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冒険者としての心

 ワームの抜けた死体を持ち帰り、事情を説明した。

 死体はワームのせいで損傷が激しかったが、村人たち、とくに亡くなった人の家族から感謝された。

 宿では感謝のしるしとして湯船を張ってくれた。インは雨や泥でべたべたした身体を存分に洗い流し、久々に湯に浸かれて、正直金をいくらかもらうより幸せになれた。

 そして、冒険者用の宿のベッドより数段上等なベッドで眠り、起きたときには疲れがすっかりなくなっていたのだった。


「いやぁ、本当に何から何までありがとうございました……!」

「あっ、ありがとうございましたっ!」

 翌朝、ロビーで宿屋の男とその娘ケルシィが深々と頭を下げた。

 エルリクは興味がないというように踵を返す。

「いやいや、こっちこそお風呂沸かしてくれてありがとね」

 インは仲間の薄情さに呆れながらも、少し屈んでケルシィと視線を合わせながらお礼を言った。

「ああ、そうだ。一応だが、ギルドにコカトリスの討伐依頼をした方がいいかもな。最終宿主が根絶されれば、寄生される者も消える。そうすればもう今回みたいなことは起きないぞ」

 忘れていたという口ぶりで、エルリクは宿屋の主人に忠告する。

「そっ、そうですね! はい、村のものたちと話し合って依頼してみようと思います……!」

「まっまた来てくださいね!」

「ああ。さようなら」

 最後まであたふたとしている宿屋親子を横目に、エルリクは宿の外へと出るのだった。



「討伐依頼ってちょっと大げさじゃない?」

 ロダ街道を歩きながら、インはそう切り出した。

「そうか?」

「だって、被害は死体がなくなっただけで、だれかが怪我したとか殺されたとかじゃないじゃん」

 最終宿主であり栄養をかすめ取られるコカトリスはかわいそうだが、中間宿主にとっては死体が利用されるだけである。

 最悪今回のような歩く人間の死体が生まれてしまうが、それはレアケースである。

 普段は単に動物の死体が動くだけで、人間にとって不利益はない。

「ほぼ無害なのに、高いお金払って冒険者に討伐依頼かけるかなぁ?」

「依頼しない方が可能性としては大きいな」

「やっぱり……」

 冒険者に魔物の討伐依頼をするのはそこそこお金がかかる。

 現に今回も魔物絡みかもしれないという考えがあったかもしれない村人たちは、あくまでも死体の捜索ということでお願いしてきたくらいだ。

 よっぽど困った被害を出す魔物か、よっぽどお金に余裕があるときでなければ、冒険者を雇うことはないのだ。

「だが、僕は必要なことだと思うよ。ワームもいずれあの村の人々に牙を向くかもしれない」

 エルリクは先ほどの結論をひっくり返すような発言をし、説明を始めた。

「ワームは死体の脳ならなんでも操れる。中間宿主の人間や動物だけではなく、終生宿主のコカトリスの脳であってもだ。宿主が死んだ後も、コカトリスの身体を操り人間を襲う可能性もある。食料にするためか、子が寄生するための死体をつくるためにな」

 その話を聞いて、インの脳裏に昔聞いた話がよみがえった。

「なんか、やたらと凶暴化した異常なコカトリスの話、聞いたことある。変な動きしてて、剣で斬っても鳴き声一つ上げなかったとか……」

 そのコカトリスが出た村では、村の腕自慢が追い払おうと立ち向かったが、死者も出て最終的には冒険者を呼んだらしい。

「それだな。そんなものになったら面倒だ。芽は早く積むにこしたことがない」

 インはエルリクを見上げた。

 いつもの暗い、何を考えているか分からない瞳。

 はっきり言ってまだこの男は苦手である。

 デリカシーもないし、思いやりもない。

 だがその言葉の中に、インは確かに冒険者としての正しさを、人を守ろうとする意志のようなものを感じたのだった。

「……なんだ、ぼんやりして」

「ううん、エルリクにも人の心があったんだなって思ってさ。他人に興味がないと思ってたけど、意外と優しいじゃん~、このこの~」

「……お前は意外と怠い絡み方をするな。ギルドでは一番嫌われるタイプだ」

「嘘ォ!?」

 コミュ力がある方だと自負していたインは、目的地に着くまでにエルリクにダメ出しされすっかりしょぼくれてしまうのだった。


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