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第3話 三日三晩の怪物退治

【お兄さん、どう? 熱は治った?】


 熱が治ったかどうかなど分からない。最早、自分の体がどうなっているか分からないのだ。まるで体が自分のものではないかのような錯覚に陥る。足元さえ覚束ない。

 しかし、こんな化け物を放置できない。街に行けばこいつが何をするか、分からない。昔のように己が良ければ良いでは済まないのだ。


【治ったみたいだね。良かった。それじゃもういいかな】


 何かを満足したのか、触手が消えていき、球体が弾け、少女は元の姿に戻っていく。今だ。


「え」


 少女のか細く、色白の首を一撃で落とした。仲間の神速と魔獣の剛力を兼ね備えた合せ技だ。本当ならば躊躇するような場面だが、目の前に居るのはこの世のものではない。私は正義の味方であったのだから、このようなことは些事だ。


「でも、これくらいじゃ死なないだろ」

「うん」


 落ちた首から上の頭部から声が聞こえる。この不老不死の魔人以上だ。でも対処は同じ。


「楔の荘」


 昔、出会った魔女が使用していた茨の荘。棘の生えた茨が地面から湧き出し、少女の頭部に絡みついていく。

 不老不死の魔人もこの手で捕らえ、精神が死ぬまで拷問をし、ある場所で永遠に閉じ込めている。


「おにいはん、しゃべれらいよ」


 口に茨が食い込んでいるのに心配することはそれか。茨から血がたれているのを見るに血は通っている生物のようだが、人間を欺くフェイクの可能性もある。


「喋る必要はない。このまま楔の荘で一生、閉じててもらう」

「ひょんな。それらぁつまらんらいじゃにあか!」


 初めて感情を露わにした彼女に呼応したように頭部が離れた胴体からまたしてもが発生していく。触手が茨に絡みつく。


「い、茨が腐っている!?」


 触手に触れた茨が段々と色味を無くし、萎れていく。地面に落ちた茨から溢れ出る樹液が黒く、地面を濡らしていた。


「意地悪なお兄さん。報復だね」


 驚いている場合ではなかった。すでに少女の胴体が首と繋がっていたのだ。

 ―――報復。絶望するのか。この私が。ホープマンの私が!?


「どれだけお前が強大な絶望の塊だろうと俺は死ねない。昔倒した魔人のせいで不老不死になってしまったのだからな」


 それは最後の強がりだった。だが、声も震えていないし、いつものホープマンだ。

 もうヤケだ。最後まで正義の味方として威勢を貼り続けるしかない。


「ホープマン。なら死にたい?」

「なんで、私の名前を」

「ホープマン。民衆のために聖騎士も王家の血筋にさえ勝負を売り、生きて帰った  男。あなたは正義の味方だ」

「その通りだ。私は希望男―――ホープマンだ」

「そう。でも疲れからここに居る。違う?」

「多少の休暇は当然の権利だと思う」

「死も当然の権利だ。ホープマン、あなたは最初、殺してくれと頼んだな。良いだろう。殺してやる」

 

 甘美な誘い。なわけがない。斧の柄を再度、強く握りしめる。


「悪いが、お前のような化け物を残して死んでは死んだ仲間たちに申し訳がない。私は正義の味方になると誓い、彼らの死を受け入れたのだから」


 個人的な自殺願望は正義の味方願望に勝らない。


「じゃあ、正義の味方のホープマン。私を殺してくれ」

「お望み通りにしてやる!」


 そこから私は三日三晩、彼女を殺し続けた。だが、彼女は死なない。どんな特殊な方法でも死なない。復活する。


「はぁはぁ」

「ホープマン。私を殺せ。どうした? 正義の味方よ。私は化け物だぞ」


 三日三晩、彼女と接して分かったことがある。彼女はまるでごっこ遊びのようにこの殺されるのを楽しんでいる節がある。

 時折、手を叩いて笑う姿さえ見せてくれた。しかし、殺し方のレパートリーはもうない。どうすればいい。飽きたとか言われてここから去られたら厄介だ。


「おちょくっているのか」

「そんなわけない。だが、そろそろ場所を変えないか?」

「は?」

「三日間、お兄さんと過ごして分かったよ。私達は旅に出て死に方を探しに行った方がいい。きっとお兄さんも殺し方に困っているだろう?」

「図星だ。だが、そんな事を言って街の場所を私に案内させる気か? 人々を襲うために」

「それは図星じゃない。見当外れだよ。私は旅に出たいと思ったんだ。君と」

「信じられるか」

「じゃあ、ホープマン。君が安心できるように私は8割の力をここに置いていこう」

「―――?」


 わけがわからない。率直にそう思ったが、彼女はジッパーを再度、開き、両手を突っ込むと何かを引っこ抜いた。


「気持ち悪っ!?」


 素直な感想が出てしまった。それは両手に収まるサイズの触手の塊だった。グニャグニャと動く触手に生理的嫌悪を抱いてしまう。


「失礼だな。これは私は8割だ。これをここに置いていく。私はこれで無力だ」


 地面に触手の塊が置かれる。地面から侵略する気満々にしか見えない。


「さ、真実を見る目で見てご覧」

「真実は見えている。汚物だ」

「冗談はいいよ。さ、見て」

「冗談ではないし、眼が吹き飛ぶから嫌だ」

「再生するよね」

「そういう問題じゃないが」

「早くしないと、これを」

「これを、って何?」

「爆発させるんだ。触手が森を丸呑みにするんだ」

「わかった、わかった!」


 真実の眼で触手の塊を見る。

 瞬間、眼が潰れた。


「それじゃないよ。私を見るんだよ」

「先に言え」

 

 恐る恐る彼女を見る。だが、真実は今のままの彼女を捉えた。


「どうだい? 潰れないだろ?」

「ああ。どうやら弱体したのは本当のようだっ!」


 少女の顔面を拳で貫こうとしたが、彼女の笑みに拳が止まる。


「意味はないという意味か」

「八割捨てて死ねるならとっくにしているよ。10割捨てても不死性は関係ないからね」

「お前を殺す方法はあるのか」

「それを探してよ。一緒に。代わりに君を殺す方法を教えてあげるよ」

「なに?」

「私を殺して、その方法で君も死ねる。本当に死ぬかは自由だけど。ね? 悪くないだろう?」

「本当に知っているのか?」

「それは私を殺して確認すれば良い」


 死ねるのか。私は。


「分かった。ここでこれ以上殺しても意味がない」

「嬉しいよ、ホープマン」

「そうだ、名前は? さすがに教えてくれ」

「私はディスでいいよ。ディストピアっていう名前だね」


 不吉な名前だな。そう感じた私は彼女を背に歩き出した。

 が、すぐに倒れた。


「熱病、放置したから悪化してるね」


 治っていなかった。謎の脳内物質で無理矢理体を動かしていたのか。


「な、治っていると言わなかったか?」

「ぶり返しだね」

「な、治せるならまた治してくれぇ」

「お願いしますは?」

「殺すぞ……」

「ああ、殺してくれ」


 冗談めいたディスの眼が赤く点滅する。

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