河川敷と高橋と私と ~冷やかしの風~
テストの点数が悪かった。同級生で幼馴染の高橋に至っては18点。しっかり赤点だ。河川敷で体育座りしながら私は、心配を込めた声で言った。
「高橋。受験大丈夫なの?」
「うーん。俺、卒業したら働くし関係ないかなって」
「……なんか、ごめん」
進路のことなんて言わなきゃよかった。気まずい。
河川では、名前の分からない鳥たちがツンツン水面を叩いている。しばらくの沈黙があった。周囲は釣りをしている人や散歩をしている人以外いない空間だ。会話のネタが無い。
(あーあ、うまくいかないなぁ)
ここのところ、心が尖っている気がする。三か月後から始まる試験地獄のことを考えると、つい受験の話題を振りがちなのだ。つまり、それぐらい意識して取り組んでいるということ。
(高橋は良いな……勉強なんてつまらない事せずに済んで)
この言葉は、きっと口にしたらいけない。高橋にも理由があるんだ。お金がないとか、学歴よりも欲しいモノがあるとか。こういった個人の考えに踏み込んで、良い経験をしたことは一切ない。
「――――おーい!」
「わ!」
思考の渦に酔っていた私は、高橋の顔が目の前にあって驚いた。「バケモンが出たみたいな言い方すんなよ!」と言われる。
私があっけに取られていると、高橋は雲を見て、
「ソフトクリーム召喚!」
って指さした。それがなんだか可笑しくて、テストの点のことなんてどうでもよくなった。お互いにくだらなくて下品な会話もたくさんした。それに怒ったのか、気が付けば雲は真っ赤に染まって、河川敷に私たちの影が縫われた。
「もう帰ろっか」
「おー、そうだな」
私はあと三か月後に受験を控えている。高橋とは幼なじみだけど、進路が違えばこうして会話する機会も減るかもしれない。
――――だから、言っておこう。
「ねぇ高橋!」
「ん?」
「一緒に青春過ごしてくれてありがとね!」
日頃の感謝に……と思って言った言葉なのだけど、高橋は背中を向けて頭をかいていた。夕日で肌の色は判らない。じわじわと自分の発した言葉に恥ずかしさを感じ始める頃。カラスがカァカァと鳴いた。
高橋は帰り際に、
「受かれよ。俺が喜ぶから!」
と言った。
走り去っていく影を遠目で見ながら、その言葉の優しさを感じる。
「……そういうとこが好きなんだからね」
私が言うと、冷やかすような風が、ひゅうと吹いた。