(4)ハナちゃんと
アパートに戻ってもなんだか今朝の出来事が腑に落ちず、かといって確たる証拠もなく、頭の中は堂々巡りのままだったので、とりあえず話だけでも聞いてもらおうと、同じ山岳チームKyoto Alpine Teamのハナちゃんに電話して、事の顛末を聞いてもらうことにした。
「どう思う?」
「バックドロップの痛みがしばらくあったってことは、落ちたのは確実なのよね。だけどストックがないのは崖下まで落ちてしまったからなのか、それとも健太郎のいう陣地のテントに置いてきたのかは定かでない」
「うん」
「せめて、ストックがあれば刀をはじいた時の傷くらい残っているでしょうにね」
オレは午前中の5分の出来事、いや彼らに会ったのが事実だとしたら、一晩の出来事を、なるべく詳しくハナちゃんに話した。話しながら何気にいじっていたiPhoneを見て飛び上がって声を上げた!
「なによぅ、びっくりするじゃない!」電話の向こうでハナちゃんの抗議の声が上がった。
「写真だ、写真が残ってる!」
「写真?」
「あぁ! 今話したことがホントだって証明できる写真だよ。オレが会った三人の侍を写した写真だ!」
「写真なんて撮ったの?」
「うん、オレが未来から来たってことを証明するのに手っ取り早いだろ、だから写真とビデオを撮って見せたんだよ。そうだ、これが残ってたじゃないか」
「で、仮に健太郎の話が本当だとして、この後どうしたいの?」
「どうって、、、」
「戻って、千種さん、あなたはここで戦死しますから登ってきてはいけません、雲母坂で待機していてくださいとでも言うつもり?」
「いや、そこまではまだわからないよ。まだそもそも会ったことないし、戻ったところで会わせてもらえるかもわからないし。ただ、、、」
「ただ?」
「たった一泊だけど世話になったあいつらに礼の一つも言えないまま戻ってきちゃったのが心残りというか、残念というか、、、」
「じゃもう一回バックドロップしてみたら?」
「いやぁ、それもどうだかなぁ。あれ、結構痛かったんだぜ。それに絶対行けるという保証があるならともかく、行けなかったら痛み損だよ」
「でもアパートに居たって何も始まらないわよ」
「そうだよなぁ・・・やっぱオレ、とりあえず行ってくるわ」
「千種さんの石碑?」
「あぁ」
「じゃ、私も行く! もしかして700年前のお侍さんに会えるかもしれないなんて、なかなかないわよ、ドキドキだわ! モバイルバッテリーとか忘れずに持ってくるのよ、じゃあね、石碑のところで待ってるから」
そういうとハナちゃんは一方的に電話を切った。
「ったく。昔に戻れるかどうかもわからないのに相変わらずだなぁ」
オレはハナちゃんの無鉄砲さに半分呆れながらも、モバイルバッテリーやらヘッデン、単三電池にありったけのボールペンなどをザックに詰め込んで、雲母坂目指して自転車を飛ばした。