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静かに暮らしたい縫い子は、着心地だけで世界を変える  作者: 烏斗


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第28話 説明が増えるという異変

 会議が長くなるとき、だいたい何かがおかしい。


 王宮内のある部署では、最近その「おかしさ」が常態化していた。


「まず前提として……」


 責任者が口火を切り、

 続けて副官が補足し、

 技術担当がさらに説明を重ねる。


 資料は分厚く、図も多い。

 だが、肝心の結論が見えない。


 ページだけが、静かに増えていく。


「つまり、問題は起きていないのだな?」


 上席の問いに、責任者は一瞬言葉に詰まった。


「起きていない、とは言えませんが……想定内といいますか」


 その曖昧な言い回しが、場の空気をわずかに冷やす。


 この部署は、例の基準文書を「参考資料」として扱っていた。


 工程は似せた。

 項目も一応確認した。


 だが——

 解釈は現場に任せた。


「全部守るのは非現実的ですから」


「うちは状況が違いますし」


 そう言って、手順を省き、

 確認回数を減らし、

 素材変更時の再承認も形式的に済ませた。


 その結果、致命的な失敗はなかった。


 ただ——

 小さな不具合が、消えなかった。


「着用中に違和感がある」


「動作に支障はないが、疲れやすい」


「前回と感覚が違う」


 どれも、即座に問題化するほどではない。

 だが、説明を求められるには十分だった。


 問い合わせが来るたび、

 担当者は丁寧に理由を書いた。


 素材の違い。

 個人差。

 使用環境。


 説明は、正しかった。


 だが——

 多すぎた。


 ある日、比較資料が回ってきた。


 同時期、同条件で仕上げたはずの衣装。

 基準を厳密に守った部署と、

 柔軟に解釈した部署。


 不具合件数に、大きな差はない。


 だが、


 報告書のページ数が、まるで違った。


「……向こうは、三行だ」


「こちらは……二十ページあります」


 誰かが、乾いた声で読み上げる。


 沈黙が落ちた。


 上席は、資料を閉じ、静かに言った。


「説明が必要な仕事は、まだ終わっていない仕事だ」


 短い言葉だった。


 だが、会議室の誰もが、視線を落とした。


 説明が悪いわけではない。


 だが、説明が増えるほど、

 仕事は完結していないと示してしまう。


 そして——

 それは、言い訳と紙一重だった。


 一方、街の仕立て屋では。


「最近、“理由の説明”を求められることが増えましたね」


 私の言葉に、オーナーが頷く。


「ああ。守らなかった側ほど、聞いてくる」


「答えますか?」


「聞かれたことだけ、な」


 それ以上でも、それ以下でもない。


 私は、糸を引き、静かに切った。


 説明が多い部署は、

 自分たちが問題の中心にいることに、まだ気づいていなかった。


 だが、王宮という場所では。


 言葉が増えるほど、疑問も増える。


 そしてその疑問は、

 やがて一つの問いに収束していく。


「基準とは、何をするためのものなのか?」


 その答えを、

 文書だけでは済ませられなくなる日が、

 静かに近づいていた。

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