番外編‐ユメジュウヤ‐ダイロクヤ
三月くんが学校に来なくなってから一週間が経った。
「はぁ…三月くんどうしたんだろ」
廃病院に向かったあの日から、三月くんとは連絡が取れないままだ。
何か事件に巻き込まれたのではないかと大学側に掛け合ったが、大学側が行動を起こす様子は見られない。
「あの…一ノ瀬さん、だいじょうぶ…?」
ゼミの終わりに、心配そうな様子で声をかけてきたのは、二葉陽菜ちゃん。
彼女とはゼミでの初顔合わせからお互いに波長が合った事もあり、友達と呼べる関係になっている。
「陽菜ちゃん…ごめんね、ちょっと考え事してただけ」
「それなら良いんだけど、あの、最近ずっと思い詰めてる様子だから…何かあったら言ってね?」
「陽菜ちゃん…!ありがとう、頼りにさせてもらうね」
陽菜ちゃんのような無条件の優しさを与えられる人が、まだこの世にいるとは…
世の中捨てたもんじゃないな。
「あ、そうだ。良かったら、気分転換にお散歩でもいかない…?」
陽菜ちゃんから意外な提案を受ける。
散歩か…まぁ気晴らしにはいいかもしれない。
「いいよ、そしたら行こっか」
「うん…!私が大好きな景色のきれいなお寺があるの、案内するね…!」
私が誘いを受けたことが嬉しかったのか、陽菜ちゃんは普段見せないような明るい表情で、そそくさと帰り支度を整え始める。
それを見た私も慌てて準備をして、陽菜ちゃんの言うお寺へと向かった。
ー
ーー
ーーー
電車に乗って十数分。
私達は目的地がある駅に到着し、お寺へと歩き出した。
「あの…気を悪くしたらごめんね…一ノ瀬さんって紅葉くんのこと、その、す、好きなの…?」
「…は?」
「あ、ご、ごめんなさい!ふたり、いつも一緒にいるから…」
「別に…一緒にはいるけど好きとかじゃないよ、そもそも私恋愛興味ないし」
毎度思うのだか、なぜ大学生というのはすぐ色恋話をしたがるのだろうか。
少し呆れながら答えると、なぜか陽菜ちゃんは少し神妙な面持ちになった。
「なら、良かった…あの…こんな事言うのは、すごく余計なお世話だと思うけど…紅葉くんには、あんまり深く関わりすぎないほうが、いい、と思う」
慎重に言葉を選びながら話をする陽菜ちゃん。
恐らく友人である私に、こんな話をするのは心苦しいのだろう。
だが、それでもあえて話をするということは、彼女なりに何か思うことがあるのだろうか?
「陽菜ちゃん、どうしてそう思うの?」
「それは…その…うまく言えないんだけど…何となく紅葉くんは怖い雰囲気が、あるの…」
「怖いっていうと、裏の顔があるみたいな感じ?」
「そう、なのかな…なんだかすごく、良くない気配、みたいなのがあるの…」
抽象的でごめんね、と謝ってくる陽菜ちゃん。
だが何となくこの子が何を言おうとしているのか分かってきた気がした。
「ねぇ、陽菜ちゃんってもしかして霊感があるの?」
「へ…?れ、霊感…!?」
突然の質問に戸惑っているらしい。
まぁ急に霊感などと言われても無理はないだろうが、私もかなり紅葉に毒されてきたらしい。
「そう。不思議なものが見えたり、変な気配を感じたりとか、そういうの」
「そういうのは…ないと思う…」
「そっか、じゃあ女の勘ってやつね」
「へ…ど、どうかなぁ…」
「とりあえず、心配してくれてありがとうね。私も紅葉を信用してるわけじゃないから注意はしておく」
正直なぜ彼が私の退屈しのぎに付き合っているのか、なぜ私に興味を持っているのかなど、考えれば不自然な点はいくつかあった。
その上友人からの警告まで頂いたとすれば、それは用心するに越したことはないだろう。
「…うん、そうしてくれると、嬉しい。あ、ここだよ」
陽菜ちゃんは、目の前のお寺を指さして立ち止まる。
「本当に立派なお寺だね、こんなところがあるなんて知らなかった」
「うん、私、ここでお散歩するの、好きなんだ」
彼女とともにお寺の入口まで進む。
ふと、山門に安置された大きな像が目に付いた。
「これ、金剛力士像っていうだっけ?こういうのどうやって作ったんだろうね」
「えっと、木をこの形になるように、削ったんだと、思うけど…」
「あはは、意外とこの形のまま木に埋まってて、それを掘りだしただけ、とかだったりして」
最初からこの形のまま木の中に入ってるのだ、それこそ化石のように。
それならこれほど美しい形に掘り出されるのも納得というものである。
「一ノ瀬さんって、たまに変なこと言うよね…」
「へ、なんで?どこが!?」
陽菜ちゃんから冷静な突っ込みを受けてしまった。
「まぁ、いいや、ほら、早く行こう?」
こうして私達はお寺の中に入り、気晴らしの散歩を楽しんだ。
その様子を誰かがずっと見ていたことにも気付かずに。




