2話~世界の怖い遊び~
大学入学、そして幽霊部への入部から数日が経った。
俺は講義を受けつつ、空いた時間に幽霊部に顔を出すといった日々を送っている。
ある日、午後の講義を終えて部室に立ち寄った際、室内の机に奇妙な紙を見つけた。
「なんだこれ?」
A4のプリント用紙に見えるが、その紙の真ん中には十字に線が引かれていて、田んぼの「田」のようになっている。
そして仕切られた4つの四角の右上と左下に「YES」、左上と右下に「NO」と書かれている。
情報はシンプルだが、何に使うものなのかは皆目検討がつかない。
「落書きか…?」
「それはチャリーゲームっていうんだよ」
俺のふとした呟きに後ろから答えが帰ってきた。不意をつかれた俺は慌てて後ろを振り向いた。
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」
「…いや、急に現れたら普通に驚くでしょ…秋穂さん」
話しかけてきたのは秋穂さんだった。秋穂さんはごめんごめんと言いながら、先程見ていた紙に近づき持ち上げて見せる。
「これね、海外で流行った降霊術の一種なんだよー」
「降霊術…?」
「そう。この紙の真ん中の十字の線に沿って鉛筆をおいて、チャーリーっていう霊を呼び出すとね、チャーリーがこの鉛筆を動かして、YESかNOの質問に答えてくれるの」
俺の疑問に秋穂さんは嬉しそうに答える。
「あぁ、こっくりさんみたいなもんですか」
「まさにそんな感じ!海外版のこっくりさんだね」
なるほど、こっくりさんと比べてシンプルだが、それ故に手軽に試すことが出来そうだ。
「その紙がここにあるってことは、秋穂さん試してみたんですか?」
「うん、春斗くんが来る30分前くらいかな、暇だったからやってみたの」
「一人で…?」
「そりゃ、私しかいなかったからねー」
薄々感じてはいたが、秋穂さんも大概変わっている。こういった遊びは盛り上がるのが目的なので、たいてい複数人でやるものだ。それを一人でやろうとするとは。
サークルを立ち上げたこともそうだが、その行動力には驚かされるばかりである。
「それで、結果は?」
「なーんにも起きなかったよ」
心底つまらなさそうに秋穂さんが答える。
「まぁ、この手の遊びを一人でやって、なにか起きるわけ無いですよね」
「だね…虚しいだけだったよ」
そりゃそうだろうと思ったが、何となく秋穂さんの背中が寂しそうに見えたので話題を変えることにした。
「でも海外にもこういうオカルトチックな遊びってあるんですね」
「ん?いっぱいあるよー、むしろ海外の方がそういうの多いんじゃないかな」
「へー、他にはどんなのがあるんです?」
「そだねー、例えばミッドナイトゲームとか!」
「ミッドナイトゲーム?」
そうそう!と言いながら秋穂が説明を始める、まず以下のような準備をするらしい。
①ロウソク、マッチ、紙と筆記用具、塩と1滴の血液を用意する。
②名前を書いた紙に血を一滴染み込ませ、木製のドアの前に置く。
③火をつけたロウソクを先ほどの紙の上に乗せドアを22回ノックするこの時最後のノックは午前0時ぴったりに行う。
④ドアを開け、ロウソクの火を消したらまたドアを閉める。
「ドアを閉めた後は、室内に何かがいるような気配を感じるようになるの、でその何かに捕まらないように午前3時33分まで室内で過ごすことができたら勝ちだよ!」
「あれ、このゲームって…」
「気づいた?昔流行ったひとりかくれんぼに似てるよね!あれはもしかしたら、ミッドナイトゲームに影響されて作られたのかもね」
「確かにそんな気がしますね…ちなみにこれ3時33分まで逃げ切れなかったらどうなるんです?」
「その辺は実際やってみた人のお楽しみだよ!興味あるなら今度2人でやってみる?」
「か、考えときます…」
秋穂さんと夜に2人きりというのは惹かれる提案だが、徒労で終わるのは見えている。正直あまり気が乗らないのが本音だった。
「そっかー、楽しそうだけどなぁ。ま、今度気が向いたらやってみようよ」
「そーっすね。で、他にもあるんですか?海外の遊びって」
「まだまだあるよー!例えばブラッディ・メアリーとかね」
「あ、それは何か聞いたことありますね」
「結構有名な遊びだもんね!じゃあ…やり方は分かる?」
どこかいたずらな笑みを浮かべながら、秋穂先輩が問いかけてくる。
「確か…鏡に向かって何か唱えるんでしたっけ?」
「そうそう、正確にはロウソクを持った状態で鏡に向かって【ブラッディ・メアリー】って3回唱えるの。そしたら鏡越しに血まみれの女性が現れるんだって」
「あー、なんかベタですね…」
実によく聞く怪談である。それこそ学校の七不思議なんかでも必ず採用されるネタではないか。
「まぁ、鏡に何かが現れるっていうお話の元祖だからね。むしろ他のお話がブラッディ・メアリーの派生なんだよ」
「なるほど、これがオリジナルなわけですか」
「そういうこと、由緒正しき遊びなんだからね!」
由緒正しきと言えるかは微妙だが、何にせよJホラーにも多大な影響を与えているようだ、恐るべしブラッディ・メアリー。
その後も話を続け、次第にあたりが暗くなってきた。
夏凜は用事があったのか顔を出すことはなく、結局その日は俺と秋穂さんの2人のみの活動となったのだった。