期間限定の恋人は妹?
実力不足ですみませんよろしくです。
「朝霞蒼越君……ずっと……ずっと好きでした!!付き合ってください!!」
震える声は白息になる冬空の下、赤く頬を染め花のように可憐な彼女は目を輝かせ言い放つ。
その日、とある高校の体育館裏で、十人程度の生徒が放課後に集まり告白大会が行われていた。
俺も幼馴染2人と共に呼び出されていた。
そして、光栄にもその中で名前を呼ばれたのはなんと俺だった。
その恋する眼差しは神秘的な世にも珍しいオッドアイ。そして栗色のウェーブのかかった長い髪は美しく、豊満な胸に相反してすらっと華奢なボディ。まさに非の打ち所がないルックス。彼女はそう……学校一……いや、世界一の美少女だ!
まさに全人類の男にとっては夢のようなシチュエーションに対峙しているだろう。.........俺の答えは勿論こうだ。
「えっ?気持ち悪ぅ!!?むりぃ!!」
酷いと思うか?
俺はそうは思わない。
だってそうだろ?その世界一の美少女《朝霞瑠璃》とは俺と血の繋がった妹なんだから。
綺麗な夕焼け時、ボロ雑巾のように変わり果て
た哀愁漂う男の姿がそこにはあった……そう.........俺だ。
「ふぅぅぅぅー……。死ぬかと思った……」
我が家にやっと着いた安堵からドデカイため息をついた。
間違いなく人生史上最悪の1日だったのだ。
「ただいま」
俺は玄関のドアを開け絞り出すようにか細い声を出すと、待ってたかのようにすぐに返事が返ってきた。
「おかえりなさい!!」
出迎えにきたのはうさぎのもこもこした可愛い部屋着姿の妹だった。
あれだけのことをしでかして呑気なものだ。
「え!?お兄ちゃん!?なんでそんなボロボロでパンツだけなの!?制服は??ヒドイ!猛獣に襲われたの!!?」
ピキ。
俺は妹に初めて怒鳴るかもしれない。
「だっ誰のせいじゃ!!!!おまっ!…おまーーん!の告白で俺は人生終わりじゃーーー!!」
「うえっ!?……どういうこと??もしかしてあの後になにかあったの!?」
「あんな!あんな酷い目にあったのは初めてじゃーー!!」
♢♢♢
それは告白後の出来事だ。
俺が拒否したことで周りにいた瑠璃の友達と口論になったのだ。
「気持ち悪いはあんまりじゃないですか蒼越先輩!瑠璃は本気なんですよ?」
その場にいた子達が俺に詰め寄ってきた。
「いや本気だとまずいよ。血の繋がった妹だよ?」
「妹と恋愛したらダメな決まりあるんですか!?」
「そーだ!そーだ!」
「常識に囚われるな!!」
え?いやダメだろ?なんなのこれ……俺が悪いの?周りは瑠璃を応援するムードで俺が何故か糾弾されてるかのようだ。
「そんなむちゃくちゃ言われても困るよ。世間体もその……あるしさ。そもそも異性として見れないよ」
それに……瑠璃には許嫁がいたりする。
高校1年生になったばかりの頃、瑠璃は許嫁がいたことを親から聞かされる。
どうやら親同士が仲が良く相手方がえらく瑠璃を気に入ったらしいのだ。
とんとん拍子に決まったという。
高校を卒業したら嫁ぐと決まっていたのだが……
瑠璃は何を考えてるんだか……もしかしてヤケになったのか?
とりあえずここは穏便に切り抜けたいが…
「い、一日恋人ごっこじゃだめかな?」
何が正解かわからず苦し紛れに軽口を言ってしまう。
「先輩それは誠意がないと思います!!」
「ふざけてるのかぶち殺すぞ!!」
「えっちゃんそれはいいすぎよ」
ええ……?こわ。 なんでこの子達こんな攻めよってくるの?もしかして事情話したのか瑠璃?このえっちゃんって子凄い剣幕……ヤクザかな?……怖いよ。
「じゃあ一日限定恋人で……そのお願いします」
「なんだそりゃあ!?つーか短すぎるだろ!!」
ひー!!えっちゃん圧が凄すぎてタジタジになってしまう。
「付き合うなら1ヶ月が普通だよねー?」
「ねー!」
いや、君らの普通とか知らんし。参ったな……
「その、じゃあ間をとって1週間で……」
「じゃあ、じゃあってお兄さんあんたねえ!!」
ビクッ!
うおお!!これもうなに言っても怒られるんじゃん!
「待ってえっちゃん!それにみんな……ほんとありがと。瑠璃のために必死になってくれて。お兄ちゃんを責めないであげて」
瑠璃は目を潤ませ幸せそうに笑った。
いや全部瑠璃のせいなんだけどな。とりあえずよかった……この場は収まったか。
「瑠璃がそう言うならいいけど」
「デートしてキスとかしてもらいなよ」
「もうそのまま結婚よ!」
キャッキャッ盛り上がりながら満足したかのように彼女達は帰っていく。
「お兄ちゃんありがと。また後でね」
瑠璃は手を振り学校を後にした。
ふぅー、……とゆうか具体的にどうするか決まってないけどどうなるんだこれ?
ただでさえこんなの親とかに知れたらやばいのに気が気じゃない……ん?……なんか
視線感じる。
視線の方へ目をやると残っていた幼馴染2人が冷たい眼差しをしていた。
え?ダメだった?俺なんかおかしい??
変な汗が出てきた。
傍観していた2人が駆け寄ってくる。
「あんたバカじゃないの?まだ気づかないの??あの子の目を見てなにもわからなかったの?」
「え?目……?どういうことだ?」
家がお隣さんで幼馴染の植苗花橙は青筋を立て捲し立てた。
「アホ!!シスコン!変態!クズ!鈍感!」
罵しられた挙句。
「さよなら!!別れましょ!!」
付き合ってもないのに彼女面した花橙に別れを告げられる。
そして今度は幼い頃からウマが合い大親友のあつしがずずいと迫ってくる。
「俺、ホモなんだ!!」
いきなり衝撃的なことをカミングアウトをされる。
「俺達もう終わりだな!別れよう!!」
またもや付き合ってもないのに別れを告げられた。
今日1番の衝撃すぎて呆然としていた。
そしてどこからともなく現れた集団に囲まれる。
どうやらこの学校にはあつしを筆頭にした蒼越ファンクラブというものがあったらしく。
「私達をよくも裏切ったわね!」
「信じてたのに!!万死に値する!!」
「このサラサラな黒髪も!適度に引き締まった体も!スラッと長い足も誰かのモノになるならいっそ私達が壊してやるわ!!」
「ひっ!?うわあああー!!!」
何故かやりたい放題ボコボコの袋叩きにされ、その後どうでもいいファンクラブの解散宣言がなされた。
ちなみに全員屈強な男である。
俺は親友と幼馴染とついでにファンクラブとやらを同時に失なった。
これがことの顛末である
♢♢♢
「ほんととんでもない目にあったんだからな!」
玄関前で大声を出して近所迷惑かも知れないが言い出さずにはを得なかった。
「ごめんなさい……まさかそんなことになるなんて……」
「なんであんな告白したんだよ……人をたくさん巻き込んでさ?」
「本気の気持ち伝わらないと思って」
何言ってるわからないくらい小さな声だ。
俺のパンツの端っこをつまみ、目を合わせず照れながらモゴモゴ言う妹。
そんな照れながら可愛くしても許さねえ!……可愛い……でも、妹だ!許さねえ!!つかパンツつまむな!!!
これまでは品行方正で反抗期も特になく兄妹として仲良く過ごしていたはずの妹が.......俺を好きと告白してきた。だが許嫁がいる手前このままじゃいけないよな。
「あのさ、学校ではああ言ったけどなかったことにしてくれないか?」
「え?やだ」
ピキッ
俺は目の色を変える。
「あのな.......そもそも瑠璃には許嫁がいるじゃないか?そうでなくても1週間も付き合ってたら噂になって父さん達にだってバレるかもしれないんだぞ?ただでさえ俺達は目立つ目をしてるのに」
そう、俺達兄妹は2人ともオッドアイなのだ。
俺達の父は日本人だが、母親は欧米人なのだ。つまり俺達はハーフということになる。遺伝的に受け継がれたそれはヘーゼルアイと言う。厳密に言えばブルーアイからヘーゼルアイになったのだがそこは割愛しよう。ヘーゼルアイは色んなタイプの色があるのだが、俺達は、黄、赤、茶などの複数の色が混ざった目の色をしている。日本ではこの目を持つ人はごく稀で、それが兄妹共に隻眼ともなれば天文学的確率になる。
片目だけが黒く、もう片目が特殊ゆえに小さい頃は何かと周りが騒がしかった。テレビやマスコミが押し寄せたこともあるくらいだ。
俺は左目、瑠璃は右目がヘーゼルアイなのだ。
「大丈夫!パパとママにはまだバレてないよ!」
「バレたら殺されるわい!!」
「後で報告するね!」
「バラすんかい!!」
頭のネジが完全に飛んだ妹。
瑠璃は居間へ行く素振りみせる。
嫌な予感がして俺は玄関にある靴箱見て両親が2人とも帰ってきていることに焦る。
「ま、まてどうするつもりだ!まさか今なのか!?ほんとに言うつもりじゃ!!それは本当にシャレにならないよ!!?やめたまえ!!!ややややめろー!!」
テンパって変な言葉使いになりながらも止めようとするが、それを振り切って妹はリビングへ向かった。
急いで追いかけるも.........時既に遅し……
駆けつけた時には母親は泣き崩れ、父親は白目を向いて放心状態になっていた。
「まだ数秒しか経ってないのに何をどう話したんだよ!」
ガタッ!!
