第32話〜協力と未来とコワイユメ〜
「なるほど…秋穂さんの目的が別にある…ですか」
俺達の話を聞いて少し考え込むような様子をみせる月白。
「ええ、月白さんは秋穂先輩との交流はそんなに無いから、イメージが湧かないかもしれないけど」
「いえ、それを聞いて私もちょっと納得しちゃいました」
意外な事に月白は九条の意見に賛成だった。
「そう思うのは、やっぱさっきのトンネルの一件か?」
「それもあります…ただそれ以外にも少し気になる事があって」
「気になることって?」
そう聞くと月白は気まずそうに押し黙る。
「…月白?」
「いえ…やっぱりこれは私の思い違いかも知れないので、はっきりするまでは言わないでおきます」
「ここまで秋穂さんを疑っちまってる状況で、今さら隠すような事も無いと思うぞ?」
「それでも…私の勘違いで変な誤解を招きたくないですから」
月白はきっぱりと言いきる。
これは、それ以上突っ込んで聞くのは酷というものだろう。
「分かった。じゃあ言える状態になったらまた教えてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「なんだか、2人とも知らない間にずいぶん信頼関係が出来ているみたいね」
俺と月白の様子を見てそう言う九条。
だが言葉に微妙に棘を感じるのは気のせいだろうか。
「まぁ、月白にはこの件で色々協力してもらってるからな」
「ふーん…まぁいいけど。それでこれからどうするの?今のところ手詰まりって感じだけれど」
「そうだよなぁ…」
九条の言う通り、秋穂さんが本音を話してくれない可能性が高いのであれば、これ以上の進展は難しい。
せめて本音は話してくれないにせよ、何か秋穂さんから情報を引き出せるような手があると良いのだが…
「あ…」
あるにはあるな…本音を見抜く方法が1つ。
あまり気は進まないが、手段を選んでもいられない。
そう思い立つと俺は月白に向き直った。
「月白、行く途中にやったゲームの話覚えてるか?」
「ゲーム…っていうと心理テストですか?」
「あぁ。あれで勝ったらお前に何でも1つ頼めるって話しだったよな?」
「言いましたけど…え、今??」
大事な話をしている時に何を急に、とでも言わんばかりに非難の目を向けてくる月白。
「大事な頼み事を思いついたんだよ」
「ふーん、なら一応聞いてあげますけど…」
「時間を見つけて秋穂さんと話をしてみようと思うんだ。その時、月白にも同席して欲しい」
「…え、それだけ?」
「あぁ、それだけだ」
きっぱりと言い切ると、間の抜けた表情になる月白。
「それなら全然いいですけど…なんで私なんですか?」
「秋穂さんの本音を引き出したい。そのためにお前が必要なんだよ」
「…なるほど。秋穂さんの心を読んでほしいって事ですね」
「そういうことだ、出来るか?」
「正直気乗りはしませんけど…まぁ、何でも聞くって言っちゃいましたから、良いですよ」
あえて他人の心を読む、根っからの善人の月白にとっては、こういった頼み事をされるのは気分が良くないはずだ。
だが状況を察してか、月白は小さく溜息をつきながらOKを出してくれた。
「サンキューな」
「でも、必ずしも心が読めるとは限りませんから、あまり期待しすぎないようにしてくださいね」
「あぁ、それでもいいさ」
進展を望めない状況から少しでも光が見えてきた。
今はそれだけでも十分すぎる収穫だった。
「いったん方針が決まったなら、今日は解散にしましょうか。大分時間も遅くなってしまったしね」
九条に言われて時計を見ると、時刻はもうすぐ日付が変わる頃だった。
気づかぬ内に随分と話し込んでしまったようである。
「そうだな。2人とも色々ありがとな、助かった。」
「うん、私達に出来ることならなんだって協力する。だから安心して頼ってね」
最後に九条がそんな言葉をかけてくる。
その一言は俺にとって何よりも心強かった。
―
――
―――
その日の夜、とある夢を見た。
それはまるで誰かの記憶を追体験していると錯覚するほどの、鮮明な夢。
そして同時に心が折れそうになるほどにひどく歪な夢。
話の内容は起きた頃にはすっかり忘れてしまった。
だがそれでも、吐き気がするような嫌悪感や、取り返しがつかないことをしたような罪悪感に苛まれる、そんな酷い夢だった。




