第30話〜見えない真実への告白〜
その後も観光は続いたが、俺にそれを楽しむ余裕はなく、頭の中で何度も秋穂さんの先程の言葉や仕草を思い返していた。
秋穂さんはこの状況さえも楽しんでいる可能性が高い。
思い返してみれば、秋穂さんの行動は最初からあまりにも不審な点が多かった。
霊感があるにも関わらず、霊を恐れたりせずに降霊術や心霊現象に積極的に関わろうとする姿勢も
幽霊部という特殊な場所を作り出したことも
普通に考えれば彼女の行動は理にかなっているとは言えない。
だがもしもそれが本当に、ただ純粋に楽しいからやっているだけの行動だったとしたら…
そんな不合理にも相応の説得力が生まれてくる。
(一度秋穂さんとはしっかり話さないとな)
彼女がどんな指針で行動しているにせよ、雪那さんの過去を知るためにも、
そして俺の身に起きている異変を知るためにも、
秋穂さんとは現状についてきっちりと話をしなくてはならない。
「羽倉君、話を聞いていたかい?」
しばらく考えに耽っていたのだが、突然声をかけられる。
顔を向けると風見部長が怪訝な顔でこちらを見ていた。
「あー、すんません、聞いてなかったです」
「先輩の話を完全無視とは君も立派な七瀬君の後輩というわけだね…今日の宿についたよ、鍵を受け取ってくれるかい?」
「え、もうそんな時間すか!?」
驚いて辺りを見渡すと、確かに俺達はホテルのロビーにいた。
エントランスから外をみてみれば、辺りもすっかり暗くなっている。
どうやら俺は昼以降ずっと意識を飛ばしていたようだった。
驚きながら風見部長から鍵を受け取ると、部長が再度説明を始める。
「宿は4部屋取っていて、基本的に2人で一部屋だ。ただ男性陣は奇数だからね、必然的に1人余ってしまう。七瀬君に相談したところ羽倉君は一人部屋の方がいいだろうとのことだったので、申し訳ないのだが、君だけ一人部屋にさせてもらいたいんだが…いいかな?」
「あ、はい。俺もそっちの方がありがたいです」
「そうか、良かったよ。では部屋に行こう、皆はもう向かっているよ」
そう言って風見部長と共にそれぞれの部屋へと向かった。
ー
ーー
ーーー
「さすがに、ちょっと疲れたな」
部屋へと入り、簡単に荷物を片付けた俺はベッドへと腰掛ける。
朝から心霊現象を体験したり、身近な人間の狂気に触れたことで無意識にかなり神経を尖らせていたようだ。
安心した途端一気に疲れが押し寄せてくる。
残った時間は自由時間で良いとのことだったので、このまま寝てしまおうかとも思ったが、せっかくなので少し部屋でくつろぐことにした。
ポットでお湯を沸かし、アメニティのお茶でも飲もうかと準備をしていた時、誰かが部屋をノックした。
自由時間に俺の部屋を訪れるなど、随分変わったやつがいるもんだ。
そんな事を考えながら扉を開けると、そこには九条が立っていた。
「羽倉くん、急にごめんなさい。少し良いかしら?」
「九条…別にいいけど、どうした?」
「ちょっと話したいことがあってね…」
心なしか深刻そうな九条の様子を見て、彼女の話が午前中の花山洞の一件だと言うことに気がついた。
テーブルに備え付けられた椅子に九条を座らせると、丁度湯が湧いたのでお茶を作って彼女に出す。
「ありがとう」
九条のことだから、「あら、気が利くじゃない?」的な嫌味を言ってくると思っていたのだが、素直に礼を言われ若干拍子抜けしてしまう。
秋穂さんとの事で頭がいっぱいで、周囲を見る余裕がなかったが、どうやら彼女も相当思い詰めていたようだ。
「それで…話ってなんなんだ?」
俺が彼女に問いかけると、九条は少し深い呼吸をした後こちらに向き直る。
「回りくどく聞くのも失礼だから単刀直入に行くわね、羽倉くん…あなた幽霊が見えるの?」
突拍子もない質問に聞こえるが、九条の目は至って真剣そのものだ。
そして何かしら確信を持って話しているのだろうと感じられたため、俺も誤魔化さずに正直に話すことにする。
「見えないって言ったら嘘になる。でも全部が全部見えてるわけじゃない。何よりも俺自身見えるようになったのはつい最近で、まだ良くわかってないんだ」
「そう…」
俺の告白に対して短く返事をする九条。
「やっぱ信じられないか?」
「いいえ、驚いたけど何となくそんな気がしていたから…トンネルではあなたも状況を掴めていなかったようだし」
驚くほど簡単に俺の話を信じる九条。
やはり花山洞の一件で、俺達への違和感に気がついたようだった。
ということは…
「お前が気にしてるのって、もしかして…」
「えぇ、秋穂先輩のことよ」
やはり彼女の目から見ても、昼間の秋穂さんの様子には違和感があったらしい。
正直同じ部員に対する疑念や違和感についての話を九条にするのは気が引けたが、このまま誤魔化したとしてもかえって幽霊部内で溝が深まる可能性が高い。
九条には全てを話しておいた方が良いだろう。
「俺も秋穂さんのことは断片的な事しか分からないから、話せるのはあくまでも今までの事と、俺個人の考えだけだ。それでもいいか?」
俺の問いかけに九条は黙ってこくりと頷く。
それを確認した俺は、これまでに経験した事をすべて彼女に話し始めた。