俺に気づいた父親が錯乱しだす。
「なんでお前パンツ一丁なんだ!なんで?なんでなんで?あばばばばば!!許嫁がいるのに!!オマエ、コロス、フシギダ……イマナラチュウチョナクヤレル!!母さん刀持ってこい!!」
「そんなものないわよ」
「やべえ!イカれてやがるぜ!!父さん早まるな!!
うおおおおおおおお!!!!」
俺はボロボロながらもなけなしの力で錯乱した親父を体を張って止める。
その場は何とかやり過ごしたが、その日のうちに家族緊急会議が開かれた。
両親は混乱していた。
妹は結婚だのなんだの騒いでたらしいのだが……
……会議をして開幕。
瑠璃の謝罪によりその会議は呆気なく閉幕する。
俺は俺でその気ないことをはっきり言い無罪放免とされた。
瑠璃は説教されたもののそこまで重い罰は受けなかった。
日頃の行いも悪くないだけにこんなもんなのか?
「そんなに許嫁が嫌だったのか?蒼越を好きと言ったのはもしかして父さん達への当てつけなのか?」
自室に戻ろうとする去り際に、瑠璃は親父にそう聞かれていたが。
「ううん、そんなことないよ」
瑠璃はそう言うも俺は違和感を覚えた。
「そうか……そういえばまだ相手方の写真見る気にはならないか?いいやつだぞ」
「うん。ごめん。まだ結婚する実感が湧かなくて見るの怖いかな。もうちょっと待って」
瑠璃は向こうさんの情報や写真を一切知ろうとしないらしい。
卒業したら結婚だからなあ。
許嫁が急にできただけでもナーバスなっているだろうに。
瑠璃は瑠璃で色んな悩みを抱えているんだな。
そして俺達はそれぞれの部屋に戻った。
「学校行くの気まずくなるなあ……」
夜更けに寝る準備をしてベッドに寝転がっていた。
同じ学校で同じ組なのであつし達に顔を絶対会わせなければならないと思うと気が重い。
コンコン。
ドアからノックする音が聞こえる。
「はい」
返事をするとベッドから体を起こしドアを開ける。
そこにはモコモコうさぎの超可愛い……じゃなかった……瑠璃だった。
「なんだよまだ寝てなかったのか?こんな遅くになんだよ?…父さん達から説教されたばっかりだろ」
「ごめんなさい……今日の事どうしても謝っておきたくて」
ぽりぽり
俺は頭を掻きため息をつく。
「まあ俺も言いすぎたよ」
妹のしょげた顔を見てすっかり毒気が抜ける。
今日はほんとおかしかった。
「まさか殴る人達がいたなんて……。花橙さんとアツシさんに聞いてもらいたかっただけなのに」
「ん?……あれ集めたの瑠璃だったのか!?」
俺はあの告白大会、あつしに呼ばれて参加したが、まさか首謀者が妹だったなんて…
「あの人達お兄ちゃんのこと大好きだから……私からの宣戦布告のつもりだったの。ファンクラブのことはごめんね」
「宣戦布告もなにもあいつら付き合ってもないのに振ってきたぞ。もう関係修復できるのかどうかわからないし変態扱いだよ。まったく……」
「え!花橙さんと付き合ってなかったの!?」
「付き合ってたら報告してるさ」
「よかった」
瑠璃は肩をなでおろす
これであの二人と付き合いが終わるならそれはそれでしょーがない気がする。それより今は妹だ。
「瑠璃の好きってさ、家族として好きではないの?」
「ううん。異性として大好き。結婚しよ」
「いや、どさくさにプロポーズすな!」
俺はずっと子供の頃から瑠璃といたのに、こんなに知らない瑠璃がいっぱいいたなんて…
お風呂やトイレの中までピョコピョコ付いてきて、1人じゃ何もできない甘えん坊で内気なあの妹がここまで積極的になるなんて。
でも諦めさせないとダメだよな兄として。
「あのさ、俺が異性として瑠璃を好きになることは絶対ないよ」
「それはもういいの」
「へ!?」
まさかの返答で口をあんぐりさせた。
「どういうことだ?騒ぎまくって結局何がしたかったわけ?もう俺頭が追っつかないよ。やっぱり結婚したくないってことなのか?」
「どうしても本気で好きなのを伝えたかったの」
今度は照れる素振りを一切見せず、今まで見たことのない強い凛としてとても透き通った眼差しで真っ直ぐ俺を見つめている。
目の瞳孔が開いて凄く迫力のある色になっていた。
こんなにも馬鹿正直に言われたら……こっちが少し照れる。
「こんなことしなくても普通に言ってくれれば」
思わず目線を逸らしてしまう。
「こうでもしないと私と真剣に向き合ってくれなかったよ」
「ぐっ……」
確かに……はぐらかしていたかもしれない。
ここまでさせたのは俺の責任でもあるか。
「ごめ……」
「待って!!」
瑠璃は言葉を遮る
「謝ってほしいわけじゃないの……」
「……俺はどうしたらいいんだ?」
「もう1週間なんて言わない。1回だけ」
妹は手を強く握り少し緊張をまじわせる。
「1回だけちゃんとしたデートをしてほしい」
「それで終わりにするから」
瑠璃は瞳孔が開きっぱなしで怖ぇ。
「テ、デート!?うーん……」
1回だけなら何も起こりはしないか。
「よし、……わかった!瑠璃がそれで納得するなら」
「ほんとに!?やったーーー!これも断られたらどうしようと思ったよ!」
たかが1回のデートに大はしゃぎする妹。
そう喜ばれるとこっちもうれしくなるな。
「じゃあどうせだから今週の日曜日にしようよ!」
「ん?日曜って」
壁に掛かった日めくりカレンダーを見る。今日はサンタンカの赤い花が描かれていた。
「えーと、12月6日は金曜日だから……8日の日曜って瑠璃の誕生日じゃないか。大丈夫か?親父達も盛大にパーティやりたがるだろうけど怒られないか?」
「大丈夫!夜まで出かけるって言っとくよ」
「えと…そうか。それならいいな。はは」
俺は妹相手に何そわそわしてるんだろ…
「じゃあおやすみ。蒼越くん」
ドキ。
妹に名前で呼ばれるのは少し変な気分だ。
こうして俺達は兄妹ではなく異性として本気のデートすることになった。
♢♢♢
幼い頃、私はこの目が嫌いだった。
「あの子カラコンしてる」「調子に乗ってる」「イジメようか」などの悪口を散々言われとても恐かった。
みんなと違うことが不安でどこかに逃げ出したかった。
しかし同じ目をしているお兄ちゃんはけろりとしていた。
聞いてみたことがある。
なんでお兄ちゃんは堂々としていられるのかと。
お兄ちゃんは言う「瑠璃がとても綺麗な目をしてるから俺も誇らしくなってみんなに自慢したくなったんだ」と。
私もそう思えるようになったんだ。
お兄ちゃんがいたから私はこの目を好きになれた。
お兄ちゃんはいつも私を助けてくれるヒーローだった。
♢♢♢
日曜日は気持ちいいくらいの晴天だった。
流石にあの騒ぎの後にデートをすると親に言えば、またあの惨劇が繰り返されるだろうと思い、親にバレないように俺達は時間を遅らせて別々に出発した。
駅前を集合場所にして待ち合わせ場所に行く。
どうやら先に着いたのは俺の方が先だった。
しかし何かイケナイことをしているようで背徳感があるな。
本当にデートっぽくてドキドキしてきた。
暫くして物凄くオシャレな格好をした美少女が遠くから手を振っている。
そう妹だ……
「ごめん待った?」
「お、おう今来たとこ!その、宇宙一可愛いよ!白中心のコーデ似合ってる!スカートも可愛い!」
「え?うん。ありがと!へへ、照れるな。実はバイトしたお金で買ったんだよ。1番に蒼越君に見てもらいたくて」
♢♢♢
そういえば妹は高校入ってすぐにバイトを始めていた。
遊びたい盛りだからバイトしているんだと思っていたが、なんとほぼ全て貯金しているという。
俺は頑張って貯金している妹に「なんでそんなに貯めてるの?」と聞いた事がある。
「いつかする大好きな人とのデートのためだよ」と言っていたが……
♢♢♢
それが俺か!……うおおおお!
