愚か者風味の不死者
私は蘇りであり、命である
─ヨハネによる福音書 11:25-26から抜粋
ゾンビ。
それは、ブードゥー教における呪術の果てに生み出された産物であり、昨今のホラー映画における人の血肉を喰らう怪物。
もしくは、死の淵から甦った復活者。
とにかく、そんなイメージを抱えるモンスターの一種だ。
だが、それはあくまで空想の域の話。
言葉としてのゾンビは存在するが、ゾンビという生命体はこの世に存在しない。
ただ、ジョージ・A・ロメロによって商標権もクソもなくなってしまった怪物。
つまり、今の時代におけるゾンビはフリー素材と言っても過言でない架空の存在である。
しかし──彼女は一体、何を根拠に僕のことをゾンビと呼んでいるのだろう?
肌の色も髪の色も生きている時のままの状態なのに加えて、心臓の鼓動もあの時から止まることなくしっかりと動いている。
けれども、彼女が嘘を言っているとも思えない。
無邪気で厄介そうな笑顔を浮かべいる彼女を見ながら、そう思っていた時──ふと、自身の肌に触れた途端に人肌の温度以下の冷たさであることに気がついた僕は、今まで信じていた何かが壊れていく音が聞こえような気がした。
ここまでので人肌の冷たさで、人間が生きているはずがない。
言うなれば、この冷たさは死者の肌の冷たさだ。
となれば、彼女の言うように僕はゾンビとして甦った可能性は非常に高いのかもしれない。
そう思うだけで、僕の体感温度は今以上に低くなっていくような気がした。
「だから言ったじゃん、君はゾンビとして──不死者としてこの世に生を受ける形で復活したって」
彼女はあっけらかんとした様子でそう呟いた後、その場にある学習机の上に座ったかと思えば、自身の目線を僕の方に向けながらもそこで足を組み始めた。
別にその様子が偉そうというわけではない、ただ──その姿がとても美しいのだ。
清楚さを感じられる白いワンピースの間から組まれた優美な足の先には何があるのか、思わずそう思わせる程の彼女の綺麗な足付きに僕は見惚れていたわけではないが、何故か目を離すことができなかった。
彼女はそんな僕を知ってか知らずか、足を交互に組みながら右頬に手を置くとこんなことを言った。
「まぁ、信じられないのも無理はないよね〜。あーしちゃんだって、不死者になりたての頃はそんな感じだったもん」
自身のことを不死者だとケラケラと笑いながらそう言う彼女の顔には、さっきと同じように嘘は感じられなかったものの、ほかの今の状況についての謎がより一層深まっていた。
多分、今の僕の顔には年相応ではないシワが出てきているのかもしれない。
それ程までに、彼女の話には信憑性が出てきたのだ。
「──君もゾンビ、なのか?」
足を交互に組むのをやめ、今度はバレリーナ立ちをし始める彼女に向けて恐る恐るそう尋ねる僕。
すると、その言葉を聞いた彼女は顔をこちらの方に向けると──突然学習机から降りた後、僕の方へと一気に近づいた。
髪も瞳も口紅も全て赤に染まっているにも関わらず、彼女の肌は今も生きているのが不思議なぐらいに白く、死者のような冷たさをどことなく出していた。
彼女の肌を間近で見た僕は興奮こそしてはいないが、神秘的な彼女の姿にゴクリと喉を鳴らしていた。
美しいとは、メメント・モリとは、彼女のことを指すのかもしれない。
それが、僕の近くへとやって来た彼女に対して僕が抱いた感情だった。
「いや、違うよ。あーしちゃんは確かに不死者だけども、不老不死の方の不死者なんだよね」
彼女は僕の真正面でしゃがみながらそう言った後、よろしくとばかりにそのまま手を差し出した。
──彼女は敵ではない。
ただし、味方とも限らない。
言うなれば、トリックスターのような存在なのかもしれない。
何故なら、彼女は自らのことを人類の永遠の憧れである不老不死の人間だと名乗ったのだがら。
「不老不死──?」
「そう!!ちなみにあーしちゃんは千二百年前──平安の時代の頃に不死鳥を食べたことがきっかけで不老不死になったんだよね。まぁ、騙される形でだったけど」
彼女の言い放った言葉に対し、僕は言葉を失った。
何も、その言葉があまりにぶっ飛んでいるからではない。
かと言って、彼女が千二百年前の平安時代の頃から生きているからでもない。
僕は、不死鳥を食べたことがある人間がこの世にいることに僕は驚いたのだ。
不死鳥はゾンビ同様に架空の存在、要はこの世に居るはずのない生物だ。
彼女の言葉をほぼほぼ信じているわけではないが──騙されたとはいえ、何故人の知恵が及ばない存在を何故食べたのか。
不死鳥の肉の味とは、どんなものだったのか。
本物の不死者とは──どういったものなのか。
いつの間にやらそんな思考になっていた僕を尻目に、彼女は口角が少しだけ上がっている僕に向けてこう言った。
「あ、そうだ!!自己紹介がまだだったね!!あーしちゃんの名前は火喰りんね。よろしくね!!ゾンビくん!!」
いや、僕はゾンビくんではなくちゃんとした人間としての名前があるのだが.....そう言いかけたものの、今の自分がゾンビであるという状況と彼女の雰囲気に押されてしまい、僕はそのことを言えぬまま彼女の言葉を受け入れた。
不死鳥を騙される形で食べた少女、火喰りんね。
彼女との出会いは偶然かと言えばそうでもないが、必然かと言えば出来すぎている。
だけど、この一夜の出来事が今後の僕の運命を変えるかもしれない。
僕はそんなことを感じつつも、差し出された彼女を手を握り返した。
主人公くん、少女こと火喰りんねの正体が不死者(不老不死)だと知る。
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