‐第2幕‐5話〜撮影開始〜
「ただ今よりっ、映画撮影を開始します!!」
都内某所の廃病院にて、
その日の活動は秋穂さんのそんな一言で始まった。
先日の提案からわずか3日後の話である。
相変わらずこういう時の秋穂さんの行動力には驚かされる。だが…
「あの、秋穂さん、廃墟って勝手に入って大丈夫なんですか?」
率直に気になっていた事を尋ねる。
いくら廃墟とは言え病院という施設である以上、誰かの所有物であり管理者がいるはずだ。
であるならば、無断に立ち入るのは色々問題になるのではないか。
「あぁ、その辺は大丈夫だよ。ここ貸しスタジオだから」
「え…?スタジオ?」
「そう、れっきとした廃病院ではあるけど、ここはスタジオとして貸出されてる施設なの。それでちゃんと利用予約もしてるから問題ないよ!」
と言ってピースサインをしてみせる秋穂さん。
実際の廃病院がスタジオになっているという事実にも驚きだが、まさか秋穂さんがそう言ったコンプラ要素に配慮して準備していたとは…
「秋穂さんも一応人の子なんですね」
「ねぇ、今ものすごく失礼なこと言われたんだけど…?」
素直に感動している俺に対して、冷ややかな目を向けてくる秋穂さん。
「あはは…まぁまぁ秋穂ちゃん、春斗くんも悪気があるわけじゃないから」
そんな俺達のやり取りを心配した八重さんが助け舟を出してくれる。
「まぁいいけど…じゃあ気を取り直して入ってこうか」
秋穂さんが先陣を切って廃墟へと足を踏み入れ、俺達も後に続いた。
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「スタジオっていうだけあって、意外と中はきれいなんですね」
いざ廃病院に立ち入り内装を眺めながら、九条がそんな感想をつぶやく。
確かに廃墟というだけあってほこりや独特の湿っぽさはあるものの、ゴミなどは散らかっておらず最低限の管理や清掃がなされているようだった。
「しっかり管理されてるなら、幽霊が見えたりとかは期待できなさそうですね」
「いやぁ、それは分かんないよ?事故物件とかだってしっかり管理されてるのに、普通に幽霊出るし」
辺りを眺めながら呟いた俺に対して、秋穂さんはニヤリと笑いながら答える。
「そう言われると確かに…」
いくら人間が手を加え管理していたとしても、幽霊そのものを管理することは出来ないのだろう。
実際、うちの大学にだって雪那さんという霊がいたわけだし。
妙に納得してもう一度廃病院を眺めると、不思議と何かに見られているような寒気を感じた。
「ところで秋穂先輩、ホラー映画の撮影って話までは聞いていましたけど、どんな映画を撮る予定なんですか?」
九条がそう尋ねると、秋穂さんがふふんと鼻を鳴らしながら答える。
「さすが夏凜ちゃん、よく聞いてくれました!今回はドキュメンタリー風のホラーにしようと思ってるの」
「ドキュメンタリー?」
「そうそう!筋書き的には、とある大学サークルが肝試しに廃病院を訪れるの、それでふざけながら撮影をしてたらありえない物を目撃して…みたいな感じ!」
「なんか、まんま今の俺達みたいな感じですね…」
「こういうのは自分達の状況と近いシチュエーションの方が自然に撮れるでしょー。私達素人だから演技なんて出来ないし」
「そりゃそうですけど…」
「だから普通に廃墟探索を楽しむ感じでいいよ!演技するのは終盤の幽霊に出くわすシーンくらいで!」
「まぁ、そう言うことなら…」
何でも卒がなくこなせる九条はともかく、俺や八重さんが真っ当な演技をするのは難しいだろう。
そう言う意味でも自然体で良いというのはありがたい。
「じゃあ早速カメラだけ回しておくから、みんなは普通に廃墟探索を楽しんで!」
「え…!?い、いきなりだね…?こういうのって普通導入を撮ってから廃墟シーンになるんじゃ…」
急にカメラを向けられ硬直する八重さん。
確かに普通の映画なら廃墟を見つける経緯や、廃墟に立ち入るシーンなどを撮ってから内部を探索するシーンに映るはずである。
「あはは!そこはほら!適当にナレーション入れて省くから大丈夫!」
笑いながら答える秋穂さん。
なんとも不安な雰囲気が漂うが、まぁここは彼女を信用するとしよう。
「じゃあ私はカメラマンやるから!皆は普通に心霊スポットを探検しに来た気分で楽しんで!」
そうして俺達は秋穂さんに言われるまま、廃墟探索を始めることにした。
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「こういうのって普通どこから行くべきなのかしら?」
「無難なところだと、まずは診察室じゃないか?そこで患者のカルテとか見つけるのが定番だろ」
「あはは、確かにホラー映画とかだとよく見るシーンかも」
「それじゃあ、診察室に向かいましょうか。案内板的にはここを曲がってすぐの所にあるみたい、あ、これね」
「春斗くん…扉、開けてくれる…?」
「え、俺っすか?」
「うん…だって私怖いし…」
「まぁいいですけど…ほら、開きましたよ」
「中は…思ったより何も無いのね、カルテも置いてないわ」
「そこはまぁ…普通の病院なら廃業する時に顧客の個人情報はしっかり処分するだろうからな」
「言われてみたら確かにだけど、なんか急に俗っぽい話になるわね…」
「あはは、でも怖いものがなくて良かった…」
「それでどうします?次、行ってみますか?」
「そうね…じゃあ次は」
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こんな調子で、俺達は廃墟探索を続けていく。
そして…
俺達はこの後、決して出会ってはいけないものを目にすることになるのだった。




