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とある日の幽霊部  作者: 月読つくし
第1章‐とある少女と幽霊部‐
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4話〜科学的に証明された心霊現象に関する話〜

 その日は一日中雨が降っていた。

風も強く電車のダイヤも乱れているそうだ。

そこで午後の授業を終えた俺は、外の状況が落ち着くまで部室で時間を潰す事にした。

俺もすっかりこのサークルに馴染んできたな。

 何てことを考えながら部室の扉を開ける。

今日は九條も秋穂さんも用事があるらしいので、実質貸し切りのはずだ。

俺はこの一人の時間を堪能することにした。


「と言っても、やることなんてないけどな…」


 俺たちの部室はお世辞にも広いとは言えない。

談笑用の机と椅子を置いたら、それだけでスペースの80%が埋まるほどである。

 あと置いてある物といえば、秋穂さんがお値段以上のお店で買った、小さなブックシェルフくらいで、そこに各自が持ち寄ったホラー小説やSF資料集なんかが入っているくらいだ。

 実質暇を潰せるようなものは皆無に等しいのである。


「スマホでなんか見るか…」


部室の物の無さを再実感した俺は、ホラー映画でも見ようと思いスマホを取り出す。

そしてサブスクのアプリを立ち上げたところで、突然部室の扉が開いた。

 俺が少し驚きながらそちらを見ると、そこにはずぶ濡れの九條が立っていた。


「羽倉くん…いたのね」

「あ、あぁ…雨風がおさまるまで時間潰そうかと思って…」

「そう、それが正解ね」


九條は平静を装っているが、この濡れ方は異常である。

スルーする方が不自然というものだろう。


「あの…大丈夫か?」

「別に…少し濡れただけよ」

「全然少しって感じじゃないと思うぞ…?」


俺の突っ込みに観念したのか、

はぁ。と小さいため息をついて九條が理由を話し始める。


「帰る途中で傘が壊れたのよ…それで帰るに帰れなくなって、戻ってきたわけ」

「あぁ、なるほど。それで部室に来たわけか」

「そう、予定変更。私も落ち着くまでここにいるわ、服も乾かしたいし」


 そう言いながら九條が俺の前に座り、カバンからタオルを取りだしている。

必然的にずぶ濡れの九條が視界に入るわけだが、なんというか…


「っ…」

「何、どうかしたの?」

「いや、何でも…」


 髪をタオルで拭きながらこちらを不思議そうに見つめる九條が直視できず、思わず目を逸らす。

今日の九條は白のブラウスとロングスカートという服装だ。

それが雨に濡れたことで体に張り付き、ところどころ肌色が見えている。

 普段から露出が少ない九條がこうして無防備に肌を晒している。

それを見るのは何とも言えない背徳感があった。

その光景に釘付けになっていた時、突然天井からバチンッと大きな音がなった。


「うわっ!?」

「な、何よ、たかが物音くらいで…」


九條に夢中になっていたこともあり、完全に気が抜けていた俺は、不覚にも驚いて声を上げてしまった。


「いや、悪い…しかし何の音だったんだ急に…」


 怪訝な顔をしながら物音がした方に顔を上げると、再びパンッと音が鳴った。 


「これ、まさかラップ音ってやつか?」

「そんなわけ無いでしょ…ただの家鳴りよ」

「家鳴りって?」

「木造建築って湿度の影響で少し伸縮するのよ。

木材って水分を含めば膨らむし、乾けば縮むからね。

その伸縮の際に建物が軋んで出る音を家鳴りっていうの」

「そんなことがあるのか…」

「そう、ここもだいぶ古い木造建築だからね、家鳴りなんて頻繁に起きるはずよ」


 九條が何の事もないようにさらりと解説する。

彼女もやはり心霊に関する知識はかなりのものだ。


「なんだ、てっきり心霊現象でも起きたかと思ったのにな…」

「あのね…世の中の心霊現象なんて、大体が科学的に証明されたものなのよ。そうそう起きるわけ無いでしょ…」


 俺の落胆に九條が半分呆れながら答える。

こいつやっぱり俺には手厳しいよな、ほんと。


「その話よく聞くけどさ、具体的にどんなのがあるんだよ?科学的に証明された現象って」


 俺の問いかけに九條が顎に手を当てて考える仕草をする。


「そうね、例えば…何もいないはずの場所で気配を感じることとかってあるでしょ?」

「あぁ、あるな。特に心霊スポットとか怪しい場所だとよく感じる気がする」

「当たり前にそういうとこ行ってるのね…まぁそういう時に誰かに見られていたりする感覚。あれはパレイドリア効果が原因だと言われてるの」

「パレイドリア効果…?」


早速聞いたこともない言葉だ。

なんか食べ物みたいで美味しそうではあるが…


「言っとくけど食べ物じゃないからね?」

「わかってるよ…」


やはりこいつ人の心が読めるらしい。恐ろしい奴め。


「パレイドリア効果っていうのは、模様や景色を見たときにそれを人の顔だと認識する現象のことよ」

「ん?それってシミュラクラ現象みたいなもんか?点が3つ集まると人の顔に見えるっていう…」

「そう、それに近いわね。人間って素早く外敵を察知するために、周囲にそれっぽいものがあると、それを顔として認識する機能が備わっているの」

「野生で生きていくために備わった能力みたいな感じか?」

「そういうこと。もともと危機察知能力の一種だからね。だから心霊スポットみたいな気を張ってしまう環境では余計にこういう誤認が起きてしまうのよ」

「なるほどな…」


 深夜徘徊や心霊スポット巡りが趣味な俺にとっては複雑な話だ。

幽霊がこちらを見ているような感覚に襲われていたことがあったが、

それは単なる勘違いだった可能性もあるわけか。


「他にはなんかあるか…?」

「あとはバイノーラルビートとかかな」

「また知らない単語だな…」

「バイノーラルビートっていうのは、左右の耳で異なる周波数の音を聞いたときに、

その音同士のうねりが別の音になって聞こえる現象のことよ」


 九條が説明してくれるが、残念ながらさっぱり分からない。


「それが何の心霊現象になるんだ…?」

「例えば誰もいないはずの場所で、突然誰かのささやき声が聞こえたりする。

そんな感じの心霊現象ってあるでしょ?」

「あぁ、【助けて】とか【許さない】とかって話す女の声が聞こえる、みたいなやつか?」

「そんな感じ。それの正体がこのバイノーラルビートだって言われているの」

「音の波が人の話し声に聞こえるってことか?それはさすがに都合良すぎな気がするけどな…」

「そうね、でも緊張状態や何かいるっていう強い思い込みが、そういう誤解を引き起こす可能性もあると思うわ」


 見たい物を人は見る、そんな言葉があるみたいにね。と九條が続ける。

確かに思い込みで幻聴が聞こえるというのは、あり得る話かもしれない。

少なくとも幽霊の声だという説よりは、説得力があるのは確かだった。


「結局、心霊現象っていうのはそういう誤解や思い込みが引き起こしている現象なのよ。

残念ながらね」


 九條の言葉は何とも言えない説得力があった。

なるほどな、納得してそう言いかけた時。


「そんなことないのにね」


はっきりと女性の声でそう聞こえた。


「…九條、何か言ったか?」

「え?だから心霊現象は誤解だって…」

「違う、その後だ」

「その後って…?」

「…いや、何でもない」


 もしかしたらそれもバイノーラルビートだったのかもしれない。

だが俺には確かにそれが人の声に聞こえた。そして同時に、


【この部室には何かがいる】


理由は分からないが、何か直感のようなものが俺にそう強く告げていた。

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