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グッバイ現世、ハロー来世

我は生きようとする生命に取り巻かれた生きようとする生命だ。

─アルベルト・シュバイツァー


あらゆる生あるものの目指すところは死である。

─フロイト


生きるべきか、死すべきか。それが疑問だ。

─ウィリアム・シェイクスピア

僕がくだらなく、しょうもなく、どうしようもないことを思い付いたのは、いつのことだったのかはもう忘れてしまった。

ただ、空っぽな脳裏にふわりと浮かんだその計画を実行した時のことは覚えている。

その計画を実行したのは、ちょうど一週間前の金曜日のことだ。


午後六時十三分。

僕は一四年もの間この世に繋ぎ止めていた肉体にお別れを告げ、その魂をあの世へと切り離した。

──有り体に言うところの、自殺である。


別に僕自身は虐められたことも、親子関係で苦労したことも、何もかもが嫌になったわけではない。

ましてや、この世界に恨み辛みなどを抱いた上で呪詛を吐き捨てるつもりもない。

僕はただ──この世界に蔓延るぼんやりと不安に侵食されつつある感覚が嫌だったのだった。


周囲の人々はこの不安に対し、大したことはないから心配するなとすぐに言いそうだが、僕としてはその言葉が余計なお世話と言っても過言ではない戯言にしか聞こえなかった。

それに、彼ら彼女らの言う『大したことのないこと』とは恐らく、本当に大した問題にならない事象のことを指していたのだろう。

彼ら彼女らの口を揃えて主張していることについて、その『大したことにならないこと』が原因で一体何人もの命が亡くなったのかについて尋ねると、彼ら彼女らはすぐさま論点を変えて説教を始めたので、僕自身もしては終末やらより良い世界とやらを論じる気はなかったので、すぐさま彼ら彼女らと関わるのをやめた。


結局、このどうにもならない虚無から生まれた不安に対し、僕はそれを胸に抱きながら15歳まで生きた。

世間的には若者の死としてメディアが取り上げられるかもしれないが、近頃のメディアは報道機関というよりかはただのでっち上げ屋に近い一面があるので、恐らく僕の死は悲劇的な死として取り上げられるだろう。

まぁ、そっちの方が平凡に死ぬよりかは面白いのかもしれないが。


かつて、この国では〈七つまでは神の子〉──子供は七歳の年齢に達するまで神の所有物とされるのならば、その所有物ではなくなった僕が命を粗末に扱ったところで、神に罰せられるの可能性があるかどうは分からない。

この世界に存在するありとあらゆる宗教において、世界で定期的に行われている自殺という行為が恐るべき大罪だとすれば、きっと僕は天国や煉獄ではなく地獄に堕ちることは覚悟している。


──と言った感じのくだらない戯言は置いておくとして、今のところの僕は死んだはずなのにも関わらず、死神どころか天使すらも迎えに来ていない状況。

つまりはあの世からの音沙汰がない状態だった。

この状況を言い表すならば、異常事態と言った方が正しいのかもしれない。


僕自身、生きることにも死ぬことにも執着なんてしないタイプの人間だ。

誰のための顔に浮かべている笑顔だって、生きる為ではなく何となく笑顔を顔に貼り付けているだけ、ただそれだけの話なのである。


もちろん、他人の感情は理解できている方だ。

親の愛だって、それなりに受けて育っている。

模範的ではないが、どこにでもいるフツーの中学三年生。

そんな存在が一人消えたところで、この世界の歯車は止まることはない。

僕みたいな一人のか弱い人間が自殺したところで、世界は今日も今日とて朝を迎える。

僕の存在が最初から無かったかのように。


だから僕は知りたかった。

この胸を縛り付ける不安の果てを、この胸に広がる虚無の深淵を、この世界に存在する死という概念の先を。


古代エジプト人が死は新たなる始まりだと考えていたならば、死ぬということは一体なんだったのだよう?

生物における終焉?あるいは──


「死ぬっていうことは、ある意味で救いなわけなんですわ〜」


深い深い闇の奥底へと沈んでいた僕を呼び覚ますようにそう響くのは、まるで鈴のように凛としているようではあるものの、どこか無邪気な子供のようなコロコロとした少女の声。

そして──その重い瞼を開けた先に居たのは、学習机の上に座る一人の少女だった。


その少女の姿を言葉に言い表すならば、赤。

何もかもを燃やし尽くし、飲み込む赤。

ルビーのように輝く髪に、磨かれた珊瑚のような瞳、口元を彩る白雪姫にも劣らないガーネット色の口紅を添えたその姿は、まさにこの世のものと思えない程に真っ赤に染まっていた。


それでいて、彼女は清楚な雰囲気を思わせる白いワンピースを着ているものの、その上に革製の真っ黒なライダースジャケットを羽織っていたため、彼女が異質な存在であることはすぐに把握できた。


僕が目覚めたその空間は数年前に潰れたであろう学習塾の一室で、何年も潰れていただけに授業に使用されていた机が乱雑に置かれていた。

けれども、所々誰かが生活をしているような跡があるので、それはきっと彼女がここを生活の拠点にしているからだろう


ちなみに──積み上げられた缶詰を見るに、どうやら彼女の主食は缶詰らしい。


「僕は──死んだのか?」

「いんや、正確に言えば君は生きてるし、死んでいるような状態だね」


おちゃらけた様子でそう言った後、学習机の上でクルリと一回転したかと思えば、そのまま僕へと顔を近づけるとこう言った。


「こんにちは、そしておはよう!!君はゾンビとして生き返り、不死者としてこの世に生を受けたってわけなのさ!!」


それは、僕が今まで生きていた世界への別れを告げる言葉であり、これから始まる物語のプロローグとも取れる言葉だった。


ともかく、僕の物語はここから始まったのだった。

主人公、自殺したかと思えば生きていた上に謎の少女と出会うの巻。


☆とブックマーク等、どうぞお願いします!!

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