番外編‐ユメジュウヤ‐ダイサンヤ
こんな夢を見た。
僕は彼女に手を引かれながら夜道を歩いていた。
月すらも雲に隠れ、わずかな明かりすらない完全な暗闇だというのに、彼女は軽快に夜道を進んでいく。
「そんなに引っ張らないでくれよ」
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「ふふ、いいじゃない。早くいきましょう?」
普段は落ち着いている彼女の、珍しく上機嫌な様子を見て、なぜだか僕も嬉しくなる。
今はなにも考えずに彼女に身を任せるのもいいだろう。
彼女はそのまま僕の手を引きながら歩き続け、古びた教室の中に入っていった。
「ここに来たかったんだー」
笑顔のままこちらを振り向き、彼女は言った。
「あぁ…ここか…」
「覚えてる?」
「あぁ、忘れるわけがないよ」
彼女の問いに対して僕はそう答えた。
本当に忘れるはずがない。ここは僕にとって何よりも大切な場所だから。
「ここは僕が君に告白した場所だよね」
「えぇ、そうよ」
そうだ、ここで僕は彼女に思いを伝えたんだ。
人生で初めて告白をした場所。
そして…
人生で初めて人を殺した場所。
「そうか、ここで…僕は…」
「えぇ、ここであなたは私を殺したのよ」
全て思い出した。
彼女はもう、この世にはいないのだ。
僕がこの手で殺してしまったのだから。
気がつくと、そこにいたはずの彼女はどこにもいなくなっていた。
―
――
―――
「では始めに自己紹介から始めよう。手前の席から順に名前と一言ずつ頼む」
私の憂鬱な思いをよそに、ゼミ活動が始まった。
抑揚のない教授の自己紹介が終わった後、今度は私達の番が回ってきた。
何か一言、と言われても正直初対面の人に向けて話す話題など持ち合わせてはいないのだが…
とりあえず、このゼミに入ったのは私と紅葉以外に2人いるようだし、他のメンバーの紹介に適当に合わせればいいか。
そう思いながら最初に挨拶をする男子学生の方を見やると、彼も私を見ていたようで自然と目があった。
彼はなぜか私から目を離すことなく、何かを訴えかけるように自己紹介を始めた。
「三月樹桜です!!好きな女性のタイプはクールでミステリアスな人です!よろしくお願いします!」
まるで私にアピールするかのように、真っ直ぐこちらを見据える男子生徒。
なんで彼はさっきからこちらをずっと見ているのだろう…
というかあの人、前にどこかで見たような…
記憶を辿ったところでようやく思い出した。
彼は先日私に告白してきた男だった。
(あの目…まだ諦めてないのかなぁ)
まさか振った男と同じゼミに入るとは…なんというか前途多難である。
「あ、あの…二葉陽菜といいます。えっと…一言…しゅ、趣味は読書です…お願いしましゅ…」
三月と名乗る男の紹介が終わって次は、三月の隣に座っていた女の子の番になった。
彼女はどうやらなかなかの人見知りのようだ…まぁ、私も人付き合いはうまくないので、こういったタイプの方が好ましい。
紅葉も何を考えているかよくわからないし、1人でも仲良くやっていけそうな相手がいて良かった。
そんな事を考えていると、いつの間にか紅葉の自己紹介も終わり、最後に私の番が回ってきた。
「一ノ瀬です、趣味は特にありません。以上です」
よし、我ながら無難な自己紹介が出来た気がする。
満足して席につくと横から小声で声をかけられる。
「一ノ瀬さん、さすがにその紹介だと何も伝わらないんじゃないかな」
声の方を振り向くと、紅葉が苦笑いを浮かべていた。
「…別に普通に挨拶しただけでしょ?」
「名前以外、君についての情報が何も得られないじゃないか。それじゃあ誰とも接点が生まれないよ」
「別に、大学で誰かと仲良くなりたいわけじゃないから」
私がそう返すと彼は困ったように笑った。
「あはは、君は結構面倒な性格をしているんだね。まぁ、知ってはいたけどさ」
「それはどうも」
「あ、ところで話が変わるけど、ゼミのあと時間あるかな?」
「あるけど…どうしたの?」
「ほら、この前の約束だよ。君の退屈を満たしてあげるって言っただろう?」
なるほど、私に霊感を目覚めさせるとかいう胡散臭い話の続きというわけか。
正直気乗りしないが、約束してしまった以上は仕方ない。
「分かった、付き合うわ。でもつまらなかったらすぐ帰るからね」
「大丈夫、うんと面白いものを見せてあげるよ」
彼はそう言うと、自信たっぷりに笑ってみせた。




