彼女との出会い
1話 彼女との出会い
高校1年の春、人気のない静かな教室で、彼は彼女と出会った。
「今日から皆さんは高校生です。えーですので高校生の自覚を持って日々を過ごすように───」
校長先生のお決まりの言葉から、私立学上高等学校は入学式を迎えた。今年の入学者は400人程で全部で10クラスでできている。
入学式が終わり、生徒が続々と自分達の教室に戻っていた。
その中に、目元に酷い隈がある男子生徒、畑中利都が教室に戻る途中で廊下の窓を見上げる。
(・・・眩しいな)
まだ4月だが、今日は春というよりかは、夏っぽい天気だった。
それぞれに与えられたクラスで、生徒達が挨拶などの会話をしている。すると、教室の扉が開き、男が1人入って来た。
「よーし、みんな席着けー」
歳は20代前半で、スラックスを履いていた。上半身はワイシャツで長袖だが、一番上のボタンを開けて袖を前腕辺りまでめくっていた。
「今日から、このクラスの担任の犬川旬だ!気軽に犬ちゃんとでも読んでくれ!よろしく!」
自己紹介の後にクラスの全員が心の中で思う。
(・・・ものすごい元気だ)
そんなことを思われているとも知らず、犬川は続けた。
「今日は、入学式だけだからもう帰っていいぞ。じゃあ解散!」
そして、また色々な場所で会話が始まり、中にはもう帰る準備をしている人もいた。
利都の席は、教室の左端の1番後ろだったのでこっそりスマホを見ていた。
すると、横から声を掛けられた。
「おっす、利都」
利都は、慌ててスマホを隠すが馴染みのある顔を見て安心する。
「なんだ、虹矢か」
そこには、利都の中学からの友達の清水虹矢がいた。虹矢は利都の数少ない友達の一人だ。
「おやおや利都くん?校内でのスマホの使用は禁止ですよ?」
「はいはい、わかりましたと」
学上高校は私立なので校則が他の高校に比べると厳しくなっている。
「それで、なんの用だ?」
「あぁそうそう、この後クラスの奴とカラオケに行くんだけどお前もどうだ?」
虹矢は、世間で言う1軍で隠キャな利都とは真反対の性格だ。
「もうクラスの人と仲良くなったのか」
「・・・普通じゃね?」
悪気のない顔で虹矢が首をかしげる。
(俺みたいな陰キャからしたら異常なんだよ)
「それで?どうする?」
「・・・いや、この後バイトだからやめておく」
「わかった」
利都と虹矢が話していると、これからカラオケに行くであろう集団の1人が虹矢を呼ぶ。
「何してんだ清水?そろそろ行くぞ」
「すぐ行く、じゃあな利都」
「ああ」
利都は、バイトまで少し時間があるので教室で時間を潰そうとした。
・・・だが、話す友達もいなければ、校則で禁止されているので無闇にスマホも触れない。
(・・・ちょっと校内見て回るか)
そして、利都は校内を探検することにした。
学上高校は、グラウンドを真ん中にしてそれぞれ4つの方角に北館、東館、西館、南館がある。南館に行くには、グラウンドを出て、道路を渡らなければならない。利都たち1年のクラスは東館の2階と3階に1から8クラスがあり、残りの9、10クラスは、4階に配置されている。
「南館に行ってみるか」
利都は少し探検して帰るつもりたったので、カバンを持って道路を渡り、そのまま南館に入った。
南館の1階から3階は職員室や選択科目のための教室、美術室などがあった。
利都は左端にしかない階段を使って、4階に上った。
4階に行くと、3つの教室があり、それを確認した所で利都があることに気づく。
「・・・あれは、何の教室だ?」
階段を上って手前から資料室、倉庫と教室札に書かれた教室がならんでいるが、1番奥の教室には教室札が無いのだ。
利都は、好奇心旺盛というわけではないが、流石に1つだけ教室札が無いと、気になってしまう。
「・・・開けてみるか・・・」
教室の前まで行き、ゆっくりと扉を開けた。扉は引き戸になっていて、なぜか鍵は掛かっていなかった。
「普通の教室・・・だな」
中は、いつも生徒が使っている教室と同じ構造だが、机の上に逆さまにした椅子が乗っていて、すべて教室の後ろに寄せられていた。
おそらく必要のない教室で、大事な書類なども置いていないので、鍵が掛かっていなかったのだろう。
「ここで少しゆっくりしていくか」
利都は、もともと時間を潰すために探検をしていたのでここでスマホでも触ろうと思った。
後ろから椅子を取り、窓側に腰を掛けた。
人気が無く、静かな教室。
「俺にピッタシだな」
クラスでは話せる友達が、虹矢ぐらいなので、プライベートスペースができるのは利都的には、正直嬉しかった。
(・・・もう、ここに住んでしまおうか)
スマホゲームをしながらそんな呑気なことを考えていると・・・
「ガラッ」
扉を開ける音がした。
「え?」
利都が咄嗟に扉側に目を向けると、そこには黒髪で長髪の女子生徒がいた。