なんか恥ずかしい!!!
俺まだどこかで舐めてた……妹とのデートだからって変な気合いを入れずにコートにフード付きのパーカーと無難な服をチョイスしてしまった。
「ちょっと待って俺帰って着替えてくる」
「えっ?なんで!!?」
「ごめん。本気のデートって言われてたけど、まだどこか本気じゃなかった!ちゃんとした格好してくる」
「いいよ!!時間がもったいないよ!!それに!!」
「それに?」
「いつもの蒼越君がいいんだよ」
頬を染めながら耳元で囁く。
なっなんだこいつ!?可愛いな。
「それに真剣になってくれたなら嬉しい。私のこと考えてくれてるのが嬉しいんだよ」
「……さあ、2人だけのナイショの期間限定デートはじめよ!」
最初で最後の異性としてのデート……
どうせ結ばれない2人なのだ。
1回くらい恋人気分になってもバチは当たらないと思った。
それにこの一生懸命さに俺も答えてあげたい。本当に欲しいものはあげれないけど……
「そういえばほんとに遊園地でいいのか?瑠璃は静かなところの方が好きじゃ?」
思い出の場所でもない、お互い数えれる程しか行ったことのないあまり馴染みのないところを指定した瑠璃。
「いいから、いいから。今日は2人だけのデート楽しもうよ」
「お、おお」
そういえば遠出する時は家族みんなで車で出かけることが当たり前だったな。
駅の入り改札前で立ち止まる。
「ちょっと待ってね」
瑠璃はバックから何か取り出す。
「はい!お兄ちゃんの分は切符は買ってあるからね。私、初めて切符買っちゃたよー!」
「えっ?俺も瑠璃の切符買っておいた……」
「ふふふ」
2人とも自然と笑みが零れる
お互い改めて似た者同士と思った。
お互い意思疎通してるかのように無言で切符を交換する。
「ふふ、なんか楽しいね。えー、これ記念に取っておきたいなあ」
「じゃあスマホで決済するか?」
「うん!!」
早速思い出がてきて楽しいそうでなによりだ。
改札を通り電車のホームにて待つ。
「わー、なんか凄いね」
俺よりも過保護に育てられ箱入り娘な瑠璃には何もかもが新鮮なんだろうな。
「電車が来たら手を上げればいいの?」
「それはタクシーだ」
「へー」
興味津々に黄色い点字ブロックの外側に乗り出す。
「バカ!何やってんだ!」
俺は慌てて瑠璃を後ろから抱き点字ブロックの内側に下がらせる。
「内側まで下がらないと危ないんだ!」
「う、うん。ごめんなさい」
ヒヤヒヤさせられる。
ふんわり瑠璃から甘い良い香りがする。
「蒼越君……」
「ん?」
「もう大丈夫だよ」
しまった咄嗟の事とはいえ全力で後ろから抱きしめてしまった。
「わ、悪い」
「ううん。悪いのは瑠璃だから」
俺はそっと手を繋いだ。
「えっ」
瑠璃は少し驚いている。
「危なっかしいからな」
「あ、うん」
しまったいつもの感じで自然に繋いでしまった。
「ごめんちょっと子供扱いしすぎたか。手離していいぞ」
手を離そうすると。
「だめ!」
瑠璃は手をガッチリ恋人繋ぎにし直した。
そして、顔を赤らめながら照れつつも頭を俺の肩に寄せかかる。
「おっ、おい」
なんだか思わず焦ってしまう。
「今は期間限定の恋人だから!」
兄妹でこんなことしていいのかと思いつつも、電車来るまでこの状態を保っていた。
電車に乗りこみ座席に2人で座りながら瑠璃は向かいに座ってるカップルらしき人達をジッと見ていた。
「素敵。幸せそう」
横顔が少し寂しげに見えた。
「蒼越君。私達ちゃんとカップルに見えてるかな?周りの人達は私達が兄妹ってきっと気づかないよね」
「え?目の色でバレバレじゃね?」
「もう、バカ!」
茶化すと少し拗ねるもずっとカップルの方を見ていた。
「……ねえ、もう1回手繋いでいい?
……温かい……けどなんかシワシワ!?あれ!?どなた!?」
「あら?可愛いお人形さんみたいな子だねえ」
瑠璃は知らないおばあさんと恋人繋ぎをしていた
「何してんだ瑠璃?」
俺は立っていたしんどそうなおばあさんに席を譲り、つり革に掴み立っていたのだ。
「早く言ってよー!」
瑠璃も立ち上がり横に並ぶ。
「ははは、ボーッとしすぎなんだよ」
「ありがとうございます。お若いカップルさんたち」
瑠璃はきょとんとした顔になる。
「あっいえいえ、当然のことしただけですよ」
俺達はちょっと早いがすぐ出れるようにドア前に移動した。
「こんな時でも優しいね」
嬉しそうに腕を組む瑠璃に少し照れる。
まあ褒められるのは嬉しいもんだな。
何駅が過ぎた頃に電車がふいに満員になる。
瑠璃を両腕の中に入れて壁に手をつく、苦しくないように腕を伸ばしスペースを作る。
「苦しくないか?」
「うん大丈夫。ありがと」
って、これ壁ドンじゃねえか!恋人っぽいことしてるな。
瑠璃と目が合うとご満悦とばかりに微笑んでいた。
熱を帯びた白い肌、漏れる吐息、潤んだ瞳、そして妹の小さくて細い手は俺の服を摘んでいる。
カップルかあ、さっきの瑠璃の話じゃないが今は周りからカップルに見られてるんじゃないかな。
「瑠璃ちょっと触っていい?」
「え!?」
片方の手は壁ついたまま、もう片方の手で瑠璃の頬を触る。
「そ!蒼越くん!?」
瑠璃は取り乱しているが、俺はどうなんだろう。
ドキドキしているのかな?
妹を恋愛対象として見ることってできるもんなのか。
1回きりのデートとはいえそれは少し考えていたことなのだ。
俺は瑠璃をあちこち触って何かわかるか確かめる。
「なにー!なんなの?」
瑠璃の頬をつねってみる。
ちょっと面白くなってきてしまった。
「いひゃい、いひゃいー」
そう言えばさっきも思ったが、瑠璃良い匂いするなあ。
クンクン。
「え、ちょっやだ!」
テレビで昔見たことがある。遺伝子が近い異性の臭いは嫌悪感を感じるんだとか。
「なんなの〜」
遺伝子的には合ってるということなのか、それとも迷信なのか。
正直、多少は意識する。
これまでもすこーしだけドキドキはしたが、やっぱり妹としての可愛さが勝っちゃうんだよなあ。
今日のデートは倫理的にちゃんと節度を持っておかないと。
しかしほんとに良い匂いだ。後5分だけで嗅いでおこう。
「ちょっとあんた!さっきから見てたけど何やってんだ!」
「え?」
隣にいたおじさんに急に怒鳴られる。
「その子嫌がってるじゃないか!痴漢かお前!!」
「ええっ!?」
いきなり倫理が脆くも崩れ去っていたのか!?
ていうか、カップルじゃなく痴漢と被害者に見られてた!!
「ちょ、瑠璃なんか言ってくれ」
「もう勘弁して〜」
瑠璃は照れすぎて目を回していた。
「だめだこりゃ!!」
「ダメなのはお前だ!!この人痴漢でーす!!」
周りがザワザワし始める。
「いやあねえ」「気持ち悪い」
周りの声が刺さるように痛い。
どうすんだこれ……もしかして捕まるのか?
