第29話〜不安と後悔と知りたくなかった真実〜
食事を終えた俺達は、気晴らしに近くの神社を巡りながら祇園までやってきた。
そこでお土産屋などを見つつ、普通に観光を楽しんでいる。
全員口には出さなかったものの、花山洞で何かがあったこと自体は察しているようで、あえてその話題には触れないようにしているらしい。
そのため何とも微妙な空気が流れていたのだが、ひとまずあんな経験をした手前、次の心霊スポットに行く気にはならずに、観光でお茶を濁しているといった状況である。
「抹茶ソフトだってー!これ食べない?」
「あ、いいね秋穂ちゃん!」
秋穂さんの提案に立花先輩が同意する。
「夏凜ちゃんも食べるでしょ?」
「え?あ、はい。食べます」
秋穂さんが九条を呼ぶ。九条はどこか心此処にあらず、といった様子だったが秋穂さん達のもとに向かった。
「御当地ソフトか、これも旅の醍醐味だね。烏野君、我々もどうだろう?」
「そうですね、せっかくだし食べましょうか」
秋穂さん達の様子を見て、風見部長と烏野もそちらに合流した。
「お前は食わねーの、甘いもん好きだったろ?」
一同が売店に並ぶ中、俺の隣を動こうとしない月白に声をかける。
「食欲ない」
彼女は短く一言そう述べる。
全員が俺達から離れているからだろうか、月白は素の状態になっていた。
「アンタこそ食べなくていいの?」
「御当地ソフトなんて客寄せ商品だろ?だいたい抹茶は抹茶のまま飲むのがいいんだよ」
「ほんとそういうとこ面倒くさいわね、アンタ…」
月白はそう言って小さく溜息をつく。
その後しばらくお互い無言のまま時間が過ぎる。
不思議と気まずさなどはなかったが、月白は何か話したいことがあるのか、少し落ち着かない様子だった。
数十秒ほどの沈黙の後、意を決したように彼女はこちらに向き直った。
「さっき、何もできなくてごめんね」
「さっきって…花山洞でのことか?別にあんな事が起きたら動けないのは当然だろ」
「でもあれがアンタを狙ってたのは分かってたのに…それすら伝えられなかった、ごめん」
「別に問題ないだろ。秋穂さんが助けてくれて、結果的に何もなかったわけだし」
「そうね…秋穂先輩、幽霊が見えてたのね」
「あぁ、あの人は多分めっちゃ霊感強いと思うぞ」
「そう…」
秋穂さんの名前を出すと少し月白の顔が曇る。
あまり絡みはないはずだが、秋穂さんと何かあったんだろうか?
「どうした?なんか気になることでもあるのか?」
「うん…でもちょっと言いにくいんだけど…」
「別に今さら何言われても気にしないぜ?」
「分かった…秋穂先輩のことなんだけど…」
やはり秋穂さんについて何か思うことがあったらしい。
彼女は非常に言いづらそうに言葉を選びながら話し始めた。
「秋穂先輩、アンタがあの幽霊に狙われてる間、なんか嬉しそうだった…」
「嬉しそう…?」
「うん、私の見間違いだったら良かったんだけど…アンタを突き飛ばした時…」
月白は一瞬間をおいて、呟くように言葉を紡ぐ。
「あの人、笑ってた…」
背筋が凍る。
そんな表現があるが月白の言葉を聞いた時その言葉の意味がはっきりと分かった。
月白の見間違いだろう、秋穂さんはそんな人じゃない。
そうはっきり否定できれば良かったのだろう。
しかしこれまでの秋穂さんから感じてきた数々の違和感から、月白の発言が不思議と納得できてしまったからだ。
「秋穂さんはあの状況を楽しんでた…?」
だとしたら、なぜあの時俺を助けてくれたのだろう?
いや、そもそも彼女はなぜアレが俺を狙っていることや、あの場を乗り切る術を知っていたのだろう…?
考えれば考えるほど、秋穂さんに対して疑念や恐怖の感情が渦巻いていった。
「私の思い違いならそれでいいし、アンタの先輩を疑うような事を言って本当に申し訳ないんだけど…秋穂先輩はもしかしたら…」
「2人ともお待たせ!こんなとこにいたんだね!」
月白が何かを言いかけた時、後ろから声をかけれる。
振り返るとそこには秋穂さんが立っていた。
「秋穂さん…」
「あはは、そんな怖いものを見るような顔してどうしたのー?」
秋穂さんはいつも通りのテンションで俺達を茶化してきた。
タイミング的に俺達の話を聞いていた可能性が高いのに、本当にいつも通りに。
それが逆に異様であり、違和感を感じざるを得なかった。
「なんでもないです」
俺はそう答えるのがやっとだった。
「なら良かった、ほら皆向こうにいるからいこ!」
「あ、はい。そう、ですね」
秋穂さんが気にしていないなら、下手な詮索はしないほうが良いだろう。
そう思って秋穂さんの後をついていこうと歩き出そうとした時だった。
秋穂さんは急に振り返り、一言こう言った。
「2人とも、不安になるのはまだ早いよ?…お楽しみはまだまだこれからなんだから♪」
心から嬉しそうな声でそう話す秋穂さん。
だがその声と対象的に、彼女の目は真っ直ぐに俺達を見据え、1ミリも笑ってなどいなかった。




