千歳、両親を招く。
「あまり気づかれていないピコリーナのすごいところ」
ピコリーナ村の領域内では、実は“自動翻訳”が行われている。
ずっと、異世界人にだけ都合のいい設定だと思っていた。けれど──
「ピコリーナの技術をよこせ。さもなくば関税を引き上げる!」
そんな風にどこかの大統領が直々に言ってきたとき、「あ、自動翻訳されてるじゃん」とようやく気づいた。
「やだよ。関税あげたきゃあげれば? その代わり、あんたの国の人の入村料は1億円にするから」
「なにっ!?」
「言っておくけど、ピコリーナ村は圧力に屈しない。やりたきゃやってみな。その代わり、やられたらそっちの国民全員を永久に下痢にする」
──静まり返る空気。
「考えてもみて。国民全員が下痢になったら、仕事も任務も何もできない。全員トイレから出られない。しかも、トイレの数足りないでしょ? 衛生面も崩壊する。どうするつもり?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「私はね、全世界のみんなに“レジャー施設”として楽しんでもらいたいだけ。国家のためには動かない。分かった?」
「わからん!」
私は指を鳴らす。フルボッコにされた上、磔にされた誰かがミントによって映し出される。
「……なんてこった……!」
「こうなりたくなければ、ピコリーナ村を“善意ある村”として正式に認知してね」
この対談の映像は全世界に中継され──
「あの村長、すげぇ……」と話題沸騰。観光客は爆増した。
もちろん、悪意ある来訪者も増えたが──
「悪意を持ったまま入村すると、下痢になります」
それをリィナが神託としてしっかり告げるのであった。
⸻
こうして、ピコリーナ村は“世界一治安のいい村”として、ますます栄えていった。
でも、ひとつ問題がある。
私は社長室で、秘書のレイシアや参謀の佳苗に相談した。
「うちの両親、道東の昔炭鉱と漁業で栄えてた町に住んでるんだけどさ。大統領との中継見て、腰抜かしたって」
「それは……まぁ、無理もないですね……」
「大学卒業して一年たたずに、娘があんなことしてたら、誰でも驚くよね。“あんた今どこで何してるのさ!”って電話で怒鳴られた。で、週末来るって」
「そんなヤツ、殺せば良いじゃろう?」
「親だからダメです、ヨミさん」
いきなり現れた死神ヨミを制止する。
「でも、千歳様を悪く言う者を、ミントやレミットが黙ってるとも思えません。実際、大統領のときも……爆発寸前でしたよね?」
「……ちゃんと、言い聞かせておかないとなあ」
「ご安心ください。全従業員をもって、おもてなしをいたします」
レイシアのそのセリフ。嫌な予感しかしない。
⸻
そして週末。
ピコリーナ駅まで迎えに行った。
久しぶりに会う家族。父も母も妹も、元気そうだった。
「村って聞いてたけど……なんだか、ものすごく栄えてないか?」
と父が驚き、妹が地下シャトルを指差す。
「ねぇ、お姉ちゃん。あれなに?」
そこには、でかでかと掲げられた横断幕。
「ようこそ! 偉大なる社長様のご家族! マンセー!」
「“マンセー”ってなに?」
「お母さん、気にしないで。スルーして」
山頂に到着すると──
「ようこそ! ピコリーナ帝国へ!」
「待て。なんで帝国? なんで軍服?」
先頭で敬礼してきたのは、ヨモツ。なぜか軍服を着ている。
「キリさんが、“かつての日本では皇族をこう迎えた”って……」
「情報、100年古いから!! 普通にして! てか仕事して!」
「軍服100着、夜なべして作ったのに10秒で脱げって、もったいないべ……」
無駄な労働すんな!!
すると幽霊たちが飛んできて、父母妹に将軍服セットを差し出してくる。
「かつらつき!?」
「朝廷の衣装の方が……良かったですか?」
「だからいらないって言ってるでしょ!」
結局、軍服は“マニア向け土産”として販売することになった。
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「千歳、あれ……幽霊よね?」
「うん。あのデパート、全部幽霊が接客してる」
「……え?」
「でも、戦場に寄付した服が破れなかったって軍人に評判だったんだよ」
「……え?」
「隣の土産店、売り子はたぬきや動物だけど……まぁ人間じゃないけど包装できるのは彼らだけ」
「ええ……?」
埴輪工場は見せられないと判断し、ピコリーナ湖へ。
「もうすぐピッシー(恐竜)と、水神龍出るよ」
「え?」
「最近キャットフードにハマってるから大丈夫」
「えぇ……」
⸻
「千歳、家で休みたい……」
「温泉行く? 魔王と四天王くらいしかいないけど」
「家で……!」
帰路途中、妹が言う。
「お姉ちゃん、十字架に磔にされてる人いっぱいだけど……」
「あー、あれ罪人。今裁判待ち」
「怖い……」
「すぐ慣れるよ?」
「……え?」
⸻
「ずいぶん大きな家だけど、家賃いくらだい?」
「買ったよ。300円」
「事故物件じゃ……?」
「死神いるけど事故は起きてないから大丈夫」
「……死神?」
「ご飯うまいよ?」
──話がこじれてきたので、屋敷の中へ。
「おかえりなさいませ。社長とご家族様。秘書のレイシアと申します」
ようやくまともな人が出てきたと、家族も一安心。
が──
「社長、今朝、異世界に10名を島流しにいたしました」
「あと、タンポポを踏みつけた男には、大魔神で踏みつけ返したうえ、10万円の損害請求。妥当とルビーが申しております」
「いいよ、それで」
……一番怖いのは、淡々と感情なく話すレイシアかもしれない。
⸻
しかし、二泊三日を経て、家族にも変化が。
「最初はとんでもない場所に来たと思ったけど、住んでみたら都だね。偏見はよくないって、認識を改めさせられたよ」
父は、死神の作ったチャーハンをおかわりしている。
「たぬきの売り子って、着ぐるみだったのよ。お母さん、完全に騙されちゃった」
──自動翻訳のせいで誤認してたらしい。
「お姉ちゃんすごい! スタジアム面白かった!」
よかった。
⸻
こうして、家族はお土産を手に無事帰っていった。
でも……
なんか、忘れてるんだよなぁ。
──あっ、そういえば。
マグマの掃除してるリィナ、どうなったんだっけ……?