表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/42

千歳、食事の問題に直面していた。

大工の健さんが、11人の従業員を引き連れて社宅の建設に向かった。


──その直後。場面は屋敷に話は戻る。


「さて、埴輪でも作るか」


私が伸びをしたその瞬間、


「いえ、社長。重大な問題があります」


神妙な顔で、口元に手を当てたレイシアが言った。


「……また?」


「食事の問題です。これまでは社長、佳苗さん、リィナ様、ヨモツさん、山田さん、私の6人だったため、ヨミさんお一人で三食を用意できていました。ですが──」


レイシアは真顔で続ける。


「健さんをはじめ、12人も増えました。つまり、今後は18人分の調理が必要になります」


そうだった。一気に3倍。


「今のキッチンと、五合炊き炊飯器と、ヨミひとりじゃ……無理か」


ヨミは、山田がヨモツの弟子になってから暇になり、“何か役に立ちたい”と志願して食事係に任命された。


その熱意は買うけど、現状は完全にキャパオーバー。


「求人票……残ってたっけ」


私はポストに視線を向ける。未使用の求人票、ゼロ枚。


これはもう、「自力で何とかしろ」ってことだろうか。


「でも……課金ガチャで来る人材、正直まともなのいなかったよね?」


「ええ。これまでお越しになった方々は皆さん……ええ、非常に個性的でして……」


レイシアは言葉を選んだが、それはつまり“ヤバい人ばかり”ということだ。


「しかも今のキッチンじゃ、物理的に18人分の調理は無理だよね。っていうか、放っといたらどうなる?」


「この辺りは僻地ですから。山、森、川があります。おそらく──ヨモツさん主導で野生化するかと」


「野生化……?」


「狩り・採集・漁。自給自足への移行です。井戸水はありますが、トイレはひとつ。18人になれば渋滞不可避です」


「……健さんに、トイレ作ってって連絡しとくわ」


食事の問題も、どうにかしなきゃ。私や佳苗が手伝えば何とかなるかもしれないけど、そうすると埴輪が間に合わなくなる。


当然、クレームも増える。悪循環だ。


「弁当の配達ってアリ?」


「赤字は覚悟してましたが……皆さん力仕事ですから、お弁当ひとつじゃ足りませんし、栄養も偏ります。結果、やっぱり野生化かと」


──そのとき、チャイムが鳴った。


「こんな僻地に……誰?」


玄関を開けると、和風メイド服の小柄な少女が立っていた。黒髪を一つにまとめ、高校生くらいの年齢に見える。


「……あっ。11人の中にいた子だ」


すぐにステータスを確認する。


──カタリナ。星1つ。


なんか、まぁ……そこそこっぽい。


「どうしたの? 入って」


「失礼します。社長にお願いがあって来ました」


きっちりとお辞儀した彼女は、控えめに言った。


「……棟梁に言われまして。私、建築作業が向いてないそうで……配置換えをお願いできませんか、と」


まぁ、だろうね。

こんな華奢な子にトンカチ持たせたら事故待ったなしだ。


「カタリナって、料理はできる?」


「はい。前の世界ではメイドでしたので、ある程度なら。ただ、補助が主でしたが……」


「ヨミ、いる?」


「なんでしょう?」


現れたヨミは、大鎌を背負いながらも、手には包丁。怖すぎる。


「この子がいたら、18人分の食事作れる?」


「できたら──大きな厨房がほしいです。椅子とテーブルも」


「つまり食堂だよね。健さんに相談しよ……」


完成までの間、どうしよう。やっぱり野生化?


「いえ、食材は配達してもらえるので、調理手段さえ確保できれば──」


そこへ再び、チャイムが鳴った。


「今度は誰よ」


玄関を開けると、また高校生くらいの少女が立っていた。とんがり帽子にマント──魔法使いスタイルだ。


「棟梁にクビにされましたぁ! 私、頑張ったのにぃ!」


ステータスを見ると


シエル ⭐️


風魔法で木を切るよう指示されたが、威力を調整できずに大木を50本なぎ倒し、現場をめちゃくちゃにしたらしい。


火の魔法は山火事寸前、水の魔法は洪水一歩手前。


「どうしたら……もうあんなところに戻りたくないです!」


「そしたら問題はねぇべ」


いつの間にか、ヨモツが背後にいた。


様子を見に来たらしい。


「穴掘るべ。竪穴住居の屋根なしバージョンだ。そこに土器を置いて焼く。熱ければ熱いほどいいだよ。穴の中だから火事にもならねぇし、念のため外壁もつけるだ」


「埴輪は?」


「後回しだべ。今は実用優先。模様とかほらねぇから、すぐできる。穴は女神様が掘ってくれるだよ」


「……え?」


「さすが女神様だな~。手で掘るの得意なんだべ?」


モグラ扱いされるリィナ。無言で地面に潜っていった。




穴に土器を設置したところで──


「ヘルファイア!」


シエルが放った炎が、勢いよく燃え上がる。


「オラの土器は、あんなんじゃ負けねぇだ。ほれ、こっちに火を移して焚き木にするだ。水はこの子がいれば困らんし、貯水湖をつくれば風呂もできるだよ」


──ヨモツ、まじで優秀すぎ。


とりあえず、食堂が完成するまで野生かは防げそうだ。




私は思った。


私、会社を作ったんであって村作ってない?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