第6話〜新歓合宿開始⑤〜
秋穂さんに連れられて、俺達は目的地に到着した。
「じゃーん!ここが今日の宿だよ!」
「いや…駅じゃん」
そこは紛うことなき秋葉原駅だった。
「やっぱり帰ることにしたんですか?」
その九條の問いに秋穂さんは大きく首を振った。
「そんな訳無いでしょー!このホテル、駅と一体になってるんだよ!」
そう言いながら秋穂さんが駅の横にある階段を指差す。
確かにそこにはホテルの入口と階段があった。
「おぉホントだ…でも駅直結のホテルってめっちゃ高そうですね…」
「ん?結構リーズナブルだよ。あ、それにお金のことは気にしなくていいから!新歓だし私の奢りだよ!」
「いや、そんなわけには行かないでしょ。だって普通に数万くらいするんじゃ…」
「たった数万でしょ?別に気にすることないって!」
「…は?」
たった…数万?
俺達は貧乏学生が口にしていい言葉ではないはずだ。
「もしかして秋穂さんってめっちゃお金持ちだったりするんですか…?」
「ん、どうだろう。あんまりお金で苦労したことはないけど、他の人と比べたこととかないから分かんないや」
「あぁ…なるほど」
よくわかった、これはどう考えても金持ちの発言だ。
だが、人様の金銭事情をあれこれ問うのはさすがに失礼だし、深くは追求しないことにした。
「まぁ、今回は私が2人にしてあげたいだけだから、あんまり気にしないでよ!」
「分かりました、ありがとうございます」
「じゃあ、すみません…今回は秋穂先輩のご厚意に甘えますね」
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チェックインを済ませた俺達は、それぞれの部屋に向かう。
秋穂さんと九條が相部屋で、俺は1人部屋である。
「じゃあ少し部屋でゆっくりしてから、後で春斗くんの部屋に集合ね!」
「え?これで解散、就寝。ってわけじゃないんですか?」
「そんなわけ無いじゃん!何のためにホテル取ったと思ってるのー?今夜は寝かさないから、楽しみにしててね?」
意味深な発言を残して自分の部屋に入っていく秋穂さん。
あの人の事だからまた何か企画があるのだろうが、なぜ俺の部屋なんだろうか。
まぁ逆にあの2人の部屋に俺が入るというのも気が引けるし、集合するなら俺の部屋で良かったのかもしれないが…。
そんな思考を巡らせながら2時間ほど部屋でくつろいでいると、チャイムが鳴る。
一応ドアスコープから外を除くと秋穂さんと九條が立っていた。
まぁ、この2人以外尋ねて来るやつなんていないんだけどな。
そのまま扉を開け2人を部屋に招き入れた。
「春斗くんちょっとは休めたー?」
「えぇ、おかげさまで」
「それなら良かった!ごめんね、もうちょっと早く来ようかと思ったんだけど、お風呂入ったりしてたら長引いちゃってー」
「え、いや。別にそれは全然いいですけど…」
改めて二人を見ると風呂上がりということもあって、かなりラフな格好をしている。
特に九條は普段なら絶対に履かないハーフパンツ姿であり、真っ白な足が露出していた。
「え、えっと!これからなにするんでしたっけ?」
思わず九條の足に釘付けになってしまったことを誤魔化すように、俺は大袈裟に秋穂さんに尋ねた。
「ふふふ、良く聞いてくれました!」
不適に微笑む秋穂さん。
「今からやるのは…百物語だよ!」
「百…」
「物語…」
新歓の企画だしオカルト関係だとは思っていたが、まさか百物語とは。
なるほどこれは確かに…
「寝れない夜になりそうだ」