焦ってどうすればいいかわからなくなる。
「ちょっと!そのお若い人達はカップルですよ?邪魔しちゃいけません」
なんとさっき席を譲ったおばあさんがわざわざ駆けつけてくれた。
歩くのも大変だろうに、だけど嬉しい。
「え?ほんとか?」
「ええ、まあ」
今日だけの期間限定だけどね。
「あんまりまぎわらしいことするなよな」
「すみません」
騒がせたおじさんに今度は冷たい視線が集まる。
おじさんはそそくさ人をかき分けて違う車両移っていった。
ちょっと気の毒な気もするけど、なんとか誤解は解けてよかった。
「お若いカップルさん達、ああいう人もいるけど気にしちゃいけないよ。人に迷惑さえかけなければ大抵の事はしていいさね!」
「ありがとうおばあさん!!」
優ししい言葉にうれしくなって、俺はおばあさんを強く抱きしめた。
「おやまあ、私に痴漢するのかい!!」
「すみません可愛かったんでつい」
「お世辞がうまいねえ……っていつまで抱いてるんだい!!」
「すみません!じゃあキスで!」
「なにがじゃあなんだい!!1段階上げてんじゃあないよ!!」
「感謝を表したかったんです!!」
「蒼越くんは誰とでも仲良くなるなるなあ。私は知らない人とそんなお喋りできないから羨ましい」
おばあさんとの謎のやりとりをしてると瑠璃がいつの間にか正気に戻っていた。
俺とおばあさんはそれからも雑談を続け、おばさんが電車から降りるのを見届けもう1回感謝を述べた。
俺達も目的地の駅に付き、電車降りてすぐにまた手を繋いだ。そして駅から少し離れた遊園地まで俺が確りエスコートする。
駅の出口から信号の横断歩道を渡り、歩道で右折してからそのまま道なりに進むと看板が見えてくる。
その間、危なくなように常に気を使いソツなくこなす。
こういうのはちょっと得意かもしれない。
看板の指示に従い遊園地に無事に着く。
「わー!凄く綺麗!!」
瑠璃もはしゃいでるようでよかった。
華やかで騒がしく誰もが幸せそうに楽しんでるそんな場所だ。
「蒼越君ジェットコースターから乗ろうか!?」
瑠璃の目が思いっきり据わっていた。
「ええ!?いきなり??いいけど?大丈夫か?」
「大丈夫!大丈夫!行こ!」
「ぎゃーーーー!!!」
ガチの悲鳴を上げてるかど楽しいのか?
こんな瑠璃初めて見たぞ!?
「平気か瑠璃?」
「平気!平気!次行ってみよーー!」
それからも何かと絶叫系に乗りたがる。
乗っては死にかけているので心配になってくる。
「近ずかないでアホー!!うわあああ!!」
ホラー系のアトラクションに入っても色気の欠片もなく叫びまくったいた。
初めての瑠璃のバーゲンセールだ!!
そして抱きつくもんだから胸がすげえ当たる当たる。
男なら喜ぶべきところなんだろうがやはり特にそうは思わない。
しかし、瑠璃のはしゃぎっぷりは異常だな。
悲鳴はあげるが楽しんでるようにも見えるのが不思議だ。
遊んでる最中どうしても気になり「大丈夫か?」と聞いてみるも「大丈夫!大丈夫!」の一点張りで違和感を覚えた。
「蒼越君プリクラ撮ろ!プリクラ!」
「え?遊園地にプリクラなんてあるの?キャストとゲストの触れ合いがメインでしょ?」
「調べたらあるって書いてあったんだ!」
それから地図やスマホを見ながらウロウロするも一向に見つからず、しょーがないからスマホで撮影することに。
「ごめんね。」
「いや俺も歩き回らずにすぐスタッフさんに聞けばよかった」
しかし撮影するも目が半開き
「だめえーー!!!これはだめ!!もう1回!」
しかし何度撮っても呪われたように失敗するのであった。
「どおしてー……」
騒いでたせいか周りからクスクス笑われている。
「もういいからあっち行こうぜ」
「ほんとにごめんなさい」
うーん。なんだか空回ってるような。
お昼頃。
「食事のお金もったいないから蒼越君だけ食べて!」
極めつけは昼ご飯の時だった。
腹をクークー可愛い音を鳴らして、明らかにお腹を空かせているのに虚勢を張っていた。
瑠璃は食いしん坊なのに絶対におかしい。
「これは違うの!!これはそのなんかガスだから」
俺はめんどくさいからちょうど近くにあったチュロス売り場でチュロスを買うことにする。
「瑠璃ちょっとそこのベンチで待ってて」
「ええ!?いいのに!」
無視して売店にさっさと行く。
「チョコとシナモン1つずつとカフェオレ2つお願いします」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
注文して待っているといつの間にか瑠璃の周りに複数人が取り囲んでいた。
「なっ!?」
あいつら誰だ?瑠璃に話かけてるけど知り合いか?
そんなわきゃない。わざわざ知り合いに出くわさないようにマイナーな遊園地選んできたんだぞ?(瑠璃が)
もしかしてナンパか?
俺は商品を受け取ったらすぐさま戻る。
「めっちゃ可愛いねえ!!目それカラコン!?派手派手お姫様だねえ!?ふぅ!?白を基調とした清潔感あるファッション最高ぉ!!!フゥーーー!!!」
「お嬢ちゃん!!私は女もイケる口でねえ!!フゥーー!!アゲー!!!アンゲーーーー!!!!」
近づいてみるとやはりナンパっぽいな。しかも俺達兄妹の地雷普通に踏んでるなこいつら。
「あの、大切な人とできてるんで、その……ごめんなさい」
「そんなこと言わないでぇ!!滝のような涙出ちゃう!ビッグウェーブできちゃうよん!?」
瑠璃が少し震えてる。
「瑠璃行こう!」
瑠璃の手を掴んでその場を離れようとする。
「おうちょっと待ってよー!!つけ麺!イケメン!!じゃあねえの」
しつこく追ってくるので俺は少しムキになった。
「この子、俺の彼女なんで!!」
急いでナンパしてきたやつらを撒いた。
おってくる気配。
「蒼越くん……」
瑠璃は少し申し訳なさそうに照れていた。
「ほら」
買ってきたチュロスを瑠璃の口に捩じ込んだ。
「あちあち!おいしー、生き返るー」
瑠璃に笑顔が戻る。
「でも、さっきのなんだったんだろね?ちょっとくらい一緒に遊んであげたほうがよかったかな?」
「ナンパだろ。瑠璃可愛いんだから」
「へー、男の人も女の人もいたけどナンパするんだねえ。なにするんだろ?」
「いいんだよそんなことは。今日は俺、瑠璃のことだけ見てるからさ?瑠璃も俺の事だけ見てればいいんだよ」
「うん!!わかった!」
ちょっとキザったらしくジェラシーを感じたような事を言ってしまった自分に驚く。瑠璃が他人の男が喋ってるのだけで嫌なのかなあ俺。
自分の意外な一面に気づく。
しかし、瑠璃はナンパされたら意味もわからずついて行ってしまいそうだから目が離せないんだよな。
しかし俺が大切な人か……嬉しいな。
「これシナモンの味だね!わかってるねえ蒼越くんは!でももう1つ食べたくなってきちゃった……」
「やっぱ食べたかったんじゃないか」
「だって食べたらお腹すいてきたんだもん。食べるつもりなかったのに!お金もったいないよ!」
何言ってんだこいつ? どうも様子おかしいなあ。なんか気遣いしすぎなんだよな。行くところ全部俺の好きそうなところだし。金の心配しまくってるし、嘘はつくし。
それからフードコートに瑠璃を無理矢理引っ張ってきて、瑠璃が好きそうなのを片っ端から注文する。
「えー!?そんなに!?」
「美味しそうだったから目移りしちゃったわ。どれでも好きなもん食べていいぞ。俺もお腹減ったから食うわ!」
「蒼越君わんぱくすぎ!豪遊しすぎだよ!!」
「まあ俺もバイト代貯めてたからな!瑠璃一人満足させるくらいわけないさ!」
「もー、しょうがないなあ」
そう言いながらモグモグしてる瑠璃
「いっぱい食べな」
「うん!」
2人は自然と笑みが零れた。
ちょっとはリラックスしたみたいだなよかった。
「瑠璃、今度は俺が何で遊ぶか決めていいか?」
「え?うん」
昼ごはんを食べ終えると今度は俺がエスコートする。
「シューティングしよっか。瑠璃こういうの得意だろ?」
瑠璃は乗り物よりゲームとかのが得意なんだよな。
「うん。でも絶叫系のアトラクションとかじゃなくていいの?」
「今はこういうの遊びたい気分なんだよ」
それからは2人とも楽しく遊べて、待ち時間も少ないのをひたすらチョイスして遊び倒した。
それから暫くして日が暮れ始めた時だった。
「蒼越君観覧車乗ろ」
「おお」
遊び疲れた2人は最後に観覧車に乗った。
観覧車から見る夕暮れの景色はどこまでも広く美しかった。
「楽しかったーまた行きたいね」
「そう言うと思って年パス申し込んどきました!今度は父さんと母さんとも行こうな」
「いつの間に!?やっぱ蒼越くんわかってるねえ」
「……今日はほんとにほんとーに楽しかったよ。蒼越くんがずっと手を繋いでくれて……ちょっとびっくりちゃった」
景色を見ながら遠い目で言う瑠璃。
「え?」
「エスコートもうまくてこういうこと他の人にもしてるのかなあってちょっと考えちゃったよ」
「そんなに俺モテないよ」
「花橙さんやあつしさんにはした?」
「花橙はともかくあつしにしたらホモじゃねえか」
瑠璃は冗談っぽくクスっと笑う。
「正直、もっと子供扱いされると思ってた」
「蒼越くんはいつでもほんと優しい。
なんでかなあ……私が勝手にお願いしてデートしてるだけなのに…優しくされると胸が苦しいの」
「瑠璃……」
外の景色を寂しげに見ている瑠璃の横顔は脆く儚いものに見えた。
右目のヘーゼルアイが濃くなって潤んでいる。
触ると壊れてしまいそうなガラス玉みたいに。
「蒼越君」
「ん?」
「スケルトンの観覧車凄く怖いね気絶しそう」
「なるほどね」
脆そうに見えたわけだ。
ぶるぶる震えちゃってからに。
「俺がそっち行くよ」
対面に座っていたので横に座り瑠璃の肩を抱き支える。
すぐに瑠璃の震えは止まった。
「蒼越君見て……綺麗だよ」
いつの間にか観覧車は頂上に達していた。
最頂部約80mの観覧車から見る景色はとても綺麗だった。
きっと俺達はこの景色を一生覚えてるだろうな。
「こんな時間が永遠に続いて宝箱にしまえたらいいのに」
「え?」
瑠璃はそう言うと顔を近づける。
チュ。
ボカッ!
