとして機能したり、女の子の匂いを楽しんだりと。

だが効果が(小)なので、嗅覚アップはぜひとも(大)を獲りたいと思う。

これで床で寝てても、ナコルに抱かれているような寝心地が堪能できる!

夢が広がるねぇ〜。

これは決して犯罪ではない。

匂うのは仕方がないのだ。

俺は無実なのだ。


しばらく行くとメタルスフィアと遭遇した。

本日一匹目。

昨日確認したので、間違いないと思うが、メタルスフィアから取得できる経験値量というのは、一人分が決まっているので、戦闘に参加さえしていれば、等しくまとまった量の経験値が取得できる。

パーティーが多ければ分散されるという仕様ではないようだ。


ゼクト達のグロースを詳しく聞いてみたところ、最初はおおよそ10回分のグロースを体感したらしい。

俺達の時と同じだ。

その後徐々にメタルスフィア一体でのグロース回数が減っていき、最終的には10匹倒してグロース一回という感じになった。

今日もそのくらいを目指そうと思う。


「俺とナコルで逃げないように見張ってるから、皆でメタルスフィアを倒してくれ!」


「おい、やっちまうぞ、皆!!」


掛け声とは裏腹に、メタルスフィアの素早さに圧倒されるフィシャーマンズツヴァイのメンバー。

なかなか攻撃を当てるのに苦労しているようだ。

まぁ、ゼクト達もそうだったので問題ない。

ステータスというものが見れないので、グロースの体感回数と実際の能力で計るしかないのが難点だが、見た目的にも少し筋肉が付いて締まってくるので、レベルがどのくらいかをある程度は判断できる。

この世界の人は総じて、いわゆる俺の知ってる能力的レベルが低水準のようだ。

それは恐らく俺が持っているスキルが特殊で、本来はこれ程グロースが出来ないようになってるからだろう。

皆高くてレベル6ぐらい。

ナコルですら多分レベル8ぐらいだった。

ナコルは10歳の頃から5年かけてダンジョンに挑んでレベル8。

んで今は恐らく30は軽く超えている。

つまりおよそ3倍ちょっと強くなったってことだ。

この一ヵ月で。

そう考えると、異常な早さだよな。


昨日上げたゼクト達で20超え。

一日頑張って20ぐらいまでは上げられる。

そこからは効率が悪くなってくるので、メタルスフィアを倒す回数が増える。

四階層だけでは、限界があるな。

もっと経験値効率の良いモンスターはいないかな?


そんな事を考えていると一体目のメタルスフィアを倒したようだ。

皆、総じて驚いた顔をしている。


「どうですか?」


「あぁ、すごい。

こんなにグロースが起こるなんて!」


皆口々にすごいすごいと言ってる。


「グロースの回数には多分個人差があります。

グロースの回数は強さと直結してるので、回数が少ない人はすでにある程度の実力があると考えて下さい」


その後は昨日と同じで、四階層を走り回ってメタルスフィアを次から次へと狩りまくる。

フィシャーマンズツヴァイの皆も走るスピードが上がってきて、効率が良くなっていく。

それと同時に、一戦闘でのグロースの回数が減っていく。

これは事前に説明してある。

強くなればなる程、グロースの回数が減り、体力や素早さは上がる。

それを体感的に理解しているメンバーからは疑問の声は上がらない。

予め今日のグロース回数が20前後というのも伝えてある。

トラブルにならないように先手先手で説明しとかないと、後で違うだろうが!って言われると困るしな。

ボランティアじゃなくて料金受け取って仕事にしてるわけだから、説明責任も果たさないとな。


皆が大体20回のグロースを体感した頃に、


「それじゃあそろそろダンジョンから出ましょう」


皆に声を掛けて、ダンジョンを後にした。

行きとは違い、一気に一階層まで戻れた。

フィシャーマンズツヴァイのメンバーも誰一人として息を切らしていない。


「レン、今日はありがとよ!」


マシロがガッチリと握手をしてくる。


「いや、俺は特別そんなには」


「謙遜するなよ、メタルスフィアをあんなに簡単に見つけるなんてお前にしか出来ねぇよ」


「いや〜、ホント、俺が強くなれたのもレンのおかげだわ」


「そうだな、レンが居なけりゃここまで強くなれねぇよ」


皆口々にお礼を言ってくれた。

今日もいい仕事したわ〜。

300万エリスはデカい。

引率のナコルと分けても150万エリス。


俺とナコルは今日もギルドの食堂でたらふく食べて帰路に着いた。

最近ナコルとの距離が近くなった気がする。





レンは凄い。

私は正直驚いた。

冒険者育成師とか訳のわからない話をしていたと思っていたのだが、まさかまさか。

ゼクト達とダンジョンに潜り、グロースを体験すると、彼らの目の色が変わった。

メタルスフィアを倒して回り、移動中の息切れがなくなり、倒す効率もどんどん上がっていく。

目の当たりにすると本当に凄い事だ。

私達の方が冷静にゼクト達を見れる分、彼らの成長ぶりは凄い。

そもそもグロースは何十回、何百回とモンスターと戦って、一回経験できるかというものだ。

それがメタルスフィアと戦うごとにグロースする。

体感するまで信じられなかった。

そして実際に体感すると、強くなっているのが分かる。

私は一月前よりも遥かに強くなっていた。

動きそのものの次元が違う。

多少殴られても全然痛くないし、ケガの一つも負わない。

モンスターの攻撃をかわす必要性がない。

これなら七階層も楽々超えて行ける。

それにレンがお金儲けを思いついたので、当分お金に困る事は無さそうだ。

そろそろ私のお金が心許なくなっていたので、ちょうど良かった。


ゼクト達から60万エリスをもらったレンは、私にお金を渡してきた。

私は少し多めに20万エリスもらった。

レンは何も言わない。

まぁ、いいか。

その後レンは、何を思ったのか、


「じゃあな、ナコル。

今日までありがとな」


私に背を向けて歩き出そうとした。

私は慌てて服を引っ掴んだ。

逃がすか。


「レンは私の所有物。

勝手に出て行く事は許されない」


「はい?」


間の抜けた声を発したレン。


「レンの帰る場所はこっち」


私はレンの袖を掴み家に引っ張っていく。


「嘘ぉ〜!?」


「嘘じゃない」


私に引っ張られ、トボトボ歩くレン。

私はきっと満面の笑みを浮かべていた事だろう。

レンが家に来てからというもの、心が温かいのだ。

一人でいた頃は、こんなにも毎日が楽しく感じた事はあっただろうか?

生きるのに必死な毎日。

食べるのに必死な毎日。

楽しみと言えば食事だけ。

そんなその日暮らしの毎日。


レンが家に来てからは一変した。

まず私が話す事が増えた。

レンが知らない事が多過ぎるのだ。

当たり前の事を知らない。

遠い所から来たのだろうか?

気付けばスラムの路地に倒れていたそうだ。

私はレンに色んな事を教えた。

レンは物覚えが良いのか、すぐに覚えた。

そして、戦い方を教えた。

最初はダメダメだったが、メタルスフィアを倒した辺りから、急に強くなった。

もしかしたら私よりもと思うくらいに。


そしてクエストを受けたあの日から、世界が変わった。

いや、正確には私が変わった。

一月で異常に強くなったのだ。

ありえない事が起こってしまった。

私は歓喜した。

そして、依頼を達成した夜、私は涙した。

私の五年間の頑張りは何だったのかと。


確かあの日も泣いていた記憶がある。

そう、レンが私の頬に触れていた朝だ。

まどろみの中、誰かに頬を撫でらている感覚があった。

その手は優しく私の頬を撫で、涙を拭ってくれた。

その手の温かみは、もう感じる事が出来ない過去の温かみに似ていた。

私はハッと意識が覚醒し、その手の主を確認した。

途端に気恥ずかしくなり、つい、


「レン、馴れ馴れしくいつまで撫でてる?」


と剣のある言い方をしてしまった。

きっとその日からだろう。

レンに親しみを持つようになったのは。


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