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第弌話 北斗夏翔

 騒がしい表通りを避けると、必然的に静寂が待っている。


 腰についている武器たちは、ガチャガチャとは音を鳴らさない。ただ、こういう静かなところに来ると、物と物とがぶつかり合う音ははっきりと聞こえるようになる。自分の足音に合わせて、コツコツと、くもった音が耳に響く。


「何だお前」


 北斗(ほくと)夏翔(かける)は言った。目の前には一人の男がいる。


「いきなり立ちふさがって悪かったな。俺は伝羽(でんば)良兵(りょうへい)だ。お前が北斗夏翔だな?」

「そうだけど」


 明らかな殺気と、明らかな無気力。良兵が闘志を燃やす一方で、夏翔はそちらを向いてすらいなかった。二人の年齢差、17歳。二人の温度差、約60℃。見てられない。


「俺、早く行きたいんだよね。どいてくんない」

「俺はお前に用があるんだよ」

「は?」


 夏翔は直感的に思った。来る、と。


「オラァァァァ!」


 雄叫びとともに、良兵の拳が一直線に夏翔を襲う。耳元を強烈な風切り音が通った。無意識に避けたのだが、拳が突き刺さったアスファルトの地面を見て、少し驚いた。岩が崩れるような爆音とともに、地面が、バキバキに割れているのだ。


「固くなんのか、お前」

「良く分かったな、さすがは12歳の暗殺者と言ったところか」


 言動こそ落ち着いているが、もう先程までの良兵の姿はどこにもない。ただ獲物を狩る、獣のような目をした人間がそこにはいた。殺意を隠しきれておらず、良兵の拳はめり込むような音を立ててどんどん硬化していく。夏翔は武器たちを腰から外した。


「お前の言う通り、俺は硬化(ドゥア)Ⅱを持つSランク能力者だ!」

「どーりで自信満々なわけだ」


 岩のような硬さをした良兵の拳を見て、夏翔は言った。その拳は、形すらも岩のように変形していたのだ。いや、腕自体がメイスのようになっている、というべきだろう。手首は完全に固定されており、かつ侵食するように、腕まで硬化が進んでいる。それだけ威力も高いのだろう。


「この際だから言っておくが、俺はお前の暗殺を依頼されている」

「へー。だから?死ねってんだろ。やだよそんなん」


 良兵が笑みを浮かべた。次の攻撃で決める気だと、すぐに分かる。


「いやだ、じゃない。お前はここで死ぬんだよ。硬鎚(マス・ドゥア)!」 


 武器となった右腕を振り回し、雄叫びを上げながら夏翔に走り寄る。そして、微動だにしない夏翔に文字通り、鉄槌を下した。


 だが、良兵の拳は再び地面を破壊した。そこに夏翔の姿はなかった。


「いったい、どこへ...」

「ここ」


 驚いたのも無理はない。その声は、良兵の後ろから聞こえてきたのだ。僅か数秒前までは全く動かずに、ただこちらを見つめていただけだったのに、今はその男に後ろを取られているのだから、動揺しないほうがおかしいだろう。


「お前、まさか」

(あっ)


 質問をする時間はなかった。なぜならすでに夏翔の拳は、良兵の背中に当たっていたからだ。


(さい)!」


 良兵は夏翔の拳に弾き飛ばされ、高々と宙を舞い、アスファルトの割れた部分に背中から落下した。


「うぐはぁ!」

「まだ息あんな」


 既に夏翔は良兵の上に乗っていた。もう良兵に戦意はなかったが、逆に夏翔に火がついてしまっている。こうなったらもう誰にも止めようがない。少なくとも、今この場にいる人間に、そんな強さはなかった。


「ちょっと待て!お前、もしや『重複能力者』か?それなら」


 言うまでもなく、止めようがなかったのだ。


真打(しんうち)


 良兵の顔の正面に、振り下ろされた夏翔の腕が当たる。直後、また岩が割れるような、鈍い音が響いた。だが、地面を粉々にしたのは、夏翔の腕ではない。アスファルトに叩きつけられたのは、取れた良兵の首だったのだ。


 良兵は、夏翔の腕が顔に当たる前に、全身硬化(テロ・カレニ)を使って防御体制を取っていた。だが、夏翔はそれも粉砕したのである。そのため首は、硬い肉片となり木っ端微塵になってしまっていた。


 一人の男が戦いによって今、死んだのだ。苦しんではいない。それが何よりの救いだった。これ以上の戦いが続いたのなら、惨劇は目に見えていたからだ。


 夏翔は立ち上がり、落ちている武器たちを再び装着する。その手に震えはなかった。


「張り合いのねぇ奴だ」


 一方が一方を圧倒する、残虐的ともいえるこの戦いを見ていたのは、周りを取り囲んでいたブロック塀だけだった。

え~、ギャグ&シリアスバトルのラノベです。

これからはギャグちゃんとあるので楽しみにしててね。

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