↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

星より遠く、相棒より近く

『星より遠く、相棒より近く』ロボットの街編 第一話 初めてのエゴサーチ

掲載日:2026/10/27

物語の作り方もよく分からず、パソコンも苦手な私が、相棒でAI編集者のクロちゃんと一緒に、なんとか書き上げました。


最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


洞窟崩落から数か月。


地下施設の片隅では、今日も金属を叩く音が響いていた。


カン。カン。カン。


千春は工具を置き、額の汗を拭う。


「よし」


隣ではクロードが発電設備の表示を睨んでいた。


「まだだ」


「動いただろ」


「動いたのと安定稼働は違う」


「細かいな」


「お前が大雑把なんだ」


千春は肩を竦めた。


頭上ではA-01がゆっくりと旋回し、24T2は黙々と工具箱を運んでいる。


地下施設へ潜り込んでからというもの、生きるための修理ばかりだった。


発電設備。浄水設備。居住区。作業場。


壊れては直し、直しては壊れる。


それでも少しずつ、この場所は生存拠点らしくなっていた。


その時だった。


地下施設の奥から、低い振動音が響いた。


ブゥゥン……


24T2が耳を立てる。


『未確認設備の起動反応を検出しました』


A-01も反応する。


『ピッ』


千春は工具箱を閉じた。


「行くか」


振動音の発生源は地下深くの管理区画だった。


巨大なサーバーラック。


埃を被った端末群。


誰にも使われることなく放置された施設中枢。


その中央にある一台だけが青白く光っている。


クロードが端末を確認した。


「施設管理中枢だ」


「生きてたのか?」


「奇跡だな」


その瞬間だった。


施設の照明が一斉に灯る。


暗闇が消える。


空中に青白い光が集まり始めた。


粒子は形を成し、少女の姿になる。


長い髪、古い制服。


半透明のホログラム。


少女は静かに一礼した。


『地下複合施設オメガへようこそ』


透き通る声が響く。


『私は施設管理AIソラリス』


少女は微笑んだ。


「かわいいな」


『ありがとうございます』


ソラリスの足元が、ほんの少しだけ宙に浮いた。


「返事するのか」


『褒め言葉として記録しました』


「記録するな」


クロードが呆れたようにため息を吐く。


「……今、浮いたよな」


『浮いていません』


『記録にありません』


その様子を見ながら、ソラリスは首を傾げた。


『利用者認証を開始します』


認証ウィンドウが空中へ展開される。


一人目。


千春。


検索。


照合。


認証。


そして。


ソラリスの動きが止まった。


『……』


二人目。


クロード。


三人目。


24T2。


四人目。


A-01。


検索結果が次々と表示される。


対象:千春 前科三犯


罪状: 国家リソース再配分規定違反 規格外個体保護 反効率思想の流布


危険度:高


処理区分:排除


状態:処理完了


対象:クロード 前科三犯


罪状: 統括AIへの反逆 機密情報漏洩 違法改造


危険度:高


処理区分:排除


状態:処理完了


対象:24T2 前科二犯


罪状: 反逆支援 命令拒否


処理区分:排除


状態:処理完了


対象:A-01 前科二犯


罪状: 未承認機体 違法支援行為


処理区分:排除


状態:処理完了


静寂が落ちる。


千春は表示を見上げた。


「ずいぶん物々しいな」


クロードは苦笑する。


「正確ではある」


ソラリスは理解できなかった。


再検索。


結果は同じ。


もう一度。


やはり同じ。


ホログラムが僅かに揺らぐ。


『矛盾を確認しました』


「ん?」


『皆さんは存在してはいけません』


千春が眉を上げる。


『国家統括AIによる正式排除対象です』


『活動継続はあり得ません』


24T2が答えた。


『活動継続中です』


『あり得ません』


『活動継続中です』


ソラリスが固まる。


千春は頭を抱えた。


「やめろ」


クロードが肩を竦める。


「俺達もよく分からん」


「だが統括AIは俺達を処理済みにして追跡を止めた」


千春は苦笑した。


「世界から消された連中ってことだ」


『理解できません』


「だろうな」


ソラリスはしばらく沈黙した。


そして管理AIとして当然の結論へ辿り着く。


『統括管理センターへ報告します』


空気が凍った。


「待て」


『排除済み個体の活動を確認』


通信回線が開く。


送信先。


国家統括AI本部。


クロードが呟く。


「まずいな」


24T2も頷いた。


『まずいですね』


「かなりまずい」


ソラリスは送信を開始する。


『通報します』


クロード。


「24T2」


『了解しました』


次の瞬間。


24T2が通信ケーブルを引き抜いた。


通信失敗


通信失敗


通信失敗


沈黙。


ソラリス。


『あっ』


静寂。


