(8)再会
1361年、近畿地方を襲ったいわゆる正平地震は、千種、足利双方に少なからず被害をもたらした。
千種さんの天幕は、背後から襲撃されることの無いよう小高い丘のがけ側、つまりオレがバックドロップで落ちた鉄柵のパイプのあたりに設置されていた。確かに敵からは狙われづらいが、地震の揺れでがけ側の丘が崩れ、わずか2、3メートルではあったが、テントの中にいた千種さんと正孝ごと落ちてしまった。
「殿、親方様!」落下した際に潰れて覆いかぶさってきた天幕をまさぐりながら正孝が叫んだ。
「大丈夫じゃ、正孝。心配ない」そう言って、千種さんはもぞもぞと自力で這い出してきた。
「親方様! お怪我は!?」崖の上からも若い者たちが心配そうに顔を覗かせた。
「ない。大丈夫だ、心配するな」
「しかし、激しい揺れであったな。皆は無事か」と千種さんが叫ぶと、皆無事です、と返事があり、千種さんは胸をなでおろした。
そうしてすぐに、
「麓の村は大丈夫であろうか。正孝、誰か使いの者を村に!」
「承知しました!」 そう返事をして正孝は崖の上の若者に村の様子を確認してくるよう指示を出した。
千種さんは「よし」といった感じでうなづきながら自分たちに被さっていた天幕に、ふと目をやったその時、
「正孝」
と低く、押し殺した声でつぶやいた。
潰れたテントの一点を見つめる視線の先では、何やら天幕の下でもぞもぞと動いている。がけ下に落ちた時、テントの中にいたのは千種さんと正孝の二人のみ。
だとしたらあそこで動いているのは誰か。正孝は素早く千種さんの前に出て、刀の束に手を伸ばした。
「何やつか! 動けば、切る!」 一年にはかなわないまでも、正孝とて千種家臣の中では群を抜いた腕前である。
千種さんたちを助けようと崖上に集まってきた若い衆も一斉に弓を構える。
「そ、その声は正孝か!? わたしだ、一年だ!」
え!?っと声を上げ、千種さんと顔を見合わせる正孝。
「今出ていく、切るなよ正孝! おのれこの天幕、どこがどうなっているのか・・・」
もぞもぞと動きながら、ようやく天幕から這い出してきたその偉丈夫をまじまじと見てみれば、それはまさしく名和一年であった。正孝はようやく刀から手を降ろし、一年の名を叫びながら安堵した。
「一年よ、なぜに天幕から・・・。ここには確かに親方様とわししかいなかったはず」
「あぁ正孝、本当におぬしか。親方様も。よかった! 間に合った!」
正孝は、一年が出てきてもなお天幕がもぞもぞしているのを認め、再び刀に手を伸ばすと、
「大丈夫だ」と一年に微笑みながら制された。
テントから這い出たオレとハナちゃんは、千種さんの姿を認めるなりこう叫んだ。
「千種さん! 戻った、戻った、戻れたぁ! 戻れたんだ!」