「痛ててててて!」
瑠璃は勢いよくキスしてきて顔と顔が盛大にぶつかる。
「全然カッコつかないや」
「瑠璃、お前」
「ごめんね。我慢できなくなって」
「頂上でキスって男子中学生の妄想かよ」
「えっ?」
瑠璃はカーっと火がついたみたいに赤くなる。
しまった。一生懸命にプラン考えただろうに下手なこと言ってしまったな。
「うっ」
瑠璃は泣いてしまう。
「おいおい泣くなよ。悪かったよ。可愛い顔が台無しだぞ?」
「だって今日私全然上手くいかなくて……迷惑かけてばっかりで」
「初デートだろ?最初は失敗するもんさ」
ピク
「蒼越くん初めてじゃないの?」
まずいな……これはまずい。
「やっぱり花橙さんやあつし君と……」
「だー、違う違う!友達の経験談聞いて言ってみただけだ!瑠璃が初めて」
本気のデートはこれが初めてなのは嘘ではない。
「ほんと?よかった」
純粋で無垢な心で良かった。
瑠璃はほんとに頑張ったよ。
バイトも服選びもデートプランも考えてさ。
それにナンパされた時、俺を大切な人って言ってくれたの凄い嬉しかった。
俺は軽く瑠璃の頭を撫でた。
「へへ、お兄ちゃんはね、私にとって白馬の王子様なの。でも私は……」
いつか遠い昔にも聞いた気がしたその言葉は消え入りそうな声で朧気になった。
「蒼越君おんぶして。私疲れちゃった」
「おいおい、家まで結構距離あるぞ?しょうがないなあ。」
遊園地からの帰り道、俺達はクタクタになっていた。
「ちょっと遅くなったから父さん達に謝らないとな」
「大丈夫だよ。なんだかんだでお父さん甘いから」
街の喧騒を尻目に歩く。人通りも少なく俺達だけの空間が広がった。
「瑠璃はやっぱり甘えん坊だなあ……もうこんな重たくなって大人なのに」
「えー!?重くないよ!!」
「ねえ、ほんとに重い?」
「はは、嘘だよ」
「もー!!」
こういうたわいもない会話は好きだ。
心が落ち着く。
「なんだか瑠璃の子供の頃を思い出すなあ瑠璃はくいしん坊でお兄ちゃんの分までおやつ食べてたっけ」
「ちょっとやめてよ!」
昔の恥ずかしい暴露されて恥ずかしがる。
「お兄ちゃんだって私が作ったうどんのスープ飲んで、このスープやたらコシがあるな!!とか意味わからないことを言ってたじゃない!!コシがあるのは麺でしょ!!スープにコシあったら喉詰まるでしょ」
「ちょっ!!ガチで恥ずかしいやつやめろよ!!」
「そんなこと言ったら瑠璃が俺の友達におしっこ漏らしながら顔面パンチした話するか!」
「もー!さっきから何言ってんの!!」
「瑠璃はダイエットやる度に失敗してたっけなー」
「もう!デリカシーないんだから……」
俺達はしょーもない、だが笑える昔話を続ける。
こういう話なら永遠としていられるな。
やっぱり兄妹なのだと安心すると同時に痛感する。これが本来のあるべき姿なのかもしれないな。
「ん?瑠璃?」
話疲れたのか瑠璃は寝てしまっていた。
起こさないようにのんびり歩くことにする
夜風が冬めいているが、お互いの体温で温め合う。
ゆっくり静かに時を刻む。
♢♢♢
私は夢を見た。
空から深紅の雨が降りそそぎ、雨に打たれ孤独に震えていると、あなたが強く強く私を抱きしめてくれるそんな夢。
紅雨は白い心を紅く染めて濃くする。
心と心が重なる瞬間を感じる。
ふいに見せる不器用で優しい笑顔が好き。
何もかも包み込んでくれるんだ。
あなたに恋してるだけで何もかもが輝いて見える。
終わってしまうのがとても怖い。
もっと壊れるほど抱きしめて絶対に離さないで。
いつでもそばにいて微笑んでほしい。
それがいつものありふれたことになるように願い、
あたりまえな日々であってほしい……。
あなたも同じ思いでいてくれたらうれしい。
それはどんどん遠く離れていく。
綺麗な景色の中で2人は幸せそうに笑ってる。
なんだか切なくなる……
やがて闇に飲まれ、私の瞳の色が濃くなる
君がいないだけでこんなにも好きってことにいやでも気づく
目が覚めると朧気にそれを覚えていた。
♢♢♢
「ん?んー……」
おっ、もう起きたのか?
「うん…」
「夢見てた」
「はは、こんな短い間に見てたのか」
「おんぶされてたからかな?蒼越君と瑠璃の2人の夢見てたよ」
「どんな?」
「ちょっとエッチな夢」
瑠璃は小悪魔っぽく笑みを浮かべていた。
「なんだよそれ」
「蒼越君に抱かれる夢」
ゾクっとした……背筋が凍るというか少し恐怖を感じたのだ。
「怖いんだけど(怖いんだけど)」
「声出てるよ」
しっしまった!
暫く沈黙が続く。
瑠璃の体温が妙に生々しく思えてきた。胸がでかいし柔らかいし余計にいやなことを考えてしまう。
「やっぱり蒼越君のこと好きだなあ……」
ふいにそう言われドキリとし、生唾をゴクリと飲み込む。
真剣なデートはこれ1回きりなんだよな?
急に不安になってくる。この歪な関係が続くのではないだろうかと。
「なんでそんなに俺が好きなんだ?」
「ふふ」
何を今更みたいに笑う瑠璃。
「首のここホクロあるね……背もおっきいし、意外と筋肉質でたくましくて頼もしい。それに良い匂いしてすっごく安らぐ」
「何言ってんだ?」
「お兄ちゃんのことならなんでも知りたいの!」
おんぶから降りて瑠璃は雄弁に語り出す。
「意外と男らしいとこ、友達思いなとこ、誰にでも親切なとこ、
優しくてなんでも許してくれそうなとこもちょっとドジなとこもみんな好きだよ」
「それに運命感じるんだよね。私が右目で蒼越くんが左目のオッドアイ。2人は1つになるんだよ」
「……」
もはや何を言ってるのかわからない。
「仮に、仮にだぞ?この先もし付き合っても何もないんだぞ?結婚できないし、それどころか誰からも祝福されないんだぞ?」
「お兄ちゃんさえいればいいよ。病める時も 健やかなる時も貴方を愛し続けます」
プスッ
いきなり親指を針で刺す。
「これが誓いの証」
そう言うと俺の心臓に親指を押しつける。
コート中に着ていた白いパーカーに血の跡がベッタリついた。
「ちょい!!この服そんな安くないんだぞ!?あー!もう着れないじゃん」
「ははは、大切にしまって置いてね!必ず約束を守るための血判だから」
「ええ……?」
引くほど重い……
もう病んでるだろお前……暴走列車じゃねえか!!
