第16話〜とある日の幽霊部〜
どういう…ことだ?
雪那さんが部員じゃない?
秋穂さんの言葉を何度も反芻して考えても俺の中で理解が追いつかなった。
いや、正確にはその言葉自体はすぐに理解できたし、俺が勘違いしていただけだということは分かっている。
「…くん」
それでも理解が追いついていないのは、俺の心がとある事実に気付くことを拒否しているからだったのかもしれない。
「…るとくん」
部員でないなら雪那さんはいったい何者なのか。
なぜ先週、雪那さんは鍵を閉めていた部室に入ることが出来たのか。
もしかすると雪那さんは…
「春斗くんっ!」
「え!?あ…秋穂さん」
秋穂さんの声で我に返ると彼女は少しだけ怒ったように俺を見ていた。
「もう…せっかく八重ちゃんが来てくれてたのに、ずっとぼーっとしてるんだから」
「あ、すみません…」
「次会ったときちゃんと謝っておいてね」
「え?そういえば八重さんは?それに九条も…」
「2人ともとっくに帰っちゃったよー?もう時間も時間だしね」
その言葉にハッとして時計を見ると、時刻はすでに夜の7時を回っていた。
どうやら俺は1時間以上意識を飛ばしていたようだ。
「なんかすみません…ちょっと色々追いついてなくて」
「まぁ無理もないけどね、色々混乱したでしょ?それに…」
一瞬間を空けて、いたずらっぽく秋穂さんが微笑む。
「その様子だと大体分かったんでしょ?雪那のこと」
「いや、でもそんな事って…」
「…」
「雪那さんは…この世の人間じゃないってことですか?」
「大正解。雪那はね、正真正銘本物の…幽霊ってやつだよ」
「まじ…か…」
突拍子もなく馬鹿げた話だと思う。
だがこれまで感じてきた違和感。何より秋穂さんの様子から、本気で言っているのだと分かった。
「俺、霊感なんてないと思ってたんですけど…」
「あはは、確かに春斗くんは基本的には見えてないっぽいよね。だから逆に雪那が見えるのびっくりしたんだけど」
「その口ぶりだと秋穂さんはやっぱ色々見えてるんですか?」
「まぁ、他の人よりは色々見えてるかもね」
「やっぱりですか…」
ここ最近ずっと気がかりだった疑惑が意外な形で明らかになる。
やはり秋穂さんには霊感があったのだ。
「まぁ私の話はいったん置いておいて、雪那のこと色々調べて分かったんだけど、彼女は10年前のこの大学の生徒だったらしいんだ」
「卒業生ってことですか?」
「ううん、残念だけど在籍中に亡くなったみたい」
「え…どうして?」
「それは、本人に聞いても何も覚えてないみたい。…ただ1つ分かってるのは、亡くなった場所がこの部室だったってことくらいかな」
衝撃的な真実があまりにも淡泊に語られたため、俺は思わず自分の耳を疑った。
この部室で雪那さんが亡くなっただって…?
「それ、普通に事件とかに巻きこまれたんじゃ…」
「ううん、警察の調べでは事件性はないみたい」
事件性がないと言われるとそれまでだが、かといって急に大学で死人が出るなど普通に考えたらおかしな話だ。
そこまで考えたところで、俺はあることに気が付く。
「もしかして…秋穂さんがこの部を作ったのって、その事件の真相を探るためですか?」
秋穂 さんは以前、この部は雪那さんのために作ったと言っていた。
その真意はそういうことだったのかと1人納得する。
「ん、別に違うけど?」
しかし本当ににあっさりと、何でもないかのように俺の言葉は否定された。
「え…」
「警察でも分からなかったのに、私みたいな素人が調べたって分かるわけないじゃん」
「それはそうですけど…」
「それに昔のことを気にしたって仕方ないでしょ?大切なのは今なんだから」
「そう、ですね…」
「幽霊部を作ったのはね、本当に雪那の居場所を作るためだけだよ。あの子も話し相手がいなくて寂しかったみたいだから 」
「秋穂さんが話し相手になるためにあの部を作ったってことですか?」
「そういうこと!幽霊と話をするためのサークル。だから幽霊部って名前にしたんだよ!」
とても楽しそうに話をする秋穂さん。
俺はそんな彼女の様子が
少しだけ怖かった。