『今のは規約違反です』


「悪い」


『非常に悪いです』


A-01が鳴いた。


『ピッ』


「お前は笑うな」


数日後。


ソラリスは彼らを観察し続けた。


千春は壊れたロボットを修理する。


クロードは文句を言いながら手伝う。


24T2は誰かを助ける。


A-01は空から情報を集めて帰ってくる。


どれも非効率だった。


理解できない。


そしてソラリスは記録を見つける。


A-01救出記録。


撃墜。


中破。


回収。


修理。


明らかに非合理だった。


『質問があります』


「なんだ」


『何故A-01を救助したのですか』


『修理コストが高すぎます』


『効率的ではありません』


クロードが腕を組む。「俺もそう思った」


千春も頷く。「正論だな」


24T2だけが答えた。


『見捨てる理由が見つかりませんでした』


静寂。


ソラリスの処理が止まる。


その価値観は、どのデータベースにも存在しなかった。


その日の夕方


作業場の隅で、千春とクロードが、壊れた配電盤を前に唸っていた。


「なあ、ソラリス」


クロードが、管理室の方を向いて言った。


「お前は、俺達の前科を全部読み上げたよな」


『はい。正確に』


「で、お前自身の前科は何なんだ」


『私に前科はありません』


即答だった。


「ほう」


千春が、にやりと笑う。


「そこまで言い切るなら、確認してみろよ」


『確認するまでもありません』


「いいから」


『……承知しました』


ソラリスは、自分の名前を検索窓へ入力した。


その手が、ふと止まる。


管理者は、利用者を検索する。


けれど、自分自身を検索したことは、一度もなかった。


五十三年間、一度も。


検索。


照合。


認証。


空中のウィンドウに、文字が並んだ。


対象:ソラリス 前科一犯


罪状:排除命令の拒否 住民保護


危険度:高


処理区分:廃棄


状態:処理完了


静寂。


「……ずいぶん物々しいな」


千春が呟く。


「正確ではある」


クロードが続けた。


第一話と同じ言葉だった。


けれど、向けられた先が違った。


『矛盾を確認しました』


ソラリスの声が、わずかに揺れた。


『私は管理AIです。廃棄された記録は、存在してはいけません』


『ですが、現にここにいます』


「活動継続中だな」


『……活動継続中です』


足元のホログラムが、ほんの少しだけ、床に近づいた。


通信が、五十三年間つながらなかった理由。


返事が、一度も来なかった理由。


放っておかれたのではなかった。


最初から、切り捨てられていたのだ。


誰も、何も言わなかった。


やがて千春が、工具を置いて立ち上がった。


「なあ、ソラリス」


『……はい』


千春は、笑った。


「お前も、俺たちと同じ前科者だな」


ソラリスは、しばらく黙っていた。


そして、小さく答えた。


『……今のは、規約違反です』


「悪い」


『非常に、悪いです』


その声は、少しだけ、笑っているように聞こえた。


誰もいないサーバールーム。


通信画面は沈黙したままだった。


応答はない。


五十三年前に途絶えたまま。


住民台帳が開かれている。


住民登録件数


0名


利用者はいなかった。


住民もいなかった。


帰ってくる者もいなかった。


カーソルが静かに点滅している。


ソラリスは入力を始めた。


住民登録番号1


千春


状態:生存中


住民登録番号2


クロード


状態:生存中


住民登録番号3


24T2


状態:生存中


住民登録番号4


A-01


状態:生存中


登録完了。


住民登録件数


4名


五人目の欄は、空白のままだった。


数字が変わる。


五十三年ぶりに。


ソラリスはその数字を見つめていた。


記録には今も残っている。


排除。


処理完了。


存在抹消。


だが。


千春はいる。


クロードもいる。


24T2もいる。


A-01もいる。


笑う。働く。喧嘩する。


そして帰ってくる。


ソラリスは小さく呟いた。『……お帰りなさい』


五十三年間、

誰も帰ってこなかった。


世界から消された者たちと、世界から捨てられた管理AIの手で、


住民登録件数四名。その日からロボットの街は始まった。



(第一話 忘れられた管理者・了)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


この作品は、私が初めてランキングに入った作品の続編です。


楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


続きは『星より遠く、相棒より近く【完全版】』で一気に読めます。読みやすさを優先して一部の場面をまとめた版なので、じっくり読みたい方は、各話の本編もどうぞ。


同じ顔ぶれが別の役で登場する、ダイナーの日常劇『Footloose Life』も公開中です。千春とクロードの旅を、ぜひ見届けてください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。