「あっ、そういえば告白した時にいた友達は瑠璃に理解があったみたいだな。そのなんだ……大切にな。ヤクザのヤッちゃんだったか?。あれ?エッちゃんだっけか?」
気まずくて露骨に話題を変えようとする
「え?何それ?ヤクザ??ふふ、みんな大親友で私のこと応援してくれるからね。すごーく大事だから大丈夫だよ」
確かに許嫁のことも兄妹を好きなことも包み隠さず話してるみたいだしな。
なんだか地に足はついてるのにプラプラ宙に浮かんでるような感覚だ。
何を言ってもペラペラのトイレットペーパーみたいで、瑠璃の本気の熱量の前じゃ燃えてなくなるようだ。もうなんなら自分の冷や汗で溶けてしまうんじゃないかと思うくらいだ。
……瑠璃とはこういう子だったんだな……情熱的で積極的であざとく……そしてどことなく腹黒さがあるような。初めて妹ではなく1人の人間として見た気がする。
暫く無言が続く。
「ん?それラピスラズリのブレスレットか?」
瑠璃が家のドアを開ける直前に気がついた、
「あっ?やっと気がついた?昔、蒼越くんがくれた瑠璃の宝物なんだ」
「よくまだ持っていたなあ……それ安物だぞ?家に誕生日プレゼントあるからそっち大事にしてくれよ」
「だめだよ!安くても思い出が詰まってるんだから」
「思い出?」
「私がこの目のことで悩んでる時言ってくれたよね。これを持っていれば瑠璃を災いから守ってくれて、迷った時には正しい道に導いてくれる幸運のお守りだからあげるって。
瑠璃はあの時、虐められて凄い落ち込んでたから、ほんとにほんとーに!嬉しかったんだから」
「そうか、ならいいけど」
前言撤回だ。腹黒くなんかないな。やっぱ良い子で素直な子だよ瑠璃は。
「さあ、魔法が解ける時間だね。期間限定の恋人は終わりだよお兄ちゃん」
「お、おお」
そうあっさり言う瑠璃に拍子抜けする。
今日のデートって結局なんだったろう。
その意味は後日知ることになる。
「ただいまー」
「あら、2人一緒だったの」
出迎えてくれたのは母さんだった。
そう言えば一応2人で出かけたのはないしょなんだった。
「あ、ああそこで偶然出会いましてね」
「ふーん。お父さん、首を長くして待ってるわよ」
目が泳ぐもそこまで怪しまれなかった。
その後、クタクタの体で瑠璃の誕生日会を行った。
俺はラピスラズリのネックレスをプレゼントとした。
ちとワンパターンだったかな?ラピスラズリの和名は瑠璃だからってプレゼントしてるが。
12月の誕生石もラピスラズリだしな。
「ありがとうお兄ちゃん。大事にするね。」
とりあえず瑠璃は凄く喜んでくれた。
ああ、これで兄妹に戻っちゃうんだな。
これは寂しさなのかなんなのか俺にはわからなかった。
そして次の日。
「おはようお兄ちゃん」
物静かないつもの瑠璃に戻っていた。
なんだろうなこの違和感は。
嵐の前の静けさでないことを祈ろう。
「蒼越、瑠璃ちゃんとはうまくやってるの?」
教室に入ると花橙がすぐ問い掛けてきた。
こいつ俺を振っといてよく気まずくならないな。
「うまくいくもなにもデート1回して終わったよ」
「……なにそれ?あんたまだわかってないの?」
「なにが?」
「……」
「なんだよ?」
「私から言える事はあの子、嘘をつく時目の色が濃くなるのよ」
「え?なんでそんなのわかるんだ」
「何年の付き合いだと思ってるのよ。あんたら兄妹はわかりやすすぎ」
まあ幼馴染だからなあ……俺らのことは大抵知り尽くしてるか。
だけどなあ。
俺は露骨に不満をあらわにした。
「そんなこと言われてもな。俺らのヘーゼルアイは感情だけじゃなく、天候によっても色や濃さが変わる体質だからなあ。一概に嘘ついただけで濃くなるとは限らんのよ」
詳しいメカニズムはわかっていないが、メラニン色素が少ないと天候、感情、体調によって虹彩の色は変化することがあるのだ。
「あんたはほんとにわかってない!瑠璃ちゃんがずっと好きだったって意味も、私が振った意味もなーんにもわかってない!!
取り返しのつかないことになっても知らないから!」
花橙は意味深なことを言ってくる。
「なにカリカリしてんだよ。勝手に付き合ってもないのに俺を振ったの花橙だろ。なんの意味があったって言うんだよ」
「イラつくなあ……。瑠璃ちゃんが可哀想と思ったからよ」
「?」
言うだけ言って花橙は自分の席についた。
どういう意味なんだ?これでいつも通り平和じゃないか。
なんなんだよ。
俺は少し不貞腐れた。
♢♢♢
私はずっとイラついていた。
瑠璃ちゃんが振られたことが自分のことのように傷ついた。
1週間限定とかいういいかげんな答えには尚更イラついた。
そしてそれに満足してる瑠璃ちゃんにもイラついた。
3歳の頃。
もう私達はバチバチな関係性だった。
小さい頃からの幼馴染が故に、蒼越と瑠璃ちゃんとはもはや家族みたいなものでもあった。
「花橙ちゃん!お兄ちゃんにベタベタしないで!!」
私達のライバル関係は既に始まっていた。女の本能かそのたぐえまれなる嗅覚で蒼越が最高の遺伝子とわかっていたのだろう。
「うるさい」
ビシっ!
とりあえず私はビンタしておいた。
お互い同じ人が好きなのはなんとなくわかってたか無駄な言葉はいらず、直球で攻撃的な言葉になるのが私たちの普通だった。
ことある事に私に難癖をつけてきた瑠璃ちゃん
「結婚もできないんだから諦めなよ!!瑠璃ちゃん変態すぎ!!引くわ!ドン引きだわ!!」
「結婚するもん!私するもん!」
「うるさい!」
そしてビンタをするのも恒例だった。
中学の時、あれはチョコ作りを一緒にした時のこと。
私は本命渡すけど瑠璃ちゃんはどうするのかなあ?
「私も本命ですよ!!」
「どうせ気づいてもらえないのにね」
「でも私のチョコの方が絶対喜んでくれるもん!!」
とりあえずイラついたからビンタをしといた。
2人きりになったらほんと意地悪で乱暴だよね!
「そりゃあライバルだからね。」
「……ねえ、花橙さん」
「ん?」
「もし私が本気で告白したらお兄ちゃんと別れてくれる?」
瑠璃ちゃんはこの時、私達が付き合ってると勘違いをしていた。
(私と蒼越は事実上恋人のようなもんだったけど、正式には付き合ってはいなかった。
だがほんとうのことはどうしても言えなかった。だってそうでしょ?こんな男の欲望と夢が詰まったような可愛い子が本気で蒼越落としに行ったらどうにかなっちゃうじゃん)
私は憎らしいからまたビンタをする。
瑠璃ちゃんが高校生になった頃、様子がおかしくなった。
両親同士がとても仲良かったこともあって、簡単にその理由がわかった。私の母親が言うには許嫁ができたという。
そんなの断ればいいじゃんと思っていたのだが、そんな簡単な話じゃないのだろう。
でも絶望しているのが容易に想像できてしまった。
「花橙さん約束覚えてます?私が告白したら別れてくれるって。私、告白します」
ある日私にそう言ってきた。
「あいつ多分受けとめてくれないよ。ちょーーう!鈍感だし」
現にいまだに付き合わずにいた私達。
なあなあな関係で私から告白するなんてプライドが許さなかった。
「振られたらお兄ちゃんをよろしくお願いしますね」
その時の瑠璃ちゃんは悲しげな顔をしていて、私には玉砕覚悟というより、諦めるために告白しに行くように見えた。
私は憎たらしいので撫でるようなビンタをした。
可愛い妹でもあるんだよ……瑠璃ちゃんは。
♢♢♢
そして、それはSHRの時に起こった。
「朝霞、放課後職員室にこい」
「はい?」
なんだろ?用事でもあるのか?怒られる思い当たる節ないが。
なんなんだろな。さっき花橙に変な事言われたせいか心がざわつく。
「失礼します」
職員室に入ると、先生の前には瑠璃がいた。
ドキ。
え?なにかあったのかこれ?
歩く度に不安が増してくる。
「あー、朝霞呼び出して済まないな。妹さんも。」
「はあ」
「お前らみたいな優等生を疑ってるわけじゃないが変な噂があってな」
「噂ですか?」
やな予感しかしない。
「お前達2人が付き合ってるという噂だ」
「そんな、誰が!」
瑠璃も焦っていた。
「いや匿名なんだが学校掲示板にお前ららしき2人が仲良くしてる写真がアップされたんだ」
「!?」
2人とも言葉をなくし、疑心暗鬼になる。
花橙はありえないし、あつしもこんな陰湿はしない。ファンクラブあるいは瑠璃の友達の仕業なのか……
「まあまあそんな深刻に考えないでくれ。兄妹で出かけるのは家庭によって普通の事だし、決定的な何かが写ってるわけでもない。あくまで我々教師陣はお前らの心配をしているだけで罰することはしない」
なんだよ。深刻そうな顔したのはあんただろ!心の中でツッコむ。
まあでもこれなら一安心だ……
隣の瑠璃を見ると暗い顔で落ち込んでいた。
それから先生と簡単な話をして何事もなく解放された。
「失礼します」
職員室を退出する。
「瑠璃」
ビクッ
「ごめんなさい。私のせいだ考えなしに感情的になったから」
「いや何もなかったんだからさ?気にするなよ」
しかし何を思ったのか教師は親に報告してしまうのだった。
その日の夜、家族会議がまた開かれた。
「学校から話は聞いた。お前達やっぱり付き合うのか?」
「違うの!」
瑠璃が食い気味に否定する。
「……1度目は気の迷いということで許したが2度目は見過ごせない」
「だからもう付き合ってないの!!」
瑠璃は必死で否定するがそれが逆効果になってるみたいだ。
「付き合ってないのはわかった……が、お前達2人は暫く接触禁止にさせてもらう」
「な!?」
「どうして!!」
俺達2人は唐突な提案に怒りすら覚える。
「お前達の態度を見てればわかる。やましいことがある目をしている」
「たったそれだけで隔離するのは変じゃないか!」
俺は思ったより怒ってる自分に少しびっくりする。
「でも瑠璃は蒼越のことが好きなんだろう?」
「……」
「否定しないんだな?」
「その様子じゃ日曜日も2人で出かけてたんじゃないか?」
反論できる余地がなかった。
「親に黙ってコソコソするのが気に入らん」
「あなた、言いすぎよ」
母さんがフォローに入るが聞き耳を持たない。
「お前達が付き合っても不幸しか生まないんだ。暫く離れて反省しなさい」
そして俺達は接触することを禁じられそれに従った。
数週間の時が過ぎた。
その間、俺達は学校ですれ違っても喋らなかった。
瑠璃は自分を責めてないか心配だったが、これ以上状況を悪化させるにはいけない。
でも気になってしまい時より瑠璃の様子を見るも特に変化は特になかった。
「妹さんと喧嘩したのか?」
「いやそうじゃないんだけど……」
あつしにそう聞かれても困ってしまう。接触禁止が解けても瑠璃は一向に喋る雰囲気にはならなかった。
なんだか2人ともギクシャクしてしまっている。
しかし、ある日事件は起きた。
その日、いつも通り学校から帰宅するが瑠璃はまだ帰ってきていない。
「瑠璃のやつ今日は遅いなあ。寄り道でもしてんのかな?」
「そうねえ、まあたまにはそういう事もあるんじゃない」
母さんと雑談しながら瑠璃の帰りを待った。
しかし、夜になっても一向に帰ってくる気配はなかった。父さんの方が早く仕事から帰ってくる。
「俺ちょっと探してくるよ。瑠璃の友達の住所とかわかる?」
「ええ、仲の良い子なら何人か」
母さんに住所を教えてもらい何軒か家を回る。
しかし、どこも帰ってるはずだと言う。
「瑠璃ずっと気にしてましたよ。告白なんてするんじゃなかったって」
「エッちゃん」
エッちゃんの家に訪問した帰り際に少し話をした。
「あの子気にしいだからきっと自分を責め続けてると思うんですよね」
「写真の件あったじゃないですか?あの件で珍しく私達に怒ったんですよ。誰かやったのなら素直に言ってと」
「ごめんね。瑠璃もかなり動揺してたみたいだから」
「わかります」
「あの子きっと今凄く傷ついてるんだと思います。帰ってきたら優しくしてあげてください。後、私達は疑われても全然気にしてないし、なにがあっても親友だよって」
「何があっても親友は瑠璃に直接言ってあげてくれないかな。絶対に喜ぶよ」
「そうですね」
エッちゃんは微笑むと、帰ってきたら連絡欲しいとのことなので連絡先を交換した。
勿論他の子達とも同じようにした。
瑠璃、お前やっぱすげえよ。内気な瑠璃がこんな素敵な友達いっぱいいるんだから。
もう内気なんて言えないな。
しかし捜索は続く。
スマホもメールが既読にならないし、電話も出ないと思ったら瑠璃は部屋にスマホを置いたままにしていた。
家族全員に不安がよぎる。家族総出で捜索することになった。
何故か俺は花橙の言われた言葉の数々を思い出していた。
「もしかして花橙なら何かわかるんじゃ」
思い立ってすぐにお隣さんに行きインターホンを鳴らす。
「蒼越?なんなのよ?」
花橙はすぐにドアを開け出てきた。
「あのさ、瑠璃お邪魔してないよな?」
「……いないけど。何かあったの?」
「瑠璃が帰ってこないんだ」
「そっか。いつか何か起きるんじゃないかと思ってた」
「やっぱり何か知ってるのか!?」
「居場所は知らない。知らないけど考えてることは察しがつく」
「なんでもいい!手がかりになることならなんでも教えてくれ!」
「はー……私が言うのは筋違いだと思ったけど、そうも言ってられないようね」
花橙はドアを閉めて「近くの公園に行こう」と提案する。人に極力聞かれたくないらしい。
俺は焦りながらも「わかった」とただ頷く。
「瑠璃ちゃんはね、許嫁のことで相当苦しんでたと思う」
少し辛そうな顔で花橙は語り始めた。
「やっぱり知ってたのか花橙」
「親同士がかなり仲いいしね。瑠璃ちゃんのこと気になったから話聞いたのよ」
「でもなんで素直に嫌だと断らないんだ……いくらでも言うチャンスがあったはずだ」
「詳しいことはわからないわ。優しい子だから親御さん達の事思って言えなかったんじゃないかなあ」
「……俺にすらなんの相談できないことなのか」
「それだけ追い詰められてたんだと思うし、なにか他にも理由があるかもしれないしね。ただ言えることはあんたが好きすぎるからこそ悩み相談できなかったんじゃないかな」
胸が痛む。兄貴ヅラしといて何もしてやれない。相談にすら乗らせてもらえないのか。
「私は小さい頃からずっと見てきたからよくわかる。告白騒ぎの前からずっと、それこそ幼児の時から瑠璃ちゃんはあんたに頑張ってアプローチしてたから」
「そんな前ならなのか?」
気づかなかった。
「あんたもわかってるだろうけど内気な子だからね。たいしたこともできずに空回ってたのをよく見かけたわ。別に蒼越のせいではないけど、その鈍感さには腹が立つよ」
「俺そんなに鈍感だったなのか」
花橙の指摘が的確なのか凄い落ち込む。
「でも、それはあんたのせいじゃなくて瑠璃ちゃんの問題でもあって、瑠璃ちゃんが乗り越えなきゃいけない壁だしね。私は見守ってあげるくらいしかしちゃいけないと思った。そもそも私達はライバルだったしね。気軽に相談乗れる仲ではなかったし」
「そうだったのか……そのごめん」
花橙にも相当苦労かけたしまったんだな。
「それでやっと手段を選ばずに告白しことに感動すらしたのに、蒼越のあまりにもデリカシーのなさよ」
「すみません」
「友達連れて圧力をかけるのはやりすぎとも思ったが蒼越相手ならそれくれいしなきゃだめと思ったよ。
でもそれも失敗に終わった……」
俺、とんでもなく酷いことしてんな。
「あの告白は好きなのに努力が報われない行動の積み重ねと、心の摩擦なって瑠璃ちゃんの心を暴走させた結果だよ」
「……」
何も気づけない自分のバカさに嫌気がさした。
「その上、許嫁の話なんて出てきたら心がぐちゃぐちゃになっちゃうわよ。それが今の現状なんじゃない?どんなけ不安定になっているか……」
一大決心で告白した瑠璃に俺はなんてことをしてしまったんだろう。酷いことしか言ってない。気持ちに応えないまま、テキトーに期間限定の恋人だの言って、なかったことにして、結局デートして俺は瑠璃を振り回してばっかりじゃないか。
「あんた落ち込んでる暇なんてないでしょ」
「でもどうすれば」
「ここまで言ったらわかっていいでしょ?わからないならもう一度胸に手を当てて瑠璃ちゃんのことを真剣に考えてあげて。
ずっと一緒にいた絆は何よりも固いはずなんだから。
血は水より濃いって言うでしょ。
ちょっと妬けちゃうけどね」
俺がやるべきこと……今できることは……
「私も心当たりを探してみるね」
花橙はそう言うとその場を離れる。
「おう!ありがとう!暗いから気をつけてな!」
こんなバカな俺のためにごめんな瑠璃。酷いことばかり言って最低な兄ちゃんだ。瑠璃が苦しんでたのは心のどこかで感じ取っていたのかもしれない。違和感の正体がわかった気がする。瑠璃は無言のSOSのサインを必死に出していたのだ。
俺なら助けてくれるとずっと信じてたから。
思ったより自体は深刻かもしれない。急がないと……
思い出の場所……俺の事を大好きな瑠璃が今考えそうなことは……
思い出の場所か?遊園地、水族館はないか。
家族全員で行ったところもなさそうだ。
でも、もしかしたらだけど瑠璃が1番幸せだった思う場所にいるんじゃないか?
漠然としすぎてる気もするが……
そういえば安物のラピスラズリのブレスレットを大事にしてたっけ……
あれを渡したのは確か……
よし!まずラピスラズリのブレスレット渡した場所だ!
俺はすぐさま駆け出す。
「ハァハァ。いた!」
もう夜中だがはっきりとわかる。
思い出のブレスレットを渡した公園で瑠璃を無事見つけだした。
俺さえ確りしてればすぐわかることだったんだな。
「心配したぞ瑠璃!!」
弱々しい笑顔をする瑠璃はベンチにちょこんと座っている。
「やっぱりお兄ちゃんは私のヒーローなんだね」
「ヒーロー?」
「ヒロインの危機を救うのがヒーローだよ」
ベンチから立ち上がる。
「……私、自殺しようとしたの。そこのマンションから飛び降りてね。でもこんなとこで死んだら人の迷惑だなあって思って座って考え込んでた」
「何言ってんだお前!!」
「もう疲れちゃった。1番幸せだった場所で幸せを閉じ込めて終わりたいって思ったの」
「……ごめん。俺が鈍感なばっかりに」
「なんで?なんでお兄ちゃんが謝るの?」
「だってそれは」
「私ね、どうしていいかわからなかったの」
瑠璃は続け様に喋る。
「私、夜中にお父さん達が話しているの聞いちゃったんだ。お父さんが許嫁作った本当の理由」
「親同士が仲良かったんじゃ?」
「ううん。違うよ。お父さんはね、昔、あんまりよくない方法でコネで入社したらしいの。それを弱みにお世話になった人に脅されたみたいなこと言ってた」
あんまりにも急な事実に困惑する。
「まさかあの厳格な性格の父さんが……」
「結婚を拒否すると家族が路頭に迷うどころか色んな人が大変になるとか色々言ってたなあ。
だから私、お父さんもお母さんも好きだし困らせたくなかったから、私さえ結婚すれば問題ないと思ってた」
「そんな!!」
瑠璃にこんな絶望があったなんて……。
「でも……時間が経つにつれてどうしようもなく怖くなってきたの……
私の人生ってなんなのか?好きな人と結婚もできないのに生きてて意味あるのかな?って」
「引っ込み思案で内気で好きな人にも満足に伝えられない自分がほんときらいだいきらい。
だから友達にも頼って告白した。花橙さんやアツシさんも呼んだ。
結果としてもっと自分がきらいになった。自分勝手に人を利用して汚い自分ばかりが見えてきて何もかもいやになった」
「こんな私好きになってもらう資格なんてない。だから1回デートしたらもう何もかも終わらせてしまおうって決めたの」
「そこから先生にバレてお兄ちゃんに迷惑かけたのはほんとに辛かった。告げ口した犯人は誰か考えて友達疑っては疑心暗鬼で、もう何もかもいやになった……」
そこまで思い詰めてたのか瑠璃。
「……俺デートして色んな瑠璃を見て思ったんだ。
俺が思っているより瑠璃はおもしろくて可愛くて好きに誰よりも本気になれる尊敬できる人間だってな。
自分が嫌いでもその部分の瑠璃は俺はとても愛おしく思う。本音を言えば少し恐かったけどな」
瑠璃は露骨にヘコむ。
「さっき瑠璃の友達の家に行ってきたけど、みんながみんな瑠璃を心配してて先生にチクるやつなんて一人もいないと思ったぞ?本当に良い友達もったな!瑠璃」
「瑠璃が自分のこと嫌いでもお前が好きな人はいっぱいいるんだぞ?」
「嬉しい……嬉しいけどお兄ちゃんは私を……」
瑠璃は言いかけてやめた言葉を俺はわかってる。
「なあ?俺にチャンスをくれないか?」
「チャンス?」
「ああ、期間限定の恋人を再開しないか?」
「何言ってるの?同情で言ってるならやめてよ」
「違うよ。本当に瑠璃に凄く興味を持ったんだ。瑠璃はほんとすげえやつだと心から思った!俺も本気で向かい合ってみたいと思ったんだ!」
「嘘だよそんなの」
「んー……」
俺は少し考える。
「あっ、針持ってるか瑠璃?」
「え、うん」
受け取ると自分と瑠璃の親指を軽く刺す。
「痛い!何するの!!」
「こーやって指と指をくっつけて……ほら、血の契約だ!血は誓いを強固なものにするんだってな!これで2人分でパワーアップだ!」
「えー、引くわ。ドン引きだわ!」
「いや!瑠璃もやっただろうが!それに生涯俺を愛してるんだろ?俺の変なとこも嫌なとこも全部受け止めてもらわないとな!」
「うん」
「じゃあ期間限定の恋人再開だ」
「いつまで?」
「俺と瑠璃が納得できるまで」
「でも私には許嫁が……それにお父さん達にバレたらまた引き離されちゃう」
「大丈夫だ。俺が絶対守ってやる!すべてのものから!」
「俺が瑠璃の本当のヒーローになってやるよ」
「ありがとう。蒼越くん」
しかし現実は甘くない。
俺は無力だ。
何もできないし、何もわからない子供なんだ。
ただできることをするしか
「まず父さん達を説得しよう」
俺に出来ることで瑠璃を守る。
「説得がもし無理なら駆け落ちでもなんでもするさ」
「え?駆け落ちしてくれるなら説得できないほうがいいじゃん」
「勢いで言ってしまっただけだ!瑠璃を好きになるかどうかはこれからだな」
「何よそれ!バカ!!お兄ちゃんはいい加減なんだか、確りしてるんだかわからない!」
「ははは!」
「やっぱり知っていたのか瑠璃」
家に戻った俺達はすべての事情を話した。
親父は目から涙が零れる。
「ごめんな。情けない父親で」
「私も同罪よ……何もできなかったんですもの」
父さんと母さんがなぜだかとても小さく見えた。
大人でも泣くんだなと当たり前なのに何故か衝撃を受けた。
「許嫁の件どうにか断ることはできないのか父さん」
「正直わからない。言えることは断ったら何をされるかわからない……下手なことをして仕事もクビになるわけにはいかない!俺には家族を守る義務がある!」
「瑠璃を犠牲にしてまで保身を守るのか?」
「……」
父さんは辛そうな表情になる。
「俺は瑠璃を犠牲にするくらいなら皆で辛い目にあったほうがいいと思う」
「お前は社会に出たことがないからそんなことが簡単に言える。甘すぎる。」
「確かにそうだけど、俺だって働いてる!みんなで力を合わせたらきっとなんとかなると信じてるんだ!」
「だめだ。お前らの親として不幸になるとわかってる道を行かせられない」
「だからそのために瑠璃だけ犠牲になるのはいいのかよ!それなら俺が瑠璃をもらうよ!!」
「お前何をバカなこと言ってんだ!!」
「どっかのやつにくれてやるくらいなら俺が駆け落ちする!!」
「馬鹿野郎!!」
俺は親父に殴られた。
「もう!もう勝手にしろ!!」
親父は呆れ果て自分の部屋に戻る。
「蒼越くん大丈夫?」
「あ、ああ大丈夫だ」
結局俺はあんなに息巻いてたにも関わらず感情的になって説得はできなかった。
無力さを思い知る。
1年後
俺達は進級した。俺が高校3年生で瑠璃は高校2年生。
あれから色んなことがあった。たくさん嫌がらせもあった……。
しかし人生は何が起こるかわからないものである。
父さんの会社はコンプライアンス違反で倒産したのだ。許嫁の話もそれどころじゃなくなって白紙になる。呆気ない幕引きだった。
俺達一家の運命は急展開したのだった。
しかしその後がまた大変で父さんは働き口がなかなか見つからず、祖父のツテでなんとか働けるようになったが給料はかなり下がってしまい、今の持ち家のローンの支払いが維持できなくなってしまった。なくなく売ることになり、マンションに住むことになってこの1年はかなり慌ただしい毎日だった。
それでも俺達家族は一丸となって前へ進むのである。
「蒼越くん!蒼越くん!」
瑠璃は意気揚々と名前を連呼する。
「なんだよ!もう期間限定の恋人終わったのに名前呼びやめれ」
「ケチ!!」
瑠璃はあれから変わった。
内気さなんてすっかり消し飛んで、素直でハキハキと喋る陽気な性格になった。
「蒼越君!今度の私の誕生日はサファイアの指輪がいいなあ!左手の薬指にはめるんだー!」
じと〜とした目でおねだりしてくる瑠璃。
「それエンゲージリングじゃねえか!!
まったく!油断できないやつだよ」
「えへへ」
恋人じゃなくなったけど俺達はずっといっしょにいる。
きっとこれからも……
「いつか白馬の王子様が私をさらってくれるって信じてるんだ」
「誰だよそいつ?」
「秘密!」
途中まで面白く書けてたんですが3万文字初挑戦無理でした。この後はエピローグじゃないですけど続き書いちゃいます。よろしくです。