第37話〜後ろにいるのは〜
秋穂さんとの会話が終わった後、俺は久々に部室に足を運んでいた。
目的としては雪那さんと話をすること。
そして、今回の一件に決着をつけることだ。
―数時間前ー
「それで?これからどうするの?」
「どうするって?」
「決まってるでしょ。あんたに取り憑いてる幽霊の件、どうするのって話」
秋穂さんとの話が終わり帰路についている時、月白からそう尋ねられた。
「とりあえず明日からもう一度事件について話してみるよ。ただその前に、雪那さんとも一度話してみるつもりだ」
「雪那さんと?」
「あぁ。もし雪那さんが自殺だとしたら、彼女にとって過去を思い出すことは辛いだけかもしれない」
「彼女が本当に過去を思い出すことを望んでいるのか、それを確認したいってことね」
「そう言うことだ」
もし彼女が現状を望むのなら、俺はそれでも構わないと思っている。
だからこそ、これから先は彼女の意志を確認した上で進めていきたい。
「…分かった、じゃあこうしましょ?アンタは雪那さんと話に行きなさい。その間に私が事件について調べておくから」
「月白…」
「ここまで首を突っ込んだあとで、今さら私も引き下がれないしね。私が真相を知っても雪那さんが望まない場合は、それは私の胸の内だけに留める。それなら問題ないでしょ?」
「…分かった。ありがとうな」
「今さらよ…その代わり後悔ないように、きっちり雪那さんと話をつけてきてよね。じゃ、善は急げってことで今から向かいましょ?」
こうして月白は図書館、俺は部室へと向かう事になった。
ー
ーー
ーーー
幽霊部の部室には俺以外誰もいない。
まぁ時刻はもうすぐ21時、閉門の時間が迫っている時間なので、誰もいなくて当然なのだが。
「雪那さん、いますか?」
「…」
久々に雪那さんを呼んだのだが、彼女からの返事はない。
だが確実に誰かがいるという気配は感じた。
「…雪那さん?」
前はすぐに出てきてくれたのだか、どうしたのだろう?
俺は少し疑問に思いながらもう一度呼びかける。
「…」
またしても返事はない。
だがやはり気配は感じるので、俺は気配がする方に近づいてみる。
「あの…雪那さん、何やっt」
ーそっちに行っちゃだめ!!!ー
どこからかそんな声が聞こえ、俺はとっさに足を止める。
もしかしたら幻聴だったのかもしれない。
だが、改めて俺が向かおうとしていた方向に目をやると…そこに何かがいた。
「…」
第六感、というやつなのだろうか?
俺の脳内がやばい、すぐに逃げろと告げている。
だが、どう頑張っても足が動かない。
俺がその場で立ち尽くしていると、目の前のそれはゆっくりと体を動かし、こちらに向き直ったようだ。
暗がりでよく見えないが、どうやらそれは俺の目を真っ直ぐに見据えているように見えた。
「…雪那さん?」
あの存在は明らかにこの世のものではない。そのため違和感はあれど、俺はそれを雪那さんなのだと認識しようとした。
だが、それは明らかに俺に敵意を向けているようだった。
殺意を隠そうともせず、それはゆっくりと俺に近づいてくる。
それでも俺の身体は蛇に睨まれた蛙のように、ピクリとも動かなかった。
そいつはそのまま、触れられる距離まで近づき、俺の首をめがけて手を伸ばしてくる。
(ヤバいヤバいヤバい)
俺の脳内のアラートが鳴り止まず、死を覚悟した刹那-
俺のスマホから突然着信音が鳴り響く。
そこまで大音量ではなかったはずだが、静まり返った部室を満たすには十分な音量であり、その音でとっさに我に返った俺は身体の自由を取り戻した。
そして首を掴まれる寸前のところで俺は後ろに飛び退き、そのまま全速力で教室を出た。
走りながらスマホの着信を確認すると、それは月白からだった。
こんな時に電話に出ている場合ではない、それにそう思って無視を決め込んでいたのだが、彼女は何度も電話をかけてきているらしく、ひっきりなしに着信音が鳴り響く。
マナーモードに変更するような余裕もない俺は、音を消すために少しイラつきながら月白の電話に出た。
「月白か!?悪いんだけど今電話してる場合じゃないんだ、いやさっきは助かったけど…!」
そう言って電話を切ろうとしたのだが、電話越しに月白の怒声のような声が聞こえる。
【緊急の話なの!!今すぐ学校から逃げて!!】
切羽詰まった様子で叫ぶ月白の様子から、彼女が何か情報を掴んだのだと察する。
俺は学校をめちゃくちゃに走りながら、月白と会話を続けることにした。
「逃げろってどういうことだよ!?」
【調べてわかったの!雪那さんは自殺なんかじゃない!!殺されたんだよ!】
「はぁ!?」
−発表されている情報では焼身自殺ってことになってるんだ−
秋穂さんは確かにそう言っていた。
だがそれは嘘だったというのだろうか?
いや、秋穂さんは事件の真相について、予想がついていると言っていった。
つまりそれはメディアが掴んでいる情報以上の事を知っているということ。
新聞の情報の方が嘘だってことか…
「殺されたって一体誰に?」
俺は少し冷静になって、月白に尋ねる。
【…七瀬紅葉。秋穂先輩のお兄さんだよ】
はっと秋穂さんと交わした会話を思いだす。
−秋穂さんって兄妹いるんですね−
−そう…いたんだよ−
なぜあれは過去形だったのか。
答えは簡単だ、今はこの世にいないからである。
じゃあ、さっき俺の前にいた存在はまさか…
そこまで思考を巡らせた所で不意に後ろから気配を感じ、俺の全身から汗が吹き出す。
【それとアンタに取り憑いてたのも雪那さんじゃない、それの正体は…】
月白が核心にせまる話をしていたが、途中で後ろからかっしりと肩を摑まれる。
その拍子に手を滑らせスマホを落としてしまい、月白の声が聞こえなくなった。




