こっくりさん
ー3年前 夏。夜桜神社にて。
「ね、ねえ!本当にやるの?」
私は声を荒げて皆に問いかけた。
「大丈夫だって!美春!俺は昔やったことあるけど、何ともなかったぜ。」
風雅が持ち前の大きな声でそう答えた。
「おい風雅、ここは神社だぞ。見つかったら怒られる。静かにしろ。」
零矢が風雅の大声を注意すると、風雅は素直に「わりい。」と謝った。
風雅は零矢には頭が上がらないのだ。
そんなやり取りを見て心が緩んだのは、私だけではなかった。
隣で、翔がクスッと笑ったのが聞こえた。
「よし、できましたよ。」
そんなやり取りが行われている横で、こっくりさんに使う文字盤を作成していた夢がそれを零矢に手渡す。
「これで準備は整ったな。風雅、十円玉を。」
「おう。」
文字盤に書かれた朱色の鳥居の真ん中に、少し錆びた十円玉が置かれる。
これから、こっくりさんがはじまるのだ。
「皆、。十円玉に指を載せて。」
私は、緊張と不安が混じってのせいなのか、少し上ずった声になってしまった。
その場にいる全員が息を飲んだ。
私は全員が十円玉に指を載せていることを確認してから、掛け声の合図を出した。
「じゃあ、みんないくよ。」
『こっくりさん こっくりさん どうぞおいで下さい』
風が吹いた。木々がこすれる音がする。
『もし、おいでになられましたら はいへお進みください』
風がやんだ。
「…なにも、おきないね。」と、翔がつぶやくと緊張が解けたのか皆溜息をこぼした。
「やっぱり、動くわけないのか。」と、風雅が言うとそうだよな、と皆も同情する。
「やっぱり、だめなんだよ。」
そういうと翔が十円玉から指を離してしまった。
「おい!なにやってるんだ!?」
風雅がいつも以上に大きな声で叫んだ。
零矢は目を見開いて、固まってしまった。
そして…
ザァアアア!
さっきとは比べ物にならないほどの強い風が吹いた。
「くっ…」
風のせいで舞い上がった砂埃が目に入って風雅と零矢が目を押さえる。
しかし、美春は違った。
「翔…?」
一瞬、翔がいた所に狐が見えたのだ。否、翔自身が狐になったように見えたのだ。
しかし、再びの暴風の為その姿をしっかりとらえることはできなかった。
風がやんでも、美春はその場でずっと固まっていた。
いかにも様子がおかしい美春を心配したのか、皆が美春のもとに駆け寄ってくる。
「ちょっと!翔がいませんよ!?」
翔がいない事に最初に気付いたのは夢だった。
それから、皆で何時間も翔を探した。
日が暮れて、月が昇っても。
心配した親が探しに来るまで、私たちは一心不乱に探した。
しかし。翔の姿はどこにもなかった。