乙女ゲームの前に令嬢達のお茶会を
春風が吹く王城の明るい庭で、五人の令嬢が集まってお茶会を開いていた。
「え〜!! 名前で呼んでもらえないんですかッ??」
ブラウンの瞳を大きく見開き驚いているのは男爵令嬢のアルマ・レルフ。
普段から甘い言葉を吐きまくる男が婚約者なので、信じられなかったのだろう。
「そうなのよ」
エドワード殿下はお忙しいのでほとんどあわないですし、と彼女はティーカップを置きため息を附いた。
深く頷く縦巻きロールのエリザベス、オブライアン大公爵家の一人娘にして王妃候補だ。
「あり得ないですわ!」
「む? そんな物ではないのか?」
「違いますよ」
子爵令嬢リノーラ・ギレットは婚約者を放っておくなんて! とヘーゼルの瞳を燃やし憤慨している。
男のような格好をしているアーリーンは首を傾げてお茶を飲む。
侯爵令嬢のキャスリーンはあきれ気味だ。
口一杯にお菓子を詰め込みながら私も首を横に振ってリノーラに同意した。
「うぬ、アイツは私の名前なんか呼ばないぞ? それに避けられているしな」
「シナリオ通りのようですわね……」
エリザベスはとても残念そうだ。
そう、私達は転生者。
乙女ゲームの世界に生まれてしまった『悪役令嬢』の集まりなのだ。
私は菓子を飲み込み聞く。
「一応ですが、想いが伝わった方はいますか?」
その言葉を聞いた令嬢達は一様に顔をしかめた。
「好かれてはいると思うけど親戚の姉のように見られています」
さっきの勢いは消え去り、切なげに息を吐くリノーラ。
彼女の婚約者は甘えん坊の年下キャラだ。
「私も可愛いと言ってくれるんですけれど、女として見られていないんですっ」
10は年上の婚約者に思いを寄せているアルマは泣きそうになりながら言う。
「うちなんか何もないぞ」
騎士団長候補にふさわしい女になるよう剣も鍛えているのにな、とアーリーンは顔を歪め苦しそうだ。
「みんな甘いですわ、ラザフォード様は冷たい目でののしってきますのよ」
宰相候補にいつもやり込められているキャスリーンは口を尖らせてお茶をすすった。
そんな話を聞いたエリザベスがぽつりと呟いた。
「エドワード様に『王妃の財力が欲しいのだろう?』と笑顔で言われましたわ……」
「まぁ……」
「なんであんな奴好きになったんだろうな」
「乙女ゲームの影響でしょうね」
みんなの顔が下を向く。
乙女ゲームとこの現実は違う。
エリザベスはお金の為じゃなく王子の隣にいたいから王妃教育の弱音を吐かないし頑張ってる。
どんなに冷たいことを言われても婚約者が寂しい心を抱えている事を知っているからキャスリーンは許す。
女嫌いな婚約者のために可愛い物を我慢して男の用に振る舞うアーリーン。
婚約者がカッコいいと言ってにがい思いをしても微笑みを崩さないリノーラ。
大好きな人に振り向いてほしくて婚約者の髪の色と同じ紫のドレスしか着ないアルマ。
彼女達の気持ちに彼らは気づかない。
面と向かって言っても違う意味に取られてしまう。
どんなに愛していてもヒロインには叶わない。
どんよりと空気が淀む中、私はお菓子に手を伸ばす。
「あらカトリーナ、貴女はどうなの?」
私の手を掴んだリノーラが尋ねる。
「どうもこうもねぇ〜、ただの主従関係ですよ。」
本当か? と言う目線が突き刺さる。
抵抗してもリノーラが手を離してくれないので泣く泣くお菓子を諦め私は話す。
「家が広いので滅多に会いません、第一恋愛感情有りません、私はゲームと違ってヤンデレでは有りません」
「ちょっとでも良いなって思った事無いの?」
イケメンでしょ? とアルマは言う。
「イケメンでも児童虐待をスルーしたんですよ」
その時点で私の中から消え去ってますよ。
エリザベスが顔を引きつらせる。
「児童虐待ってっ!」
「家で私はお人形なので意見を言えば食事抜きです」
なので今のうちに食べておくんですよ、と言い私はお菓子を貪り食う。
……一度だけ彼に頼んだ事がある。
『ここから連れ出して』
アイツは言った。
『命令ですか?』
あんなのどんなにイケメンでもお断りだよ!!!
「と言う訳で皆さんの恋愛感情は乙女ゲームの所為ではないので悩まなくていいですよ」
私はにっこり笑ってみんなに言った。
帰りに何故か余ったサンドイッチをお土産に貰った。
やったね!
物語はまだ始まっていない、さてさてどうなる事やら……
ゲームをスタートしますか?
YES or NO
連載したいけれど乙女ゲームを知らない!!
どうしよう……