-第2幕-3話〜2つの選択肢〜
「俺が…霊を集めやすい体質になってる?」
八重さんから発せられた意外すぎる言葉を思わず反芻すると、八重さんは少し気まずそうな顔をしながら、ゆっくりと頷く。
「…えっと、ちなみに何でそんなことに?」
「春斗くんは結構長い期間、その、良くない幽霊に取り憑かれていましたよね…?」
「まぁ…入学してわりとすぐだったから3ヶ月以上は憑かれてたんじゃないか?」
「多分、それが原因です。春斗くんに憑いていた霊がとても強力なものだったので…それが抜けた今、春斗くんには大きな穴が空いているような状態なんです」
「えっと…1人分のひだまりに2人分入ってる的な?」
「あ、あはは…そんなに業の深い話ではないですが…だいたいそんな感じです」
俺が頭を捻り出して言った例えに苦笑する八重さん。
「とにかく…今はその穴を埋めようと色んな霊や良くないものがあなたを狙っている状態なんです。だから早くなんとかしないと」
状況はいまいち掴みきれていないが、八重さんの深刻そうな口ぶりを察するに、非常に良くないことが起きているのは確かなのだろう。
「事情は何となくわかったよ、でも具体的にどうすればいいんだ?」
「春斗くんという入れ物を満たしてあげればいいので、例えば…自分以外に大切な人を見つけて、その人で心をいっぱいにするとかでしょうか、要するに…恋ですね」
「…は??」
「好きな人で心がいっぱいになれば、自然と自分の心の入れ物もいっぱいになるはずですよ」
この八重という少女、普通かと思っていたが意外と…いや大いにぶっ飛んでいるのかもしれない。
幽霊部員とはいえ、さすがは幽霊部に所属する一員だと言うべきか…。
「春斗くんは今気になっている方とか、いらっしゃいますか?」
「いないが?」
「でしたら、これから作っていきましょう。例えば…あ、九条さんとかどうですか…?せっかく同じサークルの同期ですし」
「いやいやいやいや!なんで急にそんなぶっ飛んだ方向になるんだよ!」
俺の身を案じてくれるのはありがたいが、いきなり恋愛方面に舵を切れというのはなんとも無茶な話である。
いや、別に興味がないわけではないのだが…
「でも、このままだと春斗くんが危険なんですよ?」
「だとしても別に恋愛じゃなくてもいいだろ!?他になんかないのか?」
「他は…あるにはありますが、あんまりオススメ出来ません」
「やっぱりあるんじゃないか、とりあえず聞かせてくれよ」
八重さんは少し悩むような様子を見せたあと、ゆっくりと口を開く。
「心の穴を直接的に埋めてしまえばいいんです。より具体的に言えば…別の魂を同居させる…というか」
「えっと…つまり…?」
少し要領を得ない説明に聞き返すと、八重さんがこちらを見据えて言った。
「なるべく害のない幽霊に取り憑いてもらうんです。そうすれば入れ物自体は埋まるので…」
まさかのパワープレイである。
まぁ、説明されれば確かに理屈は分かるのだが…
「害のない幽霊って、そんな普通に見つかるもんなのか?」
「難しいと思います。だから…あまりオオスメ出来ないというか…」
まぁそれはそうだろう。
幽霊に害があるかどうかなんて、パット見で分かるような話ではない。
仮に善良そうに見えたやつでも、いざ取り憑かれてみれば悪霊でした、なんてオチが付いた日には何が起こるかわからない。
「ちなみに…他の案は?」
「ありません…」
つまり今の俺は善良な幽霊を探すか、心焦がれるような恋愛対象を探すかの2択を迫られているということか。
「なんだその、究極の2択は…」
「一応、相手が見つかるまでは、なるべく私があなたを守れるようにします。と言っても私は悪霊を見分けるくらいしか出来ないですが…」
「いや、そこまでしてくれるのは申し訳ないくらい、助かるけど…わかった、俺もなんか手を考えてみるよ」
理解しがたい状況なのは確かだが、こうなった以上不満を述べるよりもさっさと問題解決に当たったほうが懸命だろう。
その後俺は八重さんと少し今後について話し合ったあと帰路につく。
家へと向かう道すがら、1人物思いに耽る。
俺に限って恋愛という線はない。
第一そんな相手が短期間で見つかるはずがないし、仮にこちらが好いた相手が見つかったとしても、その人と結ばれ可能性は0といって良いだろう。
であれば、第二の案。善良か幽霊に取り憑いてもらうという事だが、果たしてそれをどうやって見つけるかという話だ。
もし雪那さんがまだ居てくれたのなら、相談する余地があったかもしれないが…
「あの人成仏しちゃったんだよなぁ…」
いや、成仏してくれたのは嬉しいことであり、なに問題はないのだが、まさかこんな展開になるというのは予想外だった。
「色々言っても仕方ない。とりあえず見つけるか…善良な幽霊ってやつ」
半ば無理矢理ではあるが、そう決意を新たにする。
こうして俺は善良な幽霊を探すという、なんとも不可思議な目的を掲げて行動していくことになるのだった。




