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新しい英雄譚への誘い


エルリクが口を閉ざし、部屋は重い沈黙に沈んでいた。

インは考え込んだ。

決して裕福ではないが、不自由なく生まれ育って冒険者を目指したこれまでの平凡な人生を振り返る。

意識したことなどなかったが、そんな平凡な人生を送れていたこと自体が幸運なことだったのではないか。

もし、自分がエルリクだったら――子供の時に家族を殺され、住む場所を失ったら。

その相手が自分より遥かに強く、どんな手を使っても倒せないと悟ってしまったら。

自分はどうしていただろうか?


死ぬと分かっていて、そんな敵に立ち向かえるか?

あんな凄惨な死に方をすると分かっていてそれを選ぶか?


インは想像する。

そして脳裏には絶望して自死を選ぶ自分の姿が思い浮かんでしまう。


「良かったんじゃないかな」


ぽつり、とインは言葉を吐き出した。

自分でも何が言いたいのか分からない、まとまっていない。

それでも彼の心にのしかかっている強すぎる自責の念は、間違っていると否定したかった。


「敵を探す動機が、殺されるためだったとしても。歪んだ人生に誰かを巻き込んでしまうことも。私は良かったと思うよ」


インは続けた。

エルリクは虚ろにインを見つめる。


「なぜそう思う? 君も死にかけただろう」

露悪的な響きはなく、ただただ不思議そうにエルリクは問いかける。

「言われてみると確かにひどい目にあったよ、痛かったし苦しかった。せっかくの初報酬で買った装備もなくなっちゃったし」

死ななかったことを抜きにしても、かなりの痛手を負った。

そんな戦いに巻き込んだことに気を病むエルリクは、きっと元来まじめで思いやりのある青年なのだろう。


「でもさエルリク。私はそれも覚悟して冒険者になったつもりだよ。親からも怪我するし最悪死ぬぞって、やめとけって散々反対されたから」

故郷の家族の顔を思い浮かべる。

反対していたが決心が変わらないインを見て応援すると言ってくれた時の顔を。


「それでも冒険者になることを選んだのは私。だから私のことは心配しなくてもいいの」

笑顔を浮かべるインに、エルリクはさらに眉間のシワを深くした。

不可解なものを見るように、インを注視する。

そんな彼が少しおかしく、初めて可愛らしく見えた。


「私が良かったって言ったのは、エルリクが生きてるからだよ」

「……僕なんて、生きていたって意味がない。死んで自分の無力さを証明するために生きてる人間なんて、生きてるとは言えないだろ」

自暴自棄に吐き捨てるエルリク。

強い苛立ちが伝わってきた。

感情が出てきたことにインはほっとしてもう一度、口を開いた。


「たとえ殺されるためだったとしても、その感情が今日までエルリクを生かしてきたんでしょ。だから、エルリクがどう思っていたとしても、良かったんだと思うよ」

「意味が分からない理屈だな……」

「だって、エルリクが死んでたら私はジーナフォリオのことずっと知らないままだったと思うし」

インは不敵に笑って見せる。


「英雄インニェイェルドの最初の偉業が不死者の討伐って、めちゃくちゃかっこいい伝説になると思わない?」


自分でも大言壮語だと思いつつ、インはそう言い切った。

エルリクは一瞬理解ができなかったのかぽかんと固まっていた。

――そして、思いっきり顔を顰めた。


「君って僕が思うより馬鹿だったのか……?」

「なんだよ、馬鹿って! 型破りって言ってよ!」

インはエルリクの馬鹿を見る眼差しに反発した。

エルリクは心の底から呆れたように、大きなため息を一つ吐き出した。


「エルリクもどうせやるなら自殺じゃなくて敵討ちにした方がいいんじゃないかな。自分に対して怒るのって疲れない? 敵に向けた方がいいよ。そっちの方が爽快でしょ!」

「ああもう、分かった。君は馬鹿なんだから変なフォローしようと思わない方がいい」

「ちょっと! 私だって――」

聞き捨てならない言いように、インは声を荒げる。

だけどエルリクの顔に笑みが浮かんでいることに気が付いて、文句が喉にひっこんだ。

相変わらず人を馬鹿にしたような顔だが、さきほどの虚無はきれいさっぱり消えていた。


「でも、インが言うことにも一理はあるな。殺意を向ける相手と憎む相手は一致していたほうが、悩まずに済みそうだ」

「そうそう、難しくしすぎなんだよ。エルリクは」

「インが単純馬鹿過ぎるんじゃないか」

「そ、それが慰めてくれた仲間に対する評価なの……!?」


軽口を叩き合う、いつもの空気が戻ってきた。

一つ違うのは、エルリクの瞳の奥に死への渇望がもうないことだ。


「回りくどいエルリクの自殺に付き合うのはもう終わりね。今度はエルリクが私に付き合って」

「英雄ごっこなら断るぞ」

「ええ~!」

ばっさりと切られ不満の声を上げるイン。

英雄ごっこじゃなくて、本当に英雄譚を作るんだと言ったところで、また呆れられてしまうだろう。

インは気を取り直して具体的で現実的な依頼を口にする。

「じゃあジーナフォリオの討伐を手伝ってくれる?」

「それなら仕方ない」


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