閑話休題①〜初日終了〜
「じゃあ私鍵返してくるから、2人とも先帰っていいよ!」
初日の活動が終わり部室を出たタイミングで、秋穂さんがそう言いながら去っていく。
そうすると必然的に…
「・・・」
「なに?」
「いや、なんでも‥」
夏凜と2人きりになるわけだがこれが微妙に気まずい。
今日の活動を通して夏凜が悪い人間ではないということは分かっている。むしろ俺と近い思考を持っている部分もあり、話が合う部分も多いだろう。
だがそれ故に俺と同じく口数が多いタイプでないことも分かるので、会話の中心だった秋穂がいなくなると、どう場を繋いでいいのか分からなくなるのだ。
「あ、えっと夏凜はさ」
「九條でいいわよ」
「え、、普通逆じゃね?」
「今日会ったばかりの男に名前呼びとかされたくないし」
頑張って大学生のノリで話しかけようと努力してみたが、早々に夏凜に出鼻を挫かれてしまった。何?もしかして俺嫌われてる?
「まぁ、そうかもだけど、、大学だと普通らしいぞ‥?」
「別に私普通とか関係ないから」
「お、おう…」
取り付く島もないとはこのことである。気が強いタイプなのは察していたがこれは想像以上だ。この空間に早くも暗雲が立ち込め始める。だが、
「…それにあなただって、無理して女の子を名前呼びする方が疲れるでしょ?」
一瞬の間をおいて、少し柔らかい口調で九條はそう言ってきた。
「え、、…なんで分かんの?」
「なんとなく。あなたって私と考え方が似ている気がするから」
何こいつ、メンタリストか何かなの?と一瞬焦ったが、なるほどそういうことか。
自分にどこか似ている。俺が感じたのと同じことを彼女も感じていたらしい。
正直俺も大学のノリというのを好ましく思っていなかったので、早々に同じ思考の人間に会えたことは実にありがたかった。
先ほどまでの懸念は取り越し苦労のようで、こいつとは仲良くなれそうだと思った。
「そうか、じゃあそういうことなら九條って呼ばせてもらうよ」
「えぇ、よろしくね。えっと、ねくらくん?」
「羽倉だ…」
「え?あぁ、そうだっだわね、羽倉くん」
「さっき挨拶しただろうが」
「ごめんなさい。短い付き合いになるかと思って気にしてなかったの」
前言撤回。こいつ俺以上に捻くれた性格してやがる。最初から覚える気すらなかったとは。
さっきの気遣いも実のところは単純にファーストネームで呼ばれるのが嫌なだけじゃないか。
しかもよりにもよって俺の高校時代のあだ名と呼び間違えるとは、、やはり仲良くなるのは絶対無理なようだ。
「はぁ…とりあえずもう用事もないしぼちぼち帰るわ」
「そうね、私もそろそろ帰る」
地下にいるから気が付かなかったが、スマホを見ると時刻は19時過ぎ。初日からこんなに遅くまで学校にいるとは思わなかった。
俺と九條は帰路につくことにした。
正直一人で帰りたいところだったが、大学の最寄り駅は一つしかないため、おそらく駅までは一緒に帰る流れになるだろう。
まぁとはいえ九條の性格的にいちいち話しかけたりする必要もないだろう。沈黙に気まずさを感じずにありがたい。
「・・・」
「・・・」
特に会話もなく、駅に向けて真っ直ぐに歩いてく。登校時は学生で溢れ返っていた通学路も19時ともなるとさすがに人はほとんどおらず、しんと静まり返っていた。
この静寂がどこか気持ちいい。そんなことを考えながら歩き続ける。
やがて駅に着き九條と別れる間際、不意に九條が話しかけてきた。
「そういえば、さっき何を言おうとしていたの?」
「え?さっきって?」
「ほら、七瀬先輩と別れてからすぐ、私に話しかけてきたでしょ?」
あぁ、夏凜呼びした時のことか。
「そんな大したことじゃなかったんだけどな。九條はなんでこのサークルに入ろうと思ったのかって」
「あぁ、そんなことね」
九條は本当に何のこともないようにさらりと答える。
「私ね、幽霊に会いたいの」
「…は?」
あまりにも、予想外の答えだった。
「それってどういう…?」
「ま、いずれ気が向いたら話すわ。じゃあね。」
気がかりすぎる言葉を残して、九條は駅に入っていった。




