番外編‐ユメジュウヤ‐ダイジュウヤ
子供の頃から僕は幽霊が見えた。
最初こそ怖かったけれど、未知のものに触れる高揚感や、彼らを見た時の背筋がゾクリと凍るような感覚。
そして何より、自分だけが彼らを見ることが出来るという優越感。
そんな非日常的な感覚を手軽に俺に与えてくれる。
だから、僕はずっと幽霊が好きだった。
ー
ーー
ーーー
「ただいま」
「あ、お兄ちゃんお帰り!今日は遅かったねー」
「豚と戦っていたんだよ」
「なにそれー、意味わかんないー!」
「あはは、冗談だよ。ちょっと色々あってね」
学校から家に帰ると、10歳になる妹が僕を出迎えてくれた。
「父さんと母さんは?」
「まだ仕事だよー、今日は遅くなるって言ってた!」
「そっか、最期だし挨拶したかったんだけどなぁ」
「最後ってー?なんのことー??」
妹は僕のひとりごとに興味を示した。
だが、詳しいことはまだこの子には伝えないほうがいいだろう。
「何でもないよー。そうだ、兄ちゃんね、この後もう一度出かけないと行けないんだ」
「えー!!?なんでー!?」
「どうしてもやらなきゃいけない事があってね、父さんか母さん帰ってくるまで、もう少しだけ1人で留守番をしててくれる?」
「むぅ…分かったー」
「良い子だね」
僕はそう言って彼女の頭を撫でる、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
その後身支度を整え、玄関に向かうと妹は僕の後ろを付いてきた。
どうやら見送ってくれるらしい。
「お兄ちゃん気をつけてね。あんまり遅くなっちゃだめだよ!」
「分かってるよ、じゃあ行ってくる…あ、そうだ。大好きだよ、秋穂」
「うん!私もお兄ちゃんのこと大好き!!」
最愛の妹に向けた最後の言葉としては上等だろう。
笑顔で手を振る秋穂を見ながら、僕は暗闇に溶けていった。
ー
ーー
ーーー
「戻ったよ、ちゃんと待っててくれたんだね」
学校に戻ると、彼女は先ほどと全く同じ状態で椅子に座っていた。
まぁ、厳密に言えば椅子に座らせたのは僕なのだが。
「とはいえ、いつまでもこのままってわけにはいかないよね」
彼女はピクリとも動かない。
当然だ、もう既に息絶えているのだから。
僕は人生で初めて告白をして振られた。
その後彼女の首を絞めて殺害したのだ。
振られたことに腹を立てたわけではない。
というか、振られることは分かっていた。
彼女が恋愛に興味がないことなんて、僕はずっと前から知っていたのだから。
ではなぜ殺したのか、簡単だ。
「君をこうやって、永遠に僕だけのものにするためだよ」
僕は彼女に語りかける。
それは死体にではなく、その奥の存在に、
そう、彼女の霊に向かって。
幽霊を見える人間はそう多くはない。
だから彼女を殺して、幽霊になった彼女を、側に置けば、いつまでもずっと一緒にいられると思ったのだ。
思った通り、幽霊になっても彼女は美しいままだった。
大好きだったあの瞳はどこか虚ろで、輝きを失っているけれど、それでもキレイだと思えた。
「でも、もっと満たされると思ってたんだけどなぁ」
僕は彼女に触れようと手を伸ばすが、当然触れることは叶わない。
しっかり見えているはずなのに、絶対に埋まらない距離を感じてしまう。
そして彼女は僕と絶対に目を合わせてはくれない。
「おかしいなぁ、こっちの2人はずっと僕を見ててくれるのに」
そう言って後ろを振り向くと、見知った顔の2人が並んで立っている。
「はは、そんなに睨まないでよー」
僕が苦笑気味に2人に話しかけるが、彼らは眉一つ動かさず、僕を睨みつけていた。
「やっぱり方法が良くなかったかなぁ、こうもずっと見られてると落ち着かないや」
まぁ彼らの事はどうでもいい。
問題は僕が世界で初めて好きになった女性にどう近づくかということだ。
彼女を自分のものにできたという達成感はあるが、不思議と心にぽっかりと穴が空いた気持ちが埋まらない。
どうしたらもっと彼女に近づけるのか。
しばらく考えて、一つの結論に辿り着く。
「そっか、彼女と同じところにいけば良いんだ」
そう気が付いてからは早かった。
僕は彼女の身体を抱えると学校の外に出る。
そのまま乗ってきていたバイクに跨り、後ろに彼女を座らせ、目的地を目指す。
2時間ほど走ったところで、当日でも泊まれる手頃なコテージに辿り着いた。
「ここならちょうど良さそうだね」
僕はロッジの椅子に彼女を座らせると、買い出しに出かける。
買ってきたのは大量の灯油とマッチ棒。
そう、あとはだいたい分かるよね?
大量の灯油を僕と彼女の身体、そして木製のコテージ全体に流しかける。
「これで本当に僕たちはずっと一緒だ。愛してるよ、一ノ瀬さん」
椅子に座る彼女にそっとキスをして、僕はマッチに火をつけた。
ー
ーー
ーーー
次のニュースです。
昨日、○○県○○市内にあるキャンプ場のコテージで火災が発生。中から男女2名の遺体が発見されました。
DNA鑑定の結果、遺体は宿泊していた大学生の、一ノ瀬雪那さんと七瀬紅葉さんのものであることが判明しました。
一ノ瀬さんと七瀬さんは昨日の夜からこのコテージを利用しており、警察の調べでは部屋に灯油が巻かれた形跡があることから、自殺の可能性が高いと見て捜査を続けています。




