第6話〜新歓合宿開始②〜
駅を抜けた俺達は秋葉原で最も有名な場所、中央通りまでやってきた。
なぜか毒林檎と言われている看板で有名なパチスロや、大型の家電量販店が立ち並ぶ、秋葉原の中心地と言える場所である。
「で、なぜいきなりここなんです?」
「この通りにいい感じのパワースポットがあるからだよ!」
「パワースポット、ねぇ…」
秋葉原に数多くのディープスポットがあるのは知っているが、パワースポットというのはあまりイメージが湧かない。
活気がある場所という意味でのパワースポットというなら分からないでもないが…
「あ、見て!あのメイドさんすごく可愛くない?!」
思考を巡らせていたところに飛び込む秋穂さんの声。
彼女が指さした先には、メイド喫茶のキャッチをしている女の子がいた。
「ピュアメイドカフェでーす♪」
甘い声で客引きをしている女の子、見たところ同い年くらいだろうか。
秋穂さんが言う通りかなり顔立ちもよく、キャッチの中でも一際可愛く見えた。
「メイド服っていいよね、なんであんなに可愛いんだろ!私も着てみたいなー。」
「あぁ、秋穂さんなら似合うかもですね。」
「ほんと!?秋葉ならコスプレ衣装も色々売ってるよね?探してみようかな!」
そう言ってスマホを取り出す秋穂さん。
何なら今からでもメイド服を探しに行く勢いである。
「秋穂先輩、ここに来た理由忘れないでくださいね?」
「あはは…わかってるよ夏凜ちゃん。」
さすが九條、先輩の扱いが手慣れている。
釘を差された秋穂さんは慌ててスマホを鞄に戻した。
「さ、さて。そろそろ目的地に着くよー!」
後輩に指摘されバツが悪くなったのか、露骨に話題を変える秋穂さん。
話し変えるの下手すぎだろ、と突っ込みを入れたくなったがそれ以上に彼女が進んでいく先が気になって声をかけた。
「え、そこはいるんですか?」
秋穂さんが入っていこうとしているのは、人ひとりがやっと入れるような小さな小道だった。
裏路地も裏路地といった感じである。
「そだよー、ちょっと狭いから気をつけてね!」
そう言うと、男の俺でも入るのを躊躇うような小道にするすると入っていく。
小柄な秋穂さんにとっては、こういった道を進むくらいわけないのだろう。
「次は私が行くわ」
秋穂さんが進んでいく様子を見て、九條が声を上げる。
「あぁ、それはいいけど…大丈夫か?」
「心配ないわよ、ただもうちょっと動きやすい格好で来ればよかったかな。」
そう言って自分の格好を眺める九條。
いつも通りロングスカートを履いている彼女にとって、この道はとても歩きやすいとは言えないだろう。
「そう…かもな」
似合ってるけどな。
そう言いたかったがやめておいた。
ー
ーー
ーーー
「さ、着いたよー!」
小道を抜けた先には、ひっそりと神社が佇んでいた。
「こんなところに神社があったなんて…」
「えへへー、びっくりしたでしょ?」
心底驚いたような表情を浮かべる九條と、どこか得意げな秋穂さん。
「花房稲荷神社!秋葉原でも知る人ぞ知る名所なんだよ!」
「確かに神秘的だし雰囲気ありますね。で、具体的にどんなパワースポットなんです?」
「あーそれはね…」
「やっぱりこういう隠された場所だし相当すごい所なんですか?」
「いや、まぁなんというか…」
口ごもる秋穂さんに少し違和感を覚える。
何か言いにくいことでもあるのだろうか?
「のど…」
「のど?」
「のどを治すのにいいらしいよ!この神社!」
若干やけくそ気味に答える秋穂さん。
「えっと…それだけ?」
「ま、まぁあとは商売繁盛とか豊穣とか色々あるけど、主にそこかな…」
「そ、そうですか…」
パワースポット巡りと聞いていたので、どんなすごい場所なのだろうと身構えていたが、以外にも普通の場所のようだ。
「でも実際肌で感じる空気とか他とはちょっと違う感じがしない?」
微妙な雰囲気になったところでフォローを入れる九條。その九條の問いかけを受けて、俺は目を閉じてこの場所に再度意識を巡らせる。
なるほど。小さめではあるものの、神社特有のピリッとした空気や静けさをまとうこの場所は、確かに他にない雰囲気を感じる。
何より秋葉原の中心地でありながらも、それを忘れさせるような圧倒的な異世界感。
そういった意味では、ここはまさしくパワースポットというにふさわしい場所なのだろう。
「確かに、独特な感じするな」
俺が同意を述べると、少し得意気な顔をする九條。
「でしょ?結局こういうのって主観の問題なんだし、すごいパワースポットだと思えばそうなるのよ」
その主張は若干強引な気もするが、不思議と納得できた。
まぁパワースポットに限らずオカルトなんて結局はそんなもんだしな…。
しかし花房稲荷神社か。
いい場所を知ることができた、ぜひまた来よう。
「よし!じゃあパワーをもらったところで、次の場所言ってみよう!」
秋穂さんの元気な声とともに、俺達は神社をあとにした。