表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/42

千歳、社宅を建ててもらう。

「無理だってば……!」


私は思わず頭を抱えた。


ヨモツが作る埴輪は、まさしく“本物”。魂がこもった一点物。量産なんて言葉とは無縁の代物だ。


──問題は、その時間。


「一体につき二日かかるのに……注文数、百五十体って何?」


伝票片手に泥だらけの私は、ちゃぶ台の前で絶望していた。


「二人体制でも三百日……。年越すどころか、来年の夏まで無理なのです……」


佳苗は発送遅延の謝罪動画を編集中。

リィナと私は毎日泥遊び(※埴輪制作)で手伝い中。

レイシアは法人対応とクレーム処理で目の下にクマを飼っている。


──全員フル稼働。それでも、完全に人手不足だ。


ふとポストを見ると、そこには「求人票:未使用 1枚」と記されていた。


 


「……これ、使うしかないよね」


「また古代人が来るかもなのです!」


期待に目を輝かせる佳苗を、レイシアが冷静にたしなめる。


「ヨモツさんがもう一人来たところで、効率は倍にしかなりません。問題は労働環境です。この屋敷、空き部屋は残り一つだけ」


「また押し入れ生活だね。リィナ」


「それは断固拒否なのじゃ! 我も手伝っておるのに!」


「あと物置は住宅としての法的機能を満たしていません。現状、山田さんが善人だから許されてるレベルです」


「……よし。改善してくれそうな人材を期待しよう」


 


「いでよ! 求人票!!」


 


手をかざすと、例のBGMとともに求人票が舞い降りる。


即座にポストに差し込み、ティッシュ箱神棚に深々と頭を下げる。


「頼みます! この会社の未来、あなたに託します!」


 


ぽわっ──


水色に光るポストから白煙が噴き出し、男が登場した。


 


「おう、オレは大工の健さん! よろしくな、ガキども!」


 


ハチマキ、白T、腹巻き。声、でかい。


社員証には:


 


健 ⭐️⭐️⭐️


 


「……おっさん率、高すぎない? しかも完全に昭和!」


「地声で耳が割れるのです!」


「まずは社宅からだな。地図あるか?」


佳苗がスマホの地図を見せると、健さんは屋敷から150メートルほど南を指差した。


「この辺、地盤ええな」


「いや、そこウチの土地じゃないよ?」


「では、買っておきましょうか?」


と、レイシアがさくっと言う。


「この屋敷を中心に半径3キロ圏内、30円で購入可能です」


「地価バグってる! なんで!?」


「最近の調査で、この屋敷の地下に魔王が封印されていることが判明しまして」


「は!? 魔王!?」


「山田さんが草むしりしてたら地下からイビキが聞こえまして。世界のミットン調査団が調査したところ──」


『あ、これ魔王ですね』って。


「魔王の扱い、軽っ!」


「おかげで地価が急落しました。全域買っても30円です。まぁ、復活したら死にますけど」


「命より安い土地ってなに!?」


 


「ま、話はあとだ。社宅建てるぞ! でかいやつな!」


健さんがどんと胸を叩いた。


「あとあの気味悪い人形の工場も作ってやる。外仕事じゃ、夏は干上がるぞ」


「それ、めっちゃありがたい!」


「お米より早く熱中症になるのです!」


 


「でな、社長」


健さんが私に振り返る。


「さすがにオレ一人じゃ間に合わねぇ。人手が欲しい」


「……そう言うと思った」


私は財布からなけなしの三千円を取り出し、ポストに課金。


すると……。


 


ぺっ、ぺっ、ぺっ……


 


──連続で人がポストから吐き出された。その数11名。


「うーん、ドクロマーク多っ!」


全員、社員証にドクロがついている。中でもひときわ目立つ金冠のじいさんは:


 


フランクリンス ☠️☠️☠️☠️☠️


 


「これは……暗愚の王。民を苦しめ、酒と女に溺れて滅びた王なのです」


「佳苗、ナチュラルに怖い知識ありがと」


「でも戦力は戦力だ。健さん、お願い!」


「任せろ。おいテメェら、動け! ぶっ殺すぞこの野郎!」


昭和の威圧で11名をまとめあげる健さん。なるほど、この口の悪さが⭐️3止まりの理由か……。


 


こうして、健さんを中心に社宅建設が始まった。


「外注より半額で済みますし、男性寮・女性寮を分けられるのはありがたいですね」


とレイシア。そして、


「完成したら、私は女性寮に住みます」


「え、今の屋敷でいいのに」


「私は社員ですので。きちんと線引きはしたいんです」


「……そっか。そしたら部屋また空くなぁ」


「将来、社長に家族ができた時のためにお使いください」


「か、家族!?」


「まぁその頃には会社は別に作った方がいいとは思いますが」


「な、なんも考えてないわそんなの! あははははは!」


 


──こうして、ピコリーナ・カンパニーの社屋整備は、思わぬ形で進み始めた。


だがこの時はまだ、魔王がほんとに目覚めかけていることを、誰も知らなかった──のだが。





健さんの指揮のもと、社宅はたった数日で完成した。


なんと10階建て。1階から4階までワンルーム10畳。5階からはわからない。住んでみてからのお楽しみだそうだ。


階層は地位に応じて振り分けられ、出世すればするほど高層階&部屋もグレードアップしていく仕組みらしい。


「努力と昇進が目に見える。理想の社宅システムなんですね」


「すでに我のランクは神じゃから最上階に神殿を用意してもらった」


「それはおかしいよ?」


「異議ありなのです!」


 


レイシアは4階。


ヨモツと健さんは1階を合宿所のように改造し、毎晩酒盛りしていた。

 



──ちなみに山田はというと、


「社宅、引っ越さないの?」


「いえ、自分はこの物置が一番落ち着くんだよ」


「うそぉ!? 湿気すごいし虫出るよ?」


「それもまた自然というやつなんだよ」


「……うん、わかった。自己責任でね」


こうして、山田だけは物置に住み続けることになった。


謎の愛着があるらしい。たぶんちょっと変な人だ。


 


屋敷には千歳・佳苗・物置の山田。


そして向かいには、ピコリーナ社宅。


──会社は着実に“会社らしく”なっていっている。


とはいえ、まだまだ波乱の種は尽きなさそうだ。




それにしても。


屋敷の地下に魔王?


死神だけで十分なのになぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