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26歳無職ダメ男が、もしかしたら真人間なるかもしれないプロローグ

作者: カボチャ

朝、目が覚めると家が一新していた。

いや、マジな話。


一新していた。寝ている間に母さんが壁紙変えたとか、プチリフォームで一階が二階になったとかではなく、洋風33坪築30年の慎ましやかな我が生家が、純和風100坪以上はあるんじゃね?って感じの……わかりやすくいえば映画にでてくるヤのつく自由業の人並の家になっていた。

なんてこったい。


ついでにいえば近所の様子も団地から森っぽい何処かに様変わりしていた。あら、ご近所づき合いしなくてすむわね~とかそんなもんじゃない。ご近所、いないし。


ここまでいえば紳士淑女の皆さま方は「単にそれってお前が拉致られただけじゃね?」と思われるかもしれないが、そんなことはない。表札は俺の名字だった=俺のたぶん

半ば錯乱しつつ、寝巻姿のままとりあえず朝食、と台所……くりやっていうのか?に行くと、何故かすでにほっかほかの朝食ができていた。


何これ怖い。


怯えつつも結局食べた。

だっておなかすいたし。 

だって家事できないし。


ごちそうさま、と手をあわしたところで、ふと食卓の上に置かれた紙きれにきづいた。

うぉう、いつの間に。


~上代樹様へ~


本日はお日柄もよく、春の日もうららかに晴れ(以下中略)……かようなめでたい日におきまして私ども一同内密に抽選会を行ったところ見事上代様が当選いたしました!


つきましては商品発送により当選結果とかえさせていただきます。

以下は目録です。


・家政婦機能搭載掃除機(手タイプ)

・にこにこ安心保証付き住まいの提供(和)

・オートセーフティ


それでは快適な異世界の旅をお楽しみくださいませ。


~ワールドワールドトリップ社~



「…………」

とんだ悪戯だ、と言いたくなるような社名だったが眼前に横たわるのは現実である。


まず一つ目、ここは異世界らしい。

本当か嘘かはわからない。……というか調べようがない。

もしかしたら俺を軟禁して孤立状態にしたい俺の熱狂的なファン別名ストーカーさんの犯行なのかもしれないが、26歳無職の自宅警備員な俺(地味顔)をお持ち帰りするよりもっといいイケメソがいると思われ。……ということでストーカー案は却下。とりあえず後で森を探索しようということで保留。


二つ目、家政婦機能搭載掃除機(手タイプ)、とやらはなんだろう?

掃除機というからには、使ってみるべきなんだろうが…それらしいものが見当たらない。

ふと朝食のことを思い出して顔をあげると横に置いていたはずの食器が消えていた……否、しまわれていた?何これ怖い。手タイプとか意味不明すぎて怖すぎる。保留にしておこう、保留だ。


三つ目、にこにこ安心保証付きの家が提供されたらしい。いつの間に。

安心保証というからにはこの家の中なら外敵に襲われることはないというのだろうか?本当だとすればとても有難い。異世界らしいし。

それにこんな豪邸タダでもらえるなんてそれなんて詐欺?


最後、オートセーフティってなにぞや?

直訳すると自動安全?……うーん、害はなさそうだし、うん、もういいや。なんとかなる。たぶんおそらくきっと。


「……じゃ、寝るか。」


本来の俺(無職なダメ人間)らしく朝っぱらから二度寝しようと、踵を返した、ら。


「ひぃっ!」


手があった。体はない。床からそのまま生えたかのごとく、にょきと生えた手がこちらをみつめて(?)いた。


「え、なに、なんですか、さささ殺人!?」


なにが起こったの!?え、俺の家でなにが起こってるの今!

ととと、とにかく警察……電話ないんですけど!外森だし。えぇぇーマジ怖い。やめて!


尻もちをついて後ずさる俺をよそに、躰のない手がゆっくりと俺の横を指差した。


なにそれ新手の殺人予告!?次はお前だ、的な?何故そこで手チョイス!普通生首だろ、それか貞子みたいに全身でぶつかってこいよ!いやそれも怖いけど!


ぶるぶると情けなく震える俺をよそにふわりと浮きあがった手がこちらにやってくる。


「あ、ぁ…………」


自分の顔が引きつっているのが判った。これは、なんだ。夢じゃないのか。朝起きたら見知らぬお屋敷で手が浮いて、自分は一人で、なんてそんな。


ぞぁっと噴き出た汗が顔の表面を伝い、心臓の鼓動が、どっどっど、と激しく胸の中で鳴り響く。

恐ろしい緊張が胸を締め上げて、ぎゅっと目を瞑った。


頭の中で白い指がのっそりと俺の眼前までやってくる。

人間にはあり得ないその「白」はするすると俺の背中を伝い、腕を伝い、そして首を……


と、そこまで考えたところでふわり、とやわらかい布の感触がした。


「え……」


思わず目を開ける。すると、俺の腹の上に案の定あの白い手……ではなく、浅葱色のいかにも高そうな着物がのっていた。

さらさらして肌触りも最高。俺の給料(もとい、小遣いともいう)じゃ一生買えなさそうな代物。


「な、なにこれ。」


着物、だよね?なぜここで?と茫然としていたらぺしぺしと軽く頭を叩かれた。

見るまでもなく、犯人はさっきの手である。

その小突き方といったら、布団から早く出ろと毎日うるさい母親によく似ていて……


「……も、もしかしてこれ着るの?」


と、言えばよくできましたといわんばかりに頭を撫でられた。

俺今年で26になる男なんですけど。成人超えた立派な……立派ではないが、成人男性なんですけど。


ふっと、肩のこわばりがとけた。力が抜け、脱力する。そして頭をよぎるのは、あの悪趣味な会社名とその内容の、いかにも怪しげな商品。


「家政婦機能搭載掃除機(手タイプ)、か……」


あはは、と乾いた笑みがこぼれた。ホラーかと思えばなんというファンタジー。

いっそ夢であれ、と空を仰ぎたくなった。


が、そこには見慣れない木造の天井があるばかり。


このようにして、俺の異世界生活一日目は始まった。


これから俺はどうなるのか。

無事社会復帰できるのか。

それとも異世界で家政婦機能搭載掃除機にさえ見捨てられ朽ち果てるのか。


はたまた冒険の旅にでかけ、美目麗しい女性と恋に落ち…ることは、万に一つもありえないが。


……とりあえず、着替えたら二度寝しよう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一風変わった作品で、おもしろかったです! ここが本当に異世界なのか、あの手は話したりするのか...とっても気になります(^^*) 続きを読みたくなりました!! [一言] もしよかったら続編…